やはり俺のボーダー生活は難しい。   作:三位一体

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プロローグ


プロローグ

 土砂降りの雨の中、只管駆け抜ける。

 

 すれ違う異形どもを斬って斬って斬って斬って斬りまくって、其れでも悲鳴はまだ聞こえる。

 

 どうすればいい

 

 どうすれば正解なのか、ただそんな思考に頭を占領されながら身体は目の前の白い異形の怪物を斬り捨てた。

 

 激しい雨音に紛れて聞こえるその叫びは比較的近くから聞こえて、未だこんな近くに避難出来ていない人々が居るのだと其方に身体を向ける。

 

 走って走って走って走って、目の前の人影に覆い被さろうとする異形に刃を振りかざした。

 

 もう悲鳴は、聞きたく無い。

 

「…っ」

 

 白い天井が視界に入る。

 じっとりと汗ばんだ背中をベットから離し、丁度良くけたたましい目覚し時計の電子音で先程の事が夢だったのだと実感が湧く。

 

 両親がボーダー関係者でトリガーを使うに足るトリオン量を備えていただけだった、才能やら何やらで選ばれた訳でもないしトリオン量も可もなく不可もなく、其れでもボーダー初期のメンバーの1人として、少年特有のヒーロー願望も相まって、いざとなったら自分がこの力で家族を、妹を守るんだとはしゃいでいたあの頃。

 

 ”大規模侵攻”

 三門市を突如襲った【近界民(ネイバー)】と呼ばれる怪物どもによって多くの命が失われ、残された人々の心に傷痕を残した四年半前の悪夢。

 犠牲者1200人以上、行方不明者400人以上。2日で壊滅状態になった東三門周辺は目を覆いたくなる様な有様だった。

 

 自分の愚かさを知った、自分の無力さを知った…、いざとなればなんて言いながら、ボーダーには自分より強い大人達や才能溢れる同輩達が居るのだからと楽観視していた自分の馬鹿さ加減が頭に来た。

 あの時聞いた悲鳴が、間に合わなかった人達の顔が頭から離れなくて、一時期は逃げる様にボーダーを辞めようとまで思ったが、結局今も一隊員として働いている。

 

 繋がりがボーダー(ここ)しか無かったから、近界民(化け物)達がまた襲って来た時に自分じゃ何も出来ないなんて我慢出来なかったから、自分が才能ある後輩達に遅れをとらない為には立ち止まってなんて居られなかったから、自分の願望の為に強くなる必要があったから。

 

 強くなる、もう犠牲を出さない為に。

 強くなる、過去を背負える様になる為に。

 強くなる、もうあんな悲痛な叫びに耳を塞がなくていい様にする為に。

 強くなる、自分がひとりぼっちになったあの日を繰り返さない為に。

 

 もう何かを失うのは嫌だから、何も失わない為に俺は強くなる。


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