いい加減にしてオーナー!   作:きんにく同盟

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寒くて手がかじかんで書けなかった


日常最後の日

 ある薄暗い部屋でそれは行われていた。

 

 スーツ姿の男が土下座をしている。

 

「お願いいたします。もう勘弁してください」

 

 その謝罪はありきたりなモノだったが、語気から漂うのは圧倒的な後悔であった。

 

 彼はあるアイドルグループのプロダクションマネージャーであり、最高責任者でもあった。彼が担当する新進気鋭なアイドルは少しでも世に出ようと、ある契約を独断で行ってしまった。

 

「このままではあの子はお飾りになってしまう!」

 

 お飾り、それもそうだ。

 

 才能がある歌い手と組まされ、ルックスのみの担当アイドルになってしまったのだから。

 

「あの子の才能はまだ未発達なのです。だけど、光るモノが奥底にあります!だから彼女の機会を奪わないでください!」

 

 

 そう頭を下げる先に居た。

 

 革のソファーに腰を掛けて、腕組みをしながら土下座をする男を見くだす者。

 

 中年の風貌であったが、体は太っておらず筋肉質。

 

 鋭い眼光は全てを射殺す様である。

 

 彼の名前は終里要蔵。

 

 そして、要蔵は口を初めて開く。

 

 

「何時からだったかな、大して顔の良くない奴がアイドルなんて目指しだしたのは」

 

 その声は低く小さいが鋭い。

 

「私はね、あんなアイドルなどどうでもいいのだよ。彼女は歌すらうまくないだろう?」

 

 事実だった。

 

 CDデビューをいくつかしていたとはいえ、アイドルという付加価値が付いた事前提で売っていた。

 

 

「世に出るべきはどっちかね?才能ある者とないが野心だけはある者。これも分からない様じゃ、君にはこれ以上の育成は無理だと思うが?」

 

 何も反論は出来ない。

 

「今後、何かを言ってくるようだったら彼女を切り捨てる。私に捨てられる意味は分かるよね・・・才能なしの烙印を押されるということだよ」

 

 

 望みは絶たれた。

 

 

 数か月後、そのアイドルはグループを離れた。

 

 そして、二度と日の目に出る事は無かった。

 

 

「そう才能ある者はそれなりの人間が管理すべきなのだ・・・どんな手を使ってもな」

 

 男が愉悦を浮かべながら、窓際に立つ。眼下に広がるのは東京の人工的な光の都市。

 

「あの頃と変わらない程に憎たらしい景色だ」 

 

 その呟きは誰の耳にも入らぬまま消えた。

 

 

 

 

 

 

 ライブハウス SPACE

 

「おい、市ヶ谷。ちゃんとさすれ・・・」

 

「早くしろよ、きたねえから」

 

「そんな言い方・・・・ウボロげえええ!!」

 

 

 オーナーは吐いていた。

 

 事務所内でも有咲とオーナーの会話は愚か、音さえ丸聞こえで紗夜が顔をしかめて聞く。

 

「一体、今度はどうしたのかしら?」

 

「うぅ・・・情けない、また酒に逃げて・・・」

 

 彼の母こと、宇田川巴が泣いている。

 

 その一言で紗夜は全てを理解する。

 

 

「ねえ、私たち先に練習に行っても良いかな?」

 

 アフターグロウの上原ひまりが言う。もうこの汚い音を聞きたくないからだ。

 

「良いわよ、行ってらっしゃい」

 

 湊が許可を出す。顔はいたって平然で、作曲している。

 

「皆さん、平気なんですか・・・」

 

「上原さん。ここで音楽をするなら慣れないと駄目よ。あんなの日常茶飯事なんだから」

 

 

 

 

「うぅ・・・気持ち悪いよ。ありさぁ~」

 

「名前で呼ぶんじゃねえよ!!」

 

 

 ひまりが肩を落とすと、蘭が肩を叩いて言う。

 

「あんなの慣れたらだめだよ」

 

「うん・・・」

 

 アフターグロウの苦悩は続く。

 

 

 第一話 オーナーの思惑

 

 最近、アフターグロウの連中が俺に向ける視線が厳しい。

 

 だがここで忘れてはならないのは、俺がオーナーで一番偉いという事だ。

 

 

 上原はあの性格だから何とかなる。問題は青葉モカと美竹蘭だ。

 

 

 

 青葉モカ

 

 奴はおっとりした口調だが、基本的に頭の回転が速い。殊更俺に関しては多種多様なる責めで苦しめる。

 

 美竹蘭

 

 俺に敵意や敬意は勿論のこと何も感じていない。偶に俺と廊下で出会うと、存在を忘れていたらしく誰か一瞬考える。気にくわない女だ。

 

「そこで俺は、こいつらに分というのをわきまえさせてやるのだ!!」

 

 

 その為に俺には必然的に課題がのしかかって来る。

 

 実行する度胸はあるか、だ。

 

 

 先ずは青葉モカ。

 

 奴は俺をからかっては遊んでいる。

 つまり言葉での勝負!

