「ギリギリかよ……」
八時二十九分、俺は教室で自分の机に突っ伏して息を整えていた。
もちろん朝食は食べれていない。それどころか部屋に放ったらかしていた鞄をそのまま持ってきたのでろくに教科書も持ってこれていないだろう。
「ホントにギリギリねー。もう間に合わないかと思ったわよ?」
隣ですました顔で座っている更識がそう言う。
「……」
「……」
お互い今朝の事には触れない。
「一時間目はIS基礎だよな。秋葉から教科書借りてくる」
「行ってらっしゃーい」
俺はそう言うと席を立った。幸いなことに秋葉のクラスは隣だ。一分あれば事足りる。
「……良かったらわたしの見せてあげようか?」
「……頼む」
あれ、何で俺頷いてんだ?
結局俺は更識に教科書を見せてもらうことでその授業を乗り切った。
だが……。
「終わった……。相変わらずなに一つ分かんねーし」
四時間目終了と同時に俺はまたもや机の上に突っ伏した。最近机に突っ伏すのが恒例になってるな。悪い兆候だ。気を付けるか……。
「相楽くーん、午前の授業で何か分かった〜?」
そう言って御陵が俺の前の席に座った。
その隣の席に猫目が座る。相変わらずの定位置だ。
「専門用語を使って授業をするのは禁止したほうがいいな。音楽始めたばかりの奴が音楽用語使ってる時のように聞こえて仕方ないっつーの」
「まー、みんな一年生の時に基礎知識は勉強してるって前提で先生は喋ってるからねえ」
御陵はあははと笑って俺の言葉に反応した。
「あ、そういや昨日……」
それに続いて猫目が口を開いた。
「!?」
昨日といえばアノコトの話しかない。
この気まずい状況で口を開くか!?
まあ猫目は俺たちが気まずいなんて知る由もないから仕方ないが・・・・。
と、俺が危険を察知した時、
「おーい、荻原君。ちょっと来てもらっていいかしら?」
荻原先生が俺の名を呼んだ。
前回といいやけにタイミングのいい先生だな。
俺は行ってくる、と言い残し席を立った。
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「なんと、岸和田君に! 専用機が渡される事となりました!」
やけにハイテンションに荻原先生はそう言った。
「……」
しかし、専用機の凄さをあまり分かっていない俺に言われてもその価値はあまり理解できない。
「専用機ってあれですよね? 国の代表候補生などに渡されるとかいう」
「そうよ! とっても栄誉なことなのよ! 相楽君は今日の授業で話したと思うけど……」
「それよりですね」
俺は話を無理やり遮った。
「一体どこの企業の開発した奴ですか?」
「え?」
俺がそう尋ねると萩原先生は不思議そうな表情になった。
「どうしたんですか?」
「いやね、普通専用機を貰った人はまずその専用機を見せてくださいって言うものだからついね」
荻原先生は目をぱちくりさせている。
「別に俺はビジュアルにそこまで気をつかいませんよ。それより専用機って基本的にどこかの国の代表候補性にしか渡されるんじゃありませんでしたっけ? 俺って別にどこの国にも属したりしているわけじゃないですよね」
「え、え? ええ!? ちょ、ちょっと待ってね。直ぐに織斑先生に確認を取ってみるから」
荻原先生は携帯を取り出して織斑先生と話しだした。
(自分の生徒のそんな重要な事を担任が知らないのか?)
俺はこの重大性の小ささに少し違和感を覚えた。
空いている時間に少し勉強して分かったことだが、専用機と呼ばれるISには基本的に核(コア)と呼ばれるものが使用されている。唯一それを作成することの出来る人間は篠ノ乃束のみであり、核の数には制限がある。
そんなものをただの一生徒に貸与するのだから、担任であるこの人がある程度詳しく知っていないとおかしいのだ。
「えっと、詳しいことは後日話します。それまでは決してこのことを口外しないこと、だそうです」
荻原先生はそう言うと声を潜めて更に話を続けた。
「……ここだけの話、代表候補生の子にはそういうことを余り話したらいけないことになっているのよ。知りたいことがあったらその時に織斑先生に聞いてね」
「……はい、分かりました」
荻原先生はそう言うと俺の返事に満足したのか、鼻歌を歌いながら職員室へと戻っていった。
俺は頭を下げ、現在の時刻を確認する。
「もうこんな時間か・・・。今から昼ご飯って気分でもないしな。購買で適当にパンでも買って秋葉でも捕まえるか」
五時間目開始まで後二十分だ。既に昼ご飯を食べている生徒はいないだろう。
俺は昼休みの予定を決めると購買のある方向へと歩き始めた。
……。
…………。
………………。
「遠いな……」
職員室から購買のある場所まではかなり距離が開いている。
ほとんど校舎の端と端に存在すると言ってもいい。
「……?」
今通っているのは一年生の教室の近くだろう。
まだあまり校舎内を把握していないため、しょうがないと言えばしょうがないのだが、さっさと通り過ぎてしまいたい。
(……お、あれってワンサマーだよな? 男ってこの学園には四人しかいないはずだしな)
前から歩いてきている一人の少年の存在に気付く。
無言で通り過ぎるのもアレなので、少し声をかけてみることにした。
「……よう、お前って確か織斑一夏だよな?」
「……え? あ、あなたは!」
思えば、これが俺と織斑一夏とのファーストコンタクトだったのだ。
そして俺は、この出会いを永遠に後悔することとなるのだ。