戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!- 作:GanJin
今週のAXZで「あー、また響がドリルやってるなぁ」と思いながら見ていました。
あの瞬間、あたしは雷に打たれたような気分を味わった。
「カミ、ナ……」
もう二度と会うことはないと思っていた。
「漸く……見つけたぞ」
あの日から再開することを一度も望んでいなかった。そんな日があって欲しくなかった。
「元気そうだな、奏」
どうして、あんなことがあったのに昔のように笑ってられるんだ。
「奏っ!?」
そんなあいつを見て、あたしは逃げだした。
この先を語る前に、少し昔のことを話そう。
それはグレン団のメンバーも翼でさえも知ることのない、二人の間に起こった出来事である。
連休が始まる少し前。
「皆神山だぁ?」
その日もカミナと奏は学校で楽しそうに話をしていた。
「そっ、長野県にある皆神山に今度皆で遊びに行こうぜ。どうせ、連休中に予定ないだろ?」
「バカ言うな! 俺にだって予定ぐらいあらぁ!」
「でもさっきジョー達と遊べなくなったって聞いたぜ」
「テメェ、聞いてやがったのか!? 趣味悪いぞ!」
「バカでかい声で話してるカミナが悪いです」
隣で読書をしていたメガネがバッサリと切り捨てる。
「メガネ、今度の連休暇か!?」
「唐突に誘ったところで意味ないですよ。僕は家族で旅行に行くので」
「くそっ! じゃあ……」
「他のメンバーも既に予定が入ってますから無駄ですよ」
奏に暇人だと思われたくなくて、他に暇な奴を探して巻き込もうとする思惑が完全に途絶えてしまった。
「で、どうだ? 皆神山で遺跡発掘が終わったら近くの河原でバーベキューやるんだ」
「バーベキューだぁ?」
「そっ、色々出るらしいぜ。特に肉が」
バーベキューと言う単語を聞いてカミナは悩んだ。そこまで貧乏ではないが大量の肉にありつけるのは誕生日かクリスマスぐらいだ。しかもバーベキューという言葉は、一度もやったことがなかったカミナの好奇心を刺激させるには十分だった。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
「確か、父さんの仕事仲間がステーキを持ってくるって」
その言葉が、カミナの背中を押すきっかけとなった。
「よし、乗った!!」
「決まりだな! 父さんにはあたしから言っておくから」
奏は心底嬉しそうに笑っていた。
「よっしゃー、いっぱい食うぜ!!」
遊びに行くよりも食べることを楽しみにしているカミナにメガネは呆れる。
「まったく、ちょろいですね」
「そうかな? 奏ちゃんも随分頑張ってるみたいだったけど」
ボソっと口ずさむメガネにあっちゃんが話しかける。彼女も二人のやり取りを見ていたようだ。
「頑張っているって何をですか?」
「もちろん内緒だよ」
彼女は何かに気付いているようで、お茶目に人差し指を口の前に置いてそう言った。
「あなたも随分と明るくなりましたね。昔は随分と彼女の後ろでビクビクしてた気がしますが」
「そういうメガネ君も随分と丸くなったと思うけど」
そう言われてメガネは眉を顰めた。
「僕は昔から何も変わってませんよ」
「自分のことって案外気付かないことが多いんだよ」
そう言われてへそを曲げたメガネは読書中の本に顔を近づけて、あっちゃんと口を利かなくなってしまった。
そして皆神山に向かう当日。
「ごめんね、カミナったら楽しみ過ぎてここ一昨日から一睡もできなくて風邪ひいちゃったのよ」
「いえ、おばさんの所為じゃないですよ。バカやったカミナが悪いですし」
カミナが風邪で来れなくなった連絡を奏は彼の母親からもらっていた。昔から運動会などのイベントが近づくとカミナはテンションが上がって夜眠れなくなってしまうことを奏は知っていたが、まさかこの時になって風邪をひくとは思わなかった。
「す……すてーき……」
「カミナ何やってるの! さっさと布団に戻って寝てなさい!」
「い、いやだ、絶対……に……食べる、んだ……」
電話越しにカミナのゾンビのような声が聞こえてきたことに奏は思わず笑みを浮かべてしまう。
(まったく懲りないな、カミナの奴)
「本当にごめんね、折角誘ってくれたのに。そろそろ時間だろうから、あの子の分まで楽しんできてね」
「はい」
電話が切れて後、奏は溜息を吐いた。
「こんな時に風邪ひくなよな、バカミナ……」
「ねぇ、お姉ちゃん、カミナが来れなくて寂しいの?」
「うわっ!? 何だ、いたのかよ」
背後から妹に話しかけられて驚く奏は彼女の言葉を聞き洩らさなかった。
「ねぇ、カミナが来れなくて寂しい?」
「そ、そんな訳ねぇだろ」
