戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!-   作:GanJin

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お久しぶりです。
前話よりずっと短い期間(それでも一か月以上経っとるやん!)で更新です。


心堅石穿こそ俺の道

「ん……」

 

 目を覚ますとそこは二年前に見た天井だった。

 

「あー、良く寝た」

 

 体を起こしたカミナは患者衣を着ていることから自分は病院のベッドで寝ているのだと理解した。自分の置かれた状況を把握できていたのは、ここに来るだけの理由を彼は覚えていたからだ。

 

「それにしてもあんだけ血を流して生きてるのも不思議だわな」

 

「一番の重傷だったそうですよ。だというのに、傷の回復は恐ろしく早かったそうです。まぁ、目を覚ますのにずいぶんと時間が掛かりましたが」

 

「うおっ!?」

 

 唐突に声が聞こえたことにカミナはびっくりしてベッドから落ちた。

 

「あだっ!」

 

「何をしているんですか、君は」

 

「イテテ……。いたのかメガネ。ったく、脅かしやがって」

 

 ベッドを伝って立ち上がったカミナの視線の先には花瓶の花を取り換えているメガネがいた。

 

「落ちたのはカミナ君ですよ。それ以上怪我を増やさないでくださいね」

 

「うっせぇ。それより起きたら男がいるとか最悪だな。美人でボインな姉ちゃんが良かったぜ」

 

「酷い言われようですね。折角毎日皆と交代で君の様子を見に来ているというのに」

 

「そうなのか?」

 

「今日は僕とあっちゃんと鉄平ですね。彼は親戚の店の手伝いに外に出てます。あっちゃんもその付き添いで向こうに行っていますね」

 

「ふーん……待て、それより他の奴はどうした!?」

 

 メガネがいたことで忘れていたが、記憶がはっきりとしているカミナはもう一人重傷者がいたことを思い出した。

 

「その様子ですとここに運ばれた理由を覚えているようですね」

 

「んなことはどうでもいいんだよ! あいつは、翼はどうした!!」

 

 自分の容体が酷いというのに仲間の心配をするカミナを見て、メガネは彼らしいと思い、口元を綻ばせた。

 

「彼女は無事ですよ。もう目が覚めて今もリハビリ中です。奏も立花さんも軽傷で済んでずっと前からいつも通りの生活を送っています」

 

「……そうか。そいつは良かった」

 

 焦っていたカミナは安堵の顔を浮かべた。

 

「リハビリに励んではいますが、今回のライブはダメみたいです。皆残念がってましたよ。特にあっちゃんは翼さんが入院したと聞いたらとても大変だったそうで」

 

 あっちゃんは翼のことを妹みたいに可愛がっている。それ故に彼女が入院するのを知った時には授業を抜け出してでも病院に駆け付けようとした。鉄平や同級生が全員で止めにかかるほど彼女は本気であり、物凄い剣幕だったそうだ。

 因みに会う度にあっちゃんに抱き着かれて頭をなでなでされるのがグレン団にとって見慣れた光景となっていた。あまりにもスキンシップが強いあっちゃんに翼は若干苦手意識を持っているのだが、彼女が悪気が無いことと翼の真面目さが相まって突き放せないのが現状である。

 

「ははは、アイツらしいな」

 

 それからメガネはカミナが目を覚ましたことを二課やグレン団に連絡を入れた。

 弦十郎達は面会時間を過ぎた後にやってくるそうで、それまでは友人達と談笑していることを勧められた。

 

「俺はどんだけ寝てたんだ?」

 

「二週間近くですね」

 

 予想以上に長い間眠っていたことにカミナは驚いた。あの出来事からもうそんなに経っていたとは思わなかった。

 

「君が眠っている間に色々ありましたよ。立花さんが弦十郎さんに弟子入りしたり、大掛かりな任務を行ったり、本当に色々です」

 