 

 俺の得意分野だ。昔から母や父に口八丁やら可愛くない子供と言われていた実力を見せてやる。

 

 

 

 事務所

 

「そういえば、オーナーは休みの日は何をやっているんですか~?」

 

 そら来た。

 

「お前には関係ないので~」

 

 俺の返しに皆が注目する。

 観客が居た方が盛り上がる。

 

「おしえてくださいよ~」

 

「義理はないのでして~」

 

 青葉が頬を膨らませる。

 

 おほっ!効いてる効いてる!

 

 

「因みに私は休日に・・・・」

 

「興味ないのでして~」

 

「・・・・聞いてくださいよ」

 

「今忙しいので~」

 

「・・・・・・」

 

 

 やった!勝った。

 

 青葉はそのまま無言で事務所から出て行く。

 

「おい!お前やりすぎだろ!」

 

 隣でゲームをしていた市ヶ谷が来る。

 

「またお前か。青葉は俺に宣戦布告をした。そして言葉の合戦で勝っただけの事、お前にとやかく言われるつもりはない」

 

 

 本を読んでいた湊が栞をはさんで言う。

 

「ああいう子ほど、思いつめたら怖いわよ」

 

「大丈夫だ、お前より質が悪い奴に会った事はない」

 

 

 数時間後

 

 青葉は大手ハンバーガーチェーン店の紙袋を7つほど抱えて帰ってきた。重かったのか肩で息をしている。

 

 

「ねえ、モカ何をしてるの?」

 

 美竹も流石に不気味に思ったので問いかける。その問いかけに応えることなく、青葉は俺の前へとやって来ては話しかけて来る。

 

 ここまで来たら鬱陶しいし、何よりも恐ろしい。

 

 だが、ここで引いたら威厳が地に落ちる。

 

 

「オーナー・・・私は結構食べるんだよ」

 

「聞こえないので~」

 

 

 すると、青葉はソファーに座っている俺の両腿の上に馬乗りになる。目線の高さが重なる。

 

「おい降りろよ。重いだろ」

 

 そこまで言ってから気付く。

 

 あれこいつの目・・・光がない?

 

 

 そのまま、青葉はにっこりと笑うと、紙袋からハンバーガーをつかみ取る。そして、乱雑に包装紙をはがすと俺の口に勢いよく突っ込んだ。

 

 

 

 

「んー!んー!んー!」

 

「美味しいので~?」

 

「ち、ちょっとモカ何してるの!!」

 

 上原やらアフターグロウの面々が口々に言う。

 

「言葉では分かって頂けないので・・・こうでもしないとしょうがないじゃないですか~」

 

 

 空いている手足をばたつかせる。

 

 青葉を押しのけようとしてもビクともしない。

 

 それもそのはず、彼は連日に及ぶ睡眠時間を削ったゲームプレイに加え、食事を摂らない事による筋量低下で力が無かったのだ。

 

 

 

「ほら、モカ。オーナーだってちょっと虐めたくなっちゃっただけだって。ね、オーナー?」

 

「んー!んー!」

 

 上原ぁ、何も言える訳ないだろ!馬鹿なのか?お前馬鹿なのか?

 

 

「あっ!ケチャップ忘れてましたね~」

 

 青葉は袋を破いて、口の中にケチャップを入れる。

 

「美味しいですか~?」

 

 

 

 た、助けて・・・殺される。このままじゃ殺される・・・!

 

 俺は涙目で助けを乞う。

 

 誰か、牛込!

 

「ヘッ」

 

 野郎、ほくそ笑みやがった。

 

 

「はいはい、ちゃんと食べられて偉いので。イイ子イイ子」

 

 雑に頭を撫でられる。

 

「今度はナゲットをどうぞ~」

 

 口の隙間に詰められる。挙句には鼻の穴にまで・・・・

 

 

 

 嫌だ!最期に見るのがこいつの顔なんて嫌だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバかった。死にかけた」

 

 あれから青葉とちゃんと話している。俺も大人気なかったのかもしれない、同年だけど。

 

「美竹は・・・・また今度な」

 

 怖いんじゃあない。

 

 合理的に判断したまでさ・・・。

 

 

 

 

 

 第二話 彼の収入源

 

 オーナーは無駄遣いばかりしている。

 

 ゲームは最早、仕方ないにしてもアニメのポスターやらDVDやらが部屋に充満している。仮眠室の掃除をしていた巴が愚痴っていた。

 

「オーナーは貯金とかしないんですか?」

 

 思わず聞いてみたけど

 

「俺は今楽しければそれでいい。だから余計な茶々を入れるんじゃないぞ花園」

 

 と破滅型な思考を披露していた。

 

 

 だけど、気になるべきとこは財源だ。この大量のグッズから判断するに2,3百万はつぎ込んでいると思う。

 

 

「う~ん、謎なんだよね」

 

 だけど、ある日。私の謎は解決されることとなった。

 

 一通の封筒で。

 

