松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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VS海王学園⑦ 最強の証明

 

『オイゲンが飛び出したぁ!ゴールを放棄して、ドリブルで自ら上がっていくぅ!!』

 

「こいつ……!何のつもりだ!?」

「イカれてんのか!?」

「……!」

 

ゴール前にいた湾田くんと浪川くんが即座にディフェンスに入る。

しかし。

 

「ふん」

「は!?嘘だろ……!?」

「こいつ……っ!?うま……っ!?」

 

ヒールでボールを扱って化身使いのシード2人を簡単に躱し、突破するアリア。

それでいてドリブルが速い。

あっという間に2人を置き去りに。

 

「速ぇ……!」

「行かせるな!そいつを止めろ!」

 

アリアを追いかける浪川くんが指示を出す。

その指示に従い、アリアの前に立ち塞がる海王MF2人。

 

「これ以上通すかよ!」

「調子に乗るな!」

「……」

 

アリアは目を見開く。

けれど、1歩、強く地を蹴り彼女は加速する。

 

「なっ……!?」

「ぐわぁ!?」

「は!?ヤバ!」

 

アスカが目を見張るのも仕方ない。

アリアは2人のMFを加速だけでその中央を突破し、吹き飛ばした。

まさにSランクシードのスピード。

基礎能力で並の選手は赤子のように扱われる。

それでも。

 

「囲え!全員で抑えるんだ!」

「……!」

 

アリアは囲まれた。

さすがの彼女もあの状況からはボールをキープするのがやっと。

アリア……!

 

「終わりだ!化け物女!」

「アリア、パスを出しなさい!私がフリーよ!」

「……っ」

 

アリアは私を一瞥する。

けれど。

 

「……必要ない」

「アリア!」

「馬鹿が!貰ったぁ!」

 

アリアにスライディングが迫る。

それを。

 

「私はゴッドエデン最強のシードだった。今は違うらしいがな」

「……!」

「なっ……!?」

 

スライディングを躱し、そこを狙ってきたディフェンスもボールを器用に操り2人目も難なく対応する。

 

「最強"だった"ってことは、一度でも最も強かったってことだ。それは今でも変わらない。ずっと残ってる実績で、その名残は必ずある。だから」

『クソ……!この……!!』

 

アリアの口が回り、余裕があることがわかると悔しくて海王のプレイヤーが一斉にボールを奪いに行く。

それでも、足りない。

 

「一度も最強にも、最上層にも至ったことのないお前らなんて相手にならないんだよ」

「嘘、だろ……!」

「上手すぎ……る……っ」

「ダ、ダメだ。こいつには勝てな……っ!」

 

アリアは囲われた状況から全員躱して突破する。

これで9人は翻弄した。

 

「……っ!!アリア、貴女……!」

「な、なんだよあれ!どうなってんだよ、あいつ!」

「ヤバ……マジえぐすぎ……」

 

私が目を見張るのと同時にサエとアスカが衝撃のあまり瞠目し、硬直し、アリアのパフォーマンスから目を離せなくなる。

他のメンバーも同様。

元ゴッドエデン最強のシードの実力を、その真価を初めて目の当たりにして動揺している。

味方でも畏怖すら感じている。

この異次元のプレイヤーが敵だったならと想像するだけで震え上がる。

そんなこと起こりえないのに、アリアの性格を知ってるのに、彼女の優しさを把握しているのにそんな発想が嫌でもチラつく。

それほどに彼女の上手さは常軌を逸していて、プレイイングは低ランクシードのアスカ達からすれば理解不能。

彼女達の常識の中にある最上位が更新され、それがあまりにも過度なアップデートの為、オーバーヒートしている。

 

低ランクシードから見たアリア・オイゲンはまさしく―――"神の領域"。

 

彼女がどんな人間か知っていると思っていた彼女達は、隠されていたその実力を目にして、知らない彼女を目に焼き付けて……震える。

 

「よぉ、また会ったな。今度も私と遊んでくれよ」

「ひっ……!ば、化け物だ!来るな!!」

 

