「そろそろ時間よ。聖堂山が来るわ」
「そういえばどういうメンツなの?」
「さぁ。データは得たけど名前までは知らないわね」
「私もリストアップはされたが、誰が選ばれたかまではまるで知らん」
ゴッドエデンスタジアムにて。
私達は聖堂山を待ちながら、そんな話をする。
すると、ちょうどそのタイミングで人の気配がした。
「……!来たわよ」
正規ルートから堂々と現れるイレブン。
その先頭を歩くのは……一人の男。
「まこっちゃん……?」
「えっ」
私達は全員振り返る。
呟いたのはミクだ。
彼女は聖堂山のキャプテンと思わしき男の顔を見て反応する。
相手もミクの態度を目にしてフッと笑みを浮かべる。
「まさか君もフィフスセクターのシードになっていたとは。驚いたよ、みっちゃん」
『み、みっちゃん……!?』
謎の愛称で呼びあう2人。
は?
どういう関係よ。
「何年振りかな。こんなところで会えるなんてね」
「うん。昔はよくサッカーして遊んだよね。懐かしいな。まこっちゃんもシードになったんだ」
「あぁ。同じ思想の元にいられて嬉しいよ」
「まこっちゃんは聖堂山だもんね。聖帝のお膝元。さすがだなぁ。昔から上手かったもん。納得」
「君のサッカーも好きだよ。我々は聖帝の求める理想を体現している。素晴らしく崇高な活動なんだ、聖堂山サッカーは」
「うん。わかってるよ。まこっちゃんらしいね」
2人が近寄って手を取り合い、熱っぽく見つめ合う。
は?
なんだか親密に昔話なんかも混ぜて談笑する。
は?
なぜかミクが彼に理解を示している。
は?
2人だけの世界で勝手に話が進んでいる。
は??
「タイム」
「えっ」
私は聖堂山のキャプテンを制止したあと、すぐにミクの腕を強引に引っ張って戻る。
「ミク。聞いてないわ。どういうこと。あれは誰。関係性は?私と彼とどっちが好きか答えなさい」
「いや、聖堂山のキャプテンがまこっちゃんなのは初めて知ったし……」
「さっきから何?そのダサい呼び方は。センスないからやめなさい。大体貴女」
「おい。話が進まねえだろうが」
アリアに羽交い締めにされる。
邪魔するんじゃないわよ!!
今世界一大事な話をしてる途中でしょうが!
「で、奴を知ってるのか?ミク」
「えっ。あぁ……幼なじみで」
「幼なじみぃ!?何よ、それ。その辺に捨てておきなさい!」
「癇癪起こすなよ。うるせえな……」
アリアが本気で不快そうな顔をして私を睨みつける。
は?
負けないわよ。
「ダメだ、こいつは。バトルモードカブトムシだ」
「虫呼ばわりかよ……」
サエが私を哀れな目で見る。
ムシでもなんでもいいわよ。
私とミクの間に入る奴はボロ雑巾にして島の海に流してやるわ。
「キャプテンが使い物にならなくなったから副キャプテンの私が代わりに挨拶するか」
「いえ、私が行くわ。今冷静になったわ。二度と立てなくしてくるわ」
「……もうなんでもいいから早く行けよ」
アリアが諦めた。
何か勘違いしているようだけれど、私は公私混同はしないわよ。
ちゃんとキャプテンとして聡明に社交辞令してくるわ。
「待たせてごめんなさい。私がヴァルキリアのキャプテン、陸奥滴よ」
「あ、あぁ……終わったかい?僕は聖堂山のキャプテン、黒裂真命だ。正々堂々と戦おう。よろしく」
「えぇ、よろしく。どんな手段を使ってでもぶちのめすわ」
「えっ」
決まった。
かましてやった。
私はめいいっぱいの笑顔で彼に伝え、呆気にとられる彼を背にガッツポーズで戻った。
アリアにしばされた。
「お前まじでいい加減にしろよ。試合までにいつもの調子に戻らなきゃどつくぞ」
「もうどついてるじゃん……」
アスカがつっこむ。
さて、握手も終えたことだし試合の開始時刻も迫っている。
ポジションにでもつきましょうかね。
「おい、待て。聖帝だ」
「……!」
アリアに呼び止められて、私は振り返る。
すると、聖堂山の背後から聖帝イシドシュウジと側近2人が現れた。
おそらく片方は聖堂山のコーチね。
「聖帝。我ら聖堂山、ウォーミングアップも済ませてコンディションも完璧です」
「ご苦労。君たち聖堂山は精密なチーム。そうでなくてはな」
「ハッ!」
腰を折り、頭を垂れる黒裂くん。
聖堂山のメンバーが二手に割れて、作られた道を聖帝イシドシュウジが歩む。
そして。
ヴァルキリアの前に出る私、アリア、ミクと対峙する。
「ヴァルキリアの諸君。よくぞ来てくれた。彼らが私が1から育てたチーム、聖堂山イレブンだ」
