戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!-   作:GanJin

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どうもです。
一か月以上放置してましたが、どうにか完成したので投稿しました。
この一か月でシンフォギアXDの情報に脳がパンクしました。
公式イベであれだけはっちゃけるならこっちも没案をいくつか引っ張り出そうかな。
まぁ、使えるかは分からないけど……。
前回より長めになっています。


思いを乗せて

 カミナが翼に頭突きを叩き込んだ直後、二人はカミナの放つ光に飲み込まれた。

 光が発生したと同時に突風が吹き荒れる。

 奏と弦十郎は吹き飛ばされないように踏ん張りつつ、二人から目をそらさないようにしていた。

 しばらくすると風が止み、徐々に光が弱まっていくと、カミナと翼が十メートル程離れて向かい合っていた。

 翼の顔を覆うフェイスパーツは砕けており、その隙間から彼女の顔が露わになっていた。

 一方カミナは螺旋力を纏っておらず、生身の状態で彼女と向き合っている。

 あの短時間で何があったのかは奏も弦十郎も分からない。

 だが、二人は声を上げず、黙って二人を見守っていた。そこには一切の不安はないのは、彼ならばこの状況を打開できると二人は信頼しているからだ。

 カミナも翼も何もしゃべらず下を向いて黙っており、風の音だけが彼等の耳に入った。

 この静寂もそれほど長くは続かなかった。

 

「……翼」

 

 カミナが彼女の名を呟く。

 拳を握り、皮膚がこすれ合う音と共に再び螺旋力を纏う。

 先程見せた鎧の形状ではなく、これまでのカミナの体表を覆うように螺旋力を展開する。

 翼も太腿のプロテクターから柄を取り出し、刀へと変形させる。

 

「用意は良いな」

 

 その声に呼応するかのように翼は柄を力強く握りしめた。

 

「バカな……何故コントロールが」

 

「ふん!」

 

 困惑する声は、翼が刀の頭でフェイスパーツを叩いたことで遮られた。

 

「貴様っ!」

 

 力強く打ち付けられ、フェイスパーツは粉々になる。

 

「んぐぐぐ……ああああっ!!」

 

 翼は唸り声をあげ、残った部分は自身の手によって無理矢理剥がした。

 それを皮切りに二人は顔を上げ、互いを見つめ合った。

 

「行くぞぉぉぉぉぉっ、翼ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 カミナが叫ぶ直後、翼は本来の構えをとった。

 

「来いっ!!! カミナァァァァっ!!」

 

 二人が同時に地面を抉るほど強く踏み込み、駆け始める。

 一瞬で二人は互いの距離を詰める。

 

「はあああっ!」

 

「せいやぁぁぁっ!」

 

 そして、カミナの拳と翼の刃が衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 二人がぶつかり合う少し前に遡り、カミナが沼のような所から翼を引き揚げたところに戻る。

 

「で、ここ何処だ?」

 

 首を傾げるカミナに私は溜息をついた。

 

「……あなたがそれを言いますか」

 

「いやー、なんかお前に頭突きしたらここに出てさ。そしたらお前が溺れてるから引っこ抜いただけなんだわ」

 

 つまり行き当たりばったりでここに来て咄嗟の行動だったと……。

 

「待ってください、頭突きしたら?」

 

 何故そうなったのか心当たりが……。いや、今になって思い出した。私は……。

 

「……私はあなたを刺したんですよね」

 

 あの時、彼を背中から刺したことを思い出した。

 今なら思い出せる、あの時の感触が。この手を血に染めて、彼を傷つけた。

 自分の意志では……いや深層心理では望んでいたのかもしれない。

 

「そうそう。そのお陰で親父に会えたぜ」

 

 彼の声色と笑顔に私は驚愕した。

 あんなことをされておいて感謝している意味が分からなかった。

 

(どうして……どうしてそんな風に笑っていられるの!?)