 響が弦十郎に弟子入りした理由についてメガネは聞いていたが、その理由は自分の口から言うべきではないと思い詳しいことは言わなかった。

 

「二課の方から詮索は避けるようにと言われましたが、君が重傷を負うほどの敵が現れたと考えていいですか? それもノイズではない何か」

 

「……相変らず頭が良く回るぜ。流石グレン団の参謀」

 

「カミナ達がノイズで怪我をするとは思いませんよ。彼女達を除けばグレン団で唯一現場を見ている人間ですからね」

 

 メガネは二回も彼等が戦っている姿をその目で見ている。それ故に彼等がノイズに苦戦しても大怪我をすると言う事はまずないと断言出来た。如何に体調が悪くともシンフォギアや螺旋力を纏えば傷つけられることはまずない為に、メガネはカミナの怪我はノイズではないと確信したのである。

 

「まぁな。でもあの下乳女は良い胸だったぜ。小柄であのデカさは反則だろ。直接触っちゃいねぇが、アレは奏並みにデカい」

 

「ぶぅっ!? い、一体何の話ですか!」

 

 唐突に女性の胸の話をしだすカミナにメガネは思わず吹いて目を丸くする。

 

「え? だから敵の下乳女の話」

 

「下乳女って何ですか! というかどうして胸のサイズの話になるんですか!」

 

「だってそいつが下乳丸出しだったからな。それにあいつめっちゃデカいんだぞ! あのデカさで下乳丸出しとか、男なら本能的にそっちの方に目が行くだろうが!」

 

 カミナが両手で胸のあたりに大きい山二つを何度も描き、彼女がどれだけ大きいサイズだったのかを理解させられた。この時、カミナの言葉に不自然な点があったのだが、混乱していたメガネはそれに気付くことは出来なかった。

 

「まさか、その姿に見惚れて怪我を負ったんですかっ!?」

 

「んな訳ねぇだろ。怪我をしたのは別件だ」

 

「……ですよね。まさか胸に気を取られてやられたとしたら流石に笑えませんよ」

 

 ここに女性陣が一人もいなくて良かったとメガネはホッとした。

 だが、残念なことにメガネの体質的にタイミングが悪い時に限って一番来てほしくない人が現れるのである。

 

「お二人共、声が外に漏れてますよ。それといくら関連施設と言ってもおいそれと機密情報を口にしないでください」

 

 ノックをして扉を開けてやってきたのは翼だった。

 まさかのタイミングで現れた翼にメガネがビクッと体を強張らせた。一方でカミナは平然と笑顔を浮かべていた。

 

「よう、翼、元気そうだな」

 

「万全とは言えませんが。それにしても私より重傷だったカミナの方が元気そうで羨ましい限りです。私なんてようやくまともに歩けるようになりましたから」

 

「ハハハ! 元気と体の丈夫さが俺の取り柄だからな!」

 

 力瘤を見せつけるカミナに翼は呆れた。

 

「それにしても……男の人はどうしてそう胸の話を嬉々としてするんですか」

 

 やや侮蔑するような目を向ける翼にメガネは戦慄するが、カミナはケラケラと笑った。

 

「いやぁ、だってあの服装を見ればなぁ。絶対誰でも意識しちまうぞ。メガネだってそうだ」

 

「ちょっ、僕に振って欲しくないんですが!」

 

「そうなんですか?」

 

 こちらに視線を向け、首をかしげ、純真無垢な瞳で見つめる翼にメガネは全力で首を振った。

 

「た、確かにスタイルというのは女性の魅力を表す項目の一つだと思いますが、別にすべての男がスタイルの良い女性を好むという訳ではないかと。笑顔が素敵な方とか、優しい性格で心に余裕がある方とか、奏の様に自信を持った方とか、魅力的な女性というのは千差万別です。僕の知り合いにも確かにスタイルの良い女性はいますが、ストーカー気質のかなりヤバい性格です。僕も彼女に何度も刺されかけましたし、その光景が時折夢に出てくることもあります。正直、僕としては見た目よりも中身を重視していますね」

 

 必死に熱弁したことでズレた眼鏡を元に戻すメガネの姿を見て翼はクスリと笑みを浮かべた。

 

「そんなに慌てなくても、メガネさんがそんな風に女性を見ていないことぐらい分かりますよ」

 

(……おや?)

