戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!-   作:GanJin

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どうも、お久しぶりです。
リアルが多忙すぎて半年近くも放置してましたが、どうにか更新することが出来ました。
今後も更新スピードが遅いと思いますが、しっかり終われるように頑張りますので、温かい目で見守っていただけたら幸いです。
それではお楽しみください。


俺が信じるお前を信じろ!

 ノイズが発生した場所は三人がいる公園からそれほど遠くない為に、ノイズによる被害がここからでも良く見えていた。

 

「カミナ、お前は基地に戻ってろ!」

 

「はぁっ!? なんでだよ!」

 

 確かに弦十郎からの先程の指示でそう言われていたが、カミナは無視して奏達と向かおうとしていた。

 

「あの力が何時使えるかも分からない状態で、人命救助の素人のお前がいても足手纏いになるだけだ。ダンナの指示に従っとけ」

 

「ふざけん……」

 

「行くぞ、翼!」

 

 奏はカミナの言葉を遮り、現場へと駆けだす。

 

「カミナさんは直ぐに基地に引き返してください」

 

 そう言うと翼も奏の後を追いかける。

 二人が立ち去った後、カミナはその場に一人残されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「奏、良かったの?」

 

 カミナが見えなくなった所で翼は奏に尋ねた。

 

「まぁ……少し言い過ぎたな」

 

「だったらどうしてあんなことを」

 

 その問いに奏は少しだけ黙った。言いたくないのだろうと思ったが、直ぐに彼女はその問いに答えた。

 

「見たくなかったんだ、あいつがあたしと同じ場所に立つ姿をさ。あたしが喚いても、何も変えられないってのは分かってる。それにあいつのことだから、目の前で困ってる奴がいたら絶対に動いちまうだろうしな。でも、あたしは少しでも長くカミナには戦いのない生活を送って欲しいんだ」

 

 カミナが二課に入ることに反対していたのだから、奏がそう思うのは当然だと翼は思った。それにあの言葉は奏らしくなかった。力が無いからそこで大人しくしていろという言葉を彼女は一度だって口にしたことは無い。それを言わせるほど奏にとって彼は大切なのだろう。

 

「……怖いんだ。あたしの大事な人が目の前で死んでいく光景を見るのがさ」

 

 それは目の前で大切な人が亡くなるのを目の当たりにした奏だからこそ分かる恐怖だった。

 その恐怖を多くの人に味わって欲しくない思いを抱いて奏は戦ってきた。しかし、大切な人がその危険に晒される戦場に立つことになってしまった。

 それだけは避けたいと奏は強く願った。これは無駄な悪あがきであると分かっていたとしても何もせずにはいられなかった。

 翼はその思いを重く受け止めた。大切な人を亡くし、ノイズへの復讐を誓って血反吐を吐きながらも力を掴みとった奏が見せた数少ない弱い一面なのだから。

 

「翼、もう少しだけあたしの我が儘に付き合ってくれるか?」

 

「いっつも奏の我が儘に付き合わされてる気がするけど?」

 

 今更?と翼の顔には書かれていた。

 

「そんなに言ってたか?」

 

「奏が自覚してないだけ。でも付き合うよ、これからも」

 

 奏の無茶に翼は何度も救われた。今も昔も彼女の無茶が自分を前へと踏み出す切っ掛けとなった。だからこそ、彼女と共に歩いて行けるのだ。

 

「翼、ありがとうな」

 

 そう言われて、奏は少しだけ口元を緩ませる。

 

「うん」

 

 そうこうしている内に、現場が見えてくる。ノイズによって破壊された所から黒い煙が上がっており、いくつかの建物が壊れ、新たな戦場となっていた。

 

「行くぞ、翼!」

 

「ええ!」

 

 予め持っていたリンカーを首筋に打ち、シンフォギアを纏って奏はノイズに槍を携え突っ込んだ。翼もギアを纏い、その後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 装者が現場に辿り着いたほぼ同時刻、二課の司令室にて。

 

「装者二人が現場に到着。ノイズとの戦闘を開始しました」

 

「周辺への避難はどうなっている」

 

「まだ完了していません」

 

「二人が交戦している内に急がせろ!」

 

 場所が人が多いと言うのもあり、逃げ遅れている人々を安全な場所まで誘導することに職員は全力を尽くしていた。

 そんな中、藤尭があることに気が付いた。

 

「この反応……」

 

「どうした、藤尭」

 

 画面で状況を把握していた藤尭の呟きに弦十郎は視線を向ける。

 