 

 叫びたくなる気持ちを私はぐっと堪えた。

 よく分からない人だと思ってはいたが、今回は飛びぬけて理解不能だった。

 

「あ! 思い出した、お前に言わなきゃいけないことが……」

 

 どうやら私は思った以上に堪え性がないようで、明るく話す彼への感情が抑えきれなかった。

 

「どうして!!」

 

「ん?」

 

 カミナの言葉を遮り、私は肩を震わせる。

 

「どうしてそんな風にいられるんですか!! 私はあなたを殺そうとしたんですよ!!」

 

「それってお前を乗っ取った奴が望んだこ……」

 

「私があなたの存在を疎ましく思っていたのは事実です!!」

 

 今まで溜まっていた負の感情が一気に込み上げ、喉元まで溢れ、一気に零れだしたのだ。

 今の私は感情に歯止めが効かなくなっていた。

 

「勝手な行動を取るあなたが気に食わなかった!! 考えるより先に感情的に行動するあなたが嫌だった!! 気合で何でも貫き通せると思っているあなたの無神経さに何度も腹が立った!! 我武者羅に行動しているくせに何時だってやり遂げているあなたにムカついた!!」

 

 もうあの頃のようになれない。そう頭では理解している。でも心の底から湧き出る感情があのことまで口にしなければ気が済まないと訴えていた。

 

「私から奏を奪っていくあなたが憎かった!!」

 

 ああ、ついに言ってしまった。

 

「奏は私にとってかけがえのない存在だった! 奏がいたから私はずっと戦ってこれたし、歌ってこれた! この先も一緒だと思ってたのにあなたが現れてから何もかも変わった!! 奏がずっと遠くに行ってしまうのが怖かった!!」

 

 彼に抱いていたのは醜い嫉妬だと口にしてしまった。

 そして、心の奥底にあった言葉を私は口にしてしまう。

 

「本当はあなたが居なければ良いと思っていた!!」

 

 私の醜い感情の全てをついに晒してしまった。

 人として恥ずべき感情なのは分かっている。こんな醜い感情を持って防人を名乗っていた自分が嫌になる。

 こんなのは防人ではない。私はただの醜悪な心を持った人間だ。

 すべての感情を吐き出すと、唐突に恐怖が私に襲い掛かった。

 私は取り返しのつかないことを口にしたのだとすぐに後悔した。覚悟していたはずなのに恐怖に抗えず体の震えが止まらなかった。

 これまでの関係が一気に瓦解する恐怖が私を追い詰めようとする。

 

「はぁ……」

 

 彼が溜息をついた時は覚悟を決めるしかないと思った。

 

「ようやく本音を言いやがったな。グレン団の団員のくせに言うのがおせーんだよ、バーカ」

 

「……え?」

 

 その言葉を聞いて、私は目を丸くする。

 どうしてそんな態度でいられるのか、私には理解できなかった。

 深層心理で彼の存在を疎んじていたのは事実だ。それに付け込まれて私は彼に手を掛ける手助けをしてしまった。だから私が彼を死の縁に追いやった張本人と言っても過言ではないのに、彼はそれを怒らなかった。

 本音まで聞いて、私に対して怒りや憎しみを抱くのが普通のはずなのに、彼は文句の一つも言わずにそんな言葉を投げかける。

 

「……どうして」

 

 私の頬に一滴が流れた。

 

「どうして私を責めないんですか! あんなことをしたのにどうして私を憎まないんですか!!」

 

 そんな優しい顔を浮かべるくらいなら、いっそのこと罵倒してくれた方が気が楽だった。

 

「私には分からない!! あなたが何を考えているのか、全然分からない!!!」

 

「そりゃそうだ。相手の考えてることが分かる奴なんているはずがねぇ。それが人ってもんだろうが」

 

 やはり彼は怒らない。これほどまで罵倒されて、怒らない彼が全く理解できない。

 もういい。彼という人間を理解するのはもう疲れた。いっそのこと拒絶すれば楽になれる。そうすればもう悩むことはない。

 どの道、何を言っても私には届かな……。

 

「だから俺達は喧嘩するんだろ? 互いの思いをぶつける方法の一つとしてよ。何はともあれ、ようやく翼も俺に本気の思いをぶつける気になったってわけだ」

 

「え……」

 

 私が彼に本気の思いをぶつけたことがない……?

