「いやー、これは壮観だな……」
秋葉は目の前の光景を見て思わず呟いた。幸いまだ距離があるので聞こえていないだろう。
ぶっちゃけ俺も興奮を何とか素数を数えて抑えることで必死だ。
「これってこの状況でスク水(下)だけってかなり難易度高くねえか?」
「同感だ……」
目の前にはずらりとスク水(IS用のインナー)を着た女子が並んでいる。その数約六十名。揃いも揃って可愛い子ばかりだ。
「あ、男子が来ましたね。それでは二人は前へ来てください」
眼鏡をかけたおっとりしてそうな教師が二人を呼び寄せた。その教師の後ろにはあの時の日本代表の試験官が仏頂面で立っていた。
途端に二人は歩くスピードを落とし始める。
「なあ秋葉。あそこに俺の顔面に鈍器(辞書)をめり込ませた日本代表が見えるんだけど気のせいか?」
「気のせいだろ。俺帰ってからあの人の名前で調べたら第1回IS世界大会の優勝者って書いてたんだぜ? そんな凄い人がこんな所にいるわけないだろ」
そう言って二人は笑った。
「聞こえているぞバカ者ども」
何でこんな人が教師をやっているんだ。相変わらずこの学園は意味不明だ。
「それじゃあISの実技の授業を始めますね」
大人しそうな先生がそう言ったので俺達は指定された場所へと走った。
「きりーつ、礼!」
隣のクラスの委員長らしき生徒がそう言ったところで授業が始まる。
「それじゃあ今日は飛行中の加速の練習を行う予定なんですけど……、転校生さんが二人いるので簡単な説明をもう一度……」
「いや、山田先生、こいつらは私が面倒を見る。授業の後半からは合同で行おう」
「後半?」
「実技は二時間連続なんだとよ」
「じゃあ一時間あの人なのか……」
俺達がそう言うと織斑先生は無言で眉を動かした。
「聞こえていると言っているだろうが。まあいいさあとっとと始める。私は織斑千冬だ。よろしくな。……とりあえずお前らはISには乗れるな?」
「はい」
秋葉は元気よく返事をする。いやちょっと待て、あんなものに俺は乗った覚えない。
「あれって乗れるものなのか……?」
思わず後ろを見て呟く。そこでは何人かの生徒がISに乗って空を飛んでいた。テレビで何度か見たことはあるが、あれで飛ぶのは正直恐い。変な機械が纏っているのみで飛ぶのだ。乗っているものの気が知れない。
「何ぃ……?」
織斑先生が恨みがましく俺を睨む。
いやだから実際に乗ったことはないし。
「織斑先生が相楽を気絶させたから相楽が乗ったことないのも無理ないっすって……」
「……あの時はすまなかった」
織斑先生は無言でそっぽを向いて俺に謝った。
「あれってISに乗るための集まりだったのか……」
思わず納得する。強制入学なのに試験があるなんて変だと思っていたのだ。
「まあいい!」
織斑先生は自己完結したようで声を張り上げた。
「とりあえず乗れ。死にはせん。身体で覚えろ」
そう言って織斑先生は黒い腕輪を秋葉に渡した。
「これは一般的なIS、『打鉄』だ。まずお前が乗ってみろ」
「……分かりました」
秋葉は深呼吸をして、腕を構えた。
「こい、『打鉄』っ!」
その数秒後、秋葉の身体が一瞬の内に機械に覆われていた。
「すっげ……」
思わず感嘆の声をあげる。ISを直に見るのは初めてだ。適正検査の時は本当に検査だけだったので実際には見ていない。
「よし、飛べ!」
秋葉が飛翔する。
その姿は神々しいとまで言える。そう、人間が空を飛んだのだ。
「んぎゃっ!!」
二秒も経たない内に地面にめりこんだ。
「……」
「……」
後方で女子達が笑っている。いやいやちょっと待て。おかしいだろ人道的に。
「俺、救急車呼んできます!」
「待てあほう」
織斑先生は駆け出そうとした俺の首根っこを掴んだ。いやいやなんでそんな冷静なんだよ。あれ絶対死んでるだろ。
「ISには絶対防御という特性がある。使用者は滅多なことでは死なん」
「いつつ……」
織斑先生がそう言うと同時に秋葉がめりこんだ穴から這い上がってきた。
「大丈夫か秋葉!」
「おう……」
秋葉はなんともないというように手を振った。
どうやら織斑先生の話は本当だったらしい。
「……まあ大体実力は分かった。次、お前がやれ」
秋葉は俺に腕輪を渡した。
俺はそれを受け取って腕にはめる。
無言。ひたすら無言の時間が続いた。
「何してる。とっとと飛べ」
「……いや、使い方分からないんですけど」
「何ぃ……? ついさっきそいつが使うのを見ていただろうが。同じようにやればいい」
「分かりました。……やっぱ嫌なんですけどあんな恥ずかしいセリフ言うの」
「……」
「……」
「ちょっと相楽君! 空気読みなさい! 今から呼び出す子が凄い恥ずかしいじゃないの!」
後ろから更識の怒号が飛んできた。一応謝っておいて俺は再び腕輪とにらめっこを始めた。
が、名前を呼ぶ以外のことでは動く気はないらしい。
「くろがねー」
試しに棒読みで呼んでみた。
「……え?」
するとどんどん『打鉄』が俺の身体に展開され始めた。腕に、脚に。ほんの数秒でそれは完成されていた。どうやらこれは音声認識で起動するらしい。
「……まあいい。飛べ!」
「はい!」
足に力を入れる。
そして勢いよく空へ飛んだ。
十メートル、二十メートル、三十メートル。
ぐんぐん伸びていき、落ち始めた。
「うおおおおおおおおおおおお!? この高さから落ちたら死ぬんじゃねえか!? ……いや、絶対防御ってのがあったから大丈夫かぁぁぁ!?」
そして見事着地。
「……先生、どうですか?」
一瞬の沈黙の後、織斑先生は口を開いた。
「馬鹿もん。それはジャンプだ」
後ろでは女子達が腹を抱えて爆笑していた。