「つかマジでシズク凄くない?あんた、あんなサッカー上手かったの?」
「そうだよー!言ってよ~!アリアもビックリだけどシズクの方がびっくりだよ!」
「総評。なんでもできる。まさに完璧、陸奥滴」
「……別に本気を出せばあれくらいは当然よ。それよりミク、後半はもっとシュートを撃ってもらうわよ。少しは働きなさい」
「うっ。ご、ごめん……」
ミクが気まづそうにする。
とはいえ私が敢えてミクを使わなかったのだけれど。
少し事情があって責めることになってしまったわ。
悪いけど、どうしても誤魔化したいことを隠したいから許してちょうだい。
「……」
「どうした。勝ってるのに浮かない顔だな。……いや、勝ってるからか」
「アリア……」
本当に目敏いわね。
アリアがスコアボードを見上げて遠い目で穏やかに喋る。
「……私達が勝てば、海王の奴らは死ぬかもしれない。だから、このままでいいのか迷ってんだろ」
「迷ってはないわよ。やらなきゃこっちがクビを切られるもの」
「まあ海王の立場を考えれば、ヴァルキリアよりは扱いがいいはずだ。殺されはしないかもな。あんま気にするな」
「アリア、貴女もまさか……」
「私は大丈夫だ。悪いが、嫌な覚悟を決めるのは人よりちょっと得意なんだ」
「アリア……」
アリアは私の肩にポンと手を置いて、顔だけは見せてくれなかった。
彼女の中にももちろん思うところは沢山ある。
でも、1度ブレイカーとして冷酷な決断をしたという嫌な実績が、彼女を良い人にはさせてくれない。
今更相手に同情する自分を受け入れられないのかもしれない。
いえ、違うわね。
きっと既に手が汚れてるから自分が率先してさらに汚れようとしている。
そして、それは仲間を守ることに繋がる。
だから覚悟を決められる。
本当に……嫌な覚悟だわ。
「アリア。貴女1人に背負わせないわ。私も……勝つために手は抜かない」
「シズク……お前」
やっと私を見たアリア。
私は少し微笑んでみせた。
その瞬間にホイッスルが鳴り、私たちはグランドに意識を戻す。
そして、視線を感じた。
隣のベンチにいる海王から。
浪川くんと私が視線を交錯させる。
それから私たちはラインを超えた。
『さぁ、後半が始まりました!このままヴァルキリアが優勢か、それとも海王学園が巻き返すか!今、後半開始!』
「行くぞ、野郎共!」
「行くわよ、王者のタクト!」
早速ぶつかり合う海王の荒くれなサッカーとヴァルキリアの皇帝的サッカー。
後半は10分間、白熱した戦いが続いた。
『両者、一歩も譲らない!海王もフィフスセクターを意地を見せています。素晴らしい!』
「ねえ!今気づいたんだけどシズクは!?さっきから全然攻撃に参加してなくない!?」
「あ?なんか運動量多いと思ったらそういうことかよ!なんでシズク前線にいねえんだ?」
「急に点入んなくなったよぉ~!」
「警告。そろそろ疲労限界。そして、ミクのシュートが決まってない」
みんなが違和感に気づき始めた中、ミクがシュートを放つ。
「でやっ!」
「ハッ。どこを狙っているんだぁ?」
ミクのシュートはポストに当たったり、そもそも入らなかったり、挙句の果てには相手にパスしてしまったり。
酷いわね。
「ちょ、全然矯正できてないじゃん!」
「あれでもマシになった方よ」
「マジかよ……」
サエが遠い目をする。
まあ、試合中に成長することなんて早々ないし、準備できてないものは仕方ない。
ミクのシュートはアテにしない、と結論付けるしかないわね。
それでもあの子に撃たせてるのは……。
「すげぇな。もう5本は撃ってんだろ。必殺技と化身も使ってんのにバテねえのか?」
「えっ。全然大丈夫!寧ろ元気かも」
「マジかよ……」
今度はサエが別の意味でドン引きする。
そう、ミクはアスカに匹敵するほどのタフネス。
ロボと戦った時もアリアが化身ドローイングするまで十数分化身を出し続けていた。
意外と体力オバケなのよ。
だから、ノーコンでも沢山撃たせるという戦術で使える。
シュートを撃っているということはこちらが攻勢で防戦にはなっていないということ。
サッカーというフィールドゲームにおいてボールを長時間敵陣営ゴール前に長く保持していられるのはそれだけで優位に立てる。
精神的にも楽だし、ゴールを決めなくとも攻撃は最大の防御になる。
「ほいよっ!持ってきましたよ、大将!」
「でやっ!シュート一丁!」
「いやめちゃ外してて笑う。でも、ミクって私の動きに一生付き合えるしパス出しがいあるね。結構ミクとやるサッカー好きかも!」
「えー!私もアスカ好きだよ」
「キャッ!」
「……イチャイチャしてんじゃないわよ。相手ボールよ」
後半半分経過が迫ってきて攻勢だから気が抜けてるわね。
でも、そろそろこの作戦も限界よ。
点差が3点あるとはいえ私の考えた作戦はここまでで終わり。
つまり、ここからは向こうの攻撃がミク達の予想より3倍は激しくなる……!
