いい加減にしてオーナー! 作:きんにく同盟
遅れてすいません。
「また本読んでるのかよ。好きだな」
「だってこれだけしか楽しみがないんだもん」
病院のベットの上で読書に励む瞳に終里は呆れている。本を読む習慣がない人にとっては読書の有意性を感じない。
「どれ、何を読んでんだ?・・・・なになにギリシャ神話?」
瞳から本を取り上げる。
「ちょっと、オーナー・・・」
「へえ・・・ゼウスって意外にクズだったんだな」
瞳に対しお構いなしに読む。
「返してよ、オーナー」
「怒るなよ。瞳はどんな奴が良いって思ってんだ?」
少し怒ってきた瞳をなだめる傍らで、ふと気になった事を聞いてみる。
「・・・もう。私は̚̚カドモスですかね」
「カドモス~?」
終里はペラペラと本をめくっていく。
「フェニキアの王ですよ」
「へえ~。で、そいつは何をやったんだ?」
もう本の中から探す面倒な作業を諦めて聞く。
「攫われた妹を探して旅をするんです。他の兄弟たちと結託して旅していって・・・」
話が長くなりそうなのを感じ、終里は口を挟む。
「それで最後は見つけられるのか?」
「・・・まだ読んでませんよ。オーナーが取ったから」
「ああ、そう」
病室に沈黙が流れる。
彼女は病室にオーナーが来たのを戸惑うと共に嬉しくも思っており、オーナーも関係が薄くもある彼女の所に来たのを改めて後悔し始めていた。
もう帰るかと彼が立ち上がろうとした時に、瞳から声が掛けられる。
「・・・ねえ、オーナー。もし私が何処かに行ったらどうします?」
瞳は顔を真っ赤にして言った。
「本の読み過ぎだ」
バッサリと切り捨てて、立ち上がる。
瞳は落胆したように下を向く。彼女にとって、この言葉をひねり出すには相当な勇気がいりようだった。
ただ、終里は病室を出る時に言う。
「・・・カドモスみたいな真似はできない」
彼女は外の景色に目をやる。
日本は経済的な高成長の波を確かに感じ、働く人々は忙しそうに小走りで病院の前の道を通り過ぎていく。
今、大人たちは会社や家族の為に私生活を忘れて勤労に励んでいる。音楽を嗜む自分たちはどれだけ不誠実に映っているだろうと思いながらも口に出せないでいた。
だけど、オーナーは周囲の目を気にしない強さがある。
だからこそ彼女は一方的な約束を取り付けた、それは軽い男にとって重すぎる約束だったのだ。
「なあ、本当にライブに出るのか?」
市ヶ谷は配られた資料に目を通すと言った。その資料には終里スタジオの有望な生徒が有名人が行う演奏会のハーフタイムに出場するという旨が書かれていた。
結果が残せられれば、力ある大物に引っ張ってもらえる可能性もある。
「確かにいい条件だよね・・・」
普通なら飛びついてもおかしくない案件。
そうしないのには理由がある。
「まさか私が白金さんとコンビを組むなんて・・・」
牛込が呟く。
彼女が白金、ロゼリアメンバーと組むところの意味はハッキリとしていた。
ライブハウス時のメンバーの解体。さらに指導者側からの指示によってつくられる新たなチームの結成。
そうだ、ポッピン・パーティ、ロゼリア、アフターグロウの解散が条件になって来る。この事実が彼女達に二の足を踏ませていた。
「やっぱり嫌だよ」
美竹が言う。アフターグロウは元々、幼馴染で結成されたチーム。メンバー誰かが欠けたらバンドをやる意味が無くなってしまう。
「先生たちに言って条件を変えてもらいましょう。私も呑むのは不本意ですし」
氷川が言う。
「ええ、そうね。これでは横暴もいい所よ」
「確かに友希那と別れるのは嫌だしね」
ロゼリアがそれぞれ賛同する。
ポッピンパーティもメンバー同士で仲良く楽しくやりたいのが本音なので、条件は受け入れられない。
全員で抗議に行くが、門前払いさせられる。
「もう決定したのよ。諦めて練習しなさい!」
この一言を繰り返すのみで解決に至らない。
「ここに来たのって間違いだったのかも・・・・」
誰かが呟いた一言に否定する者はいなかった。
SPACE
「あ、頭が割れる・・・」
仮眠室から出て事務所に行くと、変な女が居た。制服を着ていたので高校生だろう。
「誰だお前?」
「え、忘れたの?ミッシェルだよ。速攻で雇ってくれたじゃない」
「中の人、未成年かよ」
昨日、夜遅くまで働かせてしまった。確かこれ法的にまずいんじゃないか?