 

 そんな翼の様子にメガネは疑問符を浮かべる。翼がカミナを呼び捨てにしたのと、彼女の雰囲気が少しだけ丸くなった気がしたからだ。どうやら自分があずかり知らぬところで二人の間に変化が起きたようであるが、詳しいことは聞かないことにした。

 

「それにしてもカミナは少し口が軽すぎます。またメガネさんの警護対象レベルが上がりますよ」

 

 この数年でメガネはシンフォギア装者とカミナの次に重要な人物として二課の職員が護衛についているのである。学生の身のでありながら、櫻井理論を二課の職員以上に把握するだけでなく、その特性から響がアームドギアを展開できない仮説を立て、現在、大学の合間を使って響の特訓の補佐をしているのだ。

 その上、カミナが時折サラッと重要機密を彼に言ってしまう為、弦十郎達はたびたび彼の護衛対象レベルを上げ続け、今ではただの一般人から要保護対象にレベルアップしていた。

 

「しまった。さっきの話は僕の想像ってことで黙っててくれませんか?」

 

「私だけでは判断できませんので頑張って交渉してください」

 

 翼の言葉にメガネはガックリと項垂れた。

 

「あー、僕の平穏な日常が再び遠のいていく……」

 

「カミナといる時点で平穏な日常があるとは思えませんが」

 

「それは……ええ、そうですね」

 

 翼の言う通り、カミナと関わっている時点で真っ当な日常生活が遅れていないことを思い出したメガネは真顔で何度もうなずいた。

 

「おい、テメェら、そいつはどういう意味だ!」

 

「君といると退屈しないってことですよ」

 

「悪い意味でも良い意味でもですが」

 

「まったくですね。これでは何時まで経っても平穏な日常に戻れませんよ」

 

 そんなことを言うメガネだが、実は弦十郎達はまだ伝えていないことがあった。

それは彼が医師免許を取得した際には二課の関連施設である病院にて研修医になってもらい、そのまま将来は二課に引っこ抜くと言う事である。

 これは弦十郎達がメガネの才能を測り切れなかったことが起因している。始めは彼を頭脳明晰である一般的な天才少年だと思っていた。しかし、その才能は了子が認めるほど常軌を逸していたのである。いつの間にかシンフォギアについてかなり把握しており、装者よりもシンフォギアの専門家になっていた。それ故にこの決定は弦十郎達にとってもかなり苦渋の決断だった。

 なお彼がそれを知るのはもうしばらく後の事だ。

 

「では、僕はあっちゃん達を迎えに行ってきますので」

 

 メガネが部屋を出て行った後、カミナと翼は二人っきりになった。

 あっちゃんはカミナの部屋を知っている為、迎えに行く必要はないのだが、メガネが意図的に外に出たのだと翼は察し、あっちゃん達が来るまでに要件を済ませることにした。

 軽く深呼吸をして翼は深々と頭を下げた。

 

「あの時はすみませんでした。私の所為であなたに大怪我を負わせて」

 

「気にすんなよ。全部お前が悪い訳じゃねぇだろ。あの寄生虫野郎がそもそもお前を操ってたんだからよ」

 

「……寄生虫野郎ではなく、『アンチ=スパイラル』ですよ」

 

「えっ、あんかけスパゲッティ? 美味しそうな名前だな」

 

「アンチ=スパイラルです!」

 

 どんな耳をしたらそんな名前と聞き間違えるのか。ボケるカミナに翼は呆れた顔を浮かべた。

 

