戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!- 作:GanJin
今回は割とサクサク書けたので更新しました。
「んー?」
カミナは目を覚ますと、そこは見慣れない真っ白な天井だった。何故ここに居るのだろうかと思い出そうとするが、頭がぼんやりとしていて前後の記憶が曖昧だった。
「えーっと、確か奏達のライブに行って会場で爆発が……」
ゆっくりと上体を起こし、彼方此方をキョロキョロと見渡すと、隣のテーブルに上に置かれている物を見つけた。その時、初めて自分が病院のベッドに居ると理解した。
「こいつは……」
それは掌に載る程小さなドリルだった。ドリルの部分は黄色く根元は銀色の金属で覆われている。これを目にすると、カミナは少しずつ自分の身に何が起こったのか思い出した。
「そうか……。夢じゃ……無いんだな」
あの会場で起こったこと。奏の身に起こる筈だったこと。そして自分しか知らないであろうあの場所で出会った髭の男との会話。そして手に入れたあの力。あの時起こったことがすべて現実であることをこのドリルが証明していた。
「俺、守れたんだよな」
意識を失う直前、間違いなく奏が自分の前に立っていた。そのはずなのに未だに実感がわかない。それに、あの会場に居た仲間達は無事なのだろうか。
色々考えてみたが、ここにはカミナ以外おらず誰も答えを教えてくれなかった。ここでじっとしていられなかったカミナはベッドから出て外に出てみることにした。
「だから翼まで来なくて大丈夫だって」
「でも奏だって怪我しているし……」
「見た目よりも大したことねぇって了子さんも言ってただろ」
すると扉の外から良く知った声が聞こえてきた。その声を聞いてカミナは少しだけ心が軽くなった。そして、心に余裕が出たカミナはニヤリと笑みを浮かべた。
ノイズを殲滅した後、二課の救助隊が到着し一通りの作業を終えてから、あたし等は病院に搬送された。翼は比較的軽傷だったが、あたしは発動はしなかったものの絶唱を使用していたこともあり入念に検査することになった。リンカー無しで絶唱をやろうとしたことには後で弦十郎の旦那にガッツリ怒られた。珍しく拳骨付きでだ。
あの場所にいたメガネはしばらく二課に身柄を預ける事になった。事情を知ったメガネは「国家機密を知ってしまったのだから仕方ないですよ」とカッコつけやがった。様になっているから余計腹が立つ。
後から聞いた話だが、メガネが応急処置した少女は命を取り留めたらしい。応急処置が的確であったらしく、彼女を搬送していた救護班がメガネを絶賛していた。将来、ここで働かないかと勧誘したらしい。
あっちゃん達も連絡が取れて、軽傷は負ったものの全員無事だったようであたしはホッとした。
と言っても良いことばかりでは無かった。
「なんでカミナが退院したら身柄を拘束するんだよ!」
意識を取り戻し、退院後にカミナの身柄を拘束するという話をしていた二課の職員達を目撃し、あたしはすぐさま弦十郎の旦那に直談判することにした。
「奏、ちょっと落ち着け」
「あいつのおかげで大勢助かったって言うのに、その扱いはねぇじゃねぇかっ!」
「だから一端落ち着け。本来ならノイズから人々を守った彼の行いは称賛されるべきことだ。だが、事はそう簡単な話ではない。彼の持っている力、聖遺物ではない力でノイズを倒す。嘗てないこの事態に対して、他から横槍が飛んでこないためにも、こちらから先に動く必要がある。分かってくれ」
「……でもよ」
それでも納得できなかった。カミナがこちらに巻き込まれることが嫌だった。あたしは予感していた。もしカミナにノイズを倒す力があれば、上は絶対にカミナを戦いに巻き込もうとする。あいつにはノイズとの戦いとは関係ない生活を送っていて欲しかった。ただ、あたしの大切な友でいて欲しかった。
「奏、お前の気持ちは分かっているつもりだ。彼が戦場に立つことを望んではいないことを。もし彼が平穏を望むのなら、俺達はそれを全力で守ってやる。だから今は抑えてくれ」
それを最後にあたしは渋々それに従うことにした。
そして事件が発生してから三日目、あたしはカミナの様子を見に行くことにした。外傷は殆ど無いらしいが、三日間も寝ている理由は医者でも分からなかったらしい。
「だから翼まで来なくて大丈夫だって」
それを翼に言ったら、自分も良くと言い出して聞かなかった。
「でも奏だって怪我しているし……」
「見た目よりも大したことねぇって了子さんも言ってただろ」
