戦姫絶唱シンフォギア -俺を誰だと思っていやがる!!!-   作:GanJin

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あけましておめでとうございます。
今年も皆さんに楽しんでいただけるように頑張っていきます!
今回はかなり長めに書きました。


そして男は目覚める

 カミナは人ごみの中を走っていると頭に何かがよぎった。

 軽く眩暈が起こり、テレビの砂嵐が掛かったように頭にこことは違う景色が見え始める。幻覚かと思ったが、それとは全く違う何かだとカミナは何故か理解出来た。

 

(なんだ……これ……は?)

 

 少しずつ景色がはっきりとしてくる。

 

(あれは……ノイズか?)

 

 頭に先程までカミナ達がいたライブ会場が浮かんできた。先程まで歓喜で溢れ返っていた会場とは思えないほどボロボロで、人だったであろう炭素の塵が舞い上がっている。人がほぼいないそこにはノイズで溢れていた。

 

(いや、人が……いる?)

 

 だが、人がいないと思われたそこに二人の人影が見えた。誰なのかと思うと一瞬にして頭に浮かぶ景色が変化し、その二人を映しだした。

 そのうちの一人を見てカミナは息がつまった。

 

(か……なで?)

 

 奏がノイズの大軍を前にしている姿が見えた。ライブとは全く異なる衣装で槍を振り回してノイズを塵へと還す。奏と同じように翼も戦っており、二人で次々とノイズを倒していく。しかし順調と思われていた奏の動きが突然悪くなり、防戦一方になっていく。

 

「おい、奏達はどうすんだ」

 

 次々と頭に流れていく光景を見てカミナはジョー達にそれを口にした。

 

「おそらくスタッフの方が……」

 

 メガネがそう口にした瞬間、カミナはある光景を目にしてしまう。

 

「この混乱にそんな余裕ある訳ねぇだろ!」

 

 それを目にしたカミナは自分に何が出来るかも分からず、奏の元へと駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 会場に辿り着くとカミナは頭に浮かんだ景色と同じ光景を目にした。殆ど人がおらず、奏と翼がノイズを倒している。

 そして、カミナが会場に入ると同時に奏の動きが唐突に悪くなった。

 

「奏っ……」

 

 だが、彼の声は彼女に届かない。思った以上の声が出なかったのである。まるで何かに自分の体を操られている感覚だった。

 後ろから後を付けてきたメガネがこの光景を見て絶句するが、カミナはそれに気を取られる暇もなく視界の端に移った小さな人影に驚く。

 

「おい嬢ちゃん、何やってんだ! 早く逃げろ!!」

 

 今度は先程より声が出た。幸いノイズが近くにいない。カミナは急いで少女をあそこから連れ出そうと走り出すが、足を一歩踏み出した瞬間、少女の足場が一気に崩れた。

 

「嬢ちゃん!」

 

 崩れた足場と共に少女は落ちるが、瓦礫に埋もれることは無かった。しかし少女の悲鳴を聞いた人型ノイズが少女に襲い掛かる。

 

「んなろうっ!」

 

 それを奏が槍で薙ぎ払う。その後もノイズは少女と奏に執拗に攻撃を続け、奏は少女を死なせまいと必死に守り抜く。

 カミナは再び奏の名を呼ぼうとするが、今度は声が嗄れたように息だけが口から出た。何故出てくれないんだと自身に苛立ちを覚えるが、それも目の前の光景を見て吹っ飛んだ。

 奏のシンフォギアが砕け、その破片が少女の胸に当たったのだ。

 奏が少女を守っている間に瓦礫を滑り降りていたカミナはそれを見て動揺する。力尽きた人形のように倒れ、血を流す少女を目にしてカミナはノイズなど知ったことかと無我夢中で走り出した。

 

「嬢ちゃん!!」

 

 少女の元へと駆けつけ、カミナは少女を抱きかかえる。

 

「おい嬢ちゃん、しっかりしろ! 目を開けろ!」

 