「だって、昨日までお姉ちゃん、カミナと一緒に行くの楽しみにしてたから」
「楽しみにしてねぇよ。ただ、あいつが来たら面白いかなぁって思っただけだし……」
「でも約束した日から毎日カミナの事ばっか話してた」
「毎日、あいつが学校で何かやらかすんだよ」
まだしらばっくれる姉に対して、妹は最後のカードを引くことにした。
「でも、カミナと一緒に行くためにあっちゃんに頼みごとしてたよね? 他の団員に予定を作っておくようにって」
「何でお前が知ってんだよ!?」
この時、奏はしまったと思った。しかしもう遅い。
「だってあっちゃん言ってたよ、カミナは朴念仁だって。お姉ちゃんは不器用だけど」
「おいコラ、妹のくせに生意気だぞ」
「事実だもん」
「くっ……」
事実である為に、奏は何も言い返せない。
「おーい、そろそろ行くわよー」
母が呼ぶ声が聞こえたため、奏はさっさと荷物をもって車に乗り込み皆神山へと向かった。
この時、あたしもカミナもあんな悲劇が起こるなんて思いもしなかった。
そして、それがすべての引き金になった。
俺が長野県皆神山でノイズが発生し、多くの死者を出したニュースを聞いたのは風邪が治った後だった。
「はっ、はっ、はっ……」
俺は奏が病院にいると聞いて、すぐさま駆け出した。学校から病院の場所を聞き出し、奏が入院している病院に駆けつけた。
受付で聞いた話ではノイズから逃れたのは奏一人らしく、山から逃げる時に足を滑らせてケガを負ったらしい。治療は終わっており、もう意識は回復していると聞き、俺は直ぐにあいつがいる病室に向かった。
「奏っ! ……あっ?」
病室を間違えたのかと一度部屋から出て病室を確認するが、間違っていない。奏が入院している部屋である。
だが、そこにいるはずの奏がベットの上に居なかった。
部屋中を探しても誰も居ない。
「どこ行ったんだよ、あいつ」
看護師に尋ねて漸くあいつが失踪したことが分かった。
それからすぐに俺は奏を探しに病室を出ていった。
目を覚ましたあたしはいつの間にか外に出ていた。
何処を歩いているかも分からず、いつの間にか河原に沿う道を歩いている。
歩きながら、あの出来事を何度も思い出していた。
あの日、楽しい旅行になるはずだった。カミナがいなくても家族で楽しい思い出が作れると思っていた。
そんな矢先に死んだ。みんな死んだ。目の前で死んだ。
父さんも母さんも妹も、皆、炭素に分解されて死体も残らず、墓に埋葬出来るものもない。
人としての死さえ迎えられなかった。
「みんな……」
あれが夢であって欲しいと何度も願っても、ニュースや新聞がそれは現実だと叩きつける。
「何でこんな目に遭うんだよ……」
どうしてこんな目に遭わなければならないのか。
どうして自分だけ生き残ったのか。
生き残ったところで何をすればいいのか分からない。
怖い、苦しい、寂しい。
突然一人になったことで、負の感情が一気に押し寄せて来る。
そして、ある一つの感情があたしの中で芽生え始める。
「ようやく見つけたぞ」
そんな時に、後ろから声が聞こえた。もうすっかり聞きなれた声だ。
何時もそうだ。
あたしが折れそうになるといつも駆けつけてくれるのはあいつだった。
「何やってんだよ、奏」
「カ、ミナ……?」
いつだってあいつは笑ってあたしの前に現れてくれる奴だった。
「ようやく見つけたぞ。何やってんだよ、奏」
病院の付近を走り回って俺はようやく奏にたどり着いた。
「カ、ミナ……?」
「病院の奴らが慌てて探してやがるぜ。お前もまだ怪我も治り切ってないんだ。早く戻って休めよ」
「休んで怪我が治ったら、それからどうするんだよ?」
その時、奏の様子がおかしいと俺は思った。
「治ったらまた学校に来いよ。皆心配してるぜ」
「……」
うつむいて黙っている奏に俺は手を差し出した。
「ほら、さっさと行こうぜ。疲れてるんならおぶってやるから」
だが、奏は動こうとしない。
「……らない」
「あっ?」
「戻らない」
「戻らないって、お前何言って……」
「このままおめおめと戻れるかって言ってんだよ!」
奏は思いっきり叫んだ。流石の俺も何事かと驚いた。
「父さんも母さんも妹も居なくなったのに、あの平穏に戻れる訳ねぇだろ!! 笑える訳ないだろ!!」
「奏……。でもよ」
「俺達、グレン団がいるってか? カミナに、あたしの何が分かるって言うんだ!! 所詮、お前らは赤の他人なんだよ!! お前らがあたしの家族の代わりになんかなれない! あたしの家族はもういないんだ!」
何も言っても奏は聞く耳を持たないと、俺は直感した。家族を失った悲しみが大きすぎて歯止めが利かなくなったのだろう。
