松風天馬君に恋する私   作:伊つき

112 / 122
111

 

「よし……!よくやった。これであとはリミテッド・オーバー5で時間を稼いで守りに入って終わりだ」

 

ゴールを決めた私の頭を荒っぽく掴むアリア。

髪型がぐちゃっとなって、私は彼女の手を払う。

 

「ダメよ。サイドから攻めてて中央と分断されている以上、リミテッド・オーバー5は使えない」

「そうか?いけるだろ」

「……どの道、私も貴女もタクティクスを使用する体力はないわ。ミクの制球ではできないし。残った3分を守り切れる力もない」

 

アリアの策を否定する。

この子、最後はリミテッド・オーバー5で雑終わらせたがる傾向があるわね。

あれは私でなくても諸刃の剣の側面がある。

そう簡単に切れる手札じゃないわ。

 

「最低でもあと1点取りに行くわ。残り時間を考えればそれで確実に勝てる。そう言い切れるのも今の1点のおかげね」

 

私は汗を拭って告げる。

アリアより黒裂くんの方が理解してるわね。

まあ向こうは追い詰められてる側だからってのもあるけど。

今の1点はトドメの1点ではなく、逆転を防ぐ1点。

残り時間で聖堂山ができるのは精々同点に追いつくくらい。

つまり向こうの目線では勝ちがほぼ消えたと言っても過言ではない。

もちろん私たちが攻めの姿勢を崩さなければ、の話だけれど。

黒裂くんはそこまで先の展開を読んで、覆しようのない盤面を睨みつけ絶望している。

聖堂山にとって、引き分けなんて負けと同じ。

許せなくて仕方ないでしょうね。

それでも彼らはきっと引き分けを狙いに来る。

敗北なんて論外だから。

 

「とにかく攻めるわ。そして、あと1点取らなければ私達は殺処分。死ぬ気で取りに行くわよ」

『……っ!!』

 

全員の顔が引き締まる。

忘れちゃいけない。

この試合には私達の命がかかってる。

負けられない。

引き分けもいらない。

勝つしかない。

勝利だけが欲しい!

 

「勝つのは我々、聖堂山だ!」

「それはどうかしら?王者のタクト……!」

「なっ……!?」

 

聖堂山の攻撃。

私は指示を飛ばして自ら黒裂くんに突っ込んだ。

こっちが仕掛けてくるのを警戒して飛び出さずに様子を伺っていた黒裂くんは驚愕する。

作戦を実行する風に見せたのはブラフ。

私がとるわ!

 

「しまった!」

「サエ!」

 

黒裂くんからボールを奪ってサイドのサエにパスをだす。

 

「よっしゃ!おら、いけ。アリア!」

「上出来だ」

 

サエが包囲網の穴を的確に突いて、前方のアリアにパスを通す。

そして、スターティングポジションを構える。

 

「インビテーション」

「させるか!エアーバレット!」

「ふん」

「なっ……!?」

 

アリアがシュートモーションに入る前に、ディフェンダーの伊矢部くんが必殺技でブロックを仕掛ける。

彼女のインビテーション・ティターニアを止めるタイミングとしては完璧だった。

シューターがアリアでなければ、の話だけれど。

彼女はサッカーIQが異常に高く大体のことは予測できる。

しかも視野も広い。

伊矢部くんの完璧な作戦もお見通しだ。

彼のディフェンスをワントラップからドライブダイブのトップスピードで深く沈んで振り切って、ゴール前に躍り出る。

伊矢部くんは度肝を抜かれていた。

アリアが改めて今度はゴール前からシュートモーションに入る。

 

「貰ったぜ、トドメの1点」

「いいや、まだだ!」

 

アリアが再びインビテーション・ティターニアを撃とうと、最初の工程、ボールを山なりに前に飛ばそうとしたその時。

彼女の足元に横槍の足が素早く介入してくる。

ボールはカットされてサイドへ転がった。

アリアは二度見する。

 

「なに!?」

「我々聖堂山は管理サッカーを背負って戦っている。そう簡単にやられはしない」

「こいつ……!」

 

アリアが睨みつけ振り返った先には黒裂くんの真剣な眼差しが待っていた。

彼は、まだあんなに動けるというの……!

 

「まだだ!」

「ミク……!」

「みっちゃん……!」

 

ボールが転がった先に最初に到達したのはミク。

足を振りかぶる。

ナイスポジショニング!

ペナルティエリア外からのシュートだから、恐らく使用する技はミート重視のアルティメット・ランチャー。

でも、それでいい。

外すことが今、1番いけないこと。

枠内に入れてあわよくば得点しなさい!

私が目で訴えると、ミクは頷いてから足元に集中する。

そして。

 

「アルティメット・ランチャー!」

 

ミクのミドルシュートが綺麗に真っ直ぐゴールへと向かった。

……ただし、ゴールポストへ向かって。

 

ガンッ!!と音がして、跳躍し腕を伸ばした征木くんの頭上からボールが消え、フィールド外へと出る。

 

「えっ!?あっ……!なっ……ぁ……!」

 

外した!

