――俺は今、全力で走っている。
そう、織斑先生に言われた通り教科書を取りに行っているのだ。
現在は昼休み。
本当なら今頃俺は一人寂しくぼっち飯を楽しんでいるところだ。
嘘だ。本当は秋葉や更識と共に楽しくご飯を食べているはずだった。
タイムリミットまで、残り四十五分。
寮なら行き帰りで十分かからないと御陵に言われたが、やはり一分一秒でも無駄にはできない。
教科書は寮に送ってもらっているはず。
だから自分の部屋に行けば教科書があるはず。
「……どこだここ」
しかし俺は自分の部屋に行ったことがなかった。
というより既に女子寮で迷っていた。
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「先生に聞いとけばよかったな……」
改めてそう愚痴る。
とりあえず一つ一つの部屋のネームプレートを確認して自分の名前を探している。
「今誰かが寮に忘れ物を取りに来てたらやばいよなぁ。とりあえず悲鳴あげられて清掃のおばちゃんがやってきて教師に連絡が行って処分を下されて……」
探し物をしている間は嫌な想像しかできないのは何故だろうか。
「それで情報が全校生徒に回って女子全員から総スカン。教室ではぼっちへ。休み時間に隣のクラスに押しかけては秋葉に生暖かい友情で相手をしてもらう日々……。すまんな秋葉……」
実際に起こりそうで恐い。
「それでもうこの場所にはいられなくなって……ん?」
今、後ろで音がしなかったか?
後ずさるような、そんな音だ。
後ずさるということは、俺の姿を見たということじゃないのか?
後ろを振り向けない。
先程まではわざとネガティブなことを言って最悪こう思っとけば他の出来事はまだマシに思えるな~、なんて考えていたが、今度ばかりはそれが裏目に出る。
そのイメージが明確に頭の中にへばりついてしまっている。
(冗談だろ……?)
いや、冗談ではない。この学校の前に来る前、身体の大きいどう考えても一般の方じゃない人達に言われたではないか。
「下手な行動をすればどうなるか分かっているね?」
あれは決して冗談なんかではなかった。
身体が重い。
早く振り向いて誤解を解かないといけないのにそれができない。
やけに時間がゆっくりと過ぎている。これが(社会的に)死ぬ前に走馬灯というものだろうか。
ということは後ろに誰かいて、そして後ずさっていると本能的に察してしまったということではないのか。
俺は、全てを諦め、そして最悪自殺も考え、ゆっくりと後ろを向いた。
そこにいたのは当然女子。
「いやあんたそれは流石にネガティブすぎでしょ」
誰もが恐るる更識楯無生徒会長だった。
「何でこんなところにいるんだ?」
俺達は歩きながらそう話す。
「別にー。相楽君がどう考えても自分の部屋なんて分からないだろうなーって思ったから助けにきてあげただけよ?」
「そりゃどうもありがとう」
「どういたしましてー、っていうか普通自分の部屋の鍵とか資料を確認しない? 普通は鍵に部屋番号とか書いてるものだって」
その通りだった。
鍵というよりカードキーだが、ご丁寧に地図まで用意されていたのだ。
「けどこの場所ってどう考えても女子寮の奥だよな? こんなとこに男を住まわせていいのか?」
「さあ?」
「こんなんじゃ簡単に女子を連れ込めるだろ」
「相楽君にそれが出来るかあ置いといて、今のところ前科はないから甘く見られてるってところじゃない?」
「織斑ってやつのおかげか……」
かなり性に厳しい人格者なのだろうか。普通こんな学園に来たら我慢できる方がおかしいと思うのに。
まあ俺は多分そんなことはしないと思うが。
「ここか」
そう言って俺はある一室で立ち止まった。
ネームプレートには岸和田相楽の文字。その下には誰の名前も書かれていないネームプレートがあった。どうやら二人部屋のところを一人で使わせてもらえるらしい。
秋葉もそうなのだろうか。
更識も「早くしてよ」といったふうに俺を見ているのでカードキーをさっさとかざす。
一瞬の沈黙の後、扉が自動で開いた。
「おお」
流石IS学園。寮の部屋全てが自動ドアなのだろうか。
金がかかってるな。
中に入る。
更識にすぐに戻ってくると言ってさっさと奥へ進む。
流石に二人部屋だけあってかなり広い。
結構いい感じだ。
だがそれを邪魔するのは奥の部屋にあったダンボールの山。
「げ……」
ここからIS学園と書いたダンボールを探すのは一手間だろう。
しかし探すしかない。
俺はダンボールの山に手を突っ込み始めた。
「あった……」
ようやく俺は教科書を見つけた。
時計を見る。
既に十五分が経っていた。
何度か更識に先に行っててくれと言ったが、反応はなかった。もう行ってしまったのだろうか。
午後の授業で使う教科書だけさっさと手に持って外へと出る。
「遅かったわね」
そこにはまだ更識がいた。
何故か先程までは持っていなかったご飯の乗ったお盆を二つ持っている。
「時間ないし相楽君の部屋で食べちゃお? 多分時間には間に合わないって綾華達に言っちゃってるしね」
「更識……」
やばい。
赤みがかかってしまいそうな頬を隠すために俺はそっぽを向いておにぎりを口に含む。
……俺、結構こいつのこと好きだ。
食べ終わったら素直にお礼を言おうと思っていたのだが……。
おにぎりの中にはわさびが挿入されていたため、そんなムードにはなれなかった。