「アリア!行くわよ」
「おう。よっしゃ、来い」
海王との試合から少し立って、回復したアリアのキーパー練習に付き合っている。
本当は最初のうちはサエにシュートを撃って欲しかったのだけれど、あの試合以降みんなアリアとの距離があって子供たち以外はアリアと練習どころか接することも少なくなったから頼みにくいのよね。
まだアリアがキーパーとして未熟なうちは正確なコースにシュートを撃てるだけで練習相手になる。
けれど、アリアほどのサッカーセンスがあればすぐに上達するし、そうなったらもう並の選手では練習相手にはならない。
だから、今の段階ならミート力はあるサエやチェンファにアリアの相手を任せて私は他の皆の練習に付き合いたかったのだけれど……。
上手くいかないわね。
練習メニューを渡して自主的にこなしてもらうのが精一杯だわ。
「ティアードロップ……!」
私はおさがりではなく私の必殺シュートを放つ。
もう必殺技を受ける段階まで来てる。
アリアの成長速度は早い。
まあ私が付き合ってるからというのもあるけれど。
「光の鉄拳!」
アリアがエネルギーを貯めた拳を突き出し、私のシュートをパンチングではじき返す。
これがアリアの初めてのキーパー技。
キャッチングよりもパンチングの方がしょうに合ってると本人が言うから、まずは必殺技をひとつ習得することを優先に了承した。
私のシュートみたいなテクニック重視の技くらいならもう通用するようになった。
問題はパワーシュートに対する対策だけれど、私はキングス・ランスをそう何発も撃てないしこれはまたミクのコントロールを矯正してから取りかかるべきね。
「まあこんなもんか。とりあえず光の鉄拳は完成でいいだろ」
「そうね」
一段落済んで私とアリアは練習を中断して話す。
「皆の方はどうだ?」
「サエとアスカはもう完全に私の王者のタクトについてこれるわ」
「マジか。凄いな。あいつら結構適応能力高かったか?」
「まあそれもあるけれど、1番は私の指揮能力ね。多少打ち合わせと実際にタイミングを何度か合わせればサエとアスカくらいの能力値の選手は大抵完璧に扱えるようになるわ」
まあもちろん相手に合わせようとする意思とか努力とかも必要だけれど。
能力値の低い選手でも相手にそう思わせないよう上手く使えるのが私の能力。
時間さえ設ければ別に難しくはなかったわね。
「了解。じゃあ次の試合までにオフェンスは間に合いそうだな」
「そうね。あとはミクがもう少し機能できて、チェンファも適応してくれれば万々歳と言ったところね」
「そうか。まあまず一先ずはよかった」
アリアが汗を拭いながら何度か頷く。
「じゃあ皆のところに戻りましょうか」
「あぁ」
と言っても同じフィールドにはいるけれど。
「サエとアスカは次の試合から完全機能できるし、あとはミクとチェンファとチェンナイだけね」
「ねえ、ちょっといい?」
「……!何かしら」
皆を集めて少しミーティングをしていたらアスカが挙手した。
「あのさ。その試合って……いうの?あれだよね。また、この前のやつみたいなのだよね。普通の試合じゃなくてさ」
「……そうね」
私が少し間を開けて肯定すると、アスカはやっぱりと口にした。
「それってどうにかならないの?いや、大人の事情には逆らえないのはわかるんだけど。私、そんなつもりでこのチーム入った訳じゃないし。勝手に命かけられても困るっていうかさ……」
「ごめんなさい。それに関しては、本当に……ごめんなさいと謝るしかないわ」
「あっ。だよね。うん、わかってる。シズクにはどうしようもないって。寧ろわかってるのに意地悪なこと聞いてごめん」
「いえ。大丈夫よ。貴女の不安は至極真っ当だもの」
アスカが言及したのを皮切りに各々抱えていたものを吐露する。
「つーかあたし達もそうだけど、相手の立場もかかってるってのもヤな話だぜ。勝てばあたし達の手は汚れちまう。でも、やらなきゃやられるってことだろ?要するに」
「そうね。そういうことね」
私は頷くしかない。
サエはため息をついた。
皆も狼狽えて目を合わせられない。
1人だけ、アリアが腕を組んで口を開く。
「こうなったら仕方ない。やるしかないだろ。私達がやってるのはサッカーでも、スポーツでも、遊びでもない。ただの殺し合いだ。覚悟を決めなきゃ、できないぜ」
『……!』
皆が目を見開いた。
前の試合のこともあり、アリアがそういう発言をするのは嫌な印象へと繋がる。
そんなにすんなり受け入れられるのはお前だけだと。
簡単に言うならあんたが全部やれと。
でも、アリアの性格を考えるに言われるまでもない。
「安心しろ。海王の時みたいに私がゴールを守って私がゴールを決める。お前たちは戦わなくていい。私が1人で全て倒す!」
「却下よ」
「ふえぇ……?なんでぇ?」
アリアってこんな情けない声出すのね。
とにかく承認できないわね。
「貴女1人に全て擦り付けるのも後味が悪いでしょう。それで私達が綺麗なままでも心の底からそうは思えないわ」
「何言ってんだ。せめてそれでいいだろ。私の手は既に汚れてるんだ。お前らより率先してやるべきだ」
「それはさらに汚していい理由にはならないわよ。前にも言ったでしょう。それに、ここから先貴女1人で勝てる相手ばかりとは限らない」
「……!」
アリアが瞠目する。