「でも……」
「カミナの事警戒し過ぎだって。あいつは阿保だが、変なことしようとは考えねぇよ」
そう言いながら、カミナの病室の扉を開ける。
「あれ?」
しかし病室のベッドにカミナは居なかった。
「まさか……嘘だろ!?」
掛け布団をめくると案の定、カミナはそこにいなかった。ぐるりと部屋を見渡してもカミナの姿は無かった。
まだ目が覚めたという報告を受けていないあたしは焦った。
「翼、急いで……」
連絡を、と言おうとした瞬間、足首に何かがあたしの足首を掴んできた。
「ひっ!? ○※□◇#?※□◇?#△―――――――――っ!」
その後、あたしは嘗てないほど無様な悲鳴を上げた。翼曰く、あんな声を出したのは初めてだそうだ。
「ぷははははははっ! なんだ今の悲鳴、聞いたことねぇよ。くくくっ……」
ベッドの下から腹を抑えて大笑いするカミナが現れた。
この時、あたしはすべてを悟った。これはカミナが仕組んだ悪戯であることを。
「お、お前……。人が心配してると思えば……」
「いやぁ、起きたらお前の声が聞こえてきたからこっち来るかなぁって思ってよ。折角だし脅かそうかと思ってさ」
相変わらず清々しい笑顔に奏は先程まで本気で心配した自分があほらしく感じた。
「このバカミナぁぁぁっ!」
お礼にあたしは全身全霊の拳をカミナにぶつけてやることにした。
「へぶっ!」
その拳はカミナの顔面にクリーンヒットし、そのまま後ろに倒れた。
「えっ?」
あまりにもあっさり当たってしまったことに素っ頓狂な声を上げた。避けるなり受け止めるなりすればいいものをカミナは何も出来ずにもろに攻撃を受けたのだ。
倒れたカミナは起き上がろうともせず、そのままぐったりと横になっていた。
「おい、もうその手は効かねぇぞ」
流石に同じ手を食う程、あたしはバカじゃないつもりだ。
「いや……。あのー、大変申し訳ないんだが、何か食いもんくれ。腹が……減った」
ほぼ同時にこれまで聞いた中で一番大きな腹の虫がカミナの腹から鳴り出した。
「はぁっ?」
「えっ……」
あたしと翼は揃って困惑するが、カミナにとってしてみればかなり切実だったようだ。随分と衰弱しきった顔になりつつあったのだ。
加えて腹の虫は鳴りやむ様子もなく、ひたすらグゥグゥなり続けている。流石にうるさかったのか、後から看護婦さんが来てすぐさま対応してくれた。
「はぁ、食ったぁ食ったぁ。いやぁ、助かったぜ二人共」
食べ終わったカミナは満足げに腹を擦った。
「多分お前くらいだぞアーティストにコンビニへ御使いさせる奴なんて」
そう、こいつの腹の虫は病院食だけでは収まらなかったのだ。緒川さんも居なかったので、やむなくあたしと翼で買いに行った。弦十郎の旦那もそうだが、気合と根性で出来てる男ってこうも大食いなのか?
「いやぁ、それは悪かった。なんせ、病院食食っても腹が膨れなくてさ。今なら昔食った超特盛チャーシューメンもすんなり入るくらいなんだが、流石に病院抜け出すのは無理そうだからな」
超特盛チャーシューメン? どっかで聞いたことがあるなと思ったが、直ぐにどうでもよくなった。
「腹が減ったから病院抜け出したなんて奴聞いたことねぇぞ」
「やろうとしてた奴はここに居るがな」
他愛ない話をしてから、あたしはカミナにあの時あったことを覚えているのか尋ねた。自分の身に何が起こっていたのかカミナはちゃんと覚えていた。あの力は何なのかと聞こうとしたが、先にメガネやあっちゃん達、他の観客は無事なのかを聞いてきた。あっちゃん達は全員無事だと伝えると安堵したが、死者・行方不明者の数が一万近くおり、まだ増える見込みだと知るとカミナは悲しそうな顔をしていた。
それを見るのが辛くなったあたしは話題を変えようと思った。
「なぁ、カミナ。あの時見せた力って何だったんだ?」
「あー、あれか? あれはなぁ」
「はーい、ストップストップ! その話は私も混ぜて欲しいわね」
「櫻井女史!?」
「了子さん!?」
いきなり扉を開けてやって来たのは了子さんだった。それと同時にカミナは驚いた顔をしていた。
「あっ! あんたラーメン屋でおっさんと一緒に居た!」
「あら、覚えてくれてたなんて嬉しいわ。それで調子はどう、神野神名君?」
「なんで俺の名前……」
「まぁまぁ、そんなことどうでもいいじゃない。そ・れ・よ・り、お姉さんはあなたのその力について知りたいわね。そしたらあなたの質問に何でも答えましょう」
「はぁ?」
いやいや、勝手に話進めないでくれよ、了子さん。
