That Is How I Roll !!   作:さとそん

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みなさん初めまして、さとそんと申します!
美咲ちゃんに続いて今回のヒロインは羽沢つぐみちゃんです!
よろしくお願いします!!


A Small One Step

 

 

  『努力は必ず報われる』

 

  そんな言葉は絶対に嘘だと思っていた。だってこの世界は幻想や妄想で作られた虚構の世界じゃない、自分の目に映るものがすべての現実だ。

 もし本当にそんな世界があるとしたら、誰だってかめはめ波を撃てるし、地球の危機を救う勇者にだってなれてしまう。そんなことは絶対にありえない。

 

  けれど、いつも俺の近くで努力をしてる彼女をみて。いつもひたむきに何かにうちこむ彼女の姿を見て、ほんの少しだけ考えが変わった。

 

  それまで、試合に出れれば楽しいからといった理由で、サボっていた練習にも少しだけ真剣に取り組んでみた。

 最初は遊び心で、なんなら「努力なんて無駄だってことを証明してやろう」くらいの軽い気持ちだった。

 

  ──そのはずなのに。

 気づいたら本気になっていた。

 

 

  頑張ればその分だけ自分が成長してるのが嫌でもわかってしまう。ときにスランプに陥ってしまうこともあったが、その度に試行錯誤して、アドバイスをもらって、それを乗り越えた時の快感は今でも心に残っている。

 

  それからは「努力」というものにハマってしまった。毎日朝早くに起きてランニングをし、練習が終わったあとも1人残って夜遅くまで素振りをしたり、友達を巻き込んでピッチング練習もした。

 

  そうしてわかった。

 努力をして結果を出すことに意味があるのではなく、努力をすることに意味があるのだと。

 

  確かに努力が必ずしも結果に結びつくとは限らない。けど、努力したという事実があるだけで気持ちは変わってくる。それは、すればするほど絶対的な自信に変わる。

 

  努力をすることの大切さを教えてくれたあの娘に、どうしても恩返しをしたい。そう思った。だから俺は決めたんだ。

 

「甲子園の舞台に彼女を連れていく」

 

  これが俺のできる精一杯の恩返しだ。そして、『これが俺のやり方』だ。

  彼女のお陰で俺はここまでこれた。だから俺の青春全てを費やして彼女に感謝を告げる──。

 

 

 

 ~~〜

 

 

  東の空から差し込む朝陽がまだ眠気が残っている俺の頭を強く刺激する。

 ふぅ、と1つ息を吐いたあとに軽く準備体操をして、毎朝の日課となっているランニングに出掛ける。

 まだ完璧に太陽がでている訳ではなく、太陽は少しだけ白んでいて……こういう時間をなんというんだっけかな、古文でやったはずだ……そう!あれだ、「冬はつとめて」っていう有名なあれ。

 

  古文の先生曰く、「つとめて」の語源は平安時代の人々は仕事に朝早くから「勤めて」いたからだとかなんだとか。

 うん、つとめてっていい言葉だな。「つとめて」の時間帯に「努めて」、「勤める」。現代の学生達にも見習って欲しいくらいだ。

 

  長くなったが、まぁ何を言いたいかと言うと今はだいたい朝の6時頃。努力することの楽しさに気づいたあの日からずっと日課として続けている早朝のランニングをするために、いつもこの時間帯に起きているのだ。

 準備体操が終わると、改めて靴紐をきつく結び直し、数メートル歩いてから徐々にスピードを上げていき、それに合わせて歩幅も広げていく。よし、今日もいつも通りいい朝だ……!

 

 

 

 

  俺のランニングコースは毎日変わらない。家の南側だいたい2㌔ほど進んだところには少し角度が急な舗装された山があり、そこを登ったところにある小さなグラウンドの周りを3周、そのまま山を下って家に戻ってくるというコースで、全長は約8キロの山あり谷ありという、なかなかハードなコースだ。

 昔は走るだけで一苦労だったが今では40分程で走れるようにまで成長した。自分で言うのもアレだが、これも努力の為せる技っていうもんなんだろう。

 

  走っている時は普段、音楽を聴いている。

 心が燃え上がるような、それでいてクールで、直接自分の心臓を叩くようなハードな音楽。

 そして一番重要なのは自分の幼馴染たちが、その血湧き肉躍るような音楽を奏でているということだ。

 その声や音楽は聴いているだけで疲れが一瞬にして消え去ってしまうような不思議な力を宿しているようで、それを聴いている限り自分にはなんでもできてしまいそうな気さえしてしまう。

 

  美竹蘭の歌声は、力強く、そして聴いている人々の心に語りかけてくるような曲を。

 

  青葉モカのギターはとても自由で、それでいてしっかりと曲にマッチしている、まさに彼女自身を表している。

 

  宇田川巴のドラムテクニックは、周りを鼓舞するような男気溢れるもので、見ているものを魅了する。

 

