戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!- 作:GanJin
一月も後半に突入です。
いやぁ、早いわ。
新作アニメ、結構面白いのが多かったです。
何かが聞こえる。
ノイズにまみれてはいるが、それが人の声であるのに気付いたのはどれくらいの時間が経った頃だろうか。
いや、実際は時間なんてそれほど経っていないのかもしれない。
「へ……しろっ! ……ちゃ、…めだ……」
(あー、うるせぇ)
まるで目覚まし時計のアラームに起こされた気分だった。
頭がぼーっとして意識がはっきりしない。
もうひと眠りしたいと開いているはずのない目を閉じると……。
「何時まで寝てるんだ! 起きろ、カミナぁぁぁっ!」
「うおぉっ!?」
突然の怒号に慌ててカミナは布団から起き上がった。
「ん? 俺って何時の間に昼寝してたんだ?」
記憶があやふやでいつの間に実家に帰ってきたのだろうかと思いつつ、のそのそと起き上がって声のする方へと足を向ける。
「おい、カミナ!」
「うるせぇな、聞こえてるよ
玄関まで向かうとそこにはカミナの父親である神野丈がいた。
「おう、カミナ。ちょっと買い物してくるから、洗濯物取り込んでおいてくれ」
「買い物って何処までだよ?」
「近くのコンビニ」
「すぐ戻って来れるじゃねぇか。俺は寝る!」
「この野郎! 今何時だと思ってんだ!! 起きろ!!」
「いててててっ!!」
丈はカミナの頭をくしゃくしゃになるまで撫でた。このお陰でカミナは嫌でも目が覚めてしまい二度寝をすることが出来なくなった。
(待てよ、この光景、俺は見たことあるぞ……)
そして、これが現実でないことも思い出した。
「母ちゃんは町内会で出掛けてんだよ。ちったぁ、家事の手伝いして母ちゃんを喜ばせてやれってんだ」
「ってーなっ! 何しやがんだ!」
「ハハハっ! 変な髪形だな」
「誰のせいだ!!」
そうして丈がカミナの頭から手を離した。
(ああ、間違いねぇ。この光景は……)
「何だ、それとも……」
カミナがこの時を忘れるはずがなかった。
「お前も行くか?」
奏がいなくなって一年が経ったある日、丈は帰らぬ人となった。
神野丈。
カミナの父であり、二課では研究員として働いていた。
理工学系でも難関大と呼べる大学を卒業した後、聖遺物の研究をしており、奏の両親とは仕事関連で知り合うことになる。紆余曲折を経て、やがて家族ぐるみの付き合いとなる。
弦十郎とは学生時代に拳を交えた友人であり、彼が二課の司令に就任する際にヘッドハンティングされて二課に所属することになる。
カミナの母親との出会いについては詳しくは知らないが、母親が何度もアタックして丈が折れたことで結婚したとのことだ。
カミナが知っている父親の経歴はこれぐらいだ。
「オヤジって凄い奴だったんだな」
カミナはそう呟いて父親のことを思い出す。
今、カミナがいるのは実家の玄関ではない。上も下も真っ白であり、周りは壁一つない永遠とも呼べる広さを持つ空間にただ一人立っていた。
「にしても、まさか人身事故で亡くなるたぁな」
当時のことを思い出すと、今でも信じられないことだった。
カミナにとって目標でもあり、第一に超えるべき壁だと思っていた男が人身事故に合うとは思ってもみなかった。
当時、近所のおばちゃんが血相変えて丈が車に撥ねられたと聞かされたは、カミナは靴も履かずに無我夢中で走っていた。
現場に辿り着けば、救急隊員にタンカーで運ばれていく親父の姿がカミナの目に映っていた。
顔は白い布で隠されていても分かったのは、丈が普段左手に身に着けている髑髏のアクセサリーがだらんとタンカーからはみ出ていたからだった。
「そう言えば、あの時は泣けなかったな……」
葬式の時、一部の親戚からは父親が亡くなったのに涙も流さないとはとんだ親不孝者とさえ罵られたこともあったが、あの時のカミナには彼等の言葉に耳を傾ける余裕はなかった。
本当は泣きたかった。だが、漢が簡単に涙を流すもんじゃないという死んだ父親との約束を守って強がっていただけだった。
「悪いな、オヤジ」
墓の前ですら言えなかったことをカミナはぽつりと呟いた。
「良いんじゃねぇか? 俺の時に流せなかった涙は母ちゃんと惚れた女の為に使ってやれよ」
「……は?」
背後から聞こえた声にカミナは素っ頓狂な声を上げ、慌てて後ろを振り向いた。
その人物にカミナは目を丸くする。
「よっ、久しぶり! 元気そうだな、カミナ」
「オ、オヤジぃぃぃぃぃっ!!?」