「ふーん。まぁいいや。それにそのことはもうあの喧嘩でケリは付けただろ。蒸し返しても誰も得しねぇよ」

 

「ですが……」

 

 カミナが今日まで寝込むほどの怪我を負わせたのは自分であるのは間違いない。その罪悪感に翼は蝕まれているのだ。

 

「仲間が道を間違えたら殴ってでも止めてやる。俺はグレン団として当然の事をしただけだ。だからこれ以上は……」

 

「当たり前の事をしたと思うのなら、なおのこと信賞必罰は重視すべきです」

 

 言葉を遮る翼に今度はカミナが呆れた。

 

「真面目、いや頑固だなぁ、お前は」

 

 これ以上何を言っても彼女は考えを改めることはないと察したカミナは面倒と思いながらも罰として何をやらせるか考えることにした。

 

「あー、直ぐに思いつかねぇから、数日以内には考えておく。それでチャラにしろ。これはグレン団団長としての命令だ」

 

「……分かりました」

 

 カミナがそう言うと翼は渋々了承することにした。

 これで話は終わりかと思ったが、まだ続きがあるようである。

 

「それと先程、あの子……立花響と話をしてきました」

 

 再度深呼吸をして気持ちを落ち着かせた翼はカミナにそう言った。

 

「……おう」

 

「正直、私は彼女を認めたくありませんでした。奏と同じ力を持つことを心の底で私は嫌悪していました。あの力は……ガングニールは奏が血を吐いて何度も傷ついて手に入れた。それをついこの間までただの一般人だった彼女がアームドギアさえ展開できず、戦う理由も希薄であるのに平然と使っていることが……許せなかった」

 

 拳を握りしめ翼はこれまで我慢していた自分の気持ちをカミナに暴露した。

 翼の言葉をカミナは彼女の目を見て黙って聞いていた。

 

「でも、それは間違いなのだとあなたと戦って気付かされました。今日(こんにち)まで抱いていた感情は、私が立花響という少女を理解していないのに、私の物差しで彼女を測っていたが故に抱いた愚かな感情であったのだと……」

 

 翼は自分自身を責めるような声色でそう言った。

 

「それで、お前はちゃんと話せたか?」

 

「はい」

 

 ここに来る前に翼は響に色々と自身の痴態を見られてしまった後、彼女に戦う理由を聞いた。

 その理由は『人助けが趣味だから』というシンプルなものだった。響は自分には誰かより秀でた能力はないと思い、その上で自分ができることで誰かの役に立てればいいと言った。

 誤魔化すように笑う響を見て、それはまだ彼女の本心ではないと翼は思った。少し前ならば彼女の態度に腹を立てただろうが、不思議とそのような感情は湧いてこなかった。

 それから響の人助けをしたい理由を翼はちゃんと最後まで聞いた。

 切欠は多くの少年少女達の人生を変えたあの事件、二年前のライブがあったあの日が始まりだった。多くの人が命を落とした中で響は奇跡的に生き残り、今日まで生きている。だから明日も生きるために誰かの役に立ちたいのだと彼女は言った。

 翼は立花響という少女に触れ、その時の彼女の顔を見てあの事件に彼女の身にも何かがあったのだろうと翼は理解した。その上で、戦う理由を聞き、ようやく自身の胸に抱いていた感情を整理することができた。

 それでも彼女はまだ危うい所がある。先日の任務で力を暴走させて甚大なる被害を出していたことは既に知っていた。力を制御できていないということは戦士になれていないという証拠であると翼は考えている。その覚悟さえあれば、彼女は力に振り回されることはなくなるだろう。

 だが、戦士になると言う事は人の道から離れる事を意味する。その覚悟を響が持っているかが問題だった。

 

「誰かの日常を守りたいと思う彼女には確かに戦士になる覚悟がありました。後は胸に抱いたモノを強く思うことで彼女は成長出来るはずです。私達と共に戦う仲間として」

 

