松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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黒裂くんは恐らくもう化身を使えない。

残り5分。

仕掛けるとしたら、今。

聖堂山のスローイングから始まる。

 

「黒裂!」

「なっ……!?」

 

聖堂山はあろう事かガス欠の黒裂くんにボールを渡した。

一体何を考えてるというの!?

正気を疑うムーヴにアリアが隙を逃さまいと瞬く間に彼のマークにつく。

 

「ハッ。息切れ動悸。もう限界だろ。スローイングミスだな」

「……っ。どうかな。俺にもプライドがある。フィフスセクター最強の座を侮るな!」

 

黒裂くんがアリアと競り合う。

けど……苦しいわね。

 

「足がおぼつかないぜ。威勢だけじゃどうしようもない。切り札の化身ももう使えない。万事休すだな」

「―――それはどうかな」

 

アリアがディフェンスしながら黒裂くんの背後に見てるゴールに目を向ける。

その視線に気付きながら、黒裂くんは突如余裕の表情と笑みを見せる。

彼の状況を考えれば笑ってる場合ではないけれど……まさか!

 

「はぁぁーーーー!!」

「何!?化身……!」

 

アリアが見上げる。

やはり……!!

彼は確実に化身パワーを使い切っている。

けれど、彼らのレベルならあの技術は絶対に使える!

もっと早く気付くべきだった!

 

「アリア、離れて!」

「もう遅いさ。これが俺達の化身……!!」

「……っ!」

 

アリアは風圧に顔を覆い、足を踏ん張りながら目の前に巨身が現れるのを待つしかない。

化身ドローイングによって、姿を現す化身。

これが、聖堂山最後の力。

最後の化身……!!

 

「―――"炎魔ガザード"!!」

「ぐあああ!?」

「アリア!」

 

近くにいたアリアが吹き飛ばされ、転がった。

何度も頭や足を地面に打ち付け、あれはダメージがデカイ。

 

「ミク!」

「わかってる!」

 

アリアは心配だけど黒裂くんを止めないと全員が殺処分になる危険性がある。

ミクに指示を飛ばし、彼女を黒裂くんの元へ、私はアリアの元へ向かう。

 

「魔狼アモン!まこっちゃん、勝負だ!」

「いや。君と俺の対決ではない。俺達、聖堂山のプライドを賭けて君達を倒す!」

「ぐあっ!?」

「ミク!」

 

ガザードにアモンは殴り飛ばされて、ミクも吹き飛ぶ。

同時に私が寄り添ったアリアが身を起こした。

 

「アリア!」

「私は……っ。大丈夫だ。それより奴を止めるぞ!」

「え、えぇ……!」

 

本当に大丈夫なのか心配だったけど、頭を抑えながら顔を顰める彼女がそのまま駆け出してしまったから後を追いかけるしかない。

私とアリアが同時に黒裂くんに走り込んで向かっていく。

私達は化身を出す。

 

「雷魔神バアル!」

「魔神アガレス!」

「無駄さ。君達に、俺達は止められない」

 

黒裂くんはもう不敵な笑みは浮かべない。

真剣な表情で迷いなくドリブルで突き進む!

 

「完璧の統率の取れた管理サッカーの真髄をその目に焼き付けるといい……!」

 

彼は飛び上がる。

"マジン"は彼を持ち上げた。

その前に蹴り上げたボールが降ってくる。

ガザードが黒裂くんを上空へ投げて、彼は回転。

ボレーシュートを放つ!

 

「爆熱ッッッ!!!!ストォォォォーーーーーーーム!!!!」

 

灼熱の弾丸が炎を纏い、迫り来る!

 

「雷斬り!」

「アガレスロマンティクス!」

 

私とアリアは化身技シュートでブロックを試みた。

しかし。

 

「ぐっ……!ぐあああ!?」

「きゃあ!?」

 

私達は破られた!

シュートはそのままゴールへ向かっていく。

こんな高威力のシュート、彼女に止められるはずがない……!