 そんなことはない。そんなはずはない。だって、今までも何度も……。

 

「お前、今までずっと本当に俺に言いたいことを隠してただろ。さっきの言ったことだって一度だって俺に言わなかったじゃねぇか」

 

 その言葉に私は動揺した。

 

「それ、は……」

 

「お前が俺に本気で怒ったことは一度だって無かった」

 

 記憶を思い返してみれば、確かにその通りかもしれない。これまで何度彼がふざけても本気で怒ったことはなかった気がしてきた。

 

「お前の主張はいつも一歩身を引いてる感じだった。だがよ、ようやくお前は俺に本当の想いをぶつけてくれた」

 

 そう言うと彼は一歩踏み出して近づいてくる。

 すぐさま私は一歩下がろうと思ったが、何故か体が言う事を聞かなかった。

 カミナが右拳を上げた時、私は殴られると思い、咄嗟に目を瞑ってしまう。

 だがいくら待っても痛みを感じることはなかった。

 ただ、とんと胸元を叩く感触だけが伝わった。

 

「これでようやくお前と本気の喧嘩が出来る対等の関係になれたってわけだ」

 

 満面の笑みを浮かべて発した言葉に私は目を開けて驚いた。

 

「何を、言ってるんですか?」

 

「何って決まってんだろ? これでお前は本当のグレン団になれるってこったよ」

 

「は……?」

 

 何を言っているのか私には理解できなかった。

 本気の喧嘩が出来る対等な関係? 本当のグレン団になる?

 彼は一体何を言っているのだろうか。

 

「じゃあ、今までは仲間じゃなかったって言いたいんですか?」

 

「いや、団員として俺達はお前を迎え入れたのは事実だ。だが、お前の心がグレン団に入り切ってなかったって話だよ」

 

 ますます意味が分からない。心がグレン団に入り切っていないとはどういう事だろうか?

 

「良いか、グレン団にはグレン団の流儀ってのがある」

 

 二年前にそんなものがあるとは聞いていたが、詳しいことは知らなかった。奏が言うには知っていても知らなくてもあんまり意味はないということで詳しくは調べていなかった。

 

「一つ、仲間を大切にすること! 一つ、テメェを信じぬけ! 一つ、テメェの決めた道をテメェのやり方で貫き通せ!」

 

 それは知っている。あまりにも単純明快で彼等らしいものだ。

 

「これが俺達のやり方だ。だがな、全員が全員同じ道を進むわけじゃねぇ。時には互いに信じたものの違いでぶつかる時もある」

 

 カミナは握り拳を私に見せつけた。

 

「そういう時は決まって俺達は喧嘩する。言い合いだろうが殴り合いだろうが、自分の魂を賭けて己の思いを全部乗せて全力でぶつかる」

 

「……思いを全部乗せて」

 

「どんなに仲が良かろうが考えが違うなんてよくあることだ。そもそも人間全員一人一人何でも違うのは分かり切ってることだろ。そんな当たり前のことで俺達の絆が切れるなんてバカバカしいだろうが」

 

 この時、私はようやく分かった気がした。あれ程性格も何もかもが違う奏達が彼の元に集い、今でも繋がっている理由が。

 どんな思いでも受け止め、その上で真正面から自分の思いもぶつける。

 互いに全力でぶつかっていけるからこそ、皆が彼に惹かれるのだ。

 そして、彼は今、私の感情の全てを受け止めた。

 

「お前は一度だって俺達に全力でぶつかって来なかった。だからよ、お前も全力でぶつけてみろ。団員の悩みを聞くのも団長の仕事だからな」

 

 そう言って彼は私の前に拳を突きつけた。

 

「なぁ、翼、お前もグレン団なら俺と全力で喧嘩しようぜ?」

 

 満面の笑みで彼は私にそう言った。

 何だろうか、この心の高鳴りは。心の支えになっていた奏や幼い頃から面倒を見てきた緒川さんとも、尊敬する叔父様に抱いている感情とは違う。

 彼のことを良く思っていないのは変わらないのに憎めない。

 今でも彼が分からない。だというのにカミナという人を信頼しようとしている自分がいる。

 だったら先の事を考えずに我武者羅に付き合ってみようと思えてしまう。

 まだ怖いが、一歩だけでも進んでもいいのではないかと私の心に変化が生まれていた。

 