 そう呼びかけるが、少女は目を閉じてぐったりとしている。

 

「死ぬな! 死んじゃダメだ! 生きるのを諦めるな!」

 

 駆けつけた奏も少女に呼びかける。すると奏の声に応えるように、少女がうっすらと眼を開けた。

 

「二人共、手を放してください。とにかく止血します。このままでは彼女は助かりません!」

 

 後から駆けつけたメガネに奏は目を向けた。

 

「助かる……のか?」

 

「助けて見せます! 二人の無茶に付き合ってあげます! だから、貴方は貴方のするべきことをしてください! その代わり絶対に助けて見せますから!」

 

 彼が医者を目指しているのは知っており、自分よりも確実に手当てが出来るのを見込んでカミナは少女を彼に引き渡した。

 その後、奏はメガネの言葉通り、自分にしか出来ない事をするために再び槍を携える。

 

(ダメだ!)

 

 カミナは奏を呼び止めようとするが、再び声が出せない。何度も息を吸って声を出そうにも体が言う事を聞かない。 

 

(やめろ……。やめてくれ……!)

 

 カミナは焦る。体を張ってでも彼女を止めたいのに、その場から体が動かない。

 

(何で、何で体が動かねぇ!)

 

 ノイズに対する恐怖で動けないのではない。怪我をしたから動けないわけでは無い。

 先程から感じている体の違和感が徐々に強くなっていった。何故か奏を助けようとすると彼の肉体が動かなくなるのだ。手足を釘で打ち付けられ、その場から動けなくなったかのように、彼の体は言う事を聞かなかった。

 そして、先程よりも鮮明に流れてくるあの光景がカミナを更に焦らせる。

 

 

 奏がここで塵となって命を落とす。

 

 

 その光景が何度も何度も頭に流れてくる。

 槍を高く持ち上げ、とても綺麗な声で歌う。その後、ここに居るノイズが一掃される。そのおかげで生き残っている誰もが助かる。

 奏の命を代償として、彼らは助かるのだ。

 

(認めねぇ! 認めねぇ! そんなことは認めねぇぞ!)

 

 しかしカミナはそれが許せなかった。家族を亡くし、大切なモノを捨てた彼女がようやく笑えるようになった。皆と再会するまでの間も苦しかった筈だ。そんな彼女の終わりがこんな形で良い筈が無い。

 だが、現実はカミナの足掻きを嘲笑う。

 カミナの思いが通じないまま、奏はカミナが先程頭に流れた光景と同じようにゆっくりとその槍を高々と上げる。

 

(やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! やめろ!……)

 

 そして奏の口が開き……。

 

「やめろーっ!!!」

 

 声が出ているのかも分からず、カミナは思わず目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「やかましいわ、馬鹿者が」

 

「……はっ?」

 

 唐突にここにはいない第三者の声を聞き、カミナは素っ頓狂な声を上げる。

 

「おい、いつまでそこに座っている。儂はここだ」

 

 背中から蹴り飛ばされて、カミナは何度か前転を繰り返して、頭を下にして壁のようなものに背中から思いっきりぶつかった。

 

「いでぇっ!?」

 

 今いる場所にそんな物があっただろうかと思いつつ、カミナは目を開ける。

 

「はっ……?」

 

 目に入ってきた光景にカミナは思わず間抜けな声を出した。

 先程までボロボロだった会場にいた筈だ。近くに奏やメガネ、あの少女がいた筈だった。

 それなのに、今自分の目に映っている光景は辺り一面、地面から光の柱が上っている世界だった。

 

「なんだ……ここは?」

 

「当然の反応だ。貴様がいた世界ではこのような景色は存在する筈が無いのだからな」

 

