「クソ!まだだ!俺達はまだ力を出し切ってないぜ!」
「……!」
浪川くんがキックオフと共に力む。
来るわね、化身……!
「はぁぁぁー!海王ポセイドン!!」
「魔狼アモン!」
「何!?お前も化身だと……!?」
FWが初手から勝負を仕掛ければ、当然相手もFWが対抗する。
浪川くんの化身に対して、ミクの化身。
両者がぶつかり合う……!
「クソ……!」
「はあぁぁー!!」
「こいつ、なんて力だ!うわぁぁー!」
ミクと浪川くんが衝突してミクが勝つ。
ミクは勢い余ってボールを遥か前方へ蹴り飛ばした。
でも、なんかガッツポーズしてるわね。
「よし……!」
「よし、じゃねえよ!どこ飛ばしてんだ!」
「あっ」
アホなの?
サエに指摘されてやっと気づいたわね。
浪川くんとの勝負に勝つことだけ考えて、後先は考慮してなかったようね。
「ミクってホントにパワー馬鹿なんだ……私の方が賢いかも」
「競り合いは強いしシュートも強力だけどそれ以外てんでダメなんだなぁ」
「困ったスペックね、本当に。ドリブルはまともに出来ない。パスも下手。しかもノーコンよ」
「めっちゃボロクソ言うじゃん……」
アスカが少し引いてる。
私だって別にミクを酷評だけしてるわけじゃないわよ。
このチームじゃミクは戦力だし、上から数えた方が早い。
何よりパワーは天性のものがある。
あの1点に限り、異次元の領域にある。
だからきっとシュートの威力と競り合いの他に得意な分野がもう1つある。
それは―――。
「任せて!失敗は自分で取り返す主義だから!」
「説得力ねえよ!まあ任せるけどよ」
サエが少し笑いながら譲る。
ミクは相手のパスを湾田くんと争った。
そう、彼女のスペックならああいったボールを待つシチュエーションのフィジカルディフェンスは圧倒的な能力があるはず……!
「なっ……こいつ、ビクともしねえ!まるで戦車とぶつかってるみてぇだ!」
「えっ。酷くない?私、一応女子なんだけど。女子に使う表現かな、それ」
「貴方も集中力に欠けるわね。早く奪って私に寄越しなさい」
「……!シズク!」
「クソ!」
ボールはミクが奪った。
湾田くんは跳ぶこともできなかったわね。
完全にミクに抑えつけられた。
化身使いに圧勝するなんて、やっぱりこの分野も異常値ね……!
「……っ!本当に……っ!パスもノーコンなのは困るわ」
「えっ!?これでもめっちゃ改善されたくない?シズクとの特訓の成果!ちゃんと繋がったし」
「本気で言ってる?キレるわよ?繋がったのは私のポジショニングとトラップ力のおかげでしょう」
目ついてないのかしら。
今、普通に私スーパープレーだったと思うのだけれど。
私の前方上空あさっての方向に飛んだパスを超反応でトラップしたのだからさすがにこれは褒めて欲しいわね。
まあ……振り返ったらみんなが息するのを忘れるくらい瞠目していたからそれを賛辞と受けとっておきましょうか。
「さて、じゃあもう1点貰いましょうか」
「舐めるな!これ以上は通さねえぜ。女ぁ!」
「……!」
「へっ。挟み撃ちだ!化身使いは浪川だけじゃない!」
「……!」
いつの間にか井出くんと湾田くんに挟まれていた。
後ろに湾田くん、前に井出くん。
化身使い2人の包囲網。
なりふり構わなくなってきたわね。
確実にボールを奪う算段ってとこかしら。
「ウホー!こいつが俺の化身!精鋭兵ポーン!」
「はぁぁー!来い、音速のバリウス!!」
「……」
現れた2体の化身。
私の姿を隠す巨体は影で私を飲み込む。
仲間が焦る声が聞こえる。
「は!?化身2体!?ヤバすぎでしょ!」
「シズク!クソ、まだ化身いたのかよ……!」
「シズク!」
「シズク……!」
「緊急。シズクを助ける方法、皆無!」
焦燥する声が届く。
まったく……騒がしいわね。
―――ここまで私の力を示したのに、まだ予測できないの?