  上原ひまりのベースは、いつも明るい彼女とは正反対に低い音を奏でるが、それでも彼女らしく存在感のある綺麗な音だ。

 

  そして羽沢つぐみのキーボードは、努力の痕が一瞬でわかるほどたくさん練習されていて、いつもメンバーを影で支える美しい旋律を奏でている。

 

  この5人のバンドはAfterglowといい、先程も言った通り、俺の幼馴染み達5人が中学の頃に組んだバンドである。

 中学の頃のクラス替えで俺達の中で蘭だけがクラスが離れてしまい、それが原因でグレてしまったことから、つぐの提案でバンドを始めたのだ。

 

  あの時は本当に大変だったな……授業には参加しないわ、立入禁止の屋上に入るわ、挙句の果てにはモカまで一緒になってるし……。

 まぁ結局はモカの声掛けや、つぐの提案、その他諸々のお陰で立ち直れたわけだが。あ、でもその黒髪にいれた赤色のメッシュは今でも健在だ。

 

  そんな昔の記憶に想いを巡らせていると、いつの間にか家の近くの商店街のところまで来ていた。家まではあと200mも無いだろう。やっぱり何かを考えていると時間って早く感じるな。

 

(よし、そろそろスパートかけるか……!)

 

  俺はいつもランニングの最後には全力で走ることに決めている。理由は疲れている時にこそ、力を発揮出来なければならないから。

 ピッチャーをやっていると、終盤になればなるほど球威がなくなり、打たれてしまう。だから終盤になってもバテないように日頃から鍛えているのだ。

 

「よし、いくぞ……!」

 

  一言ボソッとつぶやき、気合を入れてから全力で風を切るように地を駆ける。

 自分の足音が風を切るよう音で掻き消されるほど、強く、強く……!

  ようやく視界が自宅を捉えたとき、家の前に人影があった。

 

(今日も来てるのか……)

 

  家の前に着いたところで、先程まで強く地面を蹴っていた足のスピードを徐々に落としていき、玄関前のコンクリートに抱きつくかのように倒れ込む。本当はマラソンの後に急に止まると心臓に負担がかかるし、足に乳酸が溜まってしまうので良くないのだが、身体があまり言うことを聞かずに寝っ転がってしまう。

 

「准くん、今日もお疲れ様!」

 

 すると、先程まで家の前で俺が帰ってくるのを待っていた少女が太陽の日差しを遮るかのように俺の顔を覗き込み、白くふかふかなタオルを手渡してくる。

 

「はぁ、はぁ……今日もサンキューな、つぐ」

 

  目の前にいる女の子の名は羽沢つぐみ。

 黒髪の肩ぐらいまで伸ばしたショートボブ、まるで吸い込まれるように錯覚してしまうほど綺麗な純黒の瞳に華奢な身体にはエプロンをしている。だがその小さな身体には芯が通っていて、行動力もあり、イザというときにはとても頼りになる。そしてなにより大の努力家で──俺の大切な人。

 

「ううん、大丈夫だよっ、私も准くんの頑張ってる姿をみるの大好きだから」

 

  つぐはニコリと笑って普通なら恥ずかしいような言葉を口にする。

 そんな事言われるとこっちだって恥ずかしいじゃないか……!

 

「……あ、いや!いまのはそういうのじゃなくて……うぅ、」

 

  かと思いきや向こうも無意識にした発言だったらしく、俺が少し顔を赤らめているのを見ると、つぐも顔を真っ赤にして目を逸らしている。控えめに言ってめちゃくちゃ可愛い。つぐマジ天使。

 

「いいっ、もういいから!これ、ありがとな!」

 

  さすがに恥ずかしくなった俺は柔軟剤のいい香りがするタオルをつぐに返したあと、朝から天使の姿をみて頬がゆるゆるになっているニヤケ顔を隠すかのように急いでバットを取りに行く。

 

「それにしても、准くん勿体ないよね。せっかくあの明光学園から推薦来てたのに、それを蹴って雛河に一般受験するだなんて……」

 

「あぁ〜、まぁな。確かに明光も強いけど雛河だって弱いわけじゃないし」

 

  俺は中3の頃に中学の野球部でエースをやっていた。チームは県予選の決勝で地元の強豪校に惜しくも敗れ、全国大会に出場することは叶わなかったが、俺のピッチングは目に留まったらしく県内でも有数の強豪校から推薦が来たのだ。しかし俺はそれを蹴った。

 

  理由はいくつかあるのだが、一番大きな理由はつぐたちと離れてしまうからだ。

 俺の目標はただ甲子園にでることじゃない。『甲子園につぐを連れていく』ことだ。雛河高校は、つぐたちが通う羽丘女子学園と結びつきが強く、学校自体は別なのだが学園祭などのイベントはいつも一緒にやっている。