本人ですら焦燥し嫌な汗をかいている。

ミクの持つ技の中で最も外すことのないシュートが外れた。

どうしたというの!?

 

「ミク……!」

「ご、ごめ……っ。~~~~っ!」

 

仲間の顔を見渡して真っ青になりながら必死に謝るミク。

言い訳があるなら聞いてあげようとしたけど、彼女は訴えようとしてやめた。

口を閉じて、俯く。

 

「おい。なんで外した?心当たりがあるように見えたが。どうした」

「あっ、いや……ごめん。ただ外しただけ……ごめん」

「は?そんなはずは―――」

 

アリアが詰め寄って、言いかけて止まる。

ミクの暗い表情を見たから。

私も彼女と同じようになぜ外したのか本人がわかっているように見えた。

けど、ミクの気持ちが沈みすぎて指摘できない。

 

「ミク。貴女、聖帝のところから戻ってきてからずっと変よ?」

「……っ!」

 

ミクの表情に変化が見える。

図星ね。

アリアも目敏く気付く。

 

「あいつに何かされたのか?」

「違……っ。別に何もされてないよ」

「じゃあなんだ。どうした。大丈夫か。私はお前の味方だ。何かあってお前が傷ついたなら、傷付けた奴を許さない」

 

珍しくアリアが刺々しくなっている。

愛する者を傷つけた相手に対してここまで攻撃性を露わにするのはあまり見ないわね。

まあ、ミクは守るべき存在じゃなくて守ってくれる人だからいつもと意識が逆転してるんでしょうけど。

 

「本当に大丈夫だから……」

「ミク。何でも開示しろとは言わないけれど、私達は貴女と最も関係が深いと自負しているわ。そうそうのことじゃ貴女を見捨てない」

「……!シズク……」

 

ミクがやっと暗い顔を少し上げる。

そして、ぽつりと漏らす。

 

「その……こ、怖くて」

「怖い?」

 

思わぬ言葉が出てきて困惑する。

とりあえず聖堂山にはタイムをかけて、私はミクに寄り添い、できるだけ穏やかな表情を作って尋ねてみた。

彼女は、ゆっくりと開示してくれる。

 

「せ、聖帝との特訓で強くなったけど……強くなりすぎ、って、いうか……。自分の力が怖くて」

「だから、外したってか?その割に前半はバンバン撃ってたが」

「それは……!よ、余裕あったから。疲れてくるとなんか、加減がわかんなくなってきて……」

「……っ!ミク、貴女……」

 

ミクがどれだけ力をつけたのかは知らない。

けど、あのパワー自慢のミクが力を振るうことをここまで極端に怯えるなんて、尋常じゃない。

これは真に受けた方がいいわね。

馬鹿にしたり、茶化すのは逆効果。

彼女程の力の持ち主なら、本当に恐ろしい力を身につけてしまっていても不思議ではない。

私は、アイコンタクトでアリアに伝える。

彼女も頷く。

 

「ミク。自分の力が怖くなる気持ちはわかる。私にも経験がある」

「アリア……」

「だから、怖いなら力を使わなくていい」

「えっ」

 

いつも戦力になれと口酸っぱく言ってるアリアの口から、そんな言葉が出てくるなんて思ってもみなくて、ミクは目を丸くする。

アリアがらしくない発想をしたのは、彼女が口にした通り、経験があるからでしょうね。

アイリーンという最強技を扱いきれないアリアも、力を封印している。

彼女の場合は自身の肉体を気遣ってのことだけど、使用する際に相手も選んでる。

千宮司くん相手に使ったのは、彼ならアイリーンに耐えられると彼女が判断したから。

ミクも同じ。

大きすぎる力を使える相手、自身が扱える状態か見極める必要があり、それはアリアと全く同じ境遇。

だから、理解を示せる。

私もアリアの意見に賛成ね。

 

「アリアがキーパーの時は貴女にも攻撃してもらわないと困るけれど、アリアが前線にいる今は無理しなくていいわ」

「そうだ。私もシズクもいる。必ずしもお前が決めなきゃいけない理由はない」

「相手を傷つけるのが怖いなら尚更私達に任せなさい」

「アリア、シズク……。ありがとう。でも、ジ・エレメンタルは撃てると思う。シズクが調整してくれるし」

 

ミクがなんとか役に立てることもあると主張する。

健気ね。

けど、今の力をコントロールできないミクと一緒にシュートを撃つのはリスクがあるわね。

 

「今のミクのパワーをコントロールできるか?」

「この子が全容を話してくれない以上、憶測ですらないけれど……貴女が協力してくれれば、この子が自分で出来るって言うならできるかもしれないわね」

「了解。分担の割合を変えるか」

 

私は頷く。

とにかくあと1点、取らなければならない。

そして、残り時間の余裕も考えれば高威力のシュートで相手に反撃させないくらい怯ませる必要もある。

そんなシュート1つしかないでしょう。

結局、使わないという選択肢は私たちには与えられていない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。