「攻めるぞ。お前達」
アリアがゆっくりとドリブルを始める。
彼女はゴールを放棄して攻撃に参加するつもり。
そして、実際にそれができる。
「ペナルティエリアを……!本気でゴールを空けるつもりか!?」
「舐めるな!」
アリアがペナルティエリアから出てきて、憤った恋崎くんが彼女に立ち向かう。
だが、簡単に躱されてしまった。
「なっ……!?」
「お前達は個々のレベルが高く、統率も取れている。だが、飛び抜けて上手いやつはミクの幼なじみしかいねえ」
アリアが走り出す。
一気にドリブルで突き進む!
速い!
「……っ!」
「お前達の仲良しこよしサッカーは強いが、絶対的な個を止められない。私達はお互いにメタなんだ」
「止めろ!」
抜かれる際、アリアに囁かれた黒裂くんが慌てて後方に指示を飛ばす。
聖堂山は一気に動き、全員が定位置へ向かう。
アリアを囲む気ね。
けど、遅いわ。
「甘いな。私のスピードなら包囲される前にパスを出せる!」
アリアが左サイドへ鋭く速い弾道を描く。
振り抜きも早い。
この反射速度とパスそのものの強さは誰にも止められない。
現に彼女が蹴ったボールはセンターラインも相手の中枢もぶっちぎって私に渡る。
すると、彼らは即座に私に3人マークをつけた。
「無駄だ!我々からは逃れられない」
「あら。そうかしら。サイドへ来たのは偶然じゃないわよ?」
「馬鹿め。逃げ場はない。自ら追い込まれたのだ」
「でも、これで後ろに戻すパスは出せない。貴方達が私達からボールを奪うルートはないわ」
「……っ!」
言われて気づいたみたいね。
私の背後はサイドラインだからバックパスで仲間にボールを渡す選択肢は元からない。
自分でその選択肢を潰した。
彼らがこの陣形で相手からボールをカットするのは決まってバックパスのタイミング。
後ろを選択する時。
統計上9割は占めている。
けど、今は元よりそのルートが存在しない。
彼らは定石通りに動くことが命で、その反復ばかり染み込んでいるチーム。
シナリオ通りにいかなければその段階で判断力が鈍る。
それでも完全ではない。
だからこそ、この状況を作った。
彼らの判断力を完全に奪うためのもう1つのピース。
「さぁ、どうしましょうかしら?ライン際ギリギリなら前にパスも出せる。そのルートを塞ぐ?」
「ぐっ……!それは……!」
「そう。少しでもトラップやカットをミスれば貴方の足でボールはラインを超えて私達のボールになる」
彼らはサッカーのエリート。
説明なんかしなくても私の作戦の概要だけわかれば結末くらい想像できる。
"前は無理"。
相手に言わせてきた言葉を彼らは今、直面し迫られている。
じゃあ後ろは?
「2人がかりでライン際と私の右前方を塞げば私はドリブルができないわよ。そうする?」
「しかし、それでは……!」
「そう。私目線で横と斜め後ろの視界がクリアになる。残った1人ではそのどちらかしかカバーできない」
私は口角を上げる。
彼らは想像を膨らませれば膨らませるほど苦悶の表情を浮かべる。
歯を食いしばり、汗を垂らす。
追いついてたと思って、追い詰められているのは彼ら。
何を捨てて、何を選択するか。
これはそういうゲーム。
「人数を増やしてもいいわね。そしたら私は動けなくなる。まあそんな作戦で貴方達の体力が持つかわからないけれど?」
「くっ……!」
「それだけじゃないわね。仮に人数を増やしてボールを奪ったとしても、そこから前線の少ない人数で果たして攻撃が上手くいくかしら?」
ライン際で行動する私達を止めるには最低5~6人は必要。
たかたが1人に対するディフェンスに、それだけの人数を割けば、攻撃手段は限られる。
全員がシュートを撃てる聖堂山の旨みはまるで残らないわね。
彼らは頭を悩ませる。
「そうよ。そうそうよぉーく考えなさい?大事なことよ。なんて。それを待っていたわ」
「しまっ……!」
私は彼らがボールから目を離して私を見たタイミングを見計らって足を振りぬいた。
ライン際ギリギリ前方に鋭いパスを出す。
彼ら聖堂山は事前に組んだ陣形が完璧であるがあまりそれに縛られる。
訓練を積みすぎてマニュアル通りに進まないと崩れがち。
そんな彼らに現場の土壇場で作戦を解体し、改善案を取り入れて最構築することなど不可能。
彼らは精密機械の如く正確かつ優秀かもしれない。
けど、有能なAIほどイレギュラーに弱いものよ!
新しい課題に一生頭を悩ませてればいいわ。
「大丈夫だ。パスの先には誰もいない!」
「それはどうかな?」
「……っ!」
私のパスの受け取り手がいないと気づいた黒裂くん。
誰もいない空間に飛び込もうとした彼を追い越し、彼より先に目的地に先着するアスカ。
まさかのやり返し。
アスカは即中央のサエに渡す。
「サエ!」
「あいよ」
「やらせるか!」
宗森くんが迫る。
だが、サエはワントラップのあと彼の頭上を超える山なりのパスを出した。
「何!?」
「ハッ。あたしは通過点だぜ。やっちまえ、ミク!」
「了解」
「……!?」
宗森くんの背後にいたのはシュート体勢のミク。
突如ゴール前に現れた彼女に聖堂山は驚く。
「みっちゃん……!いつの間に!」
「クイックトリガー!!」
幼なじみの動揺を無視してミクが放つ。
これにはキーパーの征木も反応できない。
「クソ……!」
「馬鹿な!?」
征木くんが跳ねるも届かない。
ミクのトラップシュートがシュートコースを切り裂き、ゴールネットに突き刺さる。
「よっしゃあ!」
ミクが背を向け拳を振り下ろすと、スコアが動いた。
ヴァルキリア 3 - 0 聖堂山