「王者のタクト!」
「よっしゃ。次こそ決めちゃえ、ミク!」
「調子に乗るな!もう飽きたぜ、そのパターンは!」
「えっ!?」
アスカは驚いてるけれど予想通り。
ここまで来ると元気なのはアスカとミクだけだからいくら私が能力の低い彼女たちに広い選択肢の戦略を授けられても、使える駒が減れば物理的に戦略も尽きる。
最後に残ったアスカとミクの機動力を活かした2人だけの波状攻撃も結局はミクのシュートレンジをゴールから180℃しかパターンがない。
6回も撃てばさすがに相手もミクとアスカの能力を起動範囲をだいたい把握できるし対応できるでしょう。
「このまま負けるか!俺達はシードだ!そうだろ、浪川!」
「……!」
アスカからボールを奪った湾田くんから浪川くんへボールが渡る。
あぁ……まずいわね。
中軸がみんなバテてて中央ががら空き。
「守備。通せんぼ」
「ハッ!てめぇ如きに俺のポセイドンを止められるか!」
「……っ!化身!」
浪川くんが化身を出した。
彼の言うとおり、チェンナイじゃ太刀打ちできない!
「ぐっ……!ああ……!」
「チェンナイ!」
「お前もだ!どけ!」
「……!うわあぁ!」
「チェンファ!」
チェンナイとチェンファが突破された。
体力のないサエはカバーが間に合わないし、アスカとミクは前線過ぎる。
あとは私と……子供たちだけ!
「ひっ……!」
「く、くる……!」
「どうしよ~!」
「怖いよぉ!」
「なんだ?こいつら。ガキじゃねえか。舐めてやがって。ぶっ潰してやる!!」
『……っ!』
浪川くん、容赦ない!
ポセイドンを従えて子供たちに標的を定める。
化身で蹴散らす気ね!
相手がシードなら、子供たちの能力じゃ勝負にもならない。
赤子同然よ!
だから……!
「まだよ!私がいるわ!」
「……!」
『シズク……!』
泣いていた子供たちの笑顔が花開く。
私は、浪川くんの前に立ちはだかった。
子供達と戦わせるわけにはいかない……!
「ふん。……ははっ!いや、それでいい!お前と1体1で戦える方が燃えるぜ!俺様の化身とお前の化身どちらが強いか勝負だ!!」
「……!ベリアル!!」
私は化身を出現させる。
そして、浪川くんとぶつかりあった。
「ぐっ……!……っぁ!!」
「……っ!まだそんな余力が残ってやがったか!やっと分かったぜ。お前とあのノーコンとキーパー以外は雑魚ってなぁ!」
「~~~~~~っ!!」
ついにバレた!
バレたからには……ここで負けられない。
こっちが弱いシードを集めたシードと知れば向こうは皆を狙って勢いづく。
だから、ここで鼻をくじく!
「……っ!ぁぁぁはああぁぁぁーーー!!」
「認めるぜ。すげぇシードだ。女だとか関係ねえ。お前は強い!すげぇ!同じシードとして感動すら覚えたぜ。だがなぁ!」
「……!ぐっ……!」
私のベリアルが、圧され……!?