そこまで考えたものの。最終的にはめんどくささが勝ってしまい。
「俺が3でお前が7だな」
「それって責任の比率?」
「当り前だろ、ナイトクラブって書いてあった筈だ。俺に落ち度はない」
「まぁ、別に良いよ。オーナーが寝てる間にゲーム機の起動作業とかやっておいたよ」
彼女が言った通りモニター越しではゲームを楽しむ青年が居る。
一浪は「ケケケ」と笑い声をあげて仮眠室に戻ろうとする。
「ちょっと待ってよオーナー。ゲーセンなのにスタッフとか居なくていいの?」
「そのうちに、一人くらい雇えばいいんだよ。新品の機械だから故障とかないしな」
「えぇ~適当だな」
「じゃあ、俺はスマブラやるから邪魔するなよ」
と言い彼は「海外勢の対策は・・・」などとブツブツ呟いて行ってしまった。
残されたミッシェルの中の女の子は一応、名前だけでも名乗っておこうかと思ったのか大声で仮眠室に向かって言う。
「あの~私、奥沢美咲って言います。よろしくお願いします!!!」
仮眠室からは反応はない。
「よろしくお願いしま~す!!!」
「サマーウォーズか!ケケケケ!」
と扉越しに聞こえたので何とか通じたのだろうと思い遠ざかる。
「それにしても変わった人だなぁ・・・」
終里スタジオ 幹部会議
「しかし岸谷、君が提案したメンバー入れ替えは画期的だね」
「・・・え、ええ。彼女らの人選は実力に伴っていませんでしたから。もっと効果的にマネジメントしていくようにやりたいなと思いまして」
「これで彼女たちのライブへの段取りが済みました」
岸谷は若い幹部たちに更に言う。
「それで今回のライブは広い場所を借りて大々的にやりませんか?」
「・・・別にいいが、どうした?現実的な君らしくないな」
終里は岸谷をじっと見る。
「終里さんの計画の第一段階に必要なライブです。ここで話題作りをやらなければ土台も盤石でないままに進んでしまいます。ならば、少しお金をかけてリターンを得た方が得策ですよ」
終里の計画は単純にして壮大だった。
全ての音楽関係者の統括と管理だ。
才能ある者を違った方面の天才と組ませることで相乗効果をもたらす。陳腐な言い方になってしまうが天才と天才を組ませることで音楽業界の質を高めようとしたのだ。
才能ある者が正当な評価を受け、能がなく知名度だけで上がってきた者は落とされる。
そこにはあらゆる企業や各方面の営利団体は関与させない。
既に邪魔者は追い出し尽した。
この手の行動は革命に分類される、また革命は勢いが最も重要である。計画の遂行の為に一瞬のトレンド作成を見通して用意に用意を重ねてきた終里に抵抗できる者はいない。資金、人脈すべてが彼の手にある。
「では終里さん。私はバンドメンバー達のカウンセリングをしてきます」
岸谷が笑顔で言う。
終里は笑みの裏側にあるどす黒い感情に気づいてはいるものの、彼の有能さから見限れないでいる。
「詩船の店にいた娘たちにはあまり近づかないでくれ・・・」
「いえいえカウンセリングですから。悩みを抱えたままライブに臨んで欲しくないって親切心からですよ。それに終里さん・・・昔の馴染みだからって特別視するのは良くないですよ。貴方はこれから日本の音楽を背負うお方なんですから」
そう優しい声で言って部屋を出る。
「それに・・・彼女らのオーナーからの許可は既に貰ってる」
「まあ、こんなリスト一つで彼女らの心を開かせる方法を教えてくれるんだから気前がいい。もしくはアイツ女に興味がないのかもな・・・・顔は中々なのに勿体ないことだ」
先ほどとは反して冷たい声で呟いた言葉を聞く者は誰も居なかった。
終里スタジオ 第一ルーム
レッスンを行うための広い空間で客観的に自分を見る為のミラーが側面に設置されている。岸谷はこの空間に元ロゼリアのメンバーの内、二人を集めた。
「岸谷さんでしたね。湊さんと私を何故ここに呼んだのですか?」
呼び出したのは湊友希那と氷川紗夜。
「ちょっと悩んでるって小耳に挟んでね。ライブ前だから君たちには万全の状態で挑んで貰いたいと思って」
奴の言葉を思い出す。
(湊と氷川は上昇志向が強い者同士、気を引くにはあるフレーズを言葉の端々に付けてやればいい。後はアンタの会話スキル次第だ。ただ、必ず二人にしなければいけない)
「いいえ、私としては上に行くための通過儀礼だと受け入れてはいます」
「それはないよ氷川さん。ボクはね、君が無理してるって知ってる」
氷川をフォローして、湊に今度は顔を向ける。
「音楽に無情は付き物なのかもしれないね」
「ええ・・・そうね」
ここだ!このタイミングであのワードを入れれば・・・・!