「微弱ですが、カミナ君から発していたエネルギーと同じ反応が現場付近に出現。今も移動を続けています」

 

「なんだと!?」

 

「まさかあの子、二人の後を追って……」

 

 螺旋力を持っているのはカミナしかいない。弦十郎は了子の推測は間違っていないと断定した。

 

「カミナに連絡を入れろ!」

 

「ダメです! 通信機への反応ありません!」

 

 友里が既に連絡を入れていたが、反応がない事に弦十郎は机を強く叩いた。

 

「直ぐに装者二人に連絡しろ!」

 

 眉間に皺を寄せる弦十郎に対して、了子は冷静な様子で考え事をしていた。

 

「ねぇ、さっきの反応って唐突に出てきたのかしら?」

 

「え、ええ。いきなり画面に反応が出てきて」

 

 了子の問いに藤尭はありのままの事を口にした。実際、彼が困惑したのは何もない所から唐突に螺旋力のエネルギー反応が検知されたからだ。

 

「待ってください。これは……」

 

 再び画面を確認して、その変化に彼は怪訝な顔をする。

 

「司令、これを見てください」

 

 そう言うと藤尭はエネルギー反応を前方のモニターに表示する。

 

「これは……」

 

 そこには螺旋力のエネルギー反応が徐々に大きくなり、より大きな螺旋を描き始めていた。

 

「エネルギーがゆっくりとだけど増加してるわね」

 

 それを見た了子はとても興味深く眺めていた。これまでうんともすんとも言わなかった未知のエネルギーがここに来て活性化したのだ。彼女の反応は当然と言えるだろう。

 

「映像は流せないの?」

 

「どうやら、ノイズの起こした爆発の所為でカメラの回線が……」

 

「復旧を急がせろ!」

 

「了解!」

 

 現場で何が起こっているのか分からないことに弦十郎の眉間の皺の溝がより一層深くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あのバカミナが!」

 

 司令室から連絡を受けた奏はカミナの反応があった場所に向かいたかった。しかし、ノイズの数が予想以上に多く、今の場所から離れられない状況に二人は陥っていた。未だに民間人が避難を終えておらず、何としてもノイズの進行をここで留めるにはどちらかが欠けてしまう訳にはいかない状況に陥っていた。

 

「旦那、カミナは何処ほっつき歩いてるんだ!」

 

「どうやら避難が完了していない区域を中心に動いているようだ。今の所、ノイズが集結しているそっちに向かう気配はないが……あいつの息子だ、何をするか分からん」

 

「くそっ! こっちの気も知らずに勝手にやりやがって!」

 

 散々愚痴をこぼしつつ、奏はひたすらノイズを倒していく。しかし、先程から斬っても斬ってもブドウ型と芋虫型のノイズが大量に仲間を増やしていき、奏を更に苛立たせる。

 基本的に一騎当千でノイズを殲滅しているが、今回のような長期戦になると面倒になり、火力に物を言わせたやり方になることも少なくなかった。最近はその傾向もなりを顰めていたが、カミナの行動によって彼女には心の余裕が無くなってしまっていた。

 

「だぁ、もうめんどくせぇ!!」

 

 キレ気味になった奏は乱暴にノイズを吹き飛ばしていく。

 少し街を破壊することになるが、自棄になった奏は大技で一気にケリをつけるつもりでいると翼は理解した。

 

「奏、少しはペースを考えて……」

 

「だけどよ、ここで一気にデカブツとブドウ野郎を叩けば……」

 

 だが、奏はその後の言葉を口にすることは出来なかった。彼女の目に映った光景に驚かされたからだ。

 

「嘘だろ……」

 

 奏の視線の先には、少年が物陰に蹲って隠れていたのである。

 幸い、ノイズは少年の存在に気付いていない。しかし、見つかるのは時間の問題だった。

 

「悪い翼、少しだけここ任せた!」

 

「分かった!」

 

 翼も少年の存在に気付き、奏の言葉の意図を理解する。少しの間であれば、どうにか持ちこたえられると判断し、気にせずに少年を助けに行くよう翼は頷いた。

 すぐさま奏は進路上にいるノイズを一掃しつつ、少年の元に駆けつける。

 

「大丈夫か!?」

 

 奏が目の前に現れて、少年はビクッと驚いた顔をする。

 

「おねえちゃん、だれ?」

 

「あたしか? 通りすがりのヒーローだよ」

 

 少年の純粋な問いかけに奏はそう答えると、軽々と少年を抱きかかえる。

 