「ハッ。強制的に呼びつけておいて何形式ぶってんだ。さっさと始めようぜ。ぶちのめしてやるからよ」
「焦るな。これより試合の概要を説明する。この試合の主催は君の言う通り、私なのだからね」
イシドシュウジがフッと口角を上げる。
噛み付いたアリアを躱した。
向こうの方が上手ね。
「君達も気づいているだろうが、この試合はただの練習試合ではない。フィフスセクターは君達の度重なる命令違反に罰則を与えることとした」
両腕を広げ、演出する聖帝イシドシュウジは淡々と述べる。
一度目を伏せ、再度カッと開いた。
「君達がこの試合に敗北した暁には、ヴァルキリアを解体。そして、処分とする!」
「……!」
片腕を掲げ、決定を下す聖帝。
最高権力による絶対的な指示。
私達は従うしかない。
抵抗しても力で捩じ伏せられる。
実力行使に出ず、試合を挟んでもらえること自体が慈悲なのだ。
試合は最後のチャンス。
その裁量を握るのが聖堂山。
つまり立場が逆転し、彼らが私達の処刑人となっている。
そして、彼らはその役割を受け入れている。
故にここにいる。
ミクがその事実を受け入れられず、黒裂くんに噛み付く。
「まこっちゃん……!こっちには子供もいるんだよ?それなのに、これがまこっちゃんの崇拝する聖帝のサッカーなの!?」
「……」
黒裂くんが押し黙る。
けど、躊躇っている沈黙ではない。
確かに一瞬視線を泳がせたが、すぐに真っ直ぐ強い眼差しでミクと向き合った。
その揺るがぬ瞳にミクが少し気圧される。
それでも、到底看過できない。
受け入れることができない。
「なんとか言ってよ!本当にそれでいいの!?それがまこっちゃんにとって正しいと思うことなの!?」
「―――君達が勝てばいい」
「……っ!」
ミクを黙らせるには単純にして、一言にして絶大な効果。
彼女は詰まり、黒裂くんは彼女のターンを待ってから何も言い返すことがないことを確認する。
1拍置いて彼は重ねる。
「君達が我々に勝利し、その力が有用か示すんだ。聖帝の役に立つことを証明しろ」
「なっ……!」
「聖帝の決定は絶対。君達が生き残る道はそれしかない」
言い切る黒裂くん。
暗にこの展開は覆すことが出来ないと言っている。
彼にその権力がないということと、自身も賛同し折れることもないという鋼の意思。
なるほど。
優しく、気高く、それでいて何事にも感化されず何者にも干渉させない。
高貴、ここに極まれり。
これが聖堂山キャプテン、黒裂真命。
「正直悩んだよ。僕達もこんな役割は背負いたくない」
「まこっちゃん……」
「……」
ミクをフォローする為か、聖堂山のキャプテンではなく本人の言葉で話す。
ミクは素直に受け取り、彼にも思うところがあることを理解した。
苦渋の決断で従っていることに、同情し、引き下がる。
けど、私はミクとは違う印象を彼に受けた。
彼は、私たちの境遇や処刑に対して情を持ってる訳でも心配してる訳でもない。
"自分たちの手を汚したくない"。
それが見え透いている。
おそらく彼だけの思想じゃない。
聖堂山という聖帝のお膝元にある貴賓たるこの集団の共通認識ね。
あくまで潔癖でありたい。
そんなところかしら。
彼は優しいけれど、それはあくまで人並み。
心配しているのは身内のミクだけ。
ミクが思うより彼はドライよ。
下民は知ったこっちゃないというわけね。
理解したわ。
「だが、君達が命令違反をし続けたのも事実。聖帝の意思に反したのも事実。みっちゃんに僕と同じ思想の元に戻ってきて欲しいのも……事実だ」
彼は本音を告げる。
素直で、自分にも潔白。
本心も建前も捨てない。
彼は、閉じていた瞼を開き、強い瞳で力強く訴える。
「だから、考えを変えた。我々聖堂山は君達を全力で潰す!本気の僕達を倒さないと君達の力の証明にならないからだ……!」
「まこっちゃん……!」
幼なじみの成長にミクが瞠目する。
もはや彼女の知る彼は存在しない。
今、目の前にいるのはフィフスセクターの象徴、聖帝の思想の具現化。
彼は片手を前方へ掲げ、私達に訴える。
「戦え、同じ志を持つシード達よ。我々聖堂山のサッカーをその身に刻み、今一度フィフスセクターとしての誇りを宿すといい!」
叫ぶ。
これがフィフスセクターの最上層。
組織のトップエリート。
その名は。
「"私"は聖堂山イレブンのキャプテン、黒裂真命。ヴァルキリアの諸君よ。君達がフィフスセクターの名の元に相応しいか精査する!!」
彼の宣言が合図となり、ヴァルキリアと聖堂山の試合に火蓋が切られた。