 その言葉を聞き、カミナは笑みを浮かべた。ようやく翼が響を仲間として接することができるのだから。

 

「そうかよ。ったく、テメェは前から一人で何でも抱え込み過ぎてんだよ。ちったぁ俺を信用しやがれ」

 

「人生相談をしても気合でどうにかしろとしか言わない気がしますが……」

 

「あ? そんなわけねぇだろうが! 俺を誰だと思っていやがる!! 不屈の……」

 

「不屈の魂その身に宿し、無敵の拳が全てを砕く、七難八苦もなんのその、心堅石穿(しんけんせきせん)こそ俺の道、曲者沿いのグレン団団長、神野神名様たぁ、俺の事だ」

 

 翼がカミナのモノマネをしたことに彼は目を丸くした。

 かつての彼女ならそんなことを口にすることはなかった。カミナの口上に辟易していた彼女がその真似をしたのは驚くべき変化とも言えた。

 しかし、カミナの驚きはすぐに終わり、眉間に皺をよせて首を傾げていた。

 

「……しんけん、せき、何だって?」

 

「……そこからですか」

 

 残念ながら翼がカミナという男を理解するのは、まだしばらく掛かりそうであることだけは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 学校の授業が終わり、用事を済ませた小日向未来は一人でふらわーに足を運んでいた。

 一見すれば普通に歩いているように見えるが、何処か寂しそうな顔を浮かべていた。

 

「……響」

 

 ここ数か月、親友である響の様子がおかしくなっていたのは気付いていた。しかし、その理由を聞けず、何度も嫌なことがあった。

 それでも今日までは割り切ることができていた。

 しかしつい先程、自分が知らないうちに翼と親しくしている光景を目撃してしまってから、嫌な事ばかり考えてしまっていた。

 暗い面持ちのまま、いつもの扉を開ける。

 

「へいらっしゃい! カウンター席にどうぞ!」

 

 そこにはいつものおばちゃんの姿はなく、若い男の人がお好み焼きを何枚も焼いていた。

 

「あ……、はい」

 

 見知らぬ従業員に戸惑いつつも、未来はカウンターの席に座った。

 すると店の奥から、また見知らぬ女性が出てきた。

 

「鉄平、早く焼かないと面会時間終わっちゃうよ」

 

「分かってるって、後二枚で終了だ。ったく、メガネの野郎、カミナが起きたと思えば、腹が減ったからお好み焼き十枚持ってこいなんて無茶な注文するなっての。ってか病み上がりが食えるのかよ!」

 

「カミナ君にそんな常識は通じないと思うよ」

 

「それもそうだな!! そうだ、あっちゃん、悪いけどお客さんにお冷!」

 

「はーい」

 

 そう言うとあっちゃんと呼ばれた女性が未来にお冷とおしぼりを持ってきた。

 

「あの……お店のおばちゃんは?」

 

 状況が良く分からない為、思わず未来は彼女に尋ねた。

 すると未来が常連さんだと悟ったあっちゃんは状況を説明することにした。

 

「おばさんは奥で仕込み中よ。私達、というよりそこの彼は時々ここのお手伝いしているの。おばさんの甥っ子さんなのよ」

 

「な、なるほど……」

 

 親戚だというのなら納得である。

 ぎこちなく頷く未来を見て、あっちゃんはうんうんと頷いた。

 

「そうだよねぇ。普段は優しいおばさんがいるのに、突然人相の悪い男の人が店にいたら驚くよね」

 

「おい、誰が人相が悪いって? そういうあっちゃんだって常連から見れば部外者じゃねぇか」

 

「あたしは女性だからまだ良いのよ」

 

「納得いかねぇんだが!?」

 

 鉄平は不服な顔をこちらに向けつつ、調理中のお好み焼き二枚をよそ見したまま綺麗にひっくり返す器用な技を見せた。

 その光景は沈んだ気持である未来でも思わず拍手を送りたいほど鮮やかな動きだった。

 