「ええ、全力でやりましょう」

 

 いつの間にか私は自然と笑みをこぼした。

 そして、私の思いをぶつける為に拳を彼の拳に当てた。

 

「あなたとの本気の喧嘩を」

 

 その直後、私の視界は光に包まれた。

 次の瞬間、先程までいた街中の広場が私の目に映っており、目の前にはカミナがいた。

 

(体のあちこちが痛い……)

 

 身に覚えのない痛みが体中に走っているが、そう言えば彼が頭突きをしたとか言っていたが、人が気を失っている間に色々と好き勝手にやってくれたらしい。

 今になって気付いたが、視界の片方が塞がっていた。よく見るといつの間にかマスクを被っていたらしい。

 

「……翼」

 

 彼が私の名を呼んだ。

 アレはただの夢ではないのだと私は直ぐに悟り、アームドギアを展開する。

 分からないことを考えるのは後回しだ。

 

「用意は良いな」

 

(ええ、もちろんです)

 

 返事をしようと思ったら声が出なかった。

 

「バカな……何故コントロールが」

 

 どうやら私の体を乗っ取った者が喋っているらしい。だが、体は思う通りに動く。

 驚いているところ申し訳ないが、今あなたに構っている暇はない。

 

「ふん!」

 

 面倒になったので、刀の頭で気に入らないマスクを叩き割ることにした。

 案の定、マスクは簡単に割れた。

 

「貴様っ!」

 

 砕けると分かれば後はこちらのものだ。手足が動くなら無理矢理剥がせばいい。

 

「んぐぐぐ……ああああっ!!」

 

 マスクが外れると憑き物が取れたように体が軽くなった気がした。

 こちらの準備が整うと、カミナと視線が合った。

 

「行くぞぉぉぉぉぉっ、翼ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 カミナが叫んだ瞬間、私は構えた。

 

「来いっ!!! カミナァァァァっ!!」

 

 踏み出したのはほぼ同時だった。

 そして数秒も経たずに互いの距離を詰める。

 

「はあああっ!」

 

「せいやぁぁぁっ!」

 

 そして、カミナの拳と私の刃が激突した。

 初めてだった。本気で誰かと戦いたいと思ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 弦十郎の後を追い、現場に辿り着いた了子は呆然としていた。

 

「弦十郎君、この状況について説明してくれる?」

 

「子供の喧嘩に大人が手を出すな、とのことだ」

 

 眉間に皺を寄せて、了子は困惑する。

 

「……ごめん、流石の私も理解が追い付かないんだけど」

 

 弦十郎を現場に吹っ飛ばした後、響と了子は二課の職員を連れて彼の後を追った。

 司令室の情報で翼の身に何かがあったのは分かっていたが、状況はかなりマズいものだった。

 だというのに、目の前で起こっている状況は何だと天才である了子の頭をもってしてでも理解できない光景だった。

 

「いつの間に翼ちゃんとカミナ君の喧嘩が始まってたの?」

 

 了子の目の前にはこれまで見たことが無い規模で翼とカミナが戦っている光景が映っていた。

 データのない翼のシンフォギアの変化にも驚かされるが、それ以上に強化された翼を前にして互角に渡り合っているカミナの急激な成長にも驚かされた。

 見た目はさほど変化がないのに技の一つ一つの威力がこれまでと一線を画すものだった。

 

(変わっていない? いえ、そんなはずは……)

 

 了子が疑念を抱いていても二人の戦いは続いていた。

 目にも止まらぬ速さで何度も斬りつける翼の攻撃をカミナは紙一重で躱し、受け流していく。

 連続の剣戟の中で僅かな隙を見逃さなかったカミナは渾身の一撃で翼を殴り掛かる。翼は両手でその攻撃を受け止め、脚部のブレードをスラスターにして上へと逃げつつ攻撃のダメージを減らした。

 カミナの攻撃を利用して空へと高く飛び上がり、翼はそのアドバンテージを惜しげもなく使っていく。

 

「これならどうか!!」

 

 無数の剣を展開し、『千ノ落涙』による文字通り剣の雨がカミナに襲い掛かる。

 

「嘗めんな、翼ぁぁぁぁっ!!」

 