 

「うっ……!」

 

チェンナイは反応できない。

爆熱ストームはゴールに炸裂した。

 

 

ヴァルキリア 20 - 20 聖堂山

 

 

「追いつかれた……!」

「まだよ!彼らができるのはここまで!残り3分!ここで1点取るのよ!」

 

表情を歪めるアリアの後ろで、自らの身を起こして私は鼓舞する。

1秒も無駄にできない。

ここはそういう現場。

膝をついてる時間も、絶望してる余裕もない。

すぐ次の行動に移る必要がある。

すぐ気持ちを切替える必要がある。

勝つ為に……いえ、生き延びる為に!!

 

「立ちなさい。アリア、ミク!エレメンタルフォーメーション、いくわよ!」

「……!シズク……!」

「了解!!」

 

先に返事をして身を起こしたのはミク。

そんな彼女の態度と、自身に頷きを示す姿勢にアリアも瞠目したあと一瞬俯いて、頷いて応える。

彼女も立ち上がる。

 

3人の化身パワーは尽きた。

それでも問題ない。

センターライン。

次に始まる私達の攻撃。

キックオフ直後。

超ロングシュート。

それでいい。

聖堂山イレブン全員を巻き込んであの威力をぶつけなければ、余った時間でまた攻めれる。

この技で、彼らを再起不能にする……!

 

「いくわよ!」

『おう!』

「まだ隠し手があるというのか……!一体何をするつもりだ?」

 

私達は同時に駆け出し、満身創痍の黒裂くんが驚く。

そらそうでしょう。

彼らはフィフスセクターの頂点。

彼らより上は本来居ない。

なのに、彼らの力が尽きてから、まだ相手に余力があるなんて有り得ない。

えぇ、本来はそうでしょう。

けどこっちは逆算してたのよ!

こうなることを想定し、思い通りにゲームメイクした私の勝ちよ!!

 

「でや……!」

 

ミクが火属性を込める。

 

「ふん」

 

アリアが光属性を込める。

 

「ハッ……!」

 

私が雷属性を込める。

あらゆるエレメンタルを集約した超巨大エネルギー。

それを内包したボールが自然現象で浮遊する。

そして、私たち三人で行うヴァルキリー・アタックで最後の出力を入力する。

これが。

 

『ジ・エレメンタル!!』

 

3人で同時に蹴り込む。

それは、ジ・エレメンタルとなり巨大なエネルギー球体がゴールへと向かう。

 

「なっ……!?馬鹿な、何だこの威力は!?う、うわあああああ!?」

『うわああああああ!!』

 

ジ・エレメンタルは聖堂山イレブンを巻き込んでそのままゴールを突き破った。

 

 

ヴァルキリア 21 - 20 聖堂山

 

 

「うっ……ぐっ……!まさか、我々がこんな……!」

 

よろよろと立ち上がる聖堂山イレブン。

彼らは配置につき、ホイッスルが鳴ると同時にキックオフするも、力なく蹴ったボールは私の足元に転がり蹴った本人は倒れた。

そして、他のメンバーも膝をつき、動けない。

私は悠々と彼らの中を割って歩き、ボールを転がす。

 

「くっ……!こんなことが……!俺達聖堂山が!」

「貴方達は命令通りによく働いたわ。恨むなら彼に矛先を向けなさい」

 

私が転がしたボールがそのままラインを割り、得点となる。

その様子をただ地面と平行の視点で眺めることしかできなかった征木くん。

倒れ伏せる彼を置いて、私は背を向けて自陣に戻る。

ホイッスルも鳴り、試合も終わった。

帰り際、聖堂山ベンチをチラ見したけれど、聖帝の顔色は変わらず。

それどころか表情がピクリとも変化していない。

冷たい男ね。

どうせ最初からこの結果を望んでいたんでしょう。

聖堂山の成長と、私達を使って何かを企んでいるその目的のために。

だから、自分が育てた子供達がボロ雑巾にされていても、負けても顔色1つ変えないでしょう。

何かを失ってるとしか思えないわね。

それか、倫理を犠牲にしてまで覚悟を決めて目的を果たそうとしているか……といったところかしら。

まあ、なんでもいいわ。

私達には関係ないもの。

 

 

ヴァルキリア 22 - 20 聖堂山

 

 

試合終了

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