戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!- 作:GanJin
サクサク書けたので、更新出来るうちにやっちゃおうと思った次第です。
今回は少しだけ短いです。
「ぬうぅぅぅ……」
先程まで死にかけていたカミナがここに来て息を吹き返したことに翼に憑りついた者はカミナの力を侮っていたと認識を改めざるを得なかった。
「ったく、翼の声で喚くなよ。あいつには似合わねぇよ」
ゆっくりとカミナは歩き出し、翼の元に向かう。
「貴様の螺旋力は他の者と比べて特に危険だと警戒していたが、どうやら私は貴様を見くびっていたようだ。瀕死になれば何も出来まいと高を括っていた」
「残念だったな。俺はその程度じゃ止まらねぇんだよ」
「どうやらそのようだ。ならば今度はDNAの一片まで完全消滅してやろう」
刀の切先をカミナに向ける翼にカミナは臆することなく前に進む。
「待つんだカミナ君! 今の君の体では」
翼とカミナの間を弦十郎は割って入る。
明らかに死に体の状態であるカミナが息を吹き返したことは驚くべきことだが、たとえそれが螺旋力によるものだとしても明らかに無理をしているはずなのだ。螺旋力がカミナの精神の影響を受けているのならば、今の彼は決死の覚悟を持って魂の炎を燃やしているのだ。
「どいてくれ、おっさん。こいつは俺の喧嘩だ」
「喧嘩だと? バカを言うな! 命を賭けた喧嘩などあるものか!」
弦十郎にとって互いの主張をぶつけ合う喧嘩ならば止めることはない。だが、今のカミナは自分の命を削ってまで戦おうとしている。そんなものは喧嘩と呼べるはずがなく、弦十郎はカミナを戦わせまいと彼の前に立ちはだかる。
「命を賭ける? ちげぇよ、おっさん。こいつは俺と翼の……グレン団としての喧嘩だ」
「……何だと?」
怪訝な顔をする弦十郎にカミナは口をへの字にして、頭を掻いた。
「あー、上手くは言えねぇが、翼にも色々あったんだろうよ。不安とか悩みとかな。あの野郎にそこを付け込まれて乗っ取られたんだろうよ」
「その根拠は?」
「何となくそんな気がしただけだ」
あっけらかんと言うカミナに弦十郎は眉間に皺を寄せる。ここに来て勘とは思わなかったが、理屈もへったくれもなく確信を突くのはカミナらしいとも言える。
弦十郎はそれが間違っていると断言できなかった。確かに、翼が普段より調子が悪いことは何度かあった。そのことを尋ねてもノイズが普段より多く出ていて疲れているだけだと言うだけで相談することはなかった。
少々思う所はあるが、翼がそう言うのならと弦十郎は静観することにした。
しかし、今思えば、無理にでも彼女の悩みを聞いてやるべきだったのではないかと後悔した。そうすれば別の道もあったのではないかと己の不甲斐なさを呪った。
何が大人だ。家族にも寄り添って支えてやることも出来ない自身が恥ずかしいと弦十郎は強く自分の手を握りしめたくなった。
「何でもかんでもおっさん達が背負う必要はねぇだろ」
まるで弦十郎の心を読んだかのようにカミナはそんな言葉を掛ける。
その言葉に弦十郎は虚を突かれ、目を瞬かせる。
「相手が大人だからって遠慮することがあっても
「……ああ、あったさ。丈がそうだった」
大人だからこそ話せることもあれば、友だからこそ話せることもある。思い出せば確かにそのとおりであり、そんな友が自分にもいたと言う事を弦十郎は思い出す。
「だからよ、おっさん達には言えなくても俺達ならグレン団なら話せるかもしれねぇ。何せ、翼は俺の仲間で
その時、弦十郎はどこか懐かしい気分になった。それが何なのかすぐに分かった。カミナと丈の姿が重なったように見えたのだ。
(丈、カミナ君は本当にお前に似ているな)
根拠はないが、経験と勘が言っている。この男に任せても大丈夫だと。
そんな思いを抱きながら弦十郎は何も言わず、カミナに道を譲った。
子供に任せるのは大人として負い目を感じるが、彼がそんなことを気にするような男ではない。
そしてカミナは弦十郎の横を通り過ぎ、翼と相対する。
カミナを見送りつつ、弦十郎は腕を組んでその場に佇む。それはこの喧嘩に手を出さず、結末を見届けるという意思の表れだった。
「よう、寄生虫野郎。待ってくれるとは殊勝な心掛けじゃねぇか」
「お前達の行動を観察することにも意味はある。螺旋族が周りに与える影響を知れば、残りの螺旋族への対処にも役立てると思ったからだ」
「はっ! もう勝負に勝ったと思ってんのか?」