 何処か神秘的なその光景にカミナは頭が追いつかなかった。そして、更にカミナの戸惑いに拍車をかけるのは目の前にいる人物だった。

 岩に腰を下ろし、ドンと構えるその人物がそこにいた。

 上半身は裸で、屈強な肉体を惜しげもなくさらし、衣服はズボンだけ。そして坊主頭の髭の男が王者のごとくそこに座っていた。

 目の前の事に未だ理解できていない様子であるカミナを見て、男は溜息をついた。

 

「所詮は戦いを知らん小僧か。大層な事をほざいて何も出来ない小虎であれば仕方のないことかもしれんがな」

 

 それにはカミナもイラッときた。

 

「誰が小僧だ! 誰がっ!! 日本を渡りに渡り、挑んだ勝負は負け知らず、全国にその名を轟かせたぁ西海一の暴れん坊、神野神名様たぁ、俺のことだ! いずれ世界にその名を響かせる男の名をよぉく覚えておきやがれ!!」

 

 人差し指を伸ばし、高々と点を指してカミナは声高らかに名乗りを上げる。

 しかし、男はその名乗りを聞いても微動だにせずに退屈そうにに欠伸をしていた。

 

「はっ、高々島国に名を轟かせようとも儂のと比べれば大したことは無いな。やはりただの小僧だな」

 

「なんだと!?」

 

「まぁ、よい。今そんな話をしたところで意味はあるまい。貴様もこんな所で儂と言い争っている場合では無かろう。儂もあまり時間のないのでな。手短に話をするとしよう」

 

 勝手に話が進んでいくことにカミナは食って掛かろうとするが、その後に髭の男が発したその言葉でその気が失せてしまった。

 

「奏と言ったかあの娘。あの娘、あとわずかで確実に死ぬぞ」

 

「なっ……」

 

 カミナは呼吸が止まるかと思った。同時にカミナはあの時見た光景を思い出した。

 

「ふざけんな! あいつが死ぬはずがねぇ!」

 

 だがカミナは即座に否定した。そんなことを認められるはずがなかった。あの光景を見ただけで奏が死ぬはずがないとそう思っていたからだ。

 

「ほう、貴様の頭に映った光景が現実に起きているというのに、何故それを否定できる?」

 

「それはっ……」

 

 カミナはその言葉に対して何も言い返せなかった。

 理由は明白だ。あの時見ていた光景において、間違ったことは一つも起こっていなかった。奏がノイズと戦い、傷付き、そして命を落とす切っ掛けと思われる歌を歌う。

 すべてカミナの見ていた通りに起こっていた。

 

「貴様が見たのは予知夢だ。既に何度か体が上手く動かないことを経験しているだろう。アレは未来が予知の通りになる為に働く抑止力によるものだ」

 

「なんだよ……それ。訳分かんねぇぞ」

 

 カミナの反応に男は呆れたと言わんばかりに深い溜息をつく。

 

「要はあの子娘は必ず死ぬ。貴様がいくら足掻こうがその未来は変わらん」

 

 奏が死ぬ。そんなことをカミナは納得できなかった。予知の通りになる為に助けられないなんて話、冗談にもほどがある。

 しかし、否定できる材料がない。目の前の男の言葉を覆せる言葉をカミナは持ち合わせていなかった。

 

「そんなの……」

 

 だが。

 

「そんなこと……」

 

 この男は。

 

「そんな……もの……」

 

 そんな理不尽を。

 

「認められるわけねぇだろ!!!」

 

 はいそうですかと受け入れられるはずがなかった。

 

「ほう、ならばどうする? ただここで叫んだところで未来は変わらぬぞ」

 

「そんな事知ったこっちゃねぇ! 俺はどんなことをしてもあいつが死なねぇ未来を掴む。あいつだけじゃねぇ、あそこにいる俺のダチもあの嬢ちゃんも、死なねぇ未来を掴んでやる!」

 

「無謀だな。何の策もなく行動するなど愚の骨頂だ。やはり貴様はただの……」

 

「可能性ならある!」

 

「……ほう」

 

 髭の男は初めてカミナの言葉に興味が沸いた。

 

