「流星ブレード……!∞!」
「……っ!なんて威力だ……!?」
横切ったシュートにアリアが驚愕する。
あまりに凄まじい技。
こいつを覚えるのか……!
「今の技ともう1つ、ロココを破った技を習得してもらうよ」
「あ?今の技は違うのかよ。覚える意味あるか?」
「あるさ。"天空落とし"は、流星ブレードを身につけてからじゃないと使えない」
「ふーん」
そんなもんか、と受け入れるアリア。
そこまで素直じゃないが、まだその"天空落とし"とやらを拝んでいないので彼女の見解を出せない。
とにかくやってみるしかない。
幸い、流星ブレードとやらはすぐに出来そうだ。
それ自体がおかしい事に自覚はない。
「さっきのは多分今日中にできる。習得できたらさっさともうひとつも教えてくれ」
「勿論さ。それにしても流石だ。既にそれだけの力があるならもしかしてとは思ったけど、流星ブレードをもう頭に叩き込んだか」
「まだ見せてねえだろ。実際にできるまで褒めるな」
しかも自分に厳しい。
この子はサッカープレイヤーとして"できている"。
ヒロトはそう分析した。
口ぶりとは裏腹にかなり真面目なタイプだ。
恐らく今の実力も正攻法の努力で身につけたのが大半。
潜在能力や才能もあるが、所謂天才と呼ばれるプレイヤーと比べれば物足りない。
ただただかなり器用なんだ。
言うなれば、努力の天才だ。
異常な程に要領がいい。
実際。
「……っ!ほら、できたぜ……」
「本当に驚いたな。まさか半日で仕上げるなんて」
アリアは宣言通り、いやそれ以上の早さで流星ブレードを身につけた。
肩で息をして、口元を拭っていながら報告してくれたものの限界を超えてる様子もない。
凄い。
エイリア石を有したプレイヤーたちを相手に、文字通り倫理に反した修練に励んで、この技を身につけられたのは2人だけだった。
なのに彼女は当時と比べればいとも簡単に使えるようになった。
尤も彼女だからできたことだが。
自認もある。
「おい。練習してわかったがこの技、なんなんだ。本当に人間が使う想定か?」
「あはは……宇宙人が使う想定、かな?」
「何言ってんだお前……」
ヒロトは苦笑いする。
そりゃそういう反応になるな、と思った。
アリアは冗談を聞き流して一息つき、考える。
「こいつはミクやシズクじゃ年月かけなきゃ覚えられねえ代物だ。よく人に教えようと思ったな」
「君だからだよ」
「そうか。だとしても正気とは思えないがな」
「そうだね。君の言う通り、いくら実力や才能があっても難しい技だと思う」
「だろうな」
「けど、君はただ力があるだけじゃない。異常に器用だ。柔軟性がありすぎる。どんな色を加えても染み込むんだ」
「今日会ったばかりでよくそこまで洞察できたな。さすがは優勝国のエースストライカーってとこか」
「エ、エースは言い過ぎかな……」
謙遜するヒロト。
この子、やりづらいなと内心気まづくなった。
アリアからすれば冗談ではなく本気で思ったことを言ったつもりなのだが。
最強のキーパーから単独で決めて、エースじゃない?
よくわからん。
どうやら自認が低いらしい。
まあ知らんが。
「さて、休憩もここまでだ。お待ちかねのやつを教えてもらおうか」
「……次はそう簡単にはいかないぞ」
「さっきのも簡単じゃなかったがな」
何を勘違いしてるのやら、とアリアは少し息を吐いて視線を逸らす。
どいつもこいつも昔から彼女の周りを取り巻く連中は同じだ。
習得スピードと器用さで難なくこなしてるように見えると言ってくる。
こっちだって簡単にやってるわけじゃない。
寧ろ、逆だ。
それだけ覚えがいいからこそ、そこに至るまでも至ってからも大変だ。
時間をかけりゃ頑張ってて、かけてなければ余裕があるなんてそんなの相手の都合だと昔から恨んでる。
ポンポン仕込まれ、期待される身にもなってほしいものだ。
「すまない。勘に障ったかな?」
「……別に」
アリアが真顔に戻る。
顔に出てたらしい。
反省だな。
人に本音も弱みも見せるな。
生き抜く上での教訓だ。
「そんなことより、その天空落としってやつゴールで受けていいか?」
「ど、どういうことだ?君がゴールにつくのか?」
「あぁ。……あぁ、そうか知らないのか。私、ゴールキーパーもやってんだ」
「なっ……」
ヒロトがまさか、と絶句する横でグローブをつけるアリア。
彼を一瞥してゴールの前に立つ。
構えると、ヒロトは瞠目する。
本職さながらに様になっていたからだ。
それはつまり、彼女はデタラメを言っていたわけではない証拠でもある。
「驚いたな。君、なんでもできるのか?」
「不得意なことくらいある。ま、所詮常識の範囲内の最強だからな」
「知らない常識だな……」
「どうでもいい。さっさと始めるぞ。来てくれ」
求めるアリア。
ヒロトが頷く。
「じゃあ……いくぞ!」
「……!」
屈むヒロト。
これは……!
