『さぁ、始まります!ヴァルキリアVS海皇学園!フィフスセクター同士の戦い! この試合には、海皇学園の運命がかかっています!負ければ処分。勝てば返り咲き。処刑係はヴァルキリア。そして、観客席を埋めるシード達!実況はワタクシ、フィフスセクター専属の居郷学が務めます!』
趣味の悪いサングラスを煌めかせながら叫ぶ実況者。
実況席を見上げながらサエが顔をしかめる。
「いるか?実況」
「まあそれは好きにすればいいんじゃない。それより……観客のシードの方が必要性感じないんだけど。なんで訓練中止して私達の試合なんて皆見に来てるわけ?」
「そういう指示が出ているんでしょう」
「それって教官からのってこと?なんの為に?」
「……見せしめだ。私達が勝てば敗けたシードはどうなるか証明される。んで私達が負ければ立場を利用して勝手をすればどうなるかってな」
アリアが皆にはバレないように私を一瞥する。
わかってるわよ。
この試合、どっちが勝っても負けても教官たちのシナリオ通り。
どっちに転んでも彼らは構わないと思っている。
海王学園が勝って息を吹き返してもよし、私達が勝ってゴッドエデンのシード達を焚きつけるのもよし。
結局必死になってるのは踊らされているフィールドプレイヤーの私達だけ。
両チーム、自分達の保身を人質に取られてその思惑に乗り、道化を演じるしかない。
ただし、負ければ死ぬから緊縛して真面目に全力だけれど。
「質問。ミクの矯正の進捗は」
「……大丈夫よ。見れるくらいにはなったわ」
「その口ぶりだと完璧に治ってるわけじゃねえのかよ……。大丈夫か?本当に」
「た、多分」
「おいおい。頼むぜ。やっぱアリアを前線に上げるべきじゃねえの?」
皆が不安な表情を浮かべる。
私もミクも釈然としなかったのが良くなかったわね。
でも、ここで嘘をついても試合が始まればバレるから意味もないもの。
仕方ないでしょう。
それに、アリアが少し前に出てきた。
「いや、直前で方針を変えるのは良くない。打ち合わせ通り行く。大丈夫だ、キーパーやっててもタイミングが合えば私も攻撃に参加するってシズクが言ってたろ」
「……!」
覚えてたのね。
私は目を見開いてから頷く。
アリアと私のやり取りを見て皆も顔を見合せたあと、渋々といった感じではあるけれど受け入れるように息をついた。
とにかく、もう試合は目前なのだから予定通りやるしないわね。
「おい。なんだお前ら。女だけだと?本当にシードか?」
「……っ!」
声がして振り返ると、男が立っていた。
恐らく海王学園のキャプテンね。
確か事前に入手したデータで名前は……。
「浪川蓮助だ。女のシードがいたなんて、聞いてないぜ。管理サッカーは男子サッカーだけ。一体どこで使うんだ女のシードなんて」
「あら。女だからって舐めてたら痛い目見るわよ。逆に女なのにこのゴッドエデンにいて、シードに選ばれている……という異常性から警戒しようと思わないの?」
「……!……確かに」
顔を顰めて俯いた。
意外と素直ね。
けれど、すぐに顔を上げて私に指を指した。
「わかった。油断したことは認める。だが、俺達の命運を決める相手が女なのは気に食わねえ。この試合、ラストチャンスだと聖帝は申された。負ければ俺達の処分が決定事項になる……!」
「……っ!……そう」
「なのに、俺達の実質的な処刑人が女だと?舐めるな……!俺達はシードだ!こんなところで処分なんてされるわけがないんだよ!」
「……さっきも言ったけど舐めてるのはそっちでしょう。そして、これもさっき言ったけど私達もシードよ。あと現実は見るべきね。貴方達はもう後がないという現実を」
「なんだと……っ!」
「……!」
浪川くんと私で鋭い視線を交える。
けれど、すぐに彼は背を向けた。
「……ふん。すぐにわかる。俺達は誇り高きシードだ。1回負けたくらいで後がないだと……!ふざけるな。俺達シードがこんなところで終わるはずがない!」
「だといいわね」
「……!」
足を止めて顔だけ振り返り、瞠目した浪川くん。
わなわなと震えているけどこれ以上は試合で示すべきだと判断したようで、また前を向いて自軍に戻って行った。
やれやれね。
吹っかけるだけで、きちんとした挨拶貰ってないのだけれど。
あれでもキャプテンなのかしら。
「お前も大概だけどな。売り言葉に買い言葉。喧嘩を買うな。向こうが無礼でも、礼儀ぶつけて気づかせてやればいいだろ」
「心読むんじゃないわよ。それに、これからお互い潰し合おうという試合に敬意なんて付け入る隙ないでしょう。余裕ないのよ、どちらも」
「あぁ。そうか。そうだな、悪い」
「いいわよ」
ナチュラルに私の隣に並んだアリアと試合前最後の言葉を交わす。
アイコンタクトを交え、あとはもう整列を促された。
並ぶ前に全員を集めて一言だけ告げる。
「皆、行くわよ。とはいえこのチームは練習もしてないから連携もない。だから、今日のところは私とアリアとミクでなんとかするわ。いいわね?」
『……!』
全員が驚いた後、頷いた。
これで私の考えは行き渡ったわね。
あとは試合をするだけ。
さぁ、始めましょうか。
「勝つのは俺達だ。例え相手が同じシードでも、俺達の方が上のシードだってことを証明してやる!」
「そう」
私は動悸が早くなるのを感じながら、握手をした。
正直、気分は罪悪。
だってそうでしょう。
負ければそれは私たちに課せれたミッションは失敗になる。
そうなればきっと私たちのほうに何らかの処分が下る。
ヴァルキリアが処分されるかもしれない。
みんなが死ぬかもしれない。
それを回避するためには勝たなくてはならない。
けれど、私達が勝てば今度は彼らが処分される。
つまり仲間を守るには、彼らを犠牲にしなければならない。
本当に頭が痛いわ。
教官は聖帝から言い渡された海王学園の処分に対して、弱いシードを集めた私が気に食わないという理由からヴァルキリアと潰し合わせようとしている。
まったく、性格が悪いわ。
この状況じゃなりふり構ってはいられないし、背に腹はかえられないけれどだからって引き金を引く勇気なんてない。
そんな最終決定のボタンを押す係なんて嫌よ。
生々しい。
直接的じゃないけれど、きっと自分の手が血に染る感覚に襲われる。
本当に嫌。
でも、やらなくては皆を守れない。
……やるしか、ないの。
「……私だけ自己紹介がまだだったわね」
「は?」
「陸奥滴よ。その名前だけ、覚えて恨んで散っていきなさい」
「……!」
浪川くんの顔が険しくなる。
そして。
「いいだろう。覚えたぜ、陸奥。絶対にぶっ潰す……!」
「いいでしょう。かかってきなさい。私も貴方を侮らず、全力で倒すわ」
そう告げて、私達は手を離した。