「もしかして、岸和田相楽さんですか!?」
ワンサマーは俺を見るなりそう尋ねた。
「あ、ああ。そうだけど……。何で俺の名前を?」
俺とワンサマーは面識は未だないはずだ。俺は知ってるけど。
「そんなの当たり前じゃないですか! 世界で二番目にISを動かした男! 岸和田相楽さんでしょう!? 俺、男一人で凄く心細かったんですよ!」
気持ちは分かる。しかしテンションが異常だ。やはり女子ばかりの環境で男に会うとこうなるのだろうか。
「今暇ですか? 良かったら少しお話したいんですけど……」
ワンサマーが仲間になりたそうにこちらを見ている。
俺としてはもう少しこのワンサマーと話したいんだけど。そうは問屋が下ろさないだろう。
時計を確認する。
昼休みは残り十五分だ。少し時間が足りない。
「悪い。今はちょっと時間がないんだ。明日は休みだ。明日でいいか?」
俺がそう言うとワンサマーは少し悲しそうな表情になった。
「すいません、俺明日に学年対抗タッグマッチがあって駄目なんです」
「そうか、明日が一年生で日曜日が二年生のタッグマッチだったな」
「はい……」
ワンサマーの表情が見る見る捨てられた子犬のようになっていく。
流石に可哀想になってきた。
「よかったら来週の月曜辺りに男だけで昼飯でも食べないか? 一年生のシャルル君だったか? と二年のもう一人の男の秋葉も誘ってさ」
「は、はい! ぜひお願いします!」
ワンサマーは一秒もかからないうちに俺の提案に賛成した。
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「さーて、明後日はどうやって生き延びるかな……」
俺は購買で買った惣菜パンを食べながら歩いていた。五時間目の授業まで後一分だ。行きは六分かかったので俺は既に諦めている。
「せめてISの部分展開でも出来たらいいんだけどなぁ」
まあまだ貰ってもないけど。
そもそもあってもジャンプと空中移動しか出来ない。
……あれ? どうやって戦えばいいんだ?
ま、今日か明日にでもたっしーに教えてもらうとするか。
……そういや、女子に何かを教わるなんて初めてかもしれない。
中学の時は女子に頼ったら負けみたいなことを考えていたし。
柄にもなく少し感傷的になった。
そんな時、俺の視界にはあるものが映った。
ISだ。
「打鉄……か? これ」
思わず独り言がもれてしまう。
『機体整備室』、それがあった教室にはそう書かれていた。
そこにあった機体は打鉄に似ているが、少し違った。
「……え?」
どうやら中に誰かいたようだ。俺の呟きが完璧に聞こえてしまっていたらしい。
このまま素通りしていくのもあれだし、どうせ授業に遅れるなら、と俺はその機体整備室へと入室した。
「へえ……すげえなこれ」
思わずその教室の整備に驚愕する。
巨大なパソコンを始め、機体整備室には色々なものが揃っていた。それは流石IS学園といったところだろうか。
「あの……」
そして俺はその中で打鉄のようなものの影に隠れるようにしてこちらを見上げる一人の少女の存在をやっと認識した。
(少したっしーに似てるな……)
それが俺が最初に抱いた感情だ。
綺麗な水色の髪と整った顔立ちが楯無に似ている。それ以外は完璧に楯無の圧勝といったところだろうか。
「ああ、悪いな。俺は最近編入してきた岸和田だ。珍しいものがあったからつい入ってきてしまったんだ」
「は、はあ……」
少し引かれたような気がする。
まあ仕方ないだろう。この学園には全く男と話したことのないような人間がいることは重々承知だ。
「これって打鉄っぽいけど打鉄じゃないよな? これって何なんだ?」
できるだけフレンドリーに話をしようとしている俺の心意気が伝わったのか、楯無似の少女は少し緊張を解いたような表情に戻った。
さっきまで近づくやつはぶっ殺す! みたいな雰囲気だったしなこの子。
「こ、これは打鉄弐式って言って一応私の専用機になるはずの……機体……なんですけど……」
尻すぼみのようにどんどん声に覇気がなくなっていく。
しかし専用機か。
「専用機持ちってことはどこかの国の代表候補性なのか?」
「は、はい。一応日本の代表候補性……です」
少女はそう言うなり口をつぐんでしまった。
大丈夫かよ日本、この子が代表候補性でいいのか。
時計を見る。
五時間目終了まで残り四十分ほどだ。
「ま、少し話でもしようぜ。サボり者同士」
俺は嫌そうな顔をする少女を無視してこの機体整備室に入り浸ることにした。
飯一緒に食う奴がいない時はここにでも来ることにするかね。
……。
………。
…………。
「へえ、じゃあワン……一夏の奴の機体に力を注いでいたせいでその『打鉄弐式』が放置されてたのか。ま、よくある話だな」
「酷いと思いませんか? だから私、自分を変えたくて自分で完成させるって決めたんです」
後二十分。
……。
………。
…………。
「その、よかったらまた来てくれませんか?」
「気が向いたらな」
後五分。
……。
………。
…………。
「その、良かったらこの機体を完成させる手伝いを……」
「時間だ。俺はそろそろ行くわ」
俺は少女がその言葉を言い終える前に席を立つことにした。
別にそこまでやってやる義理はない。
依存される前に退散する方がいいだろう。
俺は基本的に良い人間ではない。
知り合いは「選ぶ」人間だ。
「……あの」
少女が俺を呼び止める。
「何だ?」
その次に少女が言った言葉は俺に「選ばせる」力を持つ意味では最高たりえるものだった。
「私、更識簪っていいます。よろしくお願いします、先輩」
……更識?
え、嘘? え、マジで?
それが俺の率直な感想だった。
更識簪という少女をまじまじと見つめる。
こいつがあの「更識」?
同性なだけとも考えられるが、そんな武士みたいな苗字を持つ人間はそうそういないだろう。
が、しかし俺はそういう肩書きは気にしない人間だ。
変な行動は取らずに俺は一言だけ返事をすると機体整備室を俺は退室した。
「まさかたっしーに妹がいたとはなぁ……それにしても似てねえな」
俺はかなり失礼なことを呟きながら教室へと向かう。
俺は現在一年生の教室の多い廊下を歩いている。ここの突き当たりの階段を上がれば直ぐに二年生の教室だ、
いくつかの教室ではもう既に授業を終え始めていた。
丁度後ろの教室では今授業が終わったようで、扉が勢いよく開いた。
三人の少女が出てくる。
そして開口一番、大きな声で話を始めた。思わず振り返ってしまう。
「また更識のヤツ授業サボってたよね~」「ホントホント、サボるんなら学校に来るなっつーの」
「あの子って確か楯無生徒会長の妹なんだよね? 信じられないわ」
……まあ、予想の範囲内だ。
そんなことだろうとは思っていた。
俺は踵を返して自分の教室へと向かって歩き出した。