戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!-   作:GanJin

27 / 28
お、お久しぶりです。
最後に投稿してから半年以上空けてしまいました。
リアルがかなり忙しすぎまして……本当に申し訳ない。
ようやく落ち着いたので徐々にリハビリしながらチマチマと続けていこうと思います。


先輩だからな

 カミナと翼の渾身の一撃によって、周囲を呑み込むほどの光と共に爆風が巻き起こった。

 周りにいた奏達は二人の最後の激突の末を見ることが出来なかった。その強烈な光に思わず瞼を閉じ、飛ばされないようにするのが精一杯であったからだ。

 だが、過去類を見ない力のぶつかり合いは一瞬にして決着を迎えた。

 二人を中心にした光は奏達が再び二人のいる方へ目を向けた時には消えており、爆風によって舞い上がった土煙が彼女達の目に映っていた。

 

「カミナ! 翼!」

 

 爆風が治まると奏はすぐさま二人がいた方へと走り出した。

 

「奏さん!」

 

「待つんだ、二人共!」

 

 響と弦十郎も彼女の後を直ぐに追いかける。

 だが、奏は土煙の中を突っ切ることはせず、その手前で突然足を止めた。土煙の中からこちらに向かってくる人影が見えたからだった。

 土煙の中から出てきたのは翼を抱えたカミナの姿だった。

 二人は満身創痍であり、二人揃って元の姿に戻っていた。

 翼はカミナよりも傷が酷く、体中が血だらけで意識不明の重体となっていた。カミナも翼と戦う前からあれ程の重傷があったにも拘らず、人一人抱えて歩いていることが不思議なほどだ。

 

「おっさん、翼を頼む」

 

 カミナの声に弦十郎は我に返り、丁度やってきた二課の医療班に翼の治療を指示した。

 

「カミナさん、大丈夫なんですか!?」

 

 響がカミナのもとに駆け寄り、おろおろとしているとカミナはゆっくりと手を上げて、彼女の頭を撫でた。

 

「はわわわっ!?」

 

 突然の事に響は驚いた声を上げる。

 

「よくやったぜ、嬢ちゃん。ちゃんとおっさん達に連絡してくれたんだな。お陰で助かったぜ」

 

 それは未熟な響が出来る限りの事をしたことへの賛辞だった。

 カミナに褒められたのだと理解した響は嬉しさと頭を撫でられた照れくささで頬が少しだけ赤く染まっていた。

 

「は、はい! これからも頑張っていきます!!」

 

「おう!」

 

 元気よく返事をするとカミナは満足げに笑った。

 

「おい、カミナ、お前も早く治療を……」

 

 カミナを医療班の元へと促そうと奏が言いかけると、カミナが手で制して遮った。

 

「出て来いよ、寄生虫野郎。どうせ無事なんだろ?」

 

 先程カミナと翼がぶつかった跡地へとカミナが声を掛けたことに、二人は怪訝な顔を浮かべた。

 

「ほう……気付いていたか。本当に恐ろしい成長スピードだな、貴様は」

 

「「「「っ!!」」」」

 

 全員がその声を聞いて戦慄した。

 声のした方に目を向けると、ここにいる誰もが目の前に現れた人物に目を丸くする。

 その人物は真っ黒な姿をしていた。人種として肌が黒いのではなく、立体となった影というほどに本当に真っ黒な人の姿をした何かが彼等の前に現れたのである。

 

「この短期間でここまで進化するとはやはり貴様の螺旋力が一番危険だ。必ず貴様を滅ぼす」

 

「けっ、いきなり現れたと思えば翼を使って好き勝手しやがって。俺のダチを傷つけた落とし前はきっちりつけさせてもらうぞ!」

 

「お前が翼を乗っ取っていた張本人か!」

 

 弦十郎が激昂し構えると、職員達も銃を向けた。

 

「何者だ、貴様!」

 

「アンチ=スパイラル。螺旋族を滅ぼす者だ」

 

 弦十郎の問いに平然と答え、臨戦態勢である彼等を見て、アンチ=スパイラルは首を横に振った。

 

「止めておけ。そちらが無駄に消耗するだけだぞ。先程の戦いで君達の攻撃が私に届かないことは分かっているはずだ」

 

