松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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VS海王学園② 元最強のエース

 

ホイッスルが鳴り、試合が始まる。

相手は海王学園。

さぁ、さっそく私の能力を発揮しましょうか。

 

「行くわよ―――"王者のタクト"」

『……!』

 

これが弱いシードを集めてもチームは機能すると豪語した理由。

私が隠していた武器のひとつ。

ゲームメイク能力!

私の指揮があれば、誰もが戦力になる。

 

「ヤベぇ!言う通り動いたら完璧なパスルートがあるぜ!」

「従ってたらマジでボール来た!えぐっ!」

「こいつら……!上手い!」

 

サエに上手くポジションニングさせてチェンファと攻め上がりながら、私がサエにパスを通した。

海王学園の選手と皆では能力差がかなりある。

だからサエにもワンタッチしかさせない。

おかげで浪川くんが誤解したわね。

そう。

サエはパス能力だけはBランクシード級に高い。

針に糸を通すような、それでいて鋭いパスを出せる。

アスカは並外れた体力とスピードだけはBランク級。

サエがパスを出した時点ではその先に誰もいない。

けれど突如としてアスカがフェードインする。

しかもサエのパスは海王の選手レベルなら触れない。

2人とも特技だけ使わせれば、サエとアスカに限っては低ランクシードとはバレない……!

 

「舐めるな!」

「えっ、ちょ……!」

「……!」

 

アスカがボールをとられた。

長く持ちすぎたわね。

といっても1秒もないけれど。

それだけボールキープ力がない証拠。

トラップも雑だからボールが浮いて隙だと思われたんでしょうね、それは込みしなかった私のミス。

彼女達は特技以外は凡以下の能力。

アスカがボールを受け取った時点で私が並走して横渡しするように指示していたのに、並走して声をかけても反応が遅れた。

油断したわね……!

 

「俺達はシードだ!処分なんてされるかよ!」

「……っ!ご、ごめん。奪われちゃった!しかも全然隙ない!」

「アスカ!もうそこはいいわ。私が代わるから指示に従いなさい」

「わかった!」

 

アスカを下がらせて私がスイッチした。

ボールを奪ったのは湾田くん。

ミッドフィールダーで化身使い。

事前にデータベースで調べてあるわ。

どうやら私達が攻め立てたことでプライドを刺激され、ディフェンスラインまで下がってきたようね。

 

「……っ!こいつ、上手い……!」

「……」

 

対峙する私と湾田くん。

私を抜こうとしても無理みたいね。

当然よ。

私の方が上のランクのシードだし、私は全パラメータがAランク、ディフェンス能力も高い。

 

「湾田!こっちだ!」

「井出……!」

 

化身使いのディフェンダー、井出くんに湾田くんが横パスを出す。

私が左サイドにプレッシャーをかけて敢えて隙を作った右スペースに出したパス。

あぁ、でもそれは―――。

 

「あら。いいの?そんなところにパスを出して」

「なに?」

「―――"そこ"、うちのエースが通るわよ」

 

「――――――――――――っ!」

 

フィールドに走る衝動。

駆け抜ける金色。

そして―――"一閃"。

 

「貰うぜ、まずは1点」

『……っ!?』

 

全員が瞠目する。

ゴール前にいるはずのない、長袖のプレイヤーが足を振り上げている。

その足元に転がってくるボール。

パスの途中経路ワンバウンドに割り込み、パスを横取りするストライカー。

煌めく金色の長髪。

それでいて、一目でわかる高スペック。

次元の違いを理解させるには一振りで充分。

振り抜き一閃。

 

「ダメだ、なんだこのシュート!?速い!こんな鋭いシュート、受けたことが―――っ!」

「なっ……!?」

 

『ゴォーーーール!!ヴァルキリア先制!会場に集まったシード達に見せつける。フィフスセクターの審判が失態を犯したシードに早速下された!決めたのはゴールキーパー、オイゲン!』

 

 

ヴァルキリア 1 - 0 海王学園

 

 

「……ふん」

 

突き刺さったのは閃光。

鋭すぎるシュートは海王ゴールキーパー、深淵くんも腕を伸ばすも全く反応できていない。

浪川くんを始めとした海王……いえ、ヴァルキリアも含めて思わずゴールを2度見してから彼女を見る。

 

そこに君臨するのは、ただ1人。

金色の髪が肩に落ち着き、彼女は顔を上げる。

 