「俺達は負けられねえんだ!シードとして返り咲くために、シードの誇りの為に!てめぇは邪魔だ!!オラァァァーーー!!」
「ああ……!!」
ベリアルがポセイドンに吹き飛ばされた!
『シズク……!』
「……っ!」
「俺の勝ちだ。見たか、陸奥滴!」
私は倒れ伏せた。
皆が私の名を叫ぶ。
キャプテンでここまで無双していた私のこの姿を、今のチームに見せたのは非常にマズイ……!
「嘘だろ!?」
「シズクが、負けた……!?」
「シズク……!」
「そ、そんな」
「愕然。受け入れ、難い……現実」
ヴァルキリアの士気が下がっている!
海王と違ってこっちは脆い。
「ハッ!お前達のキャプテンも大したことないな!」
「そんなことない!」
「……!」
「ミク……!」
私をバカにされて火事場の馬鹿力で戻ってきたミクが浪川くんとボールを争う。
けれど、ミクのディフェンスの能力は著しく低い。
おそらく相手にはならない。
それでも彼女は食らいつく。
「シズクが負けるはずない!剣城くんくらいは強いはずなんだから!」
「何?剣城だと……?」
浪川くんが顔を顰める。
剣城。
確かミクと同じAランクシードで、ゴッドエデンでも短期間だけAランク棟にいたエリートのシードね。
そして、浪川くんは知ってるような反応をした。
なぜ剣城くんのことを知っているのか。
気になるけれど、それよりも今ミクが私の為に普段以上に頑張ってくれていることに目を向ける。
「……っ。ミク……!」
私は身を起こし、ミクの元へ駆けつけようとする。
でも、すぐに膝をついて前に進めない。
「シズク……!?」
「ミク!シズクに期待するな!もうあいつは前半でとっくにガス欠だ!」
「えっ!?」
アリアの指摘にミクが動揺する。
そう、私の体力はとうに尽きている。
だから後半戦は攻撃に参加しなかったのよ。
「シズクは何でも出来て完璧だが、体力がないんだ!見りゃわかる。ここはお前が防げ、ミク!」
「わかった……!」
ミクが二つ返事でまた浪川くんと向き合う。
けれど、今フィールドで海王の攻撃に対応できるのはミクだけ。
これでは……!
「ハッ。1人で何ができるってんだ。お前1人で俺達を止められものか!嘉峰!」
「……っ!」
海王は攻撃に5人以上割けるのに対して、こちらは守備に回れるのがミク1人。
当然パスルートはいくらでもある。
海王はパスを出し放題!
「行くぜ、化け物女!」
「……!」
フォワードの嘉峰くんが抜け出してアリアと1対1。
アリア……!
「ディフェンス……!」
「戻らないと!」
「来るな!!」
「えっ!?」
子供たちが嘉峰くんのドリブルを止めようと彼の元に向かったが、アリアは止めた。
子供たちは目を丸くして彼女を見る。
「お前達のスペックじゃあいつらの相手にならない。怪我をするだけだ。ゴールは心配するな。自由に撃たせろ。全部私がセーブする……!」
「そんな!無茶だよ!」
「アリア、今日初めてゴールキーパーするのに……!」
「な、なんだと!?」
『……!!』
ユマが重大なことを漏らした。
衝撃が走る海王イレブン。
全員の視線がアリアに集中する。
「バカ!何バラしてんだ!」
「うわーん!だってぇ……!」
サエが叱ってユマが泣き出した。
試合中よ!
「心配してくれたんだろ?サンキューな。あんまり怒ってやるな」
「ふざけやがって、俺達の命運がかかってるってのにエースストライカーをお遊びコンバートかよ……!」
「こいつら……!絶対潰す!!」
「野郎共!相手はキーパーとフォワード以外バテてやがる!ディフェンスもザル。今こそ波状攻撃だぜ!」
『……!!オウ!!』
アリアがユマを気遣い微笑んだ。
でも、瞬きの間に真剣な表情にチェンジして腰を落として構える。
海王学園という名の荒くれ集団が一気にゴール前まで上がり、アリアに襲いかかる……!