 弦十郎だけでなく多くの職員が先程の戦闘を見ている為に、通常武器では太刀打ちできないことを理解している。だが、それでも仲間の為に構えを解く者は誰一人としていなかった。

 それを見たアンチ=スパイラルは呆れていた。

 

「その決断が貴様達の世界を滅ぼすことになるぞ」

 

「だとしても俺達は仲間を、ましてや子供を見捨てるようなことは決してしない!」

 

 アンチ=スパイラルと二課との衝突は直ぐにでも始まりそうな空気であった。

 その直後、アンチ=スパイラルは彼等に背を向けた。

 

「……今回は引くとしよう。だが、必ずその男は始末する。これは確定事項だ。貴様らが私の邪魔するというのなら次は容赦などせん」

 

「はっ、やってみやがれ、真っ黒野郎!」

 

 カミナが啖呵を切ると、アンチ=スパイラルはカミナを睨みつけ、その場から文字通り消え去った。

 付近を見渡しても、アンチ=スパイラルの影も形も残っていなかった。

 異端技術とも異なる力を備えたノイズとは異なる謎の飛行物体を保有し、翼を操り、あまつさえシンフォギアさえも瞬時に使いこなして見せた脅威に多くの者が息を呑んだ。

 アンチ=スパイラルの存在に圧倒されているが、紛失した完全聖遺物であるネフシュタンの鎧を纏い、ノイズを操っていた少女もこれまでとは比べ物にならないほどの脅威である。

 これまで戦ってきた敵とは大きく異なる存在が今回で二勢力現れたことに一抹の不安を覚える者も少なくなかった。

 だが、そんな相手を前にしても弦十郎は二課のトップとして、そして大人としての意地を見せた。警戒態勢を保ちつつ、事後処理に取り掛かるよう彼は職員に指示する。

 彼の言葉に多くの職員が平静を取り戻し、自身の役割を全うするために動き始めた。

 

「皆さんは直ぐに病院で治療を受けてください。僕がお送りします」

 

アンチ=スパイラルが現れる前に翼は病院に運ばれており、カミナ達もその後を追うように現場に駆け付けていた緒川に促された。

 

「ああ、分かった」

 

「分かりました。カミナさんも……」

 

 奏と響が彼の車に向かおうとした直後、二人の背後で誰かが倒れる音が聞こえた。

 その音を耳にした二人は揃って自分の呼吸が止まるほどに動揺した。

 まだ何も見ていないというのに嫌な予感がした。

 特に奏は先程まで棚上げにしていた疑問がこの瞬間に浮上した。浮上してしまったのだ。

 それはカミナが見せた急速な回復である。

 ついさっきまでアンチ=スパイラルに操られていた翼に刺されていたのに、その傷が瞬く間に治り、あれ程の戦闘を行っていた。普通ならそんなことはありえないことであるはずなのに、あの時は冷静に判断することが出来ず、螺旋力によって急速的に回復したのだと無意識に納得していた。

 だが、それは間違いなのだと奏は気付いた。そもそも彼は一人で完全聖遺物と戦い、続けざまに未確認飛行物体と戦った上で重傷を負っている。あれだけ消耗した体で、急速に回復する為に回す螺旋力が残っているはずがないのだ。

 確かに螺旋力はカミナの感情に呼応していることは判明している。それによって本来なら絶望的な状況を何度も打破してきた。

 しかし、急速に重傷を治したことは今まで一度も見たことが無かった。怪我の回復は早い方だが、それでもアニメやゲームの様に一瞬にして回復はしたことが無い。あくまでも重傷を負っても気合で立ち上がってきただけなのだ。

 そんな彼がこの時だけ急速に回復した。それは彼が進歩したのではなく、それほどまでに彼の体が危険な状態だったからではないかという疑念が奏の頭をよぎった。

 

(まさかっ!)