同窓会にでもやってきたかのように気さくな挨拶をしてきたのは、死んだはずの神野丈だった。
「何だよ、幽霊にでも会ったみたいに驚きやがって」
「いや、あんた死んでるだろうが!!」
「おう、それもそうだな!」
ガハハと軽快に笑う丈にカミナはげんなりとしていた。
「それにしてもあのガキだったらカミナがなぁ、随分見ない間にデカくなったじゃねぇか」
しみじみと思い出に浸るように丈は何度も頷いた。
そしてカミナの胸板を手の甲で叩いた。
「ははっ、息子に背ぇ抜かれちまったな」
言われてみればその通りだ。いつの間にか自分は父親よりデカくなっていたらしい。そのことに気付いたカミナは少しだけ口元を綻ばせる。
「今ならオヤジと喧嘩しても勝てる自信があるぜ」
「ほう、言うじゃねぇか。喧嘩ならいつでも買ってやるが……カミナ、お前も来るか? こっちの世界によ」
丈の言葉を理解できないほどカミナもアホではなかった。いや、バカではあるが……。
(ああ、やっぱりそう言う事かよ)
カミナは首を横に振った。
「あいにく俺を信じて待ってる奴等がいるんでね」
今のカミナなら分かる。自分の身に起きた事、今周りで起こっている事の全てが見えていた。そして、カミナのことを心配してくれている存在もすぐ傍にいることも。
自分を慕ってくれている者達のことを思い出し、ふっ、と笑みを浮かべると目の前に拳が迫っていた。
「ぶっ!」
唐突に丈が顔面に殴ってきたのである。
「何すんだよ!!」
「良い顔で随分と生意気言うようになったからな。ま、来るって言ったらぶん殴ってでも追い返してたがな!!」
ニシシっと笑みを浮かべる丈に、カミナは呆れた。
「ったく、このクソオヤジが」
顔をさすっていると、その掌にコアドリル付きのメリケンサックがあることに気が付く。よく見れば、コアドリルが少しずつ光を放っていた。
まるでカミナの心を表しているようにその光は鼓動していく。
よく見れば、周りの景色も味気ない真っ白な空間ではなく、果てしない荒野と星空が見え始める夕焼け空になっていた。その空の中で一際輝く星があった。
それを見た丈は笑みをこぼした。
「俺が亡くなった後も随分と良い仲間に囲まれてるじゃねぇか」
「その内の何人かは親父の同僚だろうが」
丈は軽快に笑った。
「そうだな。弦の奴、強いだろ?」
「ああ、一度も勝って事がねぇ」
「了子ちゃんはバインバインの良い女だったろ。まぁ、母ちゃんの方が数段良い女だけどな!」
「惚気んなよ、クソオヤジ。あーあ、母ちゃんより良い女だって言ってたら言いつけてたのによー」
「おい、それだけは止めろ。アイツの方からこっちに来そうで怖いわ」
真剣な顔で言う丈にカミナは首を傾げる。カミナの記憶では母親はそれほど怖い所はない印象だったからだ。
丈が言うには家庭を持てば分かるとのことだが、まったく分からないのでカミナはこれ以上考えないことにした。
「奏ちゃんは良い女になっただろ」
「そうか? 昔と変わらねぇだろ? まぁ、了子さんほどじゃねぇが胸はデカくなったがな」
そう答えるカミナに丈は何言ってんだこいつと言わんばかりに呆れた顔をしていた。
「はぁ。ったく奏ちゃんが不憫でならねぇな。これは花嫁姿を見るのも随分先の事か……」
「どういうことだ、イテっ!」
カミナが怪訝な顔をすると丈は額にデコピンを喰らわせた。
ここまで言っておいて何も察しない我が息子に呆れて溜息をついた。
「この唐変木が」
「はぁ?」
「ま、奏ちゃんには頑張ってもらわんとな。俺の勘だがライバルが後二、三人は増えると見た!」
「だから何言ってんだよ、オヤジ?」
「もうお前は知らんでいい!」
「何でだよ!」
もう諦めたという丈の態度にカミナは納得いかないという顔をしていたが、丈が空に輝く星をまっすぐ見つめており、それ以上続きを追求するのを止めた。
「さぁ行けよ、カミナ。待ってる奴等の元に」
丈がそう言うとカミナは下を向いて俯いた。
「……今度こそ、本当に“あばよ”だな」
ここを発つ前にカミナは少しだけ心残りがあった。もっと話したいことがあった。伝えたいことがあった。この数年で何があったのか、どんな奴等と会ったのか。挙げてもキリがない。
そんな神妙な顔をしているカミナを見て、丈は拳をカミナの胸に押し当てる。
「“あばよ”じゃねぇ。俺が教えた熱い心と不屈の魂が宿ってる! それがある限り、俺はお前の中で生き続けるんだ!!」
「オヤジ……」
それを聞いたカミナは顔を上げて丈の顔を見た。