「ナイス、合図(オペ)

「どうも」

 

周囲の反応とは裏腹に本人は至って淡々と自軍ゴールへ戻っていく。

すれ違いざまに私に手を挙げるだけして、私も返した。

 

「えっ!?ヤバ!今の何?えっ、驚いてんの私だけ?」

「バカ!全員目丸くしてんだろうが。アリアだけが平然としてんだよ。あいつやっぱバグってるぜ……!」

 

アスカが周りの様子を伺いながらキョドってサエがツッコミをいれる。

確かに、アリアはパフォーマンスの派手さの割に反応が薄い。

なぜなら彼女にとって自分のやってることは"できて当たり前"だから。

 

「アリア……」

「な、なんだあいつ!?」

「……!」

 

ミクが戻っていくアリアの背中に目を向けるのと同時に浪川くんが狼狽する。

ミクも彼を見た。

そして、気づいた。

浪川くんだけじゃない。

海王学園全体が衝撃的すぎて動揺している。

 

「なんなんだ。あんな化け物がいるなんて聞いてねえぞ……!あれも俺達と同じシードなのかよ!?」

「ていうかあいつ、ゴールキーパーだろ!?なのになんであんなとこに……!」

「いや、ゴールキーパーのキックじゃねえだろ!あいつはストライカーだ。こいつら、あれ程のストライカーをキーパーにして隠し持ってやがった……!」

「な、舐めやがって」

「いやでもあれはヤバいだろ!舐めプしてくれて寧ろホッとしてるぜ。だって、負けたら俺たち終わりだろ?あんなのがFWにいたら勝ち目ないって……!」

『……!』

 

激震が走る海王。

全員がさっきまでの威勢を既にへし折られている。

証拠に最後の言葉に誰もが反論できず、押し黙ってしまって下を向いてしまった。

たったワンプレー。

ただそれだけで、分からせるには充分。

いえ、寧ろ過剰なくらい。

彼らの中に『こいつには勝てない』という思考を植え付けた。

そのプレイヤーの名は―――"アリア・オイゲン"。

本人はただ、騒ぐ相手に見向きもせず自軍ディフェンダーとすれ違いざまにハイタッチをしている。

 

「クソ……!フィフスセクターにはあんなシードがいたのか」

「俺達よりも上のシードがいたなんて……」

「上なんてもんじゃないだろ!何段階も上だろ!俺の目にはあいつの振り抜きが見えなかった……!」

「お、俺もだ。あいつのキック、目にも止まらなかった。速すぎる!」

「まさかあいつがフィフスセクター最強のシードか?お、女……!?」

 

もう完全に混乱状態ね。

これは勝負あったかしら。

このまま終わってくれるなら助かるけれど……まだ始まって5分だから無理な願いになりそうね。

さすがに立て直す時間は充分ある。

それと最後のは鋭いわね。

彼らにとって幸いなのは、アリアがちゃんと最上位でそれより高みはほぼないということ。

天井を知らないから絶望は深いかもしれないけど、目の前にいるのがちゃんと最強だと知れば少しはホッとするでしょうね。

逆に言えば、この試合において……アリアはオーバースペックすぎる。

今、それがハッキリしたわ。

 

「こ、これ勝てんじゃない……?」

「油断するんじゃないわよ。基本的に私達は総合力で彼らに劣っている。アリアだけがただ1人、圧倒的に勝ってるだけよ」

「じゃあやっぱアリアをFWにして1人で暴れさせりゃよかったんじゃ……」

「……」

 

しつこいわね。

確かに今日この試合のことだけ考えればそうかもしれない。

けれど、アリア1人で複数得点を取って勝ってもその勝利には中身がない。

それに、アリアにも体力はあるしフルタイム1人で11人を相手にするのは現実じゃない。

 

……なにより、これは"処刑"。

アリア1人に委ねるということは彼女の手だけを汚させるということ。

本人の性格的にそれを容認する可能性も高い。

まだ彼女がそのことに気づいてないからいいけれど……その前になるべく私達も得点に絡むべきね。

 

「次は守りよ。サエとミクはカウンターの準備。アスカとチェンファとチェンナイは私を軸にディフェンスよ」

「りょ、了解……!」

「了承。理にかなっている」

 

チェンナイとチェンファが頷きあって、海王の攻撃に備える。

さて、大事なのはここからね。

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