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
叫び、低い姿勢からボールと共に一気に飛び上がった。
そして、空中で回転。
最後に……落とす!!
「天空ゥゥゥ!!落としぃぃぃーーっ!!」
「は!?ヤバい!!魔神アガレス……!!」
シュートの威力を1目見て化身を出すアリア。
手にエネルギーを溜めてキャッチングで対抗する!
「うっ!うおおおおおぉぉ!?」
キャッチした途端凄まじい力と激痛、押し込まれる威圧的感覚に襲われた。
油断していたら一瞬で破られるところだった。
完璧にアプローチできたが、それでも徐々に後退していく。
こいつは、キャッチだけじゃ無理だ……!
「アガレス・ロマンティクス!!」
「キックに切り替えた!?凄い……!」
突破される前に足で止めにいった。
しかも化身技。
それでも。
「ぐっ……!」
表情を歪ませるアリア。
ダメだ、このシュートは止められない……!!
「ちくしょう!ただで転んでたまるか!!」
「突破されてからヘディング!?」
押し込まれて地面と平行に飛ばされながら最後に頭で抵抗。
シュートの威力はほぼノーマルまで落ちていたから有効な手ではあった。
しかし、悲しいことにヘディングで弾いたボールは内側の頭上ポストに当たり、弾き返ってきてラインの内側で跳ねる。
「クソ。入ったか……!なんて威力だ。今まで受けた中で1番だ」
「君にそう言って貰えるのは嬉しいよ。けど、こっちも君の身体能力には驚かされた」
ヒロトが差しのべ、アリアが自力で立ち上がる。
彼はそんな彼女の姿を見て満足気に笑みを浮かべて頷く。
「まさか3段階で止めに来るとは。なんて柔軟なんだ」
「世辞はいい。それよりコツを知りたい。今のは受けてみてもさっぱり分からん。どうすりゃ撃てる?」
「了解だ。しゃあ特訓開始といこうか!」
その夜、マンツーマンでサッカーを共にした2人がいた。
男はまだ調査があると、これ以上は任務を放棄できないと途中で断念した。
少女はここまで出来ればあとは自分でやれると返した。
男はやり残したことに名残惜しそうにしながら、ロココを打ち破ると豪語する少女に告げる。
「ここの訓練は異常だ。君みたいな子供とロココを戦わせるなんて。本当なら相手にならない」
「だろうな。それでもやるがな」
「どうしてそこまでするんだい?君は」
「守らなきゃいけないヤツらがいる。強くならなきゃいけない理由がある」
「それは……」
「私の仲間を―――"殺処分"になんてさせない。その為だ」
「~~~~ッッ!!」
ヒロトはその単語を聞き逃さなかった。
動揺し、驚愕し、怒りが震盪した。
フィフスセクター……!
子供たちの命をなんだと思ってるんだ。
それに、こんな少女にそんな業を背負わせるなんて。
「アリア。君はまだ子供なんだ。それは君が背負うべき責任じゃない」
「じゃあ誰かオトナが代わってくれんのかよ」
「それは……!」
肩を掴み訴えるヒロトが力なくその腕を下ろす。
その様子を空しく見つめることはあっても、アリアは責めなかった。
「誰かが大人にならなきゃいけないんだ。そして、私が最年長でチーム内最強だ。あとはもう……役割がわかるだろ」
「……っ」
ヒロトは詰まる。
ダメだ。
彼女はあまりにも誰も救えない。
周囲が彼女をただの無力な子供であることを許してくれない。
なまじ力がありすぎるからいけない。
妖精に愛されたやるせない女の子だ。
「もう行けよ。革命起こすんだろ?」
「し、知ってたのか」
「まだ終わってないってことは帝国じゃねえんだな。私達はトカゲのしっぽに食いつかされたわけだ」
「……!」
その一言でヒロトは気づいた。
帝国学園が謎の遠征に呼ばれ、ボロボロで帰ってきた。
彼らは言っていた。
女だらけのチームにやられたと。
アリアはそこの所属なんだ。
「革命は必ず起こす。だから、それまで耐えてくれ。アリア」
「いいのかよ。帝国を潰したのは私達だぜ?」
「君達はやらされただけだ。被害者なんだ。だから、必ず救ってみせる」
「……」
アリアは黙っていた。
革命を起こせば起こすほど、革命軍に負けたフィフスセクターの強敵がヴァルキリアの元に襲来する。
