松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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「……!」

 

使われていない管制室で一日を過ごしていたロココは唐突に立ち上がり、警戒する。

彼女を置いてきたグランドの方から威圧感を覚える。

何かが向かってくる。

薄暗い廊下の奥から。

 

アリア・オイゲンが現れる。

 

「よぉ、おねんねは終わりだぜ。来な」

「寝てたのは君の方だけどね」

 

挑発されてロココは不敵に笑い返す。

気絶させたのは自分だ。

皮肉で返した。

 

「ふん。昨日のグランドで待ってるぜ」

「あぁ」

 

鼻を鳴らして背を見せる彼女に、ロココは頷いた。

そして、前回はしなかった準備運動に入る。

理由は単純。

向こうがレベルアップしてるからだ。

一目見たその瞬間から一発でわかる。

サッカーの音は聞こえていたからそうだろうとは思っていたが、彼女は強くなった。

たった一晩でかなりオーラが異なっている。

これは……。

 

「いいね、楽しみだ」

 

ワクワクが勝っていた。

本当は身が震えるほどの強さを感じたが、それでも怯えたりはしない。

彼女ならそれくらいやって当然だと認識しているためだ。

さぁ、面白くなってきたぞ。

 

「ルールは前回と一緒。僕からゴールを決めるまでシュートを撃ち続けること。いいね?」

「いや、ルール変更だ」

「へ?」

 

グランドで対峙し、ゴールの前に構えるロココ。

しかし、思わぬ否定をくらいキョトンと少し力を抜いて肩が浮いた。

そもそもアリアに決定権はないが、彼女が不敵に口角を上げるからロココも息を飲む。

 

「1回だ。そんだけありゃ一発でお前を破れる。だから、チャンスは1度で充分だ」

「……はははっ。馬鹿だなぁ。でも、好きだよ。そういうの」

「うるせえ。余裕ぶっこいてられるのも終わりだぜ」

「言っとくけど、確かに多少強くなったみたいだけどそれでもまだ君は僕に勝てないよ」

 

ロココが言い切る。

彼ほどになると戦う前から相手の実力はある程度計れる。

確かにアリアは強くなった。

正直言えば驚いた。

一晩の成長速度じゃない。

しかし、それでも尚、ロココには届かない。

それも少しじゃない。

まるで、だ。

 

「……わかってるさ」

 

アリアも自覚はある。

見誤ってるわけではない。

事実、まだ天空落としは習得していない。

あれを身につけないと恐らくゴッドハンドX"すら"破れない。

それでも彼女には自信がある。

なぜなら。

 

「お前達はなんか勘違いしてるみたいだが、私はお前達が思ってるほど素直じゃないんだ」

「お前……"達"?」

 

ロココがまた構えに力を入れつつ、違和感を覚えて怪訝に思い眉をひそめる。

けど、今のアリアを前にして考えている余裕はない。

もう相手は攻撃体勢に入っている。

敵意が前方に向いている。

くる。

 

「いくぜ!」

「Xブラスト……!」

 

アリアが屈み、スターティングポーズを取った。

ロココは目を見開く。

やはり使う技は教えたXブラスト。

何やら特訓をしていたから、他の技を使うと思ったが意外な選択。

彼女は模範的な動きでXブラストの動きを模倣する。

跳躍し、回転。

クロス字に足を開き、ボールを放つ!

赤いエネルギーがXの文字の中心に弾丸となった。

 

が。

 

「流星ブレード!!V3!!」

「なっ……!?あの技は……!」

 

目を疑う。

Xブラストが放たられるまでの僅かなラグに更にシュートを重ねた。

しかもあの必殺技は見覚えがある。

つまり、彼女が今しているのは。

 

 

"Xブラスト V3 × 流星ブレード V3"

 

 

2つの必殺技を掛け合わせるアレンジだ!!

 

威力がチェインされ、一人で最強技を2度1回で使う。

もはや別の技。

オリジナリティ。

その名は―――!