 それは郵便受けにたまりにたまった新聞やらを有咲がかき集めて来たのが発端だった。

 

「アイツ、たまには取って来いよ。近所から孤独死してんじゃないかとか言われてるぜ」

 

「いやいや、孤独死って・・・」

 

「あら、若者にもありうるらしいわよ」

 

 

 湊さんが言う。

 

「ん~と、宗教勧誘にチラシ・・・・なんだこれ?」

 

 整理していた有咲が声を上げる。

 

 

「何か来てるな・・・・おい!どうすんだ?」

 

 有咲が仮眠室まで届く声で言うと、捨てとけと返事が帰って来る。

 

「ったくよ・・・」

 

 捨てようとするが、珍しく白金さんが大きな声を出して、手紙を見る。

 

「あ!結構大きい出版社さんですよ」

 

「出版社?雑誌の」

 

「違うよあこちゃん。文庫本のだよ」

 

 

 何でその出版社がオーナーに?

 

「見てみようぜ」

 

 有咲が悪魔めいた顔をする。

 

「そんな悪いわよ、人の手紙を」

 

 そう断る湊さんもまんざらでもなさそうだ。

 

 

 まあ、二人が決めたらストッパーなど誰も居なく、巴さんも危ない仕事でもしているんじゃないかと心配で見たそうだったので。

 

「じゃあ、開けるぞ・・・」

 

 

 空けてしまったのだ。

 

 

 

 先生へ

 

 先月に出版致しました『同情するなら姉をくれ』の姉妹本こと『アネノミクス』は大変な売れ行きを記録いたしました。そこで熱が冷めぬ前に異世界ファンタジー作品『社長が異世界に行ったった』の続編を速く執筆してください。ではお願いします。

 

 

「オーナー、本書いてたんだ」

 

「タイトル的に駄作臭くないか?」

 

「でも売れ行きは凄かったみたいね・・・世の中、どうかしてるわ」

 

 

 白金さんを初め、口々に言うけど・・・

 

「この異世界の本の社長ってまさか自分の事なんじゃないの?」

 

 と私が言うと、湊さんは動きを止め。

 

 確かめて来ると出て行ってしまった。

 

 

 暫くして戻ってきた湊さんは、オーナーが書いた『社長が異世界にいったった』の一巻を抱えている。

 

 

 

 本を開いて読み進めていく、主人公の名前はイチローらしく

 

「うわ!やっぱりやりやがった!」

 

「・・・くくっ!みんな笑うんじゃない」

 

 巴さんが笑いを押し殺して言う。

 

 

 イチローは異世界に飛ばされ、最強なスペックを手に入れる。

 

 

イチロ―「みんなを護るために立ち上がるぜ!!」

 

 

奴隷娘・イッチー「なんてすごい力なの!!」

 

 

 イッチ―は奴隷ながらも強気な少女で金髪らしい。

 主人公に相手にされないが慕っている。

 

 

「これ私じゃねえか!!」

 

 有咲が叫ぶ。

 

 

イチロ―「やれやれめんどくさい。俺は普通に生きたいだけなのに・・・」

 

式・白「ご主人様は困った人だワン」

 

 白は犬耳をつけた少女で主人公の眷属みたいな存在。白なのに黒髪だ。

 

「リンリン!しっかりして・・・」

 

「私、犬・・・」

 

 

イチロ―「魔将・ミナトは北上して此方に攻めてきている。この布陣、まるで将棋だな」

 

ミナト「バカな!作戦がバレていたなんて・・・完敗だわ」

 

 

 言わずもがな湊さんだ。

 

「友希那!落ち着いて!!」

 

 今井さんに止められながらも仮眠室へと鬼の形相で行こうとしている。

 

 

 全て読み終わってドン引いていたアフターグロウの面々が一斉に笑い出す。

 

 青葉さんがイチローの真似をしたから。

 

 

「みんなの事は俺が守る~」

 

「おいやめろよ!腹がよじれるぅぅ!!」

 

 有咲が呼吸困難になるまで笑う。

 

「ねえモカちゃん、あれもやって・・・」

 

 上原さんが言う。

 

「漆黒の堕天使よ、このラグナロクに終焉を約束せよ・・・」

 

 イチローの詠唱を唱える。

 

 

「なんかカッコいい言葉を並べただけの感じが・・・ククッ」

 

 氷川さんも蹲って笑いを押し殺す。

 

 

 

 

「おい!うるせえぞ!おまえ・・・ら・・?」

 

 オーナーが出て来て怒るけど、私たちが持っている本を見て青ざめる。

 

 それを見た青葉さんが

 

「イチローさん、私ついていきます~」

 

 我慢できずに皆、吹きだす。

 

 

 

 

「・・・・寝る」

 

 

 ドアを勢いよく閉めて行ってしまった。

 

 

 

「あいつだせぇ!!」

 

 笑いながら大きな声を出してる有咲。

 

 声を聴きながらオーナーは何を思っているのだろう。

 

 

 

 因みに、この後三日間は機嫌が直らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?

遅れてすいませんでした。
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