アリアはゴール前に一人で飛び出した。

海王のゴールを守ってくれる存在はもうゴールキーパーの深淵くんしかいない。

ディフェンスは全てアリアが引き付けて剥がしてしまったから。

そして、深淵くんはもう腰が引けている。

異次元のプレーを前にして、アリアを恐れている。

 

「まだだ!まだ俺がいるぜ!!」

「……!!」

『浪川……!!』

 

アリアの背後に出現したのは浪川くん。

彼がゴール前まで戻ってきていた。

海王学園は息を吹き返し、キャプテンの執念に士気が上がる。

そんな海王の希望となった彼をアリアは背中越しに一瞥した。

 

「試合に負けたとしても、これ以上好きにさせるかよ!死んでもここでお前を止めてやる!!この……化け物がっ!!」

「……」

 

もう残り時間を考えるとアリアに攻められた時点で海王の負けは確定。

3点差を返すことは出来ない。

それでも意気消沈することなく浪川くんは最後の意地を見せた。

せめてアリアに好き勝手はさせないと息を巻く。

これぞ最後の抵抗。

まだ気持ちは死んでいないという姿勢。

そして、気迫とともに紫のオーラを出す浪川くんとは対照的に、アリアは冷めた横目で彼を捉えるだけ。

 

「あいつ、まだ化身出せたのかよ……!」

「マズくない!?17セーブして9人抜いて化身も……ってさすがのアリアでも……っ!」

 

サエとアスカにはこの場面で浪川くんが化身を使えてディフェンスに入れることが、ピンチに見えている。

彼女たちからすれば浪川くんのこの場面で戻れたプレーも驚異的だから。

けれど、常識が違う。

私の域で見えている世界なら……浪川くんの足掻きは虚しい抵抗にしか映らない。

彼女なら。

彼女の実力なら、まだ余力すらある。

 

「うおおぉぉぉーーーー!!来やがれ、俺の化身!!海王ポセイドン!!」

「ちょ……!ヤバ!?ここまでと全然違うじゃん!」

「すげぇ!すげぇぜ、浪川!!」

 

アスカが吹き飛ばされそうになりながら驚き、湾田くんが興奮する。

確かにここに来て浪川くんの化身は出力が高い。

恐らく化身を出せる最後の1回。

力を振り絞っていて出現させるのがやっとのはずなのに、今日1番の質。

この土壇場で、いえ、極限まで追い込まれたからこそ彼は成長し進化した。

ゴッドエデンの趣旨に沿っていると、フィフスセクターの思惑に嵌っているとも知らずに。

そして、それを嘲笑うかのように現実が突き付けられるとも知らずに。

 

「せめててめぇの足くらいは止めてやる!この身体がどうなってでも―――」

「アガレス」

「かっ……はっ……!?」

『は?』

 

瞬き。

夢の終わりに与えられた時間はそれだけ。

アリアが化身を出したのは、1秒にも満たない。

たったそれだけで浪川くん全身全霊のポセイドンが叩き潰された。

しかも振り向きざまに。

浪川くんは、気付いた時には視界が天井になっていて、フィールドに叩きつけられその身体は跳ねた。

ポセイドンは一瞬でその姿が紫色に変わり、霧散していく。

その光景を、海王学園だけでなくフィールドにいた全員が理解できずに固まったいた。

その中でただ1人。

 

「じゃあな」

「ハ、ハイドロ……っ!」

 

化身を引っ込めて足を振り上げるアリアを瞳に映し、深淵くんは浪川くんに貰ったなけなしの勇気を振り絞り止めようとした。

しかし、現実は惨い。

 

『ゴォーーール!!後半20分、ヴァルキリア4点目!!これで4-0!圧倒的!これぞゴッドエデン最強と言われたアリア・オイゲン!全員シードの海王学園相手にハットトリック!!』

 

深淵くんの腹を貫く勢いでゴールに突き刺さったトドメの4点目。

ハットトリック。

1人3得点。

全てノーマルシュート。

金色の長い髪が舞い降りる。

 

「サッカーの神かよ……」

 

最強のサッカープレイヤーの姿を見て、誰かがそう呟いた。

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