「よく我慢したな。心配するな、お姉ちゃんが安全な場所まで連れてってやるからな」

 

「……うん」

 

 少年を抱えた奏はすぐさまビルの屋上まで上り、少年を安全な場所に送り届ける為に屋上を走りだした。

 かなりの数のノイズが出現していた為に、翼の攻撃から逃れた一部のノイズが奏の後を追う。

 

「ったく、しつこいっての!」

 

 建物を壊すわけにはいかず、奏は一端屋上から道路へと降りて、道路を走ることにした。

 ノイズもすかさず奏の後を追うが、道路に降り立った瞬間、奏が放った槍の雨がノイズを一掃していく。

 

「へっ! ざまあみろってんだ」

 

 後ろをついてくるノイズがいないのを確認した奏は少年を安全な場所まで連れて行こうと足を踏み出す。 

 その直後だった。

 

「……マジかよ」

 

 奏が視線を向けた先には、地面から新たにノイズの集団が出現し始めていたのである。

 

「時間差で出現って、今日はノイズのバーゲンセールかよ」

 

 時間差でノイズが再び出現することはこれまで一度も無かった。出現してしばらく経ってから新たに別の場所に現れることはあったが、同じ場所に立て続けにノイズが出現することなど過去一度も起こっていない。

 前代未聞の出来事に奏は困惑していたが、それでも現実逃避をするような軟な鍛え方はしていない。直ぐに少年を守ることに意識を切り替える。

 

(でも、流石に厳しいな……)

 

 少年を抱えたままノイズを捌き切れるだろうかと奏は焦っていた。翼は後方でノイズを倒している為、支援は期待できない。かなり危険な状況だ。

 どうするべきが考えようとするが、ノイズはそんなことを待ってくれはしない。

 地面から出てきたノイズは奏達に向かって襲い掛かる。

 

「くそっ、やるっきゃねぇか!」

 

 少年を抱え直し、奏は槍を構える。まずは槍の雨を降らせて牽制をしようと試みる。

 しかし、その攻撃は不発に終わることとなった。

 

「どけぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 唐突に上空から叫び声が聞こえてきた。

 奏はすぐさま上を見ると、上空から緑の光を纏った物体が急速に接近していた。

 

「まさか……」

 

 あの光が誰のものかすぐに理解した。あの声を聞けば、直ぐにその顔が思い浮かぶ。

 光を放つ物体はノイズの群れに向けて高速で落下する。地面に激突し、大きな爆発を起こしつつ、その衝撃でノイズの群れを一気に吹き飛ばした。

 

「目と口を閉じてろっ!!」

 

 奏は衝撃による突風から少年を庇う。

 吹き荒れた風が治まり、奏は先程までノイズがいた場所に目を向ける。

 そこに立っていたのは一人の男だった。

 

「助けを求む声を聞き、手を差し伸べるは男の器量。救える奴を見捨てれば、明日の俺が許さねぇ!」

 

 男は右手の人差し指を空に向けて指して、声を張り上げる。

 

「子を思う親との約束を果たす為、神野神名様、ここに参上っ!!」

 

 決め顔のカミナが奏の前に現れたのであった。

 

「お前、何で……」

 

 奏は驚いた顔でカミナを見る。

 

「馬鹿野郎っ! 俺が自分可愛さに逃げるような奴だと思ってたのか? 冗談じゃねぇ! さっきまで逃げ遅れた人達を安全な場所まで誘導してたんだよ」

 

 それを聞いた奏は弦十郎との通信を思い出した。カミナは現場付近を動いていた。それが人助けの為ならば、彼の行動範囲に納得がいく。

 

「そんで一通り終わったら、息子とはぐれた母親に会ってな。ちょうどこいつが使えるようになったから俺がここまで来たってわけだ」

 

 奏に近づいてきたカミナが右手で持っていた物を奏に見せる。光を宿しているコアドリルがその手にあった。

 

「いやぁ、こいつ本当にスゲェよな。使えるようになったら体が軽くなるし、力も上がるしで良いこと尽くしで……」

 

 パァーンっ!