「だから、“あばよ”じゃねぇ! これからも『一緒』だ!!」
満面の笑みを浮かべる丈。
カミナの心の底から熱い思いが溢れてくる。カミナは知っている。これがカミナが最も誇り尊敬する父親であると。
それに気付いたカミナは溢れ出てくる感情を抑えつけ、代わりに思いっきり笑い返した。
「ああっ!!」
カミナの手に宿るコアドリルが強烈な光を放ち、カミナとこの景色を包んでいった。
「カミナ! おい、カミナ! 返事しろ!! 眠っちゃダメだ!!」
奏はカミナを止血しつつ何度も声を荒げて呼びかけた。
螺旋力によるものなのか血の流れは少なくなっているが、大量出血も相まって体温が下がっていた。
今の奏が打てる手はすべて打った。それでも足りない。
目の前では弦十郎と翼が嘗てないほどの戦いを繰り広げている。
今までの翼とは思えないほどに強力な技を繰り出し、弦十郎はその攻撃を拳圧で吹き飛ばしたり、割った地面を畳み返しの様に立てて壁を作って防いでいた。
「まさかここまで渡り合うとは……。正直驚いたぞ、螺旋の力を宿していない上でここまで戦えるとはな!」
続けて刀で高速で何度も斬りつけるが、同等の速さで弦十郎は捌いており、致命傷を与えることは出来ずにいた。
「ふんっ!」
「甘いわっ!!」
翼の上段から振り落とされる一閃を弦十郎は片腕の指先二本で白刃取りで防ぐ。そのまま、肩でタックルし翼を吹き飛ばした。
「ぐはっ!」
現状、弦十郎の方が優勢だが、実際の所、打開策が見えていない為に均衡状態に陥っているのは間違いなかった。
翼に憑りついている者を引き剥がす方法が分からない以上、このまま長期戦に持ち込まれれば、どうなるか分からない。
何も出来ない奏は自分の無力さを嘆いた。肝心の所で何も出来ず、これまでずっと支えてくれた友を一人も救えない自分が嫌になる。
(カミナ、あたしはどうしたら……)
「ああ、クソっ……。おちおち寝てもいらんねぇかぁ……」
その声に奏は目を丸くし、下を見る。
カミナがうっすらと目を開け、ゆっくりと首を横にして弦十郎と翼が戦っている光景を目を向けていた。
「あの……バカ野郎が、世話焼かせやがって」
ゆっくりと立ち上がろうとしているカミナを奏は抑えつけた。
「バカっ! そんな傷で無理して動くな! カミナが死んじまう!」
だが、カミナが予想以上に強い力で立ち上がり、逆に押し返された奏は座り込んでしまう。
明らかに瀕死の重傷であるのにどこにそんな力があるのかと奏は驚きを隠せなかった。
「奏、翼の奴、まだグレン団の流儀が魂に刻まれてねぇようだぜ」
「カミナ?」
いきなり何を言っているんだと奏は怪訝な顔をするが、カミナは気にもせずに翼を見つめていた。
「だからよ、翼に教えてやらねぇとな。俺達の、グレン団の魂ってヤツをな!」
その瞬間、カミナの右手にあるコアドリルが嘗てないほど力強く光を放った。
その後の変化は劇的だった。
先程まで血を流していた胸元の刀傷は消え去る。それだけではない。まるで時が戻ったかのようにカミナの全身の怪我がなくなっていく。
変化はまだ終わらない。カミナの前身に巡る螺旋力が新たな形を形成していく。
物質化はしていないが、これまでのカミナの体表を覆う形状ではなく、鎧武者の様に手足に装甲が増え、赤いサングラスがなくなり三日月飾りの兜が形成され、より武骨な姿となる。
「無茶と無謀と笑われようと、意地が支えの喧嘩道! 友の涙に心が騒ぐ、救ってやらなきゃ男が廃る!!」
その光景は離れて戦っていた弦十郎と翼の目にも焼き付いていた。
「アレはカミナ君、なのか……?」
「バカな……。あの傷を負って何故動ける……? いや、そこまでしてまだ無様に生きたいか! ぬぅぅぅぅ……往生際が悪い。まだ足掻くか螺旋族ぅぅぅぅっ!!」
風前の灯火であったはずのカミナが突然息を吹き返し、その姿が翼に憑りついた者の逆鱗に触れ、怒り狂った声で叫んだ。
「ああ、足掻くさ! オヤジから受け継いだ熱い心と不屈の魂がある限り、俺は何度でも立ち上がる!!」
カミナは右手の人差し指で空を高らかに指す。
「俺を誰だと思っていやがる!!」
世界中にその名を轟かすかのように、威風堂々たる姿を見せつける。
「チームグレンの鬼リーダー、カミナ様たぁ、俺のことだ!!」
如何でしたか?
今回は色んなシーンが想像できる話だったと思います。
原作とか男どアホウ!編を知っていれば分かると思います……多分?
ただ思った以上に弦十郎が暴れていなかったのが心残りです。(もしかしたら追記するかも……)
それでは今回はこれにて!