それを彼は全身から小型ドリルをミサイルとして発射し全て撃ち落とす。

 

「ならば!!」

 

 攻撃が防がれた直後、巨大化させた剣を蹴る『天ノ逆鱗』にてカミナを押し潰そうとする。

 カミナは拳にドリルを形成し、剣の切先にドリルの先端を叩きつけた。ぶつかった衝撃が周囲を吹き飛ばし、彼等を中心に地面が抉れていく。

 

「おおおおおおおおっ!!!!!」

 

「はあああああああっ!!!!!」

 

 二人の雄叫びに共鳴するかのように互いに力を上げてぶつかっていく。

 

「ねぇ、これ大丈夫なの!?」

 

「分からん! 今は二人を信じて見守るしかあるまい!!」

 

「そんな悠長な!」

 

「いや、今は二人のやりたいようにさせてくれよ、了子さん」

 

 流石に止めに入った方が良いのではないかと思っていると響に支えられて歩いてきた奏が待ったをかけた。

 

「奏ちゃん、どうして……」

 

「こいつは翼にとって必要な喧嘩だからだよ」

 

「必要な喧嘩、ですか?」

 

 奏を担いでいる響が首を傾げる。

 

「翼の奴、カミナに対して色々思う所があったんだよ。でもあいつ、根は真面目で優しいから本音を言ったらどうなるか分からなくてずっと言えなかったんだ」

 

「でもだからってお互いを傷つけあうなんて。こうなるくらいなら話し合えば……」

 

 戦うより話し合えば良いのではないかと響は疑問を抱くが、奏は首を横に振った。

 

「それが一番理想的だろうけど、場合によっては言葉じゃ分かり合えない時もある。言葉ってのはやっぱり難しくてさ、心で伝えたいことが言葉で伝わり切らないことも少なくないんだ。特にあたしらは口下手でさ、ぶつかった時は揃って喧嘩するのさ。自分の思いを拳に乗せてな」

 

「それってグレン団の流儀かしら?」

 

 了子の問いに奏は頷いた。

 

「喧嘩するのは良くないってのは分かるけどよ、実際に殴り合ってる相手の拳で分かるんだよ。相手がどれだけ強い思いでぶつかろうとしてるのかがさ」

 

 少々野蛮なやり方かもしれないが、それで分かり合ってきた彼等を見て、了子は頭ごなしに否定できなかった。

 

「でも、やっぱり喧嘩は良くないですよ。怪我もするし、お互いに嫌な思いもするかもしれないのに……。翼さんもカミナさんも仲間なんですよ、こんなのって」

 

 響にとって暴力で物事を解決することはあまり好ましくないものだった。人と争うことは避けたいと思っており、二人の喧嘩も今すぐに止めるべきではないかと考えていた。

 悲しい顔をしている響に奏は彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「はわわわっ!?」

 

 唐突のことに混乱する響に奏は笑みを浮かべた。

 

「まぁ、確かにな。でも、何でもかんでも避ける必要はないんじゃねぇか? それに何事も要らないことなんて無いと思うぜ。要は加減だよ、加減。ほら良く言うだろ、毒薬変じて薬となるってさ」

 

「奏ちゃん、よくそんな言葉を知ってたわね」

 

 驚く了子に奏は自分がそんなにおバカに見えていたのかと少々傷ついた。

 

「それにさ……」

 

 奏は戦っている二人を見て微笑んだ。

 

「あの二人を見てみろよ。あれだけ全力でぶつかってるのにすっげぇ楽しそうに笑ってるぜ」

 

 奏の言葉を確かめるように二人はカミナと翼を注視する。

 これまではただ全力で戦っているようにしか見えなかっただが、彼女の言葉を意識してみれば、二人の視界に映る光景は違って見えるようになっていた。

 

「良い一撃だ! もっとだ! もっとぶつけてこい、翼っ!!」

 

「本当におかしな人ですね、あなたは。怪我をして後悔しても知りませんよっ!!」

 

「上等だっ!!」

 

 刀とドリルがぶつかり、鍔迫り合いになる。

 動きが止まったことで響と了子は二人の表情を正確に捉えることが出来た。

 

「本当に……笑ってる」

 