 カミナが言い切る前に奏は彼の頬を叩いた。

 

「いってぁな! なにすんだ……」

 

「なんでだよ……」

 

「あ?」

 

 頬を叩かれたカミナは呆けた顔をして奏に目を向ける。

 

「なんで、なんでそんな無茶すんだよ!」

 

 奏は叫んだ。カミナを睨み付け、襟元を掴んで引き寄せる。

 

「そいつはシンフォギアとは根本的に違うもんなんだ! 本当にノイズを倒せるか分からねぇってのに、なんで来たんだよ! もしその力が使えずにノイズに触れたらどうすんだ! 死んじまってたかもしれないんだぞ!」

 

 いつか彼がここに立つとしても、それはまだ先の事だろうと思っていた。いくら彼でもここまで早く来るとは考えもしなかった。

 だからだろう。まだ覚悟を決めていない所為か、感情に収まりがつかない。あんな危険な行為をして平然としていることに腹が立った。自分の命を大切にしろと怒りがこみ上げ、カミナにすべての怒りの矛先を向ける。

 

「お前には家族がまだいるだろうが。グレン団の奴らだって、お前のことを心配してるんだぞ……。そんな簡単に命を捨てるようなことはしないでくれ」

 

 今にも泣きそうな声で奏は言った。

 彼には本当に死んでほしくない。こんな危険な事から離れてほしい一心で奏は口にする。

 

「……うん、やっぱりな」

 

 するとカミナは何かを納得したように小さく首を縦に振った。

 

「は?」

 

 予想外の反応に怪訝な顔をする奏だったが、カミナの次の行動によって思考が止まってしまう。

 何故ならカミナが頷いた後、彼の両手が自分のある部分に触れていたからだ。具体的に言うと、腰より上にある発育の良い双丘を両手でガッシリと……。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

「ぶべらっ!!」

 

 奏は右手の槍を捨てて、全力でカミナの顔面を殴った。

 シンフォギアを纏った奏の腕力によって吹っ飛ばされたカミナは何度もバウンドしてビルの壁に直撃する。

 

「いててて……。ったく、何しやがんだ」

 

 螺旋力の影響によって体が頑丈になった所為か、コンクリートの壁が壊れるほどの攻撃を受けても平然とカミナは立ち上がった。

 

「何してんのはそっちだろっ!? バカじゃねぇの!! 本当にバッカじゃねぇの、お前っ!!」

 

 カミナに触られた所を手で押さえつつ、奏は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「いやぁ、健全な男子高校生としてはここはとりあえず触っておかねぇとと思ってな」

 

 カミナは真顔で言い切った。それと同時に両手が何かを揉んでいるような嫌らしい動きをしていた。

 

「両手をワキワキ動かすのを止めろ、このバカミナっ!! ほんと何なんだよ、こっちは真面目に心配してやってんのによ!」

 

「でもよ、やっぱ触ってみたいもんは触ってみたいしさ。ぶっちゃけ、その服装結構エロいし……」

 

「死ね」

 

 奏は地面を蹴ってカミナに殴り掛かる。渾身の一撃を込めた拳がカミナに襲い掛かった。だが、奏の拳はカミナの左手によって受け止められた。

 

「なっ……」

 

 その光景を目にして奏は驚いた。手を抜いていたわけでは無いが、こうもあっさりと掴まれるとは思ってもみなかった。

 

「ったく、あぶねぇだろ」

 

「カミナが変なこと言うからだ。良いから、お前はさっさとその子連れてダンナのところに戻ってろよ」

 

「悪いがそいつは聞けねぇな。ダチを見捨てるつもりはねぇよ」

 

「訓練してもないお前じゃ、足手まといだって言ってんだよ」

 

「それでもお前の手助けくらいは出来る」

 

「邪魔だって言ってんだよ!」

 

 互いの主張は拮抗したままどちらも引き下がろうとしない。

 だが、その言い合いはすぐに終止符が打たれた。

 

「心配すんな。俺は簡単に死なねぇよ」

 

 カミナはニッと笑みを浮かべてそう言った。

 

「っ!」

 

 その言葉に奏は目を見開いた。カミナは先ほどの翼との話を聞いていない筈だ。それなのに自分が最も不安を抱いていることを知っているかのように彼は言った。

 

「大体よ、『もし』とか『たら』とか『れば』とか、そんなもんに惑わされてんじゃねぇよ。現に俺はここに居るんだ。それが真実だろうが」

 

「……今はそうかもしれない。でも……」

 

 それでも奏の不安はぬぐえない。これまでも無茶を成し遂げてきたが、それが何時までも上手いく行くとは思わない。

 

「次もそうならねぇよ」

 

「何で……そんなこと言いきれんだよ。そんな保証、何処にもないだろうが」

 

「お前らがいるからだ」

 

「え……?」

 