「何故そう言い切れる?」

 

「決まってる、その未来はまだ起こってねぇからだ! あいつが死んでねぇなら、それが起こる瞬間まで俺は諦めねぇ!」

 

「成程。だが抑止力はどうする?」

 

「抑止力ってことは力だろ! 力って言うなら俺はそいつを捩じ伏せる! もしあいつが死ぬことが誰かに決められたレールの上の事だってなら、そいつを俺はぶっ壊す!」

 

 カミナの言葉には一切の根拠はない。だが、カミナにとってして見れば目の前の男の言葉も根拠がない。そもそも偶々起こったことが幻覚と一致していた可能性だってあるのだ。もしそれが本当で世界の規則であろうとも関係ない。最後の最後まで足掻き続けるべきだとカミナは強く思った。

 

「例え神様が決めようが何しようが、俺が納得できるまで無理と通して道理を蹴っ飛ばしてやるっ! 俺は絶対に諦めねぇ!!」

 

 言いたいことを言いきるカミナに、髭の男はギロリと睨む。

 

「つまり貴様は神の定めた未来を壊すというのか?」

 

「はっ、神様だろうが誰だろうが関係ねぇ、未来は俺達が決めるんだ。俺達が選んだ道が俺達の未来だっ! よく覚えとけ、髭ジジイっ!!」

 

 しかしカミナは臆しなかった。その目は覚悟があった。絶対に折れないという覚悟を宿した炎がその目に宿っていた。

 

「ふっ……。フハハハっ、アッハッハッハッ……!!」

 

 初めて男が笑った。しかしそれは相手を見下したような笑い方ではない。愉快なものを見て笑っているそんな風に見えた。

 

「成程、あの男と同じ魂を宿しているだけはあるか。可能性を信じて前に向かうか……。まぁ、とりあえず合格としておこう」

 

「はっ?」

 

 男の反応にカミナは怪訝な顔を浮かべる。一体何が合格だと言うのか。

 

「あの男は問題無いから普通に渡せと五月蠅かったが、儂はそう易々と渡すような優しさは無いのでな。少々貴様を試させてもらった」

 

「待てよ、どう言う……」

 

 ことだ、と言う直前、カミナの視界がぼやけた。眩暈に似た感覚が襲い、意識が朦朧としてきた。

 

「その力であれば貴様はどんな壁も乗り越えるだろう。だが、気を付けるがいい。それは使い方を誤れば、破滅の道を進むことになる。〇〇〇はそれを乗り越えたが、さて、貴様はどのような道を歩むか見物だな」

 

 ニヤリと楽しそうに髭の男は笑う。

 

「さぁ、受け取れ。あの男からの餞別だ」

 

 そして男はカミナの後ろを指さした。朦朧とする意識の中、カミナはゆっくりと背後を見る。そこにあったのは先程カミナがぶつかったと思われる人一人が余裕で入る程の大きな金属の箱だった。

 箱がゆっくりと開き、中から緑色の光が溢れ出す。

 

「なんだ……、こいつは……」

 

「その力の名を覚えておくが良い。可能性を生み出すその力の名は……」

 

 箱が完全に開き、中から溢れた透き通った緑の光がカミナを呑み込み、一瞬にして彼の意識を奪っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの最中、翼は焦っていた。自分の大切な人が諸刃の刃とも言える奥の手を使おうとしていることを。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……」

 

 絶唱。

 歌唱にて増幅したエネルギーを一気に放出し、対象に莫大なダメージを与えるシンフォギアの奥の手。しかし、その反動は大きく、シンフォギアを纏って強化された肉体であっても負荷を軽減しきれない。

 そして、今の奏はそれに耐えきれる状態ではない。

 歌わせてはいけない。歌えば確実に彼女は命を落とす。

 

「いけない奏っ! 歌ってはダメーっ!!」

 

 翼の悲痛な叫び声を聞いても彼女は歌うことを止めない。翼はそれを理解していた。傷付き血を吐きながらもその手で何かを守ろうとするだろう。何故なら、今まさに彼女が守りたい存在がその場にいるのだから。

 それでも翼は彼女を失いたくない。彼女が居なくなった後の事が考えられない。

 

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!)

