『さぁ、始まります!帝国学園VSヴァルキリア!実況はワタクシ、フィフスセクター専属の居郷学が務めます!』
「……」
まだしても始まる試合。
私は帝国ベンチを見る。
「クソ!なんで俺達までもがこの試合に組み込まれなきゃならんのだ!俺達はシードだぞ!フィフスセクターがフィフスセクター所属のプレイヤーを潰すというのか……!」
「俺達が処分対象……!一度負けただけだ!次こそは必ず……!なのに、なんでこんなに早く……!」
まあ反応としては海王学園とさほど変わらないわね。
ひとつ違う点があるとすれば……。
「ふん。お前達はフィフスセクターから見放されたということだろう。ご愁傷様なことだ」
「雅野、貴様……!お前も標的なんだぞ!革命などとコソコソとやっていた貴様達帝国もフィフスセクターに目をつけられたのだ!合宿など表向きの名目!これは反乱分子を潰す為の作戦だ」
「あぁ。だが、この試合に勝てばいいんだろう?簡単なことだ。―――帝国のサッカーを舐めるなよ。部外者が」
「……っ!」
雅野と呼ばれたのが帝国キーパーにしてシードを除けば実質的なリーダー、雅野麗一くんね。
そして、悪態をつき、フィフスセクターの思惑をペラペラと話してしまったのが御門春馬くん。
キャプテンでシード。
「それより良いのか?これはあくまで"強化合宿"なんだろ?お前、そんなに口が回って……だから、用済みになったんじゃないか?」
「ぐっ……!き、貴様……」
これは完全に雅野くんに軍配が上がったわね。
というか遊ばれてるわ。
「さて、試合開始といくか。御門、竜崎、飛鳥寺、逸見。お前たちも俺達に協力し、全力を出さなければ……"お仲間"に潰されるということを忘れるなよ?」
『……!』
シードの名を挙げる雅野くん。
発破をかけるのが上手いわね。
まあ、彼らの態度を見るに最初のうちは効果がないでしょうけど。
一瞥した雅野くんに御門くんたちは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
そんな光景をヴァルキリアは眺めていた。
「……なんかやりにくくない?別にこっちやりたくて潰そうとしてる訳じゃないんだけど」
「こればっかりは仕方ないわ。意識するのをやめましょう。私たちはただ、自分たちが生き残るために目の前の試合に勝つだけよ。……少なくも今は」
このまま我慢する気はさらさらないわ。
けれど、海王戦からまもなくチーム状況も整備できてない今の段階で行動に出るべきではないのも確か。
とにかくもう少し落ち着いてからね。
「さて、じゃあ今日の試合だが―――っ!!」
「アリア……?」
アリアが直前ミーティングを始めようとしたけれど、瞠目して固まった。
視線は私たちの背後。
何かを見て反応した。
私たちも恐る恐る振り返る。
けれど、私たちが認識するよりも前に。
「オホン。いいかね?私が喋っても」
『……!』
その声は私たちに刷り込まれている。
一発で誰かわかる。
牙山道山。
私たちの絶対的な支配者。
彼には逆らえない。
教官は私たちの意識が向いたことを確認して、もう一度咳払いする。
そして。
「では……静・粛・にーーーーっ!!」
「いや、誰も喋ってねえよ」
サエのツッコミを受ける教官。
もちろん無視されるけれど。
「オホン。処刑人としての試合もこれで2度目。そろそろ慣れてきた頃であろう?」
「……!」
全員の目付きが鋭くなる。
当然よ。
こんなもの、慣れるわけないし慣れたくもないわよ。
けれど、彼の言うこともわかる。
私にも思うところ……というか、嫌な予感はある。
もし、慣れてしまったら。
相手の処遇を左右することに順応してしまったら。
そんなことはないとは思うけれど、それでも私たちが切羽詰まったら……ないとは正直言いきれない。
でも、それは"今"ではない。
「この試合、君たちに命ずる。この試合より"ブレイク"の使用を解禁するッッ!!」
『……っ!』
アリアに注目が集まる。
けれど、彼女は私を見る。
……まあ両方でしょうね。
「待てよ。海王の時はなかっただろ」
「ほう。それが教官に対する口の利き方かね?」
「……っ。……待ってください。海王の時はそんな指示、なかったですよね?」
アリアが顔を顰めながら言い直す。
彼女の性格を考えるに、チームに所属していなければきっと訂正しなかった。
けれど、今は下手に評価を下げると仲間が危機にさらされる可能性がある。
だから、下手は打てない。
「海王とは違い、彼らは反乱分子の可能性を秘めている。故に、ここで反乱の芽を摘んでおく必要があるのだ」
「……!それはつまり……物理的に彼らに反逆の術を奪うということ、サッカーをできなくして……ということでしょうか?」
「その通り!」
「……っ」
やはりそういうことね。
帝国学園。
おそらく彼らが革命を起こしている者たち。
その反逆に対し、フィフスセクターは手を打った。
強化合宿という名目でゴッドエデンに連れ込み、処刑人である私たちの練習試合をさせる。
それが処刑とも教えずに。
私たちは、そんな姑息な手に協力し、帝国を潰す。
そして、従わなければ私たちがお払い箱になる、と。
……だったら私たちに選択肢は無い。
私はアリアと向き合った。
「アリア。私も……やるから」
「シズク……!お前、本当にできるのか。それも、今すぐに」
「えぇ。とはいえ私には貴女以上のテクニックはあってもパワーは圧倒的に足りない。だから、少し"工夫"がいるけれど……とにかく私もやるわ」
「わかった。すまん、頼む」
「大丈夫よ。貴女を1人にはしないわ」
「……!」
私は微笑んでアリアが瞠目する。
そして、頷きあった。
「でも、いつもより気楽なこともあるよね」
「あ?どういう意味だよ」
「いやだって……ブレイクしなきゃいけなくなったけど、それはそれとして向こうは海王とは違ってフィフスセクターの完全な傘下じゃなかったんでしょ?だったら帝国は倒しても"外様"なんだから処分はされないじゃん」
『……!』
アスカの気付きに全員が目を見開いて彼女に注目する。
さすがに視線が集まってギョッとしたアスカが「え、え、ごめん。なんか私変なこと言った……?」とオロオロしてしまったけれど、「大丈夫。貴女の視点が見事だったから皆面食らっただけよ」とフォローする。
「アスカの言う通りだわ。ブレイクはしなければならないけれど……試合に勝つ分には心置きなくやれる。この試合、勝つわよ!」
『おー!』
この気持ちの違いはデカイ。
私たちは気合いが入った。