「シズク!今行くから!」
「必要ないわ」
「えっ?」
駆けつけようとした足を止めるミク。
私は顔を上げた。
「ふん。大丈夫だろ。シズクほどのプレイヤーが"使えないはずがない"」
子供たちも含めてみんなが騒ぐ中、ゴールで腕を組むアリアだけが冷静。
さぁ、そろそろ魅せましょうか。
「化身2体だ!さすがの貴様も手も足も出まい!」
「調子に乗りやがって。化身も使えねえお前に俺達を突破できるか!」
「―――あら。誰も使えないなんて、言ってないじゃない」
『……!?』
目を丸くする者たち、20人。
彼ら彼女らは見上げる。
そう、化身を出す時の紫のオーラが私の後ろから伸びているから。
もうわかるでしょう。
さぁ、慄きなさい。
「ま、まさかお前も……!」
「化身、使えるのか!?」
「そうよ。言ってなかったかしら?私、本来はAランク相当のシードなの。使えて当たり前のランク帯。そして、これが私の―――『虚無魔神・ベリアル』よ」
鋭利な爪を持った皇帝の男がゆっくりと身を起こす。
黒を基調に紫のラインが入った化身。
ずっと前から私は有していた。
出力が高すぎて、私の体力じゃ消費に耐えられないからあまり使わないけれど。
―――使えば、必ず勝つわ。
「まさか化身を持っていたとは……だが、2対1だぜ?俺たちの勝ちだ!」
「愚かね。化身の格が違うのよ。私のベリアルは燃費が悪い代わりに凄まじく強い……そして、"ドリブル型"の化身よ」
『……!』
私は指を鳴らす。
これが私のドリブル化身技……!
「"エンペラー・ナイト"」
暗転。
夜になる。
その中で煌めくのは皇帝の瞳のみ。
「なっ……あれ?なんで俺たち……」
「跪いて……!クソ、しまった!これが奴の化身の能力だ」
「そう。私のベリアルは皇帝。全てを従わせる。そして、気づいた頃にはもう遅いわ」
『……!』
私はもうゴール前まで来てる。
井出くんも湾田くんも遥か後方。
化身を引っ込めてシュート体勢に入る。
「撃たせるか!」
「撃たないわよ。キングス・ランスはそう何発も撃てないの。だから、任せるわ」
「なっ……!?パス!?」
「馬鹿が!その先には誰も―――!?」
「そう、これデジャヴね」
確かに私がパスを出した先には誰居ない。
そう、誰も。
だから、ヴァルキリアのゴールから伸びるランニングルートがある。
そしてそこに後から現れて足を振りかぶるのは。
「ごっつぁんです」
「召し上がれ?」
振り抜くアリア。
2本目のノーマルシュート。
けれど、今日いるメンバーの中で最も威力がある。
結果は当然……。
「ダメだ!こいつのシュートは無理だ……!」
『ゴール!これは痛烈!勝負を決める1本!さらに追加点ヴァルキリア!決めたのはまたキーパーのオイゲンだぁ!これぞゴッドエデンの処刑人、ヴァルキリアの力!強すぎる!』
ヴァルキリア 3 - 0 海王学園
『ここで前半終了!依然、ヴァルキリアのリード。海王学園の立場は苦しいものとなりました。しかし、どちらもフィフスセクター所属!海王の巻き返しも期待したい!』
「どっちの味方だよ。一応聖帝や教官の指示に従ってんのこっちだろ……」
「クソ!俺たちはシードだ!なのになんで……!」
「相手も全員シードってわけか……。実感してきたぜ」
「悔しいが、あいつらシードだけあって強い!」
「あぁ。だがそれでも……俺たちは負ける訳にはいかねえ。もう一度シードとして返り咲く為に……!シードの誇りをかけて!」
『……!』
サエが毒づいた裏で海王ベンチも気持ちを立て直す。
後半も気は抜けなさそうね。
できれば沈んでいて欲しかったのだけれど、まあ元から淡い願望かしら。
……さて。
「………………ふぅ」
タオルで汗を拭くついでに被って、皆にバレないように深く息をつく。
ここから先、後半。
"時間切れ"ということは、敵にも皆にも気付かれずに乗り切りたいわね。