「野郎共!消沈してる場合じゃねえ!俺達はシードだ!確かにあの女はヤベぇがまだ試合は始まったばかり。例えこいつらがどんなに強くとも、諦めてたまるもんか……!シードの誇りはどこへ行った!!」
「……っ!……そうだ。シードの誇りだ!」
浪川くんの鼓舞に湾田くんがハッとする。
やはりまだ試合は終わってないわね。
浪川くんも声が少し震えてるから、気丈に振舞ってるだけできっと心は少し折れてる。
それでも、シードとしての誇りと負ければ終わりという状況、そしてまだ残り時間はたっぷりとあるということが彼らをギリギリのところで踏みとどまらせている。
さて……向こうがやる気ならこっちはアリア以外は大したことがないということを露呈しないように気を配らないといけないわね。
「来るわよ―――"王者のタクト"」
「……っ!ディフェンスでも使えるのか!?」
「当然よ。私は指揮の天才。あらゆるシチュエーションの最適解を導き出せるのよ……!」
タクトでアスカ達を動かす。
アスカはスピードとそれを落とさない体力で私が予測したボールの行先に先回りして相手にプレッシャーをかける。
しかもアスカの可動範囲内に収まるプレイヤーは全てそのプレッシャーを相手にしなければならない。
この使い方はかなり嫌なはずよ。
「……っ!こいつ、なんでここにいる!」
「どこまでついてきやがるんだ!」
「バカな!なんて運動量だ……!バテを知らねえのか!」
「へへっ。なんか褒められてない?ちょい照れる」
「……集中しなさい」
まったく、能天気な子ね。
弱点が見つかったわ。
気を抜いてプレッシャーが弱まったから、気づかれるのよ。
「……!こいつ、パス回しする必要なんてねえ。寧ろ思う壷だ。こいつの攻略法は……"普通に突破する"!!」
「えっ!?ちょ……!」
言わんこっちゃない。
アスカが簡単にドリブルで抜かれた。
やっぱりディフェンス能力は無いに等しいことがバレたわね。
腰の落とし以外甘いのに気を抜いたらそりゃ見抜かれるわよ。
アスカのプレッシャーでパスを出させてそのルートも徐々に狭めて、最後にアスカがパスを掻っ攫う作戦だったけど予定変更せざる負えなくなった。
……まあ、もう手は打ってあるけど。
「やった!クリア!」
「クソ、カットされただと……!」
カバーに入ったチェンファが横から湾田くんのドリブルをボールを蹴ってカット。
そして、ボールは……転々と私の足元へ。
「しまった!戻れ!」
「ディフェンス……!」
「……王者のタクト」
慌てて守備に移行する海王。
私の指揮能力を恐れてサエ達を使ったフィールドメイキングを警戒する。
……それが、私の罠だとも知らずに。
「あら。親切にどうもありがとう。おかげで私の視界がスッキリしたわ?」
「……は!?"ドリブル"!?」
「えっ!?」
「マジかよ!」
私はパスを出すのではなく、ボールを前に転がして走り始めた。
海王のプレイヤーだけでなく前線へ出たアスカとサエも慌てて振り返って驚愕する。
当然ね、だって彼女たちに指示出したもの。
ただそれを利用しなかっただけ。
そして、私はドリブルが1番得意分野。
簡単に浪川くんと湾田くんを抜いて、彼らは私の背中を追いかけるしかない。
驚愕した顔で私を追う。
「こいつ……!ふざけやがって!」
「仲間も囮に使いやがった!なんて女だ……!」
なんとでも言いなさい。
私は、常に最善手しか打たない!
「クソ!戻れ!」
「ダメだ、ディフェンス間に合わない……!」
「いやいい!撃たせろ!」
『……!?』
「浪川!?」
キャプテンの指示に海王イレブンが困惑する。
彼と併走する湾田くんも驚いた顔で彼を見てる。
私はドリブルを続けて目線だけ背後に向ける。
「このプレイスタイルからしてこいつは間違いなくテクニックでシュートを撃つタイプ……!だったら深淵が止めれられる!」
「……!そうか!」
海王イレブンが納得して頷き、カバーに入る足を緩める。
……目録が甘いわね。
「心外ね。多少のパワーシュートくらいは撃てるわ。―――"キングス・ランス"!」
「何!?」
「シズクのシュート技……!」
そう言えば単体技は初披露ね。
ゴールに最も近いシズクが目を見開いて私のシュートを見ている。
シュートは一直線にゴールへ。
「くだらん!追加点はやらん。"ハイドロアンカー"!」
「……貴方達の予測は半分正しかったわ。確かに私の技では彼からゴールは奪えない。でも、この技は私の技じゃないもの。だから、決まるわ」
「ぐああぁーー!!」
「なんだとっ!?」
『また決まったー!ヴァルキリアの追加点だぁ!今度はキャプテン陸奥滴。強力なシュートが炸裂!』
ヴァルキリア 2 - 0 海王学園
これで2点目。
私はゴールを背に戻る。
決まるのはわかっていたから。
その瞬間は見てないわ。
だって、"彼"のシュートだもの。
―――『君が撃てる最大限のパワーシュートになるよ。きっといつか必要になる。存分に使ってくれ』
「……言う通りになったわね。少し癪だわ」
親戚の言葉を思い返して顔を顰める。
やはり彼には適わない。
手のひらで踊らされてるみたいで嫌ね。
でも、2点目を取れたのは彼のおかげだから感謝してるわ。
そもそも私のゲームメイク能力も彼と同じ才覚だから尚更ね。
「さぁ、前半のうちにもう1点くらいはいただきましょうか」
私は口元を拭ってスコアボードを見上げた。