「次の対戦相手が決まったわ」
『……!』
私が告げると、皆が目を見開いた。
覚悟はしていたけれど、いざ言われると身を構えるわよね。
「もうかよ!ついこの間、海王とやったとこじゃねえか」
「革命を起こしたサッカー部が倒したチームがなだれ込んでるわけだから……常識的なペースで試合が組まれる訳じゃないのかも」
「そうね。このスパンで決まると思った方がいいわ。そして、短期間で私たちは成長してチームを育てなければいけない」
「とはいえこのペースだ。ある程度は試合で成長するしかないな。難易度は鬼だが……」
俯くアリアの言う通り。
もうぶっつけ本番を重ねていくしかない。
少しでも時間があれば修正して……そうやりくりしていく他ないわね。
「で、相手はどこなの?」
ミクが汗を拭いながら尋ねる。
私は彼女を一瞥して……少し勿体つけてから重い口を開く。
「―――"帝国学園"よ」
『……!?帝国学園!?………………ってどこ?』
私はズッコけた。
嘘でしょう?この子達知らないの?
いくら前からゴッドエデンに閉鎖されてるからと言って日本一有名なサッカー部を知らない?どうやって生きてきたのよ。
「いや、ごめん。私小学生の時は陸上やってたし……」
「韓国にいたから日本のサッカー部わかんないなぁ」
「当然。姉妹故に、右に同じ」
『ていこくってなーにー?』
「私は物心ついた時からゴッドエデンにいたし……」
「わからん。日本のサッカーはカズヤ・イチノセしか知らん」
「あたし不良」
「……小学生なのに?」
1人ツッコミどころがあったけれど、皆絶妙に中学サッカーを観てこなかったのね。
「帝国学園はフットボールフロンティアで40年間無敗の強豪校よ。でも、おかしいわね……」
「何がだ?」
「いえ。確か帝国は……完全管理下に置かれてるはずなのよ」
「だったら何もおかしくないだろ。海王と同じく負けて私たちのところに来たんだろ?」
「いえ……でも、海王の時と違って帝国は"強化合宿"という名目でここに来るらしいのよ」
「……!」
アリアも瞠目する。
彼女も抱いたということは私が覚えた違和感も間違っていなさそうね。
フィフスセクター内部でのやり取り、処分ということなら海王と同じくそのように伝えられるはず。
けれど、実際は違う。
まるで表向きは強化合宿だと言い張るようなこの物言いは……フィフスセクター所属のチームに向けられた表現としては正しくない。
「……ってことは海王とは事情が違いそうだな」
「そうね。また私の憶測の域を出ない考えになってしまうけれど、帝国学園が革命を起こしているサッカー部と考えられないかしら?」
「……!それって内部分裂起こしたってことか?元々はフィフスセクターの完全傘下なんだろ?」
「えぇ。貴女の言う通り、チーム内で革命派が現れてそれがフィフス派を押しのけたんじゃないかしら」
「まずはチーム内で革命が起きたわけか……で、強化合宿って名目でゴッドエデンに連れ込んでその芽を摘もうってのがフィフスセクターの魂胆か?」
「でしょうね」
私は頷いた。
話を聞いていた皆がショックを受ける。
「えー!そんなことしたら革命終わっちゃうよぉ!」
「確かに。その帝国?ってのに自由に反乱させた方が巡り巡って私たちからしても得じゃない?フィフスセクター潰してくれたら私達も解放されるんでしょ?」
「帝国の革命が上手くいくとは限らないわよ」
「最初から他人なんて期待しない方がいい。そんな甘ちゃんじゃ王子様の救済待ってる間に死ぬぜ」
「まあ……そうだよな。諦めるしかねえよな。帝国に縋ってあたし達がおじゃんじゃ本末転倒だぜ」
意見は纏まったわね。
最初から革命なんてものに期待するのはやめて、なかったものとして意識しないようにするのが1番でしょう。
私たちはただ目先の試合に勝って延命するのが第1優先。
ゴッドエデンからの解放はその後、自分たちでやるしかない。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。帝国は総合力に優れたチーム。特に守りが硬いわ。ゴールキーパーにアリアを配置した状態でそれを突破するには……私とミク以外にもう1人攻撃できる人が欲しいわね」
もうその1人は決めてあるわ。
私は彼女を見る。
「アスカ。貴女にはシュート技を覚えてもらうわ」
「はえっ?私!?」
自分を指さして「私……」と放心するアスカ。
他の面々も目を丸くしたが、まずは私の説明を待った。
「覚えてもらう技の名前は、"ライトニングスピア"。パワーもテクニックも必要ない。ミクみたいに外さなければ合格よ」
「なんで急に私に飛び火した?その過程必要だった?ねえ」
うるさいわね。
無視よ。
「このシュートに大事なのはとにかく"数"を撃つこと。エネルギー消費が易しく何発でも撃てるのが特徴よ。その代わり、成功率は皆無。基本決まらないと思ってちょうだい」
「えっ。なにそれ。意味あんの?」
「あるわ。この技の目的は相手のディフェンスやゴールキーパーの体力を削ること。とにかく撃って撃ちまくるのよ」
「う、うーん……そう、なんだ……まあシズクが言うなら……」
承諾はしてるけどどうも渋ってるわね。
ここはもう一押し必要かしら。
「アスカ。貴女にしか頼めないの。貴女の体力がなければこの技は覚えても意味がない。それに、貴女のスピードがあれば広角から撃てる。あらゆる角度から乱打で放ち、ゴールキーパーの体力をより削れるはずよ」
「……!」
アスカが目を見開く。
効いたわね。
「えぇ~!?私にしかできないってそんなぁ……えへへ、じゃあやろっかな」
「チョロすぎだろお前……」
サエが信じられないものを見るような目でアスカを見る。
こうしてアスカはシュート技を覚えることになった。
私が言い出したことだし、私しか知らない技だからアスカの面倒は私が見るしかない。
そうなると、1つ問題が起きるのよね。
「シズク。お前はミクの世話もしてただろ。アスカもってなると帝国との試合までに間に合わなくないか」
「そうなのよ。そこを懸念していたわ。……だから、ミクは貴女に任せてもいいかしら?」
「んっ。私か」
アリアは意外そうな顔はしたけれど、異論はなさそうだった。
私は続ける。
「ミクの矯正はある程度の段階まで来ているのだけれど、あとは気持ちというか……ストライカーとしての心得的な部分が欠けているせいでテクニックに直結してると思うのよ。そうなると……」
「確かにお前はストライカーじゃないからな。難しいな。わかった。私が教えよう」
「ごめんなさい。助かるわ」
アリアは本当に話が早くて助かるわね。
彼女はその足でミクの元に向かった。
「そういうわけだ。私は厳しいぞ。だが、安心しろ。死ぬまでしごいてやる」
「こういう時って普通死なない程度に鍛えてやる的なこと言う場面じゃないの?私殺されるんだけど。え、シズクなんでアリアに任せたの?」
「応援してるわ」
「すんごいな。こんな気持ちこもってないエールあるんだ」
うるさいわね。
全部冗談よ。
「文句言うな。ほら、行くぞ」
「えっ!?明日からにしない?え、ちょ。無理無理!タンマ!ちょっと……!」
ミクがアリアに連れていかれた。
まあ……健闘を祈るわ。