「でも君たちには目標があるはずだ!大丈夫、必ず『FUTURE WORLD FES.』に連れて行って見せるよ!!」
奥澤美咲はミッシェルの着ぐるみをもって更衣室に入ろうとする。
「本当にオーナーさんは人の気持ちが分からないね・・・・」
声を出来るだけ小さくしたつもりだったが、悪口に対してだけ地獄耳なオーナーには聞こえてたらしく「聞こえてんだよ!」と声がした。
更衣室からオーナーが居る仮眠室までは結構離れている筈だ。
「うわマズイな・・・ゴメンねオーナー」
気まずさから謝る。
「でもオーナーも人の気持ちを汲んだ方が良いよ。こう言ったら人が嫌がるとか、昨日も酔っぱらってた人を泣かせてたでしょう。しかも事務所の中で」
「フン・・・」
一浪は美咲の言葉を鼻で笑う。
「人の感情なんか殆どが悪感情だ。そんなのに構ってたら俺が幸せになれない」
「そうかなぁ・・・?」
美咲が首を傾げる。
「それに・・・・人の感情なんて意外に簡単なんだ」
岸谷の発した言葉は二人の心理に大きな残響を残した。
(どうして、今そのフェスの事を・・・・)
二人の夢、それは紛れもない。
だが、ロゼリアとして活動して行くうちに夢に変化が訪れた事に二人は気が付いていた。
(ロゼリアみんなで出場したい・・・!)
岸谷は二人の動揺の隙を逃さずに畳みかけるつもりで言葉を繰り出そうとしたが、紗夜は勢いよく立ち上がると「失礼します!」と一礼をして駆けて行ってしまった。
「氷川さん・・・すいません私も失礼させてもらいます」
「ちょっと君たち・・・・なんだよアイツ、効きすぎだろうが!もっと、ちょうどいい言葉はなかったのかよ。まあいいさポッピン・パーティーもアフターグロウもある」
彼は自分の間違いを自覚することはなかった。
何故なら、ちゃんとした反応があったから。情報は確かなものだと錯覚してしまったのだ。
このまま、残る2グループにも同じような事をしていくのだろう。
自分がとんでもない方向へ背中を押してしまったのも知らずに。
夜明け 元SPACE
ナイトクラブもすっかり解散した時に事務所内で声は聞こえた。
「じゃあ頼んだよ。貸しだと思ってくれてもいいさ」
声の主はSPACEのオーナーだった都築詩船だった。
また彼女と対話するように真正面で座るのは一浪だ。
「当り前だ。俺はあいつ等に戻ってきて欲しいなんて微塵も考えてない」
「そんなの分かってるよ。昔っから自己中心的だったからね」
一浪は詩船を睨みつけながらも黙ってウイスキーを煽る。
「皆、同じだ。自分の事だけを考えて生きてる。なら俺にだけ自己中のレッテルを貼るのはおかしい」
「口が達者なのも健在だね」
今度は彼女から一浪へ鋭い目を向ける。
「終里から言われたよ。後継人を間違えたってさ」
「・・・・」
「爪を隠してる鷹のつもりかい・・・違うね。アンタがやってるのは逃げだよ」
一浪はニヤリと嗤った。
どうでしたか?
次回はペースを速めようと思います。
ではでは ノシ