 

 即座に背後に目を向ける二人は追い打ちを掛けるように絶望を目の当たりにした。

 そこには先程まで軽傷であったはずのカミナが大量に血を流して倒れていた。

 体中に深い傷跡があり、彼を中心に大量の血が流れ続けていく光景に響が奇声を発した。

 

「カミナさんっ!! カミナさんっ!!!」

 

「緒川さん、医療班を早く!!」

 

「はい、直ぐに!」

 

 死に体の状態になったカミナは大急ぎで病院に運ばれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 カミナと翼が病院に運ばれ、緊急治療をしている中、響は一人病院の廊下の椅子の上で蹲っていた。

 彼女の心は絶望と悲しみに染まり切っていた。

 シンフォギアの力を使いこなせず、戦いで足手纏いになってばかりで、少しでも役に立ちたくて躍起になっていた。それでも三人の背中は遠く、何時も迷惑を掛けてばかりだった。

 ノイズではない未確認飛行物体と相対した時も自分では役に立たないという現実を叩きつけられた。

 それでもカミナは響を元気づけてくれた。自分に出来ることをして前に進めと言われ、今の自分に出来ることをやろうと決意した。それを達成し、褒められた時は嬉しかった。これから少しずつ頑張っていこう。そうすれば彼の言う通り、三人に辿り着ける。

 そう……思っていた。

 なのに、本当は自分が何も出来ていなかったのだと気付かされた。

 翼が仲間を手に掛けた時も、カミナが重傷を負った時も、弦十郎が戦っている時も、自分は何もせずにただ蚊帳の外にいただけだった。

 

「私、は……何も……」

 

 人助けをしたいと思って始めたのに、身近にいる人さえも救えない自分の弱さに響は大粒の涙を流して己の弱さを呪った。

 そんなことをしていると誰かが隣に座ってきた。

 

「どうした、響?」

 

「奏……さん」

 

 顔を上げるとそこには治療を終えた奏が座っていた。

 

「はい、これ。適当に選んだけど、ジュースで大丈夫か?」

 

 そこの自動販売機で買ってきたと見られる缶ジュースを奏は響に手渡した。

 

「あ、ありがとうございます。あの……怪我は大丈夫、なんですか」

 

「ああ、アイツ等ほど怪我をしてねぇし、精々擦り傷くらいだ」

 

「そう、ですか。怪我が少なくて良かったです」

 

「何言ってんだ、あたしより響の方が大丈夫じゃないだろ?」

 

 奏の言葉に響は目を見開いた。

 

「そ、そんなこと」

 

 涙目で視線が泳いでいる響を見て奏は首を横に振った。

 

「イヤイヤイヤ、そんな泣き顔浮かべて大丈夫って言われても説得力ゼロだぜ? 今回の事で思うことがあるなら全部吐き出しちまえ。いつまでも抱えてるよりずっと良い」

 

「奏さん……でも」

 

 響は中々言い出せなかった。自分の悩みを打ち明けても良いのか分からなかった。

 そんな響の気持ちを察したのか奏は優しく彼女の頭を撫でた。

 

「気にする必要はないぞ。なにせ、あたしは先輩だからな。後輩の面倒を見るのも先輩の務めってもんさ。それが仲間なら猶更だ」

 

 こんな自分でも仲間だと言ってくれる奏の言葉に響は更に大粒の涙を流した。

 

「……はい。ありがとう……ございます」

 

 それから響は自分の気持ちが落ち着かせて、ゆっくりと口を開いた。

 

「シンフォギアを使えるようになって私も奏さん達みたいに誰かを守れると思ってたんです。でもいつまで経っても皆さんの足を引っ張ってばかりで、肝心な時に私は何も出来ませんでした。翼さんとカミナさんが傷ついてるのに私はそこにいることしか出来ませんでした」

 

 それは響のせいじゃないと奏は口にしたかったが、奏は響の思いをまずは全部受け止めることにした。

 

「もっとこの力を使いこなせてたら何か変わったんじゃないかって。私の手の届く人だけでも救えたんじゃないかって。私が至らないから周りが傷つくんじゃないかって頭から離れないんです」

 

 両手を眺めている響の声が徐々に震え始め、彼女は再び涙を流し、涙の雫は彼女の掌に落ちた。

 

「私にも守りたいものがあるのに、こんな力を持ってるのに何も出来ないなら、私は一体何のためにここにいるのか分からなくなって……」

 

 声が小さくなり、響は俯いて再び肩を震わせて泣き出した。

 

「響は凄いよ。そんな強大な力を手に入れたのに誰かを救いたいって思えるなんてさ」

 

「え……?」

 

 顔を上げて響は奏の顔を見つめた。

 響と目が合うと奏は優しく微笑えんだ。

 

「あたしはさ、本当は誰かを助ける為に装者になった訳じゃないんだ」

 