今の奏の気持ちを理解出来るとは言わない。家族を失う悲しみを知らない俺が下手な慰めをしても何の意味も持たないだろう。
(だとしても……)
それが分かっていても俺は拳を握りしめる。
「奏……」
「あ?」
「歯ぁぁ、喰いしばれぇぇぇぇっ!」
カミナは右の拳を振り上げて、あたしの顔面を思いっきり殴って、あたしは背中から地面に倒れた。
「確かに俺達はお前の家族じゃねぇし、お前の苦しみも分からねぇよ! でもな、俺達は赤の他人だとしても仲間って絆があるだろうが! 嬉しいことや楽しいことは分かち合って、辛いことや苦しいことは支え合ってきた! そうやって積み上げてきた絆をそう簡単に無碍にするんじゃねぇっ!」
「カミナ……」
さっきまで叫んでいたあたしはカミナの言葉に何も返せなかった。
「今が苦しいなら遠慮せずに俺達を頼れ! お前の心の傷が治るまで、俺達はずっと支えてやる。何日でも何年でも何十年でもお前が笑えるようになるまでずっとだ! だから今はこの手を取れ」
カミナは倒れているあたしにもう一度手を差し伸べた。
この時、あたしは本当にカミナには敵わないと思った。どんな壁が立ちはだかってもぶち壊す拳と何事にも恐れない熱い魂を持つ人間をあたしはカミナしか知らない。例え、自分がどんなに弱気になってもカミナは手を差し出して立ち上がらせてくれる。あたしはそれに何度も助けられた。そして今回もあいつはあたしを助けるならなんだってするだろう。
あの時、カミナがあたしを探しに来てくれたのが嬉しくなかったと言えば嘘になる。誰よりも早く駆けつけてくれるカミナはあたしにとってヒーローのような存在だった。
あたしはいつの間にかカミナの手を握っていた。
それを見たカミナは明るく笑っていた。
「ったく、世話やかすんじゃねぇ、よっ!」
カミナは握った手を引いてあたしを立たせる。
そして立ち上がった瞬間、あたしはカミナの腹に重い一撃を叩き込んだ。
「か……はっ」
足に力が入らなくなったカミナは、地面に座り込んだ。
「悪い、カミナ。お前の言葉は本当に心に響くよ。お前の無茶にあたしは何度も助けられた」
「お、前……」
苦しそうな顔をするカミナにあたしは少しだけ心が揺らいだ。でも、今のあたしの中にある感情がそれを塗りつぶす。
「でもよ誰も彼もがお前みたいに前向きに生きられるわけじゃないんだよ。今のあたしの心の傷を癒せるとしたら、お前らといることじゃない。あたしの家族を奪った奴らを根絶やしにしないと気が済まないんだよ」
「ノイズに……復讐するっていうのかよ」
その目が何を語ってるのか分かる。出来る筈が無いって目だ。
「その当てがあるんだ。あたしは一生を賭けてでもノイズを一匹残らず殲滅する」
「ふざ……けるな……。そんなこと、やらせるかよ……」
カミナはあたしを止める為に再び立ち上がろうとする。あいつは仲間の為ならどんな無茶でもする男だ。
だから、あたしはこの瞬間、全てを捨てる覚悟を決めた。
「悪いな、カミナ」
そしてあたしはフラフラのカミナに向けて拳を振り上げた。
カミナの前から立ち去ったあたしは路地裏を歩いていた。
「天羽奏、ですね」
すると何処からか黒服の男達があたしの前に姿を現した。
「何もんだよ、お前ら」
「我々は特異災害対策機動部二課の者です。先日の皆神山についてお聞きしたい事があります。どうか御同行願います」
あたしは心の中でニヤリと笑みを浮かべた。あたしの望みを叶える存在がのこのこやって来たのだ。
「良いぜ。連れてけよ、あんたらの所に」
そして、あたしはすべてを捨てて復讐に生きる道を選んだ。
奏が消息を絶って一か月が過ぎ、もう少しで夏休みに入る。そんなある日、俺はオヤジを呼び出した。
「どうした、カミナ。お前が大事な話なんて珍しいじゃねぇか?」
何を話すかは決めていたし、覚悟も決まっている。
「オヤジ、俺、今度の夏休みを使って奏を探しに行きたい」
「おう、良いぞ」
「止めるなよ……って、はぁっ!?」
オヤジ今なんて言った?
「なんだよ、間抜け面しやがって。別にやりたいならやれば良いだろうが」
そりゃなるだろ。流石の俺でも馬鹿なことやるって思ってたんだぞ。
「理由は聞かねぇのかよ」
「男がやるって決めたんなら、それを止めるのも理由を聞くのも無粋だろうが。いくつか条件は付けるけどな」
「オヤジ……」
「それに奏ちゃんの花嫁姿が見てぇしな」
「何言ってんだ、オヤジ?」
「あの子は絶対美人になるぞ。俺が保証する」
「だから何言ってんだよ」
そしてその年から、俺は長期休暇中は奏を探す旅に出るようになった。
如何でしたか?
今回は二人の間に起こったことについて書いてみました。
次回は前話の続きです。
それでは今回はこれにて。