「眉間に皺をよせてばっかりいるからそう見えちゃうわよ、鉄平ちゃん」

 

 すると店の奥から話を聞いていたのか、未来のよく知ったおばちゃんが顔を出してきた。

 

「おや、いつも人の三倍は食べるあの子は一緒じゃないの?」

 

「今日は私一人です」

 

 それを聞いたおばちゃんは未来に元気がないことを察した。

 

「よし準備できた。おばちゃん、ちょっと出掛けてくるな」

 

「ええ、早く彼に届けて上げなさい」

 

 鉄平は焼き上がったお好み焼きを容器に入れると、そそくさとあっちゃんを引き連れて店を後にした。

 

「騒がしくてごめんね。あの子らが来ると店の雰囲気も良い意味でガラッと変わっちゃうのよ」

 

 確かに普段よりも店内の様子が活気にあふれていたのは間違いなく先程の青年がいたからだろう。

 

「親戚の方はよくお手伝いに来るんですか?」

 

「月に数回ね。料理学校に通ってるし、小さい頃から実家のラーメン屋の手伝いをしてるから腕も良くて助かってるわ」

 

「そう言えば稀にお店で男性店員が出てくるって噂があったんですけど、もしかしてあの人がそうなんですか?」

 

「うん? ああ、それは鉄平ちゃんじゃないわ。噂の店員っていうのはあの子の親友よ」

 

 未来の注文でお好み焼きを焼いていたおばちゃんはちらりと店内に飾ってある写真を指差した。

 

「そこの真ん中のツンツン頭の子が皆が噂をしている幻の店員さんね」

 

 未来はその写真に目を向けると誰がその男なのかすぐに分かった。

 そして、その写真に写っている人物を見て目を丸くした。その人物こそ、今年の春に出会った二年前に響を助けてくれた男、カミナであった。

 

(そんな、うそ……)

 

 だが彼女の驚きは彼が写真に写っているだけでは収まらなかった。何故ならその写真には先程店には鉄平とあっちゃんだけでなく、ツヴァイウィングの奏と翼が一緒に映っていたからだった。

 響の人生の転換点となった二年前のライブの関係者であるツヴァイウィングの二人は彼女を助けたという少年に繋がりがあった。

 そして、響は先程、病院内で翼と一緒にいた。

 それだけでなく未来は響の様子がおかしくなったのはカミナと出会ってからであると思い出す。

 繋がるはずの無かった点と点が結びついたような気がした。

 自分の知らない所で何かが起こっているのではないだろうかと、そんな不安を未来は思い浮かべてしまった。

 ただし、そんな彼女の不安はふらわーのおばちゃんの機転で少しだけ軽くなり、一度、響としっかり話をしようと考えるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼女の不安は直ぐに蒸し返され、現実となることを彼女は知らなかった。




如何でしたか。
前話から少々時間が飛んでいます。
正直、デュランダル護送の話はあまり改変できる見込みが無かったので、後日サラッと書かせていただきます。
ですので、原作で翼が目を覚ました当たりから始まります。
原作では翼の心が成長し、響との関係が変わっていく転換期であり、物語は新たな展開へと進んでいきます。
さてさてアンチ=スパイラルが本格参戦したことでどう変わっていくのか楽しみにしてください!
そして、今回のタイトル、カミナが口にしたと思った人がいるかと思いますが、まさかのカミナのモノマネをした翼です。
因みに出てきた四字熟語は以下の意味を持っています。

『心堅石穿』
意味:意志を貫き通せば、どんな困難なことも解決することができるということ。

まさしくカミナを表す言葉だと思いました。
翼が彼のモノマネをする際にちょっと難しい言葉はないかと探して、これを知った時、『絶対使える!!』と即採用しました。
原作とは違った展開で成長する翼を描けて今回は満足です。

長くなりましたが、今回はこれにて!!
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