 

 奏の元へ行こうとするが、ノイズがそれを阻む。

 

「そこをどけーっ!!」

 

 翼は足掻く。らしくもなく感情的にその剣を振るう。間に合うかどうか分からない。それでも足掻く。

 だが、現実は彼女の望みを易々と打ち砕く。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」

 

 そして、奏は命を懸けてその歌を歌い切った。

 人々にとっては希望であっても、翼にとっての絶望が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、わずかな可能性がある限り、最後まで諦めない男がそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 最初に違和感を感じたのは奏だった。

 

(なんだ、力が抜ける……?)

 

 絶唱を歌い切った筈だった。莫大な力が溢れ出る筈だった。だが実際に起こっているのは体の力が抜ける感覚だけだった。

 そして彼女の意志とは関係なくガングニールが解除され、体に力が入らなくなった彼女は膝をついた。

 

「おい……何が……どうなってんだ?」

 

 自分の状況が今一つ分からなかった。リンカーが無かったせいもあるだろうが、こんな現象は一度も起こらなかった。

 だが、彼女の理解が追いつかないまま、事態は新たな局面を迎える。

 突然、自分の後ろから突風が巻き起こった。

 

「なんだっ!?」

 

 下手をすれば吹き飛ばされかねないほどの突風だった。飛ばされないよう可能な限り踏ん張って、奏では自身の背後に目を向ける。

 そこには彼女の想像もつかない現象が起こっていた。

 突如として、彼女の背後に天に届かんと言わんばかりの竜巻が起こっていたのだ。しかしこれが自然現象で起こる竜巻ではないことは直ぐに理解出来た。何故ならそれは自然災害とは思えないほど神秘的な光を放っていたからだ。

 それをしっかりと目に焼き付けた奏は竜巻と呼ぶのは相応しくないと思わずそんな感想を抱いてしまった。

 

「天に届く螺旋……」

 

 心に余裕が出てきた奏は周りに起こった変化に気付いた。

 

「ノイズが退いていくだと……?」

 

 まるで何かに恐れる人のようにノイズがあの螺旋から離れるように後ろに下がっているのだ。こんな現象を奏は見たことが無かった。前に進んで人を襲う事しか能のない連中だと思っていたノイズが後ろに下がるなど前代未聞の事だった。

 そして、その中心に立っていた人物がいる事に奏はようやく気が付いた。

 

「カミナ……?」

 

 螺旋の真下に、右手を開いて天高く伸ばして立っているカミナがそこにいた。彼の右手からその螺旋は発生していたのだ。

 近くに居たメガネも何が起こっているのか分からないという顔を晒している。一体、カミナに何が起こったと言うのか。

 そして、その螺旋は一瞬にしてカミナの右腕に収まり、その手には小さなドリルが現れる。

 

「……行くぜ!」

 

 力強くカミナはそのドリルを握りしめる。

 その後の変化は一瞬だった。

 ドリルを掴んだ右手から緑色のオーラが発生し、一気にカミナの体を包み込み、そのオーラは人型を形成していく。色は赤いが、目には幼少から見慣れたグレン団のマークにあるV字型のサングラスが現れる。

 包み込んだオーラは、まるでカミナと言う人間を型にしたような形となっていた。

 

「未来に希望が無かろうが、逃げねぇ、泣かねぇ、くじけねぇ! 前しか向かねぇ、諦めねぇ! ねぇねぇ尽くしの男意地!」

 

 オーラを全身に纏ったカミナは今度は右手の人差し指を天に向け、声を張り上げる。

 そして、右腕を腰まで引き、カミナは構えた。

 

「掛かって来いノイズ共っ! これ以上の無法は、天が許そうともこのカミナ様が……」

 