「死に体の貴様ごときに私に勝てると? 思い上がるな、螺旋族!」
「テメェこそのぼせ上ってんじゃねぇぞ。俺はお前に用はねぇんだよ!」
「なんだと?」
その直後、カミナは超高速で翼に接近した。
「単調だな!」
その動きは見えており、単調な突進に翼は刀でカミナを串刺しにしようと無数の剣を投げつける。
全てカミナに当たったかに思えたが、剣はカミナの体をすり抜けただけだった。
「むっ!?」
アレはカミナの突進ではなく、ただ密度の濃い螺旋力を人型のまま叩きつけただけの囮だと理解し、翼は背後に目を向ける。
案の定、背後にはカミナがいたが、既に遅かった。
彼は拳を振り上げて、殴り掛かりに来ていた。
「翼ぁぁぁぁ! 歯ぁぁ、食いしばれぇぇぇぇっ!!」
カミナの渾身の一撃が、熱い魂を込めた拳が翼の顔面に叩きつけられた。
「んぶぅ!!」
顔面にもろ入り、フェイスパーツが砕け散る。渾身の一撃で殴られた翼は何度も地面をバウンドして吹き飛ばされた。
数回ほど地面に激突して減速し、なんとか態勢を立て直す。
直ぐにカミナを探そうとするが、その必要はなくなっていた。
既にカミナは翼に肉薄していたのだ。
だが、カミナは攻撃することはなく、翼の胸倉を掴む。
「おい翼……言いたいことがあるなら……」
そのまま翼を自身の元に引き寄せ……。
「はっきり言いやがれっ!!!!」
全力でカミナは翼の額にヘッドバッドを叩きつけた。
その直後、翼に憑りついていた者は視界が真っ暗になった。
私の目の前には一心不乱に木刀を振り続けている幼い少女がいた。
覚束ない動きをしながらも必死になって木刀を振り続けている彼女に私は親近感を覚えていた。
その理由は分からない。
どうしてあんなに我武者羅に振っているのだろうか。
何が彼女をあそこまで必死にさせるのか。
何度か見ているうちに、アレは自分の為ではなく、誰かに認めてもらいたいという思いで木刀を振っているのだと私は理解した。
いや、正確には思い出した。何故親近感を覚えた、その理由も。
「ああ、そうか。あの子は私なんだ」
私はようやくその子が幼い頃の自分、防人となる覚悟がない風鳴翼だと理解する。
父に認められたいが為に一心に研鑽を積むが、彼は一度も自分を娘と思ってくれなかった。認めてすらくれなかった。
そんな中、私はシンフォギアを起動出来る装者であることが判明する。
ノイズと戦える力を得れば、父も認めてもらえるのではと希望を抱いたが、結果は変わらなかった。寧ろ、どこまでも汚れた風鳴家の道具とさえ罵るようになった。
そんな自身の境遇を悲観的に捉えて自信を持てなかったが、ある日、転機が訪れた。
目の前にいる木刀を振っていた少女が少しだけ成長する。
「この時、私は奏と出会ったんだ」
天羽奏と出会いだった。
最初は怖かった。貪欲に力を欲し、ノイズと戦う力を得ようと血反吐を吐きながら足掻く彼女に戦慄した。
なんて怖い人。まるで獣のように我武者羅に暴れまわって、自分を傷つけてまでどうして力を得ようとするの?
そんな疑問が私の中に芽生えていた。
でも、そんな彼女に私は何時からか惹かれていた。誰かに認めてもらう為じゃなく、自分の為に力を得ようとする姿に何時からか憧れを抱くようになっていた。
彼女とは時折ぶつかりもしたが、何度も繰り返すうちに互いを知り、競い合い、共に成長していく中で、奏は私にとって道を指し示す光となっていた。
でも、あの男……カミナが私達の前に現れてから、奏は変わっていった。
いや、正確には嘗ての彼女に戻っていったというのが正しいのだろう。
自分が知らない奏を知っている彼が気に入らなかった。彼女の友達にはそんな感情を抱かないのに、何故か彼だけにそんな負の感情を抱いていた。
それでも私が自制出来ていたのは奏と共にノイズと戦い、ツヴァイウィングとして共に歌えたからだった。
しかし、それも僅かな時だった。
二年前に唐突にカミナが力に目覚めた。
ノイズを妥当し、シンフォギアに引けを取らない力を得た彼はあっという間に自分達と並ぶ、いやそれ以上の力を得てしまった。
それから二年間、カミナという男と接したことで、彼は彼なりの良い所を認めるようになった。奏以上にまっすぐで、自分を曲げない人なのだと理解した。奏がカミナのお陰で今の自分があると言っていたのも理解できる。奏はカミナに憧れていたのだ。そしてそれ以上の感情を抱いていることもこの二年間で分かってしまった。
―――――君はどうしたい?