 更に羽丘は女子高、雛河は男子校ということで、羽丘の生徒は野球の応援などに全校応援で応援しに来てくれるのだ。そういう訳で俺は雛河を選んだのだが、これはつぐには内緒にしてある。恥ずかしいし。

 

「あっ、そろそろ私戻らなきゃっ!」

 

「開店の準備か?」

 

 つぐの家は羽沢珈琲店という喫茶店を営んでおり、つぐもその手伝いをしているのだ。そのため朝は学校へ行く前に家の前の掃除や、食器の準備などの仕事があるのだ。

 

「うん、それじゃあまた後でね!」

 

「おぉ、あとで向かいに行くわ」

 

 そういってつぐは純白のエプロンを振りながら、とたとたと家へと走っていった。いやぁ、それにしてもエプロン似合うなぁ。つぐに毎日味噌汁を作って欲しい……って俺は何を考えてるんだ!?

 

  それからは雑念を振り払うように素振りやシャドーピッチングに専念した。

 

 

 

 

 ~〜~

 

 

 

 

 

 

  春の暖かな陽気に包まれている商店街は朝から活気に満ちている。喧騒に包まれた商店街の一角にある珈琲店、『羽沢珈琲店』の前で俺達はいつも待ち合わせをしていて、既に幼馴染みたちは全員集まっているようだ。

 

「よう、ジュン!遅いぞ〜」

 

「わりぃ!練習してて気づいたらこんな時間になってた……」

 

「……遅い。また練習?ホントに准は懲りないよね」

 

  最初に話しかけてきたのはドラムの宇田川巴と美竹蘭。

 2人ともいい意味で目立つ容姿をしているため、俺達は彼女らを『生けるランドマーク』と呼んでいる。真正面から言ったら3/4殺しにされるので直接は言わないけど。

 

「まぁまぁ、准くんだって悪気はないんだし……ね?」

 

「そ〜そ〜、じゅんじゅんが遅れてくるなんていつものことだし〜」

 

「いつもはモカだって遅れてくるじゃん!!」

 

「俺は毎日遅刻してるわけじゃねぇ。ってかそう言うひまりだってよく遅れてくるだろ?」

 

「ははっ、まぁお互い様だな!」

 

  それに続くは天使こと、つぐ。少し機嫌が悪くなっている蘭のことを天使スマイルで宥めている。

  モカはいつも通りのマイペースで、俺を擁護している……とみせかけて、人を棚にあげて自分は逃げようとしている。

  ひまりは逃げたモカを指摘しているが結局は同じ穴の狢、ということでただの骨折り損だった。

 

  いつも俺達はこんなくだらない話をしながら登校している。俺が通う雛河高校は羽丘女子学園の500m程手前のところにあるため、高校に入った今でもこうして一緒に学校へいっているのだ。そしてこれからも、少なくともこの三年間は、こいつらと、つぐと、このくだらない日常を送りたい。

 

 

 

「あっ、そういや今日からまた一緒に帰れなくなるから」

 

 ふと、そんなことを思い出した。再来週には春の県予選が始まる。別にこれに負けたところでなにかある訳ではないのだが、勝てば夏の予選大会でシードを取れるため、俺の、いや、俺達の夢である甲子園に行くのに有利になる。だから、もちろんチームは全力で勝ちに行く。そのため今日からはいつも以上に厳しい練習が待ち受けているのだ。

 

「そっか、もうそろそろ大会だもんね! みんなで応援しに行くから!!」

 

「ははっ、出られるかわからないし、ベンチ入りすら出来るかまだわからないんだけどな!」

 

「おいおい……ジュン、しっかりしてくれよ? ジュンなら出来るって!」

 

「ま、そんだけ毎朝毎晩練習してるんだし心配いらないんじゃない?」

 

「そう言ってくれるとありがたいよ……っと、着いたか。んじゃ、お前らも気を付けてな」

 

  気が付くと、すでに雛河高校の校門まで来ていた。周りは見渡す限り雛河に通う男子生徒で溢れかえっている。そしてなぜかこちらを睨んでは「はっ、なんだアイツ。今日もハーレムかよ」などと悪態をついている。確かあいつは1組の山田くんだな、あとで練習用の重いバットでぶん殴ってやろう。

 

「うん〜、じゃあねぇ〜」

 

「練習、頑張ってね!」

 

「おう!お前らも今日はスタジオ練だろ? 頑張ってな」

 

  そう告げて、俺は校門へと一歩を踏み出す。それは、甲子園という長い道のりへの小さな小さな第一歩であった。

 

 

 




読了ありがとうございます!
感想やお気に入り、評価等々お待ちしております!

書いてる時は題名どうしようかな〜とかずっと考えていたんですが、アフグロの作品は曲名から取られている作品が多いので、まだ使われてない曲の意味を調べてみたところ「これが俺のやり方だ」と書いてあってこれにしようと即決しました。
以上、くだらない裏話でした。


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