「了子君。研究者としての君の気持ちも分からなくもないが、一端落ち着こうか。彼もかなり困っているようだしな」
「叔父様っ!?」
今度は弦十郎の旦那までやって来た。さっき看護婦さんが来たから旦那に連絡が届いてるから当然の事か。
「あっ! 二倍麺のおっさん!!」
「二倍麺のおっさんとは……また妙な覚え方をされたな」
ああ、その覚え方は酷いな。
「おっさん、あん時のリベンジマッチだ。今度はお互い二倍麺で勝……」
「カミナは少し黙ってろっ!」
どんどん話が脱線していくので、めんどくさくなったあたしはカミナを殴って黙らせた。
「ぶっ!?」
「あらあらダメよ、奏ちゃん。一応、彼は病人なんだから」
「これぐらいでカミナはくたばりませんよ」
で、話は元に戻って最初の話題に入った。
「あー、あれか? いきなりマッチョで禿げた髭ジジイが俺の前に現れて、俺にあの力を渡してきたんだ。俺も詳しくは分からねぇ」
「はぁ? なんだそりゃ?」
あまりにも容量を得ない話にあたし等は揃って首を傾げた。
「カミナ君、それは何時の話だ?」
「あー、ライブ会場で奏が俺等の前に立って槍を持ち上げた直後だったかな? そしたら突然、周りが妙な所になってよ、その髭ジジイが俺の前に居たんだ」
「奏、それって……」
「あたしが絶唱を使おうとした時だな。なぁ、あたしが絶唱を歌い終わってから力が抜けたのはお前の仕業なのか?」
どういう理屈でそうなったかは分からねぇが、一番辻褄が合うのはこれ位だ。力が抜けるほぼ同じタイミングでカミナがあの変な力を発動したのだから、無関係とは思えない。
だが、カミナは首を横に振った。
「……いや、よく分からねぇ。あのジジイが話したのは精々あの力の名前くらいだしな。後はコイツぐらいなんだが」
「それって……」
「……成程」
その手に持っていたのは一見センスのないドリルのキーホルダーだったが、旦那と了子さんの反応からして無関係ではないようだ。
「でも名前が分かるだけでも収穫は大きいわ。名は体を表すって言うしね」
「確かにな。それで、その男は君の力を何と呼んでいたのかね?」
「確か……『螺旋力』、可能性を生み出す力ってあいつは呼んでたな」
「可能性を生み出す力……どういう事でしょうか?」
「言葉通りの力なのか、それとも単なる比喩なのか、よく分からねぇな。今の所、ノイズを倒せるくらいしか分かってねぇし」
「了子君はどう思う?」
「そうねぇ。螺旋でイメージできるものだとネジとか人間の遺伝子なんかがあるけど、情報不足だから何とも言えないわね」
「ネジって言えば、カミナ、大型ノイズを倒す時にドリル何とかって叫んでなかったか?」
「そう言えばそんなこと言ってたような」
「ギガドリルブレイクだ、ギガドリルブレイク」
「なんだそりゃ?」
何故か不服そうな顔をするカミナにあたしは首を傾げた。
「何って、決まってんだろ! 男なら誰だって憧れる必殺技の名前だっ!!」
「成程、必殺技か……。確かに男の憧れだな」
うんうんと何故か旦那が納得して頷いてるが、翼も了子さんもいまいち理解が追いついていない。
「応よっ! 必殺技を叫ぶは男の浪漫だっ!」
「ああ、男の浪漫だっ!」
いや、何で旦那が分かるんだよ。と言うか男の浪漫って何だよ。
それから暑苦しい男二人は無言で握手を交わした。
「よく分からないけど、男の友情が芽生えた瞬間かしらね?」
「さぁ、私にも分かりませんが良いことではないでしょうか?」
「でもなぁ、こんな暑苦しい友情を見せつけられてもな」
暑苦しい男の友情に、女性達は揃って置いて行かれるのだった。
同時刻、空からカミナが入院している部屋を覗いている者がいた。
「螺旋力が目覚めた兆候を感じたが、間違いないようだ」
アンチ=スパイラル。以前、とある組織による螺旋力の実験を阻止をした人物であり、あの日からこの世界で螺旋力に目覚めたものが居ないか探していた。
「これで三人か……。予想はしていたが、あの時から随分経ってから発動するとは……。偶然か、それとも……。こちらも準備を急がねばならないか」
アンチ=スパイラルはゆっくりと姿を消していった。
「それにしても可能性を生み出す力か……。残念ながら、その力の先にあるのは可能性ではなく絶望だ。それに早く気が付けばいいが……」
無理な話か、とアンチ=スパイラルは言い残していった。
如何でしたか?
今回はあまり劇的な変化は無かったですね。
前回で一気にヒートアップしたので今回はこれで堪忍してください。
それでは今回はこれにて。