 その言葉に響は目を丸くした。かつて生きることを諦めるなと響を励ました彼女が、装者になった理由が自分と全く違ったことに驚きを隠せなかった。

 

「昔、あたしの家族はノイズに殺されて、一人だけ生き残ったあたしはノイズに復讐することしか頭になかった。ノイズを根絶やしにしたい、その為なら全てを捨てる気でいた。友達も思い出も、自分の命も捨てるつもりでいたんだ」

 

 当時の事を思い出しながら、奏は過去の自分を語り始めた。今にして思えば、未熟な自分を口にするのは恥ずかしいことだが、この子の為にもこの話はするべきだと決意したのである。

 

「当時のあたしは復讐の鬼だった。あたしみたいにリンカーを使わずにシンフォギアを纏える翼が気に入らなくて何度もぶつかるほど気が立ってた」

 

 有り得ないと言いたげな顔をしている響に奏はニシシと笑った。

 

「今のあたしらを見てるとそうは見えないだろ?」

 

「は、はい」

 

 素直に頷く響に奏はうんうんと頷いた。

 

「とまぁ、シンフォギアを纏えるようになった後も翼と何度もぶつかって今に至るわけなんだが、それでもあたしの復讐心は変わらなかった。ノイズと滅ぼす為に何度でも歌ってやるって思った」

 

 今にして思えば、当時の自分は相当壊れていたのだ。目的の為なら手段を選ばないほどに周りが見えていなかった。

 

「でもノイズから人を助けた時に、あたしの歌に勇気づけられたって言われたんだ。その時初めてあたしの歌はノイズを滅ぼす為だけのものじゃないんだって気付かされたんだ」

 

「もしかして、それが……」

 

「そう、ツヴァイウィング結成の切欠になった出来事さ」

 

 首に下げているシンフォギアのペンダントを手にして懐かしそうに奏は語った。

 

「響はあたしからしたら凄いことをしてるんだよ。こんな力を得て、誰かの為にその力を振るいたいって思えるのは簡単な事じゃない」

 

「そんなこと……」

 

 ないと言いかけるが、奏は首を横に振った。

 

「人ってさ、心に余裕が無くなると自分の事しか見られなくなるんじゃないかって思うんだ。あの時のあたしも周りが全く見えてなかった。自分の力が誰かを助けるなんて思いもしなかった。それに気付くのに何年も掛かっちまった」

 

 本当に自分は周りをよく見てなかったのだと、自分で口にして改めて感じた。

 弦十郎やカミナの父親が心配してくれていたこと。切り捨てたと思っていた嘗ての仲間が再会するまでずっと自分の事を思ってくれたこと。自分の力が誰かを救えていたと言うこと。

本当に何も見えていなかった自分が今になって恥ずかしくなった。

 

「だとしたら、私が誰かを救いたいと思ったのはやっぱり奏さんのお陰です。いえ、奏さんだけじゃありません。あの場所にいたカミナさんも翼さんもメガネさんも私を、皆を助けようと一生懸命になってくれたから今の私がいるんです」

 

 胸の傷に手を当てて響は嘗ての事を思い出した。

 ノイズに晒され、初めて命の危機に直面した。あの時に傷を負った時は自分は死ぬと思っていた。それを繋ぎ止めてくれたのが奏達だった。そして、響は彼等によって一命をとりとめ、今もここで生きているのである。

 誰かを救うために力を振るっていた皆の姿を見て、自分もそうなりたいと強く思い、人助けをしてきたのである。

 

「そっか。そう言われると嬉しいけどちょっと恥ずかしいな」

 

 頬を掻いて奏は微笑んだ。

 

「響、誰かの為に動けるってことは確かに凄いことだ。でもそれだけが絶対に正しいってわけでもない。誰かを守りたいなら自分の事もちゃんと守れなきゃダメだ。今回のことでそれは分かっただろ?」

 

「……はい」

 

 俯きながらも頷く響を見て、奏は立ち上がった。それにつられて響は奏を目で追った。

 

「あたしが出来るのはここまでだ。最後にどうするべきかは自分で決めるしかない。このまま装者を続けて戦いに身を置くか、それとも装者を辞めるか。響が決めたことならあたしは全力で支えてやる。続けるならきっちり鍛えて響がやりたいことを出来るようにしてやる。辞めるならあたしらで響を全力で守ってやる」

