戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!- 作:GanJin
二か月以上音沙汰無しで申し訳ありません。
個人的な理由でこちらに時間を割く余裕がありませんでした。
カミナがあたしの前に現れてから、嘗てないほど多くの出来事が短時間で起こった。
ライブで三人の客が関係者以外立ち入り禁止区域に強行侵入した件を何事も無かったようにするのに弦十郎の旦那が少々ぼやいていたが、あたしの顔を見て何処か嬉しそうにしていたのは気のせいじゃないだろう。後で了子さんから聞いた話だが、例の大食い勝負の相手はカミナであったらしく、遅かれ早かれあたしと出会うことを予想していたらしい。まったくお節介な人だよ、ほんと。
それから気絶したカミナを病院に運んだ。どうも打ち所が悪かったのか目を覚ますのに二日かかって、それを心配しておろおろする翼を慰めた。ちゃんと鍛えてるんだから手加減してると思ったんだが、あたしの事を心配し過ぎて加減を忘れてしまったらしい。ここぞという所で翼は抜けてるんだよな。
カミナが目を覚ます前にメガネと顔を合わせたが、オタクになっていた事には驚された。今まできざっぽいインテリだったくせに、随分と豹変したもんだ。通ってる学校を聞いてみればかなりの難関高校のはずなんだが。アレだな、インテリオタクってやつだろうな。でも、メガネがあたしの捜索に手を貸すのは意外だった。本人もカミナがあそこまで探していなければ手伝わなかっただろうってさ。
それからカミナが目を覚ました後、色々な事を話した。と言ってもこの二年間に起こった出来事が殆どだ。あたしを二年間ずっと探してきた冒険譚はなかなか愉快な話だったが、笑うよりもそこまでしてくれたことにあたしは感極まって泣いちまった。その所為で聞き耳を立てていた翼に勘違いされて再び大騒ぎになり事態を収拾するのが大変だった。
こんな日々が続いて普段仕事をしているより忙しかったが、疲れを一切感じることは無く、とても心地の良い忙しさだった。
そして時間はあっという間に過ぎ、カミナと再会してから一週間が経った。
「……」
休みをもらったあたしは扉の前に立っていた。昔通っていた小学校の教室の扉の前だ。
「どうした奏、さっきから立ち止まってよ。そろそろ中に入ろうぜ?」
「分かってるよ。分かってんだよ、そんなことは」
あたしは久方ぶりに緊張していた。もう慣れたと言っても最初のライブでもここまで緊張したことは無かった。それもそうだ。いきなり音信不通になった人物が戻ってきたのだ。そんな経験のないあたしにはどうしていいのか分かる筈が無かった。
この先に誰が待っているのかも分かっている。この先にグレン団の面々がいるのをカミナから聞いている。
「しょうがねぇ、それなら俺が開け……」
「待て! もう少しだけ待ってくれ! 後十分くらいで良いから……」
両手を合わせて深く頭を下げる。
「いや、そりゃ待たせ過ぎだろ」
そんなのあたしも分かってる。でもどうしても気持ちの整理がつかない。まず何から言えば良いのか分からない。
(よ、久しぶり……は軽すぎる。ご迷惑をお掛けしました……じゃ、あたしらしくねぇ。本日は御日柄も良く……って何言ってんだよ!?)
うーんとうなっている奏に対し、カミナは呆れて溜息をついた。これ以上待たせるのも教室の中で待っている奴らに悪い。
しかし奏はずっと難しい顔をして梃子でも動こうとしない。
「あー、これなら翼に何か聞いておけば……」
「もー、じれった――――――いっ!!」
そんな中、辛抱できずに扉を思いっきし開ける人物が現れた。
「あっちゃん!?」
「おま……、自分から段取りぶっ壊してどうすんだ!!」
「結局ぐだぐだだねぇ」
扉の近くで待機していたジョー達が顎が外れるほど口を開けて驚いた顔を晒している。
あっちゃんの扉を開けた後の行動は早かった。奏の顔を見るや否や、獲物を見つけたチーターも驚く素早さで奏に抱きついた。
「うわっ!?」
あまりの事に奏はバランスを崩して後ろに倒れてしまう。それでもあっちゃんは奏に抱きついていた。
「……あっちゃん?」
抱き着いて胸に顔を埋めているあっちゃんはそれからずっと黙っており、奏は戸惑いつつも声を掛けた。
「……心配した」
「ごめん……」
その一言だけで彼女がどれだけ心配していたのか分かってしまった。
「本当に心配したんだよ。カミナはボロボロになって帰ってくるし、奏ちゃんは書置きだけ残してどっかに行っちゃうし、グレン団も解散しかけて……。本当に……一人で、勝手に……何やってたのよ」
あっちゃんは遂に我慢できずに涙を流し、嗚咽混じりに奏に対する文句を口にする。
「本当にごめん」
「……ひっく、う……うう……」
あっちゃんも奏に対して言いたいことを全部口にしたいのに、怒りと嬉しさが混ざり合って感情の整理ができずにただひたすら泣き続けた。
あっちゃんにとって奏は憧れだった。男子に負けず劣らず気が強く、分け隔てなく優しい。そんな彼女に惹かれて、後を追う為にグレン団に入った程だ。奏が突然姿を消した日、彼女は夜通し泣き続けた。それからしばらくの間、折角明るくなった彼女は昔のように引っ込み思案に戻っていた。
だが、それでも立ち直れたのは、奏との思い出があったからだ。
――――いつまでも下向いてんじゃねぇ。もっと自信もっていこうぜ!