 カミナは地面を蹴った。地面がめり込むほど強く蹴り、わずか一歩で近くの人型ノイズに接近した。

 

「許さねぇ!」

 

 その言葉と同時にカミナの拳がノイズに触れる。本来であれば、ノイズの持つ位相差障壁で干渉することが出来ない。しかし、彼の拳はノイズに()()()()()

 その光景に奏と翼だけでなく、その場にいたメガネさえも驚愕させる。

 そして拳が入ったノイズはシンフォギアで倒されたように消えていった。

 

「来やがれっ!」

 

 それが合図となった。一斉にノイズがカミナに向けて襲い掛かる。

 それと同時に、カミナの右手に変化が起こり、オーラがドリルを形成していく。

 

「うおぉぉぉぉらぁぁぁぁっ!!!」

 

 その右手を突き出しカミナはノイズに突っ込む。そのドリルに触れたノイズは砂のように抉られ消えていく。

 

「せぇぇぇぇりゃぁぁぁぁっ!!」

 

 左手にもドリルを形作られ、左手を突き出すと一気に長く伸びていった。射線上に居たノイズは風穴を開けられ消滅していく。

 芋虫型の大型ノイズがカミナの攻撃の隙をついて、体液を吐き出す。

 

「その手はくわねぇっ!!」

 

 カミナは右の掌を突き出し液体に触れる。すると液体は球面を流れる水のように霧散していった。

 

「凄い……」

 

 次々とノイズが殲滅していく光景に翼は圧倒され、思ったことを無意識に口にする。

 

「っ! ダメだ、カミナっ!!」

 

 カミナの状況に気付いた奏は慌てて彼を呼ぶ。怒涛の勢いでノイズを倒していく姿に圧倒されていた為に、カミナはノイズの群れの中心に進んでいたことに気付けなかった。

 だが彼女の声は既に遅く、ほぼ同時に人型や蛙型のノイズが体を紐状にしての特攻を仕掛けてきた。

 

「雑魚はすっこんでろぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 ノイズが特攻を仕掛けた瞬間、カミナが纏っているオーラから全方位に向けて、無数の長いドリルが放たれ、特攻を仕掛けてきたすべてのノイズを貫いた。ドリルが引っ込むと同時にノイズは一気に消滅した。

 小型のノイズはすべて殲滅され、残るは大型のノイズが二体。

 大型のノイズはすぐさま戦力を増やそうと、口から体液をはき出し、小型のノイズを生み出そうとする。

 

「させるかぁぁぁっ!」

 

 そんな余裕をカミナは与えることはしなかった。両手から特大のV字型のサングラスが現れ、二体の大型のノイズの口にブーメランのごとく投げつけた。

 

「○!※□◇#△!」

 

 サングラスが直撃するとノイズは悲鳴に近い何かを発して身じろぎ、口からはノイズを生み出さない液体だけが零れ落ちる。

 攻撃が出来ないこの好機を逃すことはしない。

 

「ひっさぁぁぁぁぁぁぁぁつぅぅぅ!!」

 

 右手を掲げると同時に再びオーラから無数のドリルが現れる。

 

「ギィィィィガァァァァ! ドリルゥゥゥゥ!!」

 

 すべてのドリルが引っ込むと同時にカミナの右手には人の身長を優に超える巨大なドリルが現れ、超高速に回転する。一度左手で支えて狙いをつけ、カミナは一気にその右手を突き出し、二体のノイズに向けてミサイルの如く突っ込んでいく。

 

「ブレェェェェェェイクゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 二体の大型のノイズはドリルに貫かれ、爆発と共に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 大型のノイズが爆発と共に消えていくのを奏は目に焼き付けていた。

 すべてのノイズが駆逐され、残るは爆発後の煙だけとなった。

 

「カミナ……?」

 