 

 

「"ザ・セイレーンX"……!!」

 

 

赤に紫が混ざり、天体を切り裂く波動砲!!

 

「神ゴッドハンドエーーーーーックス!!」

「ふん」

 

ロココが全力で止めに行く。

しかし、本人でさえ結果は諦めていた。

アリアも背を向ける。

そして。

 

「ぐああああ!?」

 

ゴールを破った!

アリアの勝利だ。

 

「お下がりなんざ必要ない。これは私の技。セイレーンXだ」

「……合格だ。模範解答より素晴らしい回答だったよ」

 

ネットの中に収まりながらロココが片目を閉じやられ顔ながらも、満足気に笑顔とサムズアップを浮かべる。

対するアリアは鼻を鳴らす。

だが、スカした態度とは裏腹に彼女自身も衝撃を受けていた。

彼女は腕を広げ、自身の身体を見下ろす。

 

「なんて威力のシュートだ。サラマンディーネ・ドロップは確実に超えた。セイレーンの次くらいには……」

「実践でも使える最強シュートの完成だ」

「……っ!」

 

身を起こし、笑いかけてくれた師範。

彼の言う通り、この技は再現性が高いし負荷も全くないわけじゃないが支障はないレベル。

これなら試合で使えるし、止められる気もしない。

何せ世界最強のキーパーが使うシュートと、日本最強のストライカーが使うシュートを組み合わせた技だ。

震える。

化身なんざこの技に比べれば大した武器じゃない。

アリアは、興奮を覚え、自身の力の全能感を初めて味わう。

 

「は、はははっ。こいつが私の新しい力か。扱えないセイレーンなんかよりよっぽど実感がある。ヤベぇ。誰にも負ける気がしねえぜ」

「君程のプレイヤーがそこまで言う……程の威力は本当にあったよ。さぁ、あとはその力を振るうだけだ」

 

ロココは煽る。

アリアは理性を失っていたが、彼のその言葉で我に返った。

こいつは言っているんだ。

その力をどう使う?

ただ楽しむ為に振るうか?と。

冗談じゃない。

 

「ハッ。私を誰だと思ってる。この程度で浮き足立つかよ。この力で、仲間を守り通してみせる……!」

「いいね。僕ももっとサッカーしたくなってきたよ。強いライバルと戦って、もっと強くなりたい!」

 

高揚する2人。

やがて、互いに頷き拳を合わせる。

 

「特訓は終わりだ。君は期待以上の成果を出した。やるね」

「ま、指導者が良かったってことにしといてやるよ」

「それは光栄だ」

「思ってもねえことを」

 

アリアはフッと少し笑う。

彼女が初めて見せた本当の笑顔だ。

ロココも口元を少し弛める。

 

「じゃあ、戻っていいよ」

「なぁ。奴が言っていたが、私とミクを管理サッカーに染めるって話はどうなったんだ。今のところただ力を得ただけなんだが」

「えっ」

 

ロココが目を丸くして固まる。

アリアは不思議そうに怪訝そうにした。

暫くロココが考え込んで……察した。

豪炎寺と彼女はまだ関係性が薄いんだと。

 

「次期にわかるよ」

「またそれかよ……。流行ってんのか?それ」

「はははっ。かもね」

「うわ。胡散臭せー大人」

 

アリアに嫌な顔で見られるがロココは笑って誤魔化す。

まだ彼の思惑を、革命の内実を明かす訳にはいかない。

彼女達にはまだシードとして、この地獄でモルモットをやってもらわなくちゃいけないんだ。

そう、自分に言い聞かせるしかない。

 

「じゃ、そろそろ帰る。久々に"楽しかった"ぜ。じゃあな、師匠」

「……っ!」

 

アリアが背を向けて手をヒラヒラと振る。

その後ろ姿を目に焼き付けながら、彼女の言葉にロココは瞠目する。

楽しい。

久々に。

サッカーは楽しい。

当たり前だ。

なのに、久々に?