「俺の無茶を支えてくれたお前らがいればな。これまで俺達が意地を通してやってこれたのも俺だけの力じゃねぇ。俺の無茶に中身をくれたお前らが居てくれたから、どんな無茶も無謀も逆境もブチ破ってこれた」

 

 それは違うと奏は言いたかった。これまで自分達がしてきた事はカミナの全く根拠のない自信と自分達のやる気を駆り立てるカリスマ性があったから出来た事であったからだ。

 今まで彼の後ろを走っているだけだ。彼の後を追えば、嘗て退屈だった日々が色鮮やかになると思い我武者羅にやっていただけだ。

 だと言うのに、この男はそれが自分達のおかげだと口にする。

 

「だから俺は絶対に……」

 

「だとしてもっ!」

 

 奏は声を張り上げて、カミナの言葉を遮った。 

 

「カミナの言う通りだとしても……、あたしはカミナみたいに強くないんだよ」

 

 奏は翼にさえ言えなかった弱音があった。カミナが螺旋力を解放してからずっと抱いていた思いだ。

 

「カミナを守れる自信があたしには……ない」

 

 カミナから立ち去り、辛く苦しい思いをしてノイズを倒す力を手にした時、復讐心がより一層強くなる片隅で一つの喜びがあった。ようやく彼の背中を追い抜いたと思ったのだ。やり方は異なっても誰にも出来ないことをしてきた『彼』のようになれたのだと奏は歓喜したのである。

 だと言うのに、つい数日前に彼は自分を一気に追い抜いた。絶唱を使おうと覚悟していたにもかかわらず、彼はあの窮地を手に入れたばかりの力であっという間に切り抜けてしまった。

 ショックだった。彼を守っていこうと思っていた矢先に彼に守られてしまった。流石に自信を失ってしまう。

 精々救いだったのは彼が力を上手くコントロール出来ていないことだった。あの時は火事場の馬鹿力で切り抜けただけであり、まだ完全に追い抜かれたわけではないと了子の説明を聞いて安堵してしまった。まだ彼を守れると自分でも無様と思えるようなことを考えてしまったのである。

 奏は自身の額をカミナの胸元に押し付ける。このとき、奏は自分が泣いているのだと気付いた。

 

「なんでカミナはあたしの前ばかり行くんだよ。何でもかんでもあたしが躓いている壁を簡単に乗り越えられるんだよ」

 

 結局、自分は彼より弱い人間なのだと思い知ってしまう。絶唱を使わないと誰一人として守れなかった自分はここが限界なのだと。

 

「はぁ……」

 

 カミナが溜息をついた。

 

「ガキの頃に給食の早食い勝負して勝ったのは誰だ?」

 

「えっ……」

 

 それを聞いた奏はわずかに顔を上げてカミナの顔を見る。

 

「お前だろうが」

 

 唐突にカミナが昔の事を話しだして奏は困惑した。

 

「学校の成績だってお前の方が上だった。体育は俺が勝ってたが、他じゃ全部奏の圧勝だ。音楽なんざクラスで最強だったんだぞ」

 

 そんなことあったかもしれない。しかし、それが一体何だと言うのだ。

 

「俺は歌は歌えねぇし、ライブに出れるような人気者でもない。だがお前は違う。お前はツヴァイウィングの天羽奏だろうがっ!! さっきからなに寝ぼけた事ばかり言ってやがんだ! お前が俺に勝ってるところなんざ、山ほどあるだろうがっ! たった一回負けたくらいでクヨクヨしてんじゃねぇっ!!」

 

 カミナの一喝に奏は体を強張らせる。ずっと心にたまっていたもやもやが一瞬にして吹き飛ばされるような気分だった。

 

「本当に弱い奴ってのはな、躓いてそこから何もしねぇ奴のことを言うんだ。躓いた後も前に進む奴だけが本当に強い奴だ。奏、お前もその一人だ。何度も立ち上がったお前が弱いはずがねぇ」

 

「……カミナ」

 

「お前は強ぇ。側にいた俺が言うんだから間違いねぇ。だから、お前を信じろ。俺が信じるお前を信じろ!」

 

「……っ」

 

 本当に敵わない。奏は改めてそう思った。

 彼の言葉はいつも心に響き、勇気づけられる。

 だから、信じてみよう。彼が信じてくれた自分自身を。

 

「それに忘れたか? 昔、皆から何て言われてたか」

 

 そう言ってカミナは右拳を奏に突き付ける。

 それを見た奏は自然と笑みを浮かべていた。

 