――――あっちゃん、早く来いよーっ!
――――文句あんのか? 上等だ、おらぁっ!!
そんな些細な出来事の数々が彼女を奮い立たせた。それでも……。
「相変わらず、あっちゃんは泣き虫だな」
そこだけは変わらなかった。レコーダーの声では随分と明るくなったと思っていたが、昔のように泣き虫な所は相変わらずだ。
いつまでも泣き続けるあっちゃんの頭を奏はそっと撫でる。それから彼女は気が済むまで泣き続けた。
周りにいる男子全員を完全に無視して。
「なぁ、俺ら何時まで空気扱いなんだ?」
「テッド、君は少し空気を読むべきですね」
「良い話だよなぁ、俺こういうのよえぇんだよ」
「鉄平君、ほらティッシュ」
「ずびーっ!!」
「もう少し静かにかんでください。ムードが台無しですよ」
「ねぇねぇ、僕お腹減ったんだけどー」
「ファットもマイペース過ぎるのですが……」
メガネが突っ込みつつ、そんな会話をしているとカミナは教室の扉に寄り掛かる。
「ま、しばらく待ってやれよ。あっちゃんもずっと我慢してたんだろうしな」
「自分がしっかりしなければ、と思ってたんでしょうね」
「一度解散しそうになったしな」
「カミナとジョーが喧嘩して、あっちゃんがフライパンで二人をぶん殴って止めた時は流石に驚いたよー」
そんなこともあったなぁ、と誰もが当時の事を思い出して笑みを浮かべる。アレはなかなか面白い光景だった。その日から、あっちゃんの行動が少しだけアグレッシブになり、喧嘩を止める為なら、どんな手段も使うようになっていた。
「それよかジョー、さっきから黙っているがどうしたんだ」
先程から会話にまざらないジョーにカミナは尋ねた。
「……別に」
そっぽを向くジョーに対して、テッドは何か知っているようでニヤニヤと笑みを浮かべている。
「どうせ、悔しがってるだけだろ。カミナが見つけらんなかったら、警察官になって俺が探しだしてやるって息巻いてやがったから」
「テッド、変なこと言うんじゃねぇ」
「なんだかんだでジョー君も奏ちゃんの事、心配してたんだよね」
「そんなんじゃねぇよ」
「えー、ほんとでござるかぁ?」
「テッド、うぜぇ」
「ねぇ、お腹減ったよー」
「ファット、テメェ少しは我慢しやがれ。このデブ! ……あっ」
最後に口にしてしまった言葉を思い出して、ジョーはやってしまったと後悔した。
「デブ……」
「ファット君、落ち着こう。誰もそんなこと言ってないから」
「デブって言ったね、ジョー君」
「気のせいだって。な、鉄平も聞いて無いだろ?」
「あ……、ああ……」
周りにいたのっぽ達は揃ってファットを宥めようと口裏を合わせ始める。
「いいや、言ったね。僕はその言葉には敏感なんだ」
「あーあ、俺知ーらね」
「あ、カミナ逃げやがった!」
「ファット、カミナがデブって言ったんだ」
「あ、バカ! 更に墓穴を掘りやがった!」
ジョーがどうにか罪を擦り付けようと慌てるが、後になって更に墓穴を掘ったことに気が付いた。
「またデブって言ったね。僕はデブじゃない……」
「やっべ……、ってメガネなんで俺を縛ってんだ」
気付いた時にはジョーはメガネによってガムテープで上半身を縛られていた。
「種をまいたのはジョーですから、責任を取ってください」
「ふざけんな!」
そうかもしれないが、こんな仕打ちはあんまりだろうとジョーは説得しても、誰も耳を貸そうとしない。
「では、撤収」
メガネがそう口にすると、ジョーを残してカミナ達は教室を後にした。しかも、あっちゃん達もいつの間にか消えている。
「ジョー君……」
ずしんとずしんと音を立てて、ファットはこちらに近づいてくる。
「お、落ち着け。まずは話し合おうぜ。なっ」
だが、ファットは聞こえていなのか、ゆっくりとこちらに進んでくる。
「ま、待て、待ってくれ。俺が悪かったから」
自分の非を認めて懇願するが、時すでに遅しだ
「僕はデブじゃない。僕はぽっちゃり系だー!!!」
それから学校中にジョーの叫び声が響き渡った。
「ったく、何やってんだよ、あいつ等は」