シードはサッカーを常にやっている。

なのに、久々にサッカーが楽しかったと言っている。

その感覚は、ロココにはない。

サッカーとは、時に苦しくはあるがそれすらも常に楽しいものだからだ。

彼はまだ、管理サッカーの作り出す闇を、その問題点を理解できていなかった。

今、この瞬間までは。

 

「ま、待ってくれ……!」

「あっ。そうだ」

 

呼び止めたロココ。

それとは別に何かを思い出したように踵を返すアリア。

衝撃を受けて固まっているロココの元に彼女が駆け寄る。

そして、転がっているサッカーボールを適当に蹴り上げて、手元に手繰り寄せ。

彼女はボールを抱えてなんだか柄にもなくモジモジとして目を泳がせている。

ハキハキと物を言う彼女には珍しく、口ごもっている。

 

「あー……なんだ、その……」

「ど、どうした?」

 

まだ動揺しているロココだが、とりあえず本人から寄ってきてくれたのだからそっちを優先する。

彼が尋ねると……アリアは「んっ」となぜかボールを差し出す。

ロココはキョトンとしながらそれを見下ろす。

 

「えっと……サ、サイン…………………くれ、じゃなくて、くだ……さい?」

「……っ!」

 

腕はめいいっぱい伸ばして、目は逸らしてマトモに前を見れない。

恥ずかしそうに求めるアリア。

思わぬ要望に目を丸くして、アリアとボールを交互に見るロココ。

 

やがて、彼は弾けるように笑った。

 

「あはっ。あはは!あははははっ!!」

「な、なんだよ。ダメかよ。悪かったっての。いいよ、もう」

「あぁ、ごめんごめん。あははっ!いや、サイン。サインね。いいよ、別にそんなに出し惜しみしてないし」

 

アリアのデータは事前に目を通している。

15歳。

あぁ、本当に15歳だ。

面白い。

彼女は子供だ。

あぁ、安心した。

 

「はい。安売りもしてないから、大切にしてね」

「ふおおおおお!!ヤベぇ。世界最強のサッカープレイヤーのサインだ。初めて拝んだぜ!!」

 

興奮してはしゃぎ回る彼女。

こんなに無邪気に笑うアリアはきっと仲間も見たことがない。

彼女は、何度もボールを見つめて遠くから見てみたり近くで凝視してみたり、かと思ったら悶えるように足をバタつかせ最後は天真爛漫に笑顔を浮かべる。

その様子を……ロココは理想郷でも見るように穏やかな目で眺めていた。

 

「ははっ。ガキの頃からここにいたからマジで見るのも初めてだ。やべぇ。最高」

「……そっか」

「いやいや、ヤベぇだろ。反応薄。見ろよ。ロココのサインだぜ?あ、本人か」

「あはは」

「やべぇ。生のロココ・ウルパもいるぜ。やべぇ!」

「一緒にサッカーもしたよ」

「そうじゃん。私、ロココ・ウルパとサッカーしたわ。最高かよ!」

「僕も最高だった。またサッカーやろう、アリア」

「マジか。いいのか!?」

「勿論さ」

 

アリアが嬉しそうに頬を桜色にしたかと思えば、二カッと少年のように笑った。

あぁ……これはダメだ。

 

「じゃあな、ロココ!愛してるぜ!」

「僕もだよ」

 

彼女は仲間の元に早く戻らなければならない。

責任感も強い。

だから、興奮冷めやらぬどころか最中でも理性的に帰ろうとする。

さっきと違って大きくブンブンと腕ごと手を振るうアリア。

ロココも会釈して振り返した。

 

僕は……"ロココ・ウルパ"を最後まで保っていられただろうか。

 

「恨むよ、シュウジ」

 

ロココは目を伏せて下を向いたあと、天空を睨む。

事情は知っている。

けれど、ロココは完全に子供の肩を持つことにした。

 

豪炎寺修也。

君の罪は、重いぞ。

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