 

 奏の言う通りだと響は思った。これは誰かに決めてもらっていい話じゃない。自分がどうしたいのか、己自身で決めるべきことなのだ。

 確かに装者にならなくても人助けは出来る。だけど、誰もが抗えないノイズと戦える数少ない手段が自分の手の中になるのも事実だ。

 ならこの力を使えるように自分自身が変わらなければならないのだろうか。誰かを傷つけることを良しと考えるべきなのだろうか。それが最初からできていたら、先程の戦いでも少しはまともに戦えていたのだろうか。そんなことを考えてしまう。

 

(でも私は誰かと戦いたいわけじゃない。誰かを救うためにこの力を振るいたいのに、今の私じゃ、やりたいことも出来ない)

 

 カミナ達の様に人と戦う事を躊躇わないのかと言われれば、正直気乗りはしない。ならどうすればいいのだろうかと響は葛藤する。

 

「直ぐに決める必要はない。じっくり考えた上であたしは響に悔いのないを決断して欲しい」

 

 難しい顔を浮かべる響の頭を優しく撫でて奏はそう言った。

 

「……はい、分かりました」

 

 それから少しだけ顔色が良くなった響は二課の職員の車で寮まで送ってもらうためにこの場を後にした。

 響が去り、一人になった奏は温くなった缶ジュースを一気に飲み干した。

 

「難しいなぁ。後輩の悩みを聞くなんて」

 

「良く出来ていたと思いますよ、奏さん」

 

 そんな愚痴を口にしていると、メガネを掛けた緒川が奏の前に現れた。

 

「緒川さんにそう言ってもらえるとちょっと自信が出るよ。あーあ、カミナの凄さが今になって良く分かるわ」

 

「一見滅茶苦茶な事を言っているようで、実は確信を突いていますからね。アレは一種の才能でしょう」

 

「ガキの頃から大物になりそうな雰囲気あったからなぁ。本当にすごいよ、カミナは」

 

 今更ながらカミナという男が自分達にとってかけがえのない存在なのだと実感する。

 

(でも、このままカミナに頼りっきりじゃいられないんだろうな)

 

 自分が思っていた以上に彼への依存があったことに気付いた奏はこのままではいけないと今回の件で理解した。

 嘗てないほどの強敵が現れ、これまでとは違い誰かが傷つくこともある。その時に柱になる人物が一人だけではチームとしてやっていけない。こういう時の為にも自分も先達として後進をしっかり導けるようにならなければならないのだと奏は己の未熟さと向き合った。

 

「このままじゃいられないな。響だけじゃなく、あたしも……」

 

「奏さん?」

 

 ぽつりとつぶやいた奏に緒川は首を傾げた。

 

「なぁ、緒川さん。翼が復帰できるまでアーティスト活動は控えちゃダメかな?」

 

「不可能ではありませんが……」

 

 翼は重傷であるが、奏は彼女なら必ずこの苦境を乗り越えられると信じている。だが、彼女が復帰できるまで何もしないという選択は奏にはなかった。

 今回の件で、今の自分では完全聖遺物にもアンチ=スパイラルにも太刀打ちできないと奏は悟った。カミナや翼がおらず戦力が半減したこの苦境を乗り越えられるようにならなければならないと奏はある決意をする。

 そんな奏の強い覚悟を宿した目を見て緒川は彼女のやりたいようにさせるべきだと、今後のスケジュールを後で見直すことにした。

 

「さて、忙しい旦那には悪いが、ちょいとあたしに付き合ってもらおうかね」

 

 拳で掌を叩きつけ、奏はニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日、響は親友の言葉により自分のあるべき姿を見出し、装者を続けることを決意した。

 そんな自分の決意を奏に伝え、二人はその日から日本最強の漢に修行を付けてもらう日々を送り始めるのだった。

 




如何でしたか?
半年ぶりに書いたので後日修正するかもしれません。
今回は奏が装者の先輩としてどう振る舞うのかに観点を置いてみました。
XDの並行世界の奏には後輩はいませんが、他のキャラ達とのやり取りを参考にしています。
生存した奏は徐々に大人へと進んでいく年齢ですので、OTONAほどではないですが、後輩や仲間を率いるANEGOにはなるだろうと思っています。
では今回はこれにて!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。