「……ああ」

 

 そして奏はカミナの拳に自身の拳を当てる。

 

「「俺(カミナ)とお前(アタシ)が組めば、誰にも負けねぇ最強コンビだってな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 奏が少年を保護した後、翼はかなり手古摺っていた。兎に角ノイズの数が多い。それに尽きる。

 

「本当に奏の頼みは無茶ばかりだ」

 

 先程、少年を無事保護した連絡が入り翼は安堵したかったが、ノイズはそんな暇を与えてくれなかった。

 

「この数……今日はノイズのバーゲンセールでもやってるのか」

 

「まったくだ。特売は店だけにしておけってんだ」

 

 翼がぼやいた直後、空から槍の雨が降り注ぎ、ノイズを一掃していく。

 それが奏によるものだと翼はすぐ理解した。

 

「奏っ!」

 

 戦線に復帰した奏を見つけ、翼は駆け寄る。

 

「悪い、遅くなった。その代わりといっちゃあなんだが、助っ人を連れてきた」

 

「助っ人?」

 

 すると彼女の脇を緑の光が空から降り立った。

 

「まさかっ!」

 

「ああ、そのまさかさ」

 

 そこにはあの会場で見た螺旋力を纏ったカミナが立っていた。

 

「助っ人として俺、参上っ!!」

 

 しかもわざわざ決めポーズを付けて。こんな時にすることではないが、中々様になっている。

 

「翼、訳は後で話す。今はこいつらが先だ」

 

「え、ええ」

 

 突然ことに戸惑いつつも、翼は奏の言う通りにすることにした。

 

「三人同時攻撃で雑魚どもを一掃して道を作る。そんで一気に奥にいるデカブツとブドウどもを叩くぞ!」

 

「おうっ!」

 

「分かった」

 

 二人で難しかったが、今のカミナがいれば十分にそれが可能である作戦であり、翼も異論はなかった。

 三人はノイズに向けて構える。

 奏は槍の穂先を回転させ、翼は刀を大型に変化し、カミナは二枚のブーメランを生成する。

 

「ぶっ飛べっ!」

 

「はぁぁぁっ!」

 

「せりゃぁぁぁっ!」

 

 『LAST∞METEOR』、『蒼ノ一閃』、『グレンブーメラン』が放たれ、一気にノイズを殲滅する。

 そして芋虫型とブドウ型への道が開けた瞬間、三人は走り出す。

 

「カミナ、デカブツは頼んだぞっ!」

 

「おうっ!」

 

 奏と翼はブドウ型が新たにノイズを生み出そうとしているのを目にした。

 

「させるかよっ!」

 

「はっ!」

 

 二人はその前に止めを刺し、ノイズを炭素の塵へと変える。

 

「ギィィィガァァァ……ドリルゥゥゥゥ……ブレェェェイクゥゥゥゥゥっ!!!」

 

 そして芋虫型はカミナの必殺技で倒されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「終わったか……」

 

 カメラが復旧し、奏達がノイズを殲滅したことを確認した弦十郎は安堵していた。

 

「今回はちょーっとやばかったわね。でも、カミナ君のおかげで切り抜けられたようだし、結果オーライね」

 

「ああ。だが、あいつの無茶には少々肝が冷えるな。まったく、ああいう所は父親にそっくりだ」

 

「そうね。それに、これからいろいろ忙しくなるわね」

 

 カミナが正式に二課に所属することで、恐らく今回のように想定外の行動をすることに頭を悩ますことになるのと、再び発動した螺旋力の解明のことを了子は示唆していた。

 

「なに、忙しいのはもう慣れているさ。それに……」

 

 了子の言葉に弦十郎は不敵に笑みを浮かべ、モニターを見る

 いまだに分からないことが多いが、モニターに映る三人の様子を見れば、余計な不安を抱く必要は無いと感じた。

 

「なかなかいいチームになりそうじゃないか」

 

 戦闘が終わって、カミナと一緒に笑っている奏とそれを見て呆れた顔をしている翼。

 カミナという存在が二人にとっていい影響を与えることになると弦十郎は確信した。だが、まだまだ彼らは未熟だ。それ故に。

 

「どれ、近々三人を鍛えてやるとするか……」

 

 鍛えがいのある男が現れ、嬉しそうに笑みを浮かべる弦十郎なのであった。




いかがでしたか?
次回、少しだけ時間が飛びます。
あと数話で本編に入れたらいいなと考えております。
それでは今回はこれにて。
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