それを校内の何処かで聴いていた奏は懐かしそうに笑みを浮かべていた。
騒動の後、あたしは再開を喜び合った。色々思い出話を語り合ったり、将来の話をしたりした。グレン団の皆は昔と変わらずに接してくれた。詳しいことは何も言えなかったが、アーティストとして頑張っていることだけは伝えることができたので、皆は良しとしてくれた。でも今度ライブがあるときはグレン団全員で見に来ると言われた時は流石に恥ずかしかったな。
それからグレン団の皆と別れた後、あたしはカミナの実家に立ち寄った。カミナのお母さんがあたしの顔を見るやいなや、あたしを抱きしめた。耳元で何度も泣きながら「生きてて良かった」なんて言われたら、流石のあたしの涙腺も完全に緩んじまった。
その後、時間ギリギリまでカミナの家で世話になり、あたしは緒川さんの車に乗って帰っていた。何故だかわからないが翼も一緒に乗っている。
「久しぶりにご友人に会っていかがでしたか?」
「ああ、最高だった」
「それは良かったです。風鳴司令も喜んでいると思いますよ」
それを聞いた奏は溜息をついた。
「結局、ここまでは旦那のシナリオ通りかよ」
「司令ではなく、あの人のシナリオですよ。いつかまた二人は会うことになるとよく口にしていましたから」
「はぁ、豪快なくせに喰えない性格だと思ってたが、まさかここまで読んでいたとはね。あいつの執念もさることながら親子揃ってとんでもねぇな。翼もそう思わねぇか?」
唐突に話題を振られるが、当の翼は窓の外をボーっと眺めて無反応だった。
「おーい、つーばーさっ!」
むにゅっと翼のほっぺたを引っ張る。
「にゃにするの!?」
ちゃんと言い切れてないことに奏は思わずにやけてしまった。
「人の話を聞いて無い翼が悪いんだぞー。どうしたどうした辛気臭い顔しやがってー」
ムニムニと翼の頬を弄る奏。肌触りが良い。癖になりそうだ。
顔を弄るが、翼は抵抗するどころか、まだ辛気臭い顔をしている。
それを見た奏は仕方ないと思いつつ、笑みを浮かべた。
「心配しなくても、あたしは何処にも行きゃしないよ」
それを聞いた翼は目を丸くした。
翼はカミナと出会ってから奏が以前に増して明るくなったと感じていた。仲良くなった頃よりも昔話をするようになった。もしかしたら、このままあの場所に行ってしまうのではないか。自分といるより彼らと一緒にいる方が奏の為になるのではないかと思っていたのである。
奏はそんな翼の気持ちに気付いていた。翼は思っていることを顔に出しやすい。それもかなり分かり易い顔をしてだ。だから、その不安を除くためにちゃんと言葉で伝えることにした。
「寧ろあいつらに会って、あたしの居場所はもうここなんだって再確認できた。あいつらは昔と変わらず笑ってた。それを見て、あたしはあの笑顔を失いたくない、守りたいって思ったんだ。あたしにはその力があるし、一緒に戦ってくれる仲間もいる。ノイズが消滅するまであたしはずっと戦い続けるし、歌い続ける。その決心をもう一度つけることができた」
「奏……」
「だからうじうじすんな。それにあたし達はツヴァイウィングだぜ。忘れたのか?」
最後の言葉が何を意味するのか理解出来ないほど翼は鈍くなかった。
「うん、そうだね。そうだよね」
自分の悩みが馬鹿馬鹿しいものだと気付いた翼は嬉しそうに頷く。
「あ、そうだ。緒川さん、ちょっと聞きたいんだが……」
帰りの道中、何かを思い出した奏は緒川にあることを尋ねた。
「そうですね……。まだ未定ですがピッタリのものがありますよ」
それを聞いた奏はあることを思いつくのだった。
だが、奏はそんなことを思いつくのではなかったと後悔することになる。
守るべき者達を戦いの運命に引きずり込むことになるとは、この時、予想していなかったのだから。
如何でしたか?
今回は奏がメインの話にしたつもりです。
さて、次回はとうとうあの場面に……(行けたら良いなぁ)
これから少しずつ更新していくつもりですが、来年に入ると更に忙しくなるので、可能な限り更新していくよう努力していきます。
それでは今回はこれにて。