 体に鞭を打ってゆっくりと立ち上がり奏は彼の名を呼ぶ。当然、返事は無かった。

 彼の身を心配した奏ははゆっくりと足を前に出して進んでいく。後ろからメガネの声が聞こえた気がしたが、そんなこと知ったことではなかった。

 

「おい……返事しろよ」

 

 奏はカミナを呼ぶ。しかし煙の所為で彼が何処に居るのか見当がつかない。我武者羅に呼ぶしかなかった。

 

「返事しろって」

 

 だが何度呼び掛けても返事は聞こえない。風の音だけが聞こえてくるだけだった。

 

「返事しろよ……」

 

 そして彼女の呼び掛けは煙の中に吸い込まれていくだけだった。

 

「返事しろよ、カミナぁぁっ!!」

 

「うっせぇっ!! 聞こえてるわっ!!」

 

「っ!」

 

 煙の中から怒声が聞こえてきた。それから間もなく、煙の中から少々煤にまみれたカミナが現れた。

 

「ったく、いちいち叫ぶんじゃねぇよ。耳が痛くならぁ」

 

 カミナは耳を小指でほじってぼやく。

 

「お前、無事だったのか」

 

「あん? 何言ってやがんだ。俺を誰だと思ってやがる。グレン団の団長、カミナ様だぜ。この程度でくたばる訳ねぇだろ」

 

 それを見た奏は心から嬉しさがこみあげてきた。

 カミナに聞きたいことは山ほどあった。ノイズを一掃したあの力は何なのか。何故今まで隠していたのか。

 だが、今の奏にとってそんなことは些細な問題だった。今はただ彼が無事であったことが嬉しかった。

 

「奏、お前泣いてんのか?」

 

 近づいてきたカミナが言うまで、奏は自分が涙を流していたことに気付けなかった。無意識だったのだろうが、その理由が何なのか奏には分かり切っていた。

 

「な、泣いてねぇよ。目にゴミが入っただけだ!」

 

「おいおい、それって漫画の常套句じゃねぇか。そんな簡単にゴミが入るかよ」

 

「うるせぇ、本当にゴミだって言ってるだろ!」

 

 予想外にも口喧嘩が出来るほど元気であり、奏はそのままカミナに殴り掛かる。

 だが、奏の拳をカミナは紙一重で避けた。そして、そのまま奏に寄り掛かる。

 

「えっ? うわっ!?」

 

 しかしカミナを支えるほど踏ん張る力は奏にはなく、一緒に地面に倒れ込んでしまう。

 

「おい、いきなり何しやがんだっ!?」

 

 突然カミナに抱きつかれたと思った奏は顔を赤く染める。こういうのはもっとムードのある場所でやるべきじゃないかと奏は場違いな思いを抱いていた。

 だが奏の声に対してカミナは反応しなかった。奏ではそれに困惑するが代わりに聞こえてきた音にその気持ちは一蹴される。。

 

「かぁー……。かぁー……」

 

 聞こえてきたのはカミナのいびきだった。

 

「……はっ? おいカミナ」

 

 体を揺さぶってもカミナは起きなかった。梃子でも起きないと言わんばかりに彼は熟睡している。

 

「ぷっ……。ははは……、ははははははっ!」

 

 それには奏も思わず笑ってしまった。なんとも締まらない終わり方だ。いやむしろ、こっちの方がカミナらしい。

 

(ったく、お前は……本当にスゲェよ)

 

 その後もしばらくの間、奏の笑いは終わることは無かった。




如何でしたか?
ここまで来たら最後までやってしまおうと思い、一気に書かせていただきました。
話の途中で出てきた男が誰だか、分かる人には分かる筈です(たぶん)。
響が本格的に参戦する話に入るのはもう少しだけ後になります。
空白の2年をそれなりに埋める予定ですのでもう少しだけお付き合いください。
では今回はこれにて。

追記
書き忘れていましたが、カミナが変身した状態は、劇場版の超天元突破グレンラガンみたいな感じだと思ってください。
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