彼らの処分を命じられる。
つまり、革命が進めばその分だけアリア達の命が危機に晒される。
しかし、そんなことを彼に伝えてどうする。
別に助けて欲しいなんて思ってない。
それに、意思が揺れるのは危険だ。
どうせ中途半端になる。
革命とヴァルキリアの間で揺れる基山ヒロトに待つ運命は、引き裂かれ、ただの崩壊あるのみだ。
なら、言う必要はない。
「もう私のことは忘れた方がいい。あんたにはもっと大切な使命があるんだろ。多くの大人が関わってんだろ。ガキに惑わされるな」
「惑わされてないさ。君は君の扱いが軽すぎるんだよ。そうだ、この地獄から君を開放できた暁には俺の会社に招待するよ」
そう言って、彼は名刺を差し出した。
けど、アリアはそれを見下ろすだけで受け取らない。
「……馬鹿か。こんな物的証拠残して私が持ってることバレたらあんたがここに来たこともバレるぜ」
「その言葉を聞けただけで安心だ。自らの意思で君は教官に渡すつもりはないんだろ?」
「そうだが……」
「最強の君が持ってるならきっと見つからないさ。君を信じてる」
「ハッ。ちょろ過ぎだろ。大体こんなモン渡してどうすんだ。……社長かよ」
名刺を受け取り、ヒラヒラと人差し指と中指に挟んで揺らしてたら見えた文字列にアリアが二度見する。
確かに"俺の"とは言っていたが。
「私のこと可哀想だとか言って、お前も私をスカウトしたいわけか」
「違う。子供は働くべきじゃない。俺は君に贅沢して欲しいんだ。少しは報われて欲しい。遊園地でも美味しいご飯でもいくらでも楽しませてやる!」
「……変なやつ」
惚れてんのか?とアリアは脳内でボケてみせる。
ま、冗談すぎるが。
自身に性的魅力が一切ないことくらい自覚ある。
しかも彼は都度都度アリアを子供と呼んでいる。
その認識で手を出す変態には見えない。
「なんだったら友達を連れきてもいいさ。どうかな?」
「……っ!」
アリアが初めてピクリと反応する。
その誘惑に魅力を感じる。
彼女は、一度視線を落としたあと、恐る恐るヒロトに目を向ける。
「とも……仲間も、本当にいいんだな?」
「あぁ。勿論さ」
ヒロトは微笑んで頷く。
同時に脳裏でなるほど、彼女の根幹はそこかと理解した。
アリア・オイゲン。
どうやら彼女は自分より仲間らしい。
証拠に少し氷壁が溶ける。
彼女は赤くなったりはしないが、眉間のシワは解いて真っ直ぐで綺麗な瞳でヒロトを横目に見る。
気持ち少しだけ自然に上目遣いだ。
「……ふん、まあだったら考えてやってもいい。こいつはチケットとして受け取っておくぜ」
「ありがとう!」
「なんでお前が礼を言うんだ」
「いいじゃないか。そんなことより、とにかく来てくれよ!」
「……言っとくが、タダ飯食らいは勘弁だぜ。対価は払う」
「さっきも言っただろ。子供には」
「その時はもう大人かもしれないだろ」
「……!」
ヒロトは目を見開く。
口元が緩みそうになって、慌てて抑えて隠した。
彼女は自然と未来を思い描いている。
ちゃんと大人になる可能性を捨ててない。
それが今日会ったばかりなのに堪らなく嬉しかった。
よかった。
彼女はまだ自暴自棄じゃない。
前向きな気持ちは死んでないんだ。
ならまだ救いようがある!
「おい」
「あぁ、すまない」
呼びかけられて我に返った。
アリアは怪訝そうに顔を顰める。
ヒロトはまた笑顔になりそうなのを堪えて、咳払いを挟む。
「じゃあ君のサッカーを俺の仲間にも魅せてくれ。きっと皆喜ぶよ」
「確かに私にできることなんざそのくらいだが……そんなことでいいのかよ」
「君のサッカーにはそれだけ価値があるさ」
「ふーん。わかってんじゃねえか。社長なだけあるな」
アリアが名刺をヒラヒラとまた揺らす。
彼女のことがわかってきた。
ほんの少しだけ口元を緩めている。
満更でもないんだ。
かわいいな。
「じゃあ、俺は行くよ」
「あぁ。気をつけてな」
「……!」
ロココが消えた道へと足を向けながら雑に手を振るアリア。
けど、ヒロトにはわかる。
無意識にその仕草をしている。
最初と比べれば大きな変化だ。
それもまた嬉しい。
「君も、死ぬなよ」
「当然だ」
そう言って2人は分かれた。