「海王学園……学校の名前ということは」
「外の世界から来たサッカー部だな。んで、そのサッカー部を丸ごと相手にしろってことはこの前の4人のシードとは違って―――」
アリアが私を見る。
そうね。
「おそらく、11人全員がシードのチーム。フィフスセクターの完全管理下に置かれたサッカー部ね」
「それが丸ごとゴッドエデンに送り込まれてきたってこと?しかも処分対象なんでしょ?それって……」
「外で一体何が起きてんだよ……異常事態だろ」
さすがにアスカとサエも怪訝に思い始めたみたいね。
2人とも顔を顰めている。
仕方ない、憶測でしかないからまだ言うつもりなかったけれど説明しましょうか。
試合が決まった以上、その直前にここで全員が不安を抱いたら本末転倒だもの。
「完全に私の予測でしかないけれど、きっとフィフスセクターの管理サッカーに抗うサッカー部が現れたんだと思うわ。そして、全国大会でシードとフィフスセクターをことごとく敗っている。考えられるのはその線でしょう」
『……!』
アリア以外全員が目を見開く。
まあそういう反応になるでしょうね。
特にゴッドエデンで育ったシードはフィフスセクターに逆らうという発想がないもの。
「じゃあその海王……?ってとこはフィフスセクターに反旗を翻したチームに負けたってのかよ」
「まあ予測の通りならそういうことになるでしょうね」
「海王は全員シードのチームなんでしょ?それ倒すってその勝ったチームめちゃくちゃ強くない?ヤバくない?マジでフィフスセクター倒すんじゃ……」
『……!』
アスカの言葉に全員が目を開いて彼女を見た。
視線が集まって本人は慌てる。
「うえっ、いや、えっと。こんな事ゴッドエデンじゃ言っちゃダメか」
「いえ。それもそうなのだけれど……」
私が危惧してるのは別のこと。
私は、子供たちを見る。
「フィフスセクター、無くなっちゃうの?」
「そしたら私たちどうなっちゃうんだろう……」
「ぜ、全員処分になったりして……」
「うわーん!怖いよー!」
「お、おい。落ち着け」
子供たちが泣き始めてアリアが戸惑いながら宥めようとする。
こうなると思ったわ。
「あなたたち、何も泣くことはないわ。フィフスセクターを打ち砕くものが現れれば、私達も解放される可能性は高い。基本的に良い事のはずよ」
「そっか!確かに……!」
私の言葉にアスカが納得する。
まあ、とは言っても問題点がない訳ではないけれどね。
「……ただ、それまでに私達が生き残っていればの話になるけれど。外からの助けを悠長に待ってる余裕は、ないわね」
『……!』
皆が目を見開く。
確かに、と思ったようね。
「おい。そんなことより試合すんならキーパーどうすんだよ。このチーム、キーパーいなくねえか?」
「……!」
サエの一言に全員気づいた。
まあ私が集めたメンバーだから、私は知っていたけど。
「は?どうすんの!?試合明日でしょ!」
「……大丈夫よ。考えてあるわ」
「んだよ。やっぱシズクが無策な訳ねえか」
「なーんだ。安心した~!もう、驚かせないでよ」
「疑問。で、その考えというのは一体」
「皆の本職は子供達がDF。チェンファとチェンナイとサエとアスカがMF。ミクとアリアがFW。この中から誰かがコンバートしてもらうわ」
「なるほどね。ま、だったらアリアとシズクとミクを除いた私達の中の誰かか。低ランクシードだし、メインに拘る必要ないでしょ」
「だな」
私の説明を受けてサエとアスカが先に結論を出した。
他の皆も妥当だと思って仕方なしと頷く。
でも、私だけは……アリアを見た。
「いえ、コンバートするのはアリアよ」
「は?」
自分は関係ない話だと思って腕を組んで完全に聞きの体勢に入っていたアリアが目を丸くする。
まあ当然の反応ね。
ゴッドエデン最強のシードをメインポジションで使わないともなれば大幅な戦力ダウンに他ならない。
だから、当然本人以外にも反感を買う。
「は!?いやいやいや!1番ないでしょ!?」
「いやマジそれな。アリアだぞ?正気か?アリアをFWで使わねえなんて有り得ねえだろ」
サエとアスカの抗議に他の皆もうんうんと頷く。
やはり正気を疑われたわね。
この反応は予測済み。
意図を汲み取れなくても仕方ない。
それだけ私の発案は常軌を逸している。
「シズク。私からしても反対だ。弱いシードを守りたくて引き入れたチームだろ。だったら私達3人の実力を惜しみなく発揮するのはマスト。私達3人のポジションで遊んでる場合か?」
「逆よ。きっとこれからも同じような試合が起こる。私達3人の力だけを頼りに戦うのはいつか限界が来るわ」
「……!」
「だから、全員生き残る為には底上げが必要なのよ。この子達にも強くなってもらわなくてはいけない」
私が口にした言葉を受けて、全員が黙った。
もうこの時点で私が正しいことを理解し始めたようね。
アリアも瞠目して驚いた顔で私を見ている。
私だけが先を見据えている。
「アリアは実力がありすぎるから、おそらく皆頼りきってしまうわ。そしたら誰も成長しない。だから、貴女のポジションを動かす必要があるのよ。それに貴女ほどのサッカーセンスがあればこの子達がコンバートするよりもキーパーとしての成長を期待できると思わないかしら?」
私はあくまで提案のていで尋ねた。
でも、誰も返す言葉がなく面食らうだけ。
ここまで語って、もう誰も何も言えなったわね。
暫くしてアリアが噛み締めるように何度か頷いた。
「……認める。お前が正しい、シズク」
「だったら決まりね」
私は有無を言わせず今後の方針とポジションを告げる。
「アリアをキーパーにして私がセンターバックで司令塔のMF。ミクをワントップにアスカとサエで私を挟んで両WGにチェンファとチェンナイ。子供たちはDFで出来るだけ下げて横に並べるわ」
「ノーコンのミクがワントップか。得点力は大丈夫か?」
「そこは私が矯正するわ。それに私にも得点能力はあるし、アスカとサエも攻撃に参加できる能力は充分あるはずよ」
「なるほどな」
アリアを納得させて、フォーメーションは決まった。
正直もっとこのチームを育てておきたかったけれど、試合まで時間がない。
アリアのコンバートとミクのコントロール矯正以外は後回しにするしかないわね。
「アリア。明日はぶっけ本番になってしまうけれど、これも経験よ。キーパーとしても成長、頼むわよ」
「なりふり構ってられないか……わかった」
「それと、私が合図を出した時はゴールを開けて攻撃に参加してもいいわ。あまり切りたくない手札ではあるけれどあまりにも点が入らない場合は致し方ないわ」
私の言葉にアリアが頷く。
このチームで最もゴールを守れる期待値が高いのはアリア、私はそうにらんだ。
けれど、本職じゃないんだから最終手段として防御を捨てて攻撃に全振りしたっていい。
それでもアドが取れるほどストライカーのアリアは実力がありすぎるもの。
だから、きっとこの判断は間違っていない。
「予定が早まっただけで最初から私をキーパーで採用したんだろ。お前がメンバー集めで編成に見落としがあったとは思えない」
「よくわかってるわね。その通りよ」
「やっぱりか」
アリアに指摘された。
鋭いわね。
やはり彼女だけは洞察力も含めて全ての能力値がずば抜けている。
例えカノジョが本職でなくとも、ゴールを任せることにおいて既に信頼できる。
さぁ、これであとはミクを強制して試合を迎えるだけね。