私の意見は筋が通っていたから、もう押黙るしかないでしょう。
代わりに、アスカ達に説明が必要になるけれど。
そっちを見ると案の定少し苦笑いしながら首を傾げているアスカがいた。
「は、はは……っ。何言ってんのシズク。アリアが勝てないなんてある訳ないじゃん。見たでしょ?この前の試合。あんな化け……あんなのに勝てる奴なんていないよ」
「勝てる奴、だけじゃねえよ。勝てる"チーム"もねえよ。11人相手でも負けねえ。アリア、お前は最強なんだろ?な?」
「お前ら……」
畏怖からアリアに全て押し付けてしまえというアスカと、アリアに圧をかけるサエ。
でも、アリアに聞いたのは間違いね。
だって彼女は私が正しいと思ったから主張を引っ込めたんだもの。
「……"白竜"」
『えっ?』
アリアが俯いて前髪で目元に陰りができる。
そんな彼女が呟いたその名に全員が首を傾げ、顔を見合せた。
「私の処分が決定した時、牙山が言っていた。白竜って奴がSランクシードに昇格したから私は必要ないってな」
「なるほど。つまり、その白竜くんというが……」
「あぁ。今ゴッドエデンで1番のシードなんだろ」
「だから、貴女さっき私に言い返せなかったのね」
繋がった。
アリアが言い返せなかった理由。
"白竜"。
その存在が事実としているから。
「えっ。白竜くんが今ゴッドエデン最強のシードなの?」
『……!?』
ポロッと零した意外な人物に全員の注目が一気にバッと集まる。
急に皆に見られたミクはビクッとした。
そんなミクにアリアが恐る恐る尋ねる。
「お前……知ってる奴なのか?」
「う、うん。だってAランク棟で一緒だったし」
「マジかよ」
「アリアよりも強いヤツと同じとこで訓練受けてたってこと?ミクってもしかして私達が思ってるより凄い人……?」
「あー。いや、私が知ってる白竜くんはゴッドエデンNo.1とか言われてなかったし。もう結構前に白竜くんはAランク棟からいなくなっちゃったから……あ、じゃああれSランクに昇格したってことだったんだ」
「そういうことね。最後に彼を見た時に覚醒の兆しは見えてなかったの?」
「どうだろ。あぁ、でも確かに剣城くんがいなくなった辺りから前にも増して凄いな~って思ってたけど……」
「それね」
なるほど。
Aランクシード、剣城京介。
白竜くんのデータは消えている……いえ、シークレットになっているけれど、剣城くんのデータは端末に残ってる。
剣城くんは外のサッカー部に出向になったのね。
彼の不在がキッカケで個人としての能力が上がった、と見るべきかしら。
「そういえば牙山のやつがゴッドエデンの趣旨に合ってるだの目的の達成に白竜って奴が必要だの言ってたな」
「……!」
それは大事なキーワードな気がするわね。
目的……確かに、フィフスセクターはなぜゴッドエデンを作ったのか気にはなっていたわ。
シードに過酷な訓練を強いて、育成するだけなら所在地不明の孤島を舞台にするのはともかくここまで大掛かりな施設は不必要。
管理サッカーの為に出向するシードの生産と安定供給だけがゴッドエデンの役目ではないのは確か。
だとすると、その"目的"とは何か。
「―――『究極』」
『……!』
またミクがボソリと呟いた。
今度は彼女も注目があるのはあらかじめわかっていて私たちが見たのと同時に顔を上げて目を合わせた。
「白竜くんがいなくなる直前に教官が言ってた!『貴様たちの中から究極のサッカープレイヤーを生み出すことが決定した。その為にさらに過酷な訓練へと挑んでもらう。貴様らは究極となるのだ……!』って」
「"究極"……」
「いや、何それ。意味わかんないんだけど」
「つーか要するにその究極ってのにアリアは選ばれなかったんだろ?どういう選考基準だよ。何がどうなったらそれになれんだ?」
「でも白竜って人はなったんでしょ?」
「つまりただ強いだけではダメという事ね。サッカープレイヤーとして別の次元への到達……いえ、生物的学な進化?アリアでもこと足りないとなるとその辺しか思いつかないけど今の情報だけでは断定できないわね」
とはいえ、これでゴッドエデンに膨大な資金と施設が用意された理由がわかった。
進化論に基づくなら確かにこれくらいの環境は必要。
なるほど、確かに辻褄は合う。
「でもそれって関係ある?そんなに強いなら処分対象になんてなんないでしょ」
「確かに!処刑人の私達とは関係ないね」
「いや、処刑人なの受け入れてんのかよお前ら……」
「……」
私は皆を見れない。
本当に、こんな立場に収まってしまったのは不服だわ。
この問題もいつまでも放置するわけにはいかないわね。
それはそうとして。
「白竜くんと対戦しないとは限らないわよ。海王学園を倒したサッカー部はこれからもフィフスセクターと戦う……その中で成長していくはずよ」
「そうか。革命を起こした奴らが海王と同レベとは限らないってわけか」
「海王を『同レベ』で片付けられるのは貴女だけだけど、そうね。今は海王と同じくらいの強さでもこれから先はわからない。白竜くんだって必ずも安泰じゃないはずよ」
そう。
やはり警戒しなければいけないのは革命を起こしているサッカー部がフィフスセクターの強者を尽く倒し、その相手を最終的に私達がしなければいけない事態。
そして……きっと私たちは、あっという間にその激動に巻き込まれる。