「……うるさい」
ここ最近になって聞こえていた幻聴がまた私を惑わしてくる。
―――――君の心の支えであった大切な人が取られてしまうぞ?
「……やめろ」
何度も聞きたくないと拒絶しても、その声は私を嘲笑うかのように囁き続ける。
―――――彼女が笑えるようになったのは誰のお陰だ?
「誰のお陰でもない! 奏は昔から明るく笑える人だった!」
―――――では、君の前ではこれまでと同じように笑えていたか? 腹を抱えるほど、騒がしいと思えるほどに笑っていたことはあったか?
「っ!」
その言葉に私は動揺してしまう。確かに彼女は良く笑う明るい性格だったが、騒がしいと思えるほどの大笑いをしたことはこれまで一度だってなかった。
そして、そんな彼女を初めて見たのは彼と出会ってからだと言う事を、翼は改めて思い出す。
―――――理解しているはずだ、君は彼とは違うのだと。君は彼女の本当の心の支えにならないのだと!
もう聞きたくない。
―――――目を背けるな! 理解しろ! 彼女は彼を慕っているのだと!
聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。
―――――君は彼の代わりにはなれないのだと!!
聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。
―――――…………っ!! ……………………っ!!
聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。
目を閉じ、耳を塞ぎ、何度も何度も拒絶し続けたことで、ようやく幻聴は聞こえなくなった。
何度も深呼吸して、私は心を落ち着かせた。
アレはただの幻聴だ。気にする必要はないと何度も自分に言い聞かせる。
それからゆっくりと瞼を開ける。
そこには奏とカミナが立っていた。
周りは暗闇の様に真っ黒だが、いつものように笑っている二人を見て、私は安堵した。もう悪夢は終わったのだと。
何時か離れ離れになるかもしれないけど、それは今じゃない。もう少し後の事なのだ。
だからまだ今のままでも大丈夫だと私は自分にそう言い聞かせる。
二人が先に歩き出し、その後を追おうとすると私はふと違和感を覚えた。
同じ歩幅で歩いているはずなのに、二人と距離が離れているのだ。
歩幅を大きくしてもその差は埋まることはなく、どんどん距離が広がっていく。
「待って!」
私は走って走って走り続けた。それでも追い付けない。
「置いてかないで!」
手を伸ばし続けても全く届かない。
何かに躓いて、私は倒れてしまう。
いや、躓いたのではない。唐突に足元に発生した黒い沼が足を呑み込んでいたのだ。
徐々に沈んでいき、このままでは危ないと必死に足掻くが、容赦なく沼が体を飲み込んでいく。
そんな私に目もくれずに、二人は先に進んでいく。
遠ざかっていく二人の背中を掴むように手を伸ばすが、それに意味はなく、私はいつの間にか涙を流していた。
「お願い……私を一人にしないで……」
体が泥に飲み込まれるにつれて私の意識は少しずつ薄れていった。
それでも地表に上がろうと意味もなく右手を伸ばす。何故こうしたのかは分からない。もしかしたら奇跡が起こるかもしれないと思ったからか。
指先まで浸かり完全に黒い泥に飲み込まれ、意識がなくなろうとする。
「あっ、やべぇやべぇ!」
そんな焦り声と共に、誰かが私の手を掴んだ。
「よっこいせっ!」
そんな掛け声と共に黒い沼から引き揚げられた。
「おー、釣れた釣れた。(胸は小さいが)でっけぇ翼が釣れたー」
こんなふざけたことを言うのは私の知る中で一人しかいない。
「……私は魚ですか、カミナさん。というか今凄く失礼なことを言いませんでしたか?」
目の前には何故かカミナが釣りで魚を取ったかのように私を持ち上げていたのである。
如何でしたか?
今回は翼の負の面出しまくりです。
奏が死ななかったことで翼の心境が原作といささか違うので、若干キャラ崩壊が起こっているかも……。
次回で原作の四話の前半が終わればいいなぁ。結構引き延ばしちゃったし……。
という訳で今回はこれにて!