 響は二人の表情を見て目を丸くする。重傷を負ってもおかしくないほどの力でぶつかっているというのに二人は揃って笑っていたのだ。

 それはまるでゲームやスポーツで競い合う友達の様に裏表のない、清々しい笑顔だった。

 互いに怪我を負いながらも、血を流しながらもあれ程笑っていられるものなのかと響は目の前で起こっていることにただただ圧倒され続けた。

 響には彼等のやり方に理解できない部分もある。だが、不思議と嫌悪感は抱かなかった。二人の闘争を見て心が痛むことはなかった。それは響にとって初めての体験だった。

 

「アレがカミナさんのやり方なんですね……」

 

「まぁな。アレのお陰であたしも何度も救われた。自分をトコトン信じ抜いたあいつだからこそ出来る芸当なんだろうさ」

 

「……凄いですね、カミナさん。凄く―――――」

 

 騒音の所為で奏は響の最後の言葉を耳にすることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、永遠と続くような二人の闘争はついに終局へと向かっていた。

 どれほど戦っていたかは覚えていない。

 とても長かった気もするし、短かったのかもしれない。

 限界に達していたカミナは両手を膝につけ息を荒げ、翼は刀を杖代わりにして無理矢理体を立たせており、肩を上下させて呼吸するほどになっていた。

 

「本当に、はぁ……しぶといですね。はぁ……あなたは」

 

「嘗めんじゃ……ねぇよ。俺を……はぁはぁ……誰だと、思っていやがる」

 

 翼のシンフォギアは彼方此方が破損していた。一方、カミナは螺旋力が薄まり、生身の部分が見え隠れし始めていた。

 互いに疲労が溜まり立つのもやっとなのである。

 だが、二人はこの喧嘩をこのまま終わらせる気は毛頭なかった。

 

「私の全力……最後まで、はぁ……受けきれ、ますか?」

 

 翼の問いかけにカミナはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「当たり、前だ。寧ろ……テメェに、はぁ……出来んのか? ボロボロ、じゃねぇか」

 

「お互い、様です」

 

 疲れているはずなのに二人は笑顔を絶やさなかった。

 それほどまでにこの戦いが二人の心を滾らせたのだ。

 

「これで……最後です」

 

 翼は両足で立ち、ゆっくりと刀の切先を天へと向けた。

 雲の隙間から漏れた月光が彼女を照らし、神秘的な風景となっており、その中で彼女は歌った。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

 シンフォギアの最大の攻撃手段。それを起動する歌を彼女は口にする。

 周りから制止の声が聞こえるが彼女は歌うことを止めなかった。

 使用すれば装者には更なる負荷が襲い掛かるのに翼は自身の全てをぶつける為に躊躇わずに歌う。

 全てを掛けて全力でぶつかってくる彼女にカミナはその思いを無碍にしない為にも最後の気力を振り絞る。

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 螺旋力が更なる輝きを増し、カミナは再び鎧の形状に変化した螺旋力を纏った。

 全身から無数の細長いドリルを展開し、再度収納して、ドリルを形成したエネルギーを右手に収束して巨大なドリルを形成する。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」

 

 絶唱を歌い切った翼は刀を巨大化させて構える。

 すぐさま膨大なエネルギーが彼女の身を纏い、全エネルギーを刃へと収束させる。絶唱による全エネルギーを注がれた刃は眩い光を放っていた。

 

「ひっさぁぁぁぁつ……ギガァァァァドリルゥゥゥゥ……」

 

 カミナも超高速回転している巨大化したドリルを左手で支え、翼に狙いを定める。

 

「いざ、押して参る!!」

 

「ブレェェェェイクゥゥゥゥっ!!!!」

 

 同時に二人は飛び出した。

 互いの思いを纏った()(ドリル)をぶつける為に、二人は全速力で駆けた。

 そして、剣とドリルが衝突した瞬間、彼等を中心に強大な光が発生し、周囲を呑み込むのだった。




いかがでしたか?
かなり引き伸ばしましたが、これで原作四話前半は終了です。
原作三話後半からここまで来るのに七話って……。
でもやりたいことはやれたので悔いはないです!
という訳で今回はこれにて!
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