松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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VS帝国学園 黒鳥の爪に、狼の牙

 

『さぁ、キックオフです!』

 

「行くわよ、王者のタクト……!」

 

私は帝国のFWをドリブルで突破してMFを躱しつつサエにパスをだす。

 

「よっしゃ。さっそくいくぜ!」

 

サエの出したパスは低く鋭い弾道でディフェンスラインまで上がっていたアスカに繋ぐ。

アスカは前線でトラップ。

そして、すぐに。

 

「シズク!」

「貰うわ」

 

ディフェンスが集まってくる前に右に短くて簡単なパスを出して、私がパスルートまで向かう。

当然これだけ単純な繋ぎ方と人数の少なさだと私の行動は筒抜けだからMF2枚がついてきてるしDFも前方で待機してるけど、私からすればあってないようなもの。

私がトラップしたのを見て迫ってきたDF。

後ろも一瞥してから私は再度トラップした。

今度はヒールと側面で。

 

「……っ!こ、こいつ!」

「上手い……!」

「……!」

 

私は3段階トラップを駆使して3人を翻弄し、意表をついてから躱してゴール前に躍り出る。

これでゴールキーパーと1対1。

チャンスにして、一番の鬼門。

帝国のNo.2プレイヤーは彼だと私は睨んでいるから。

 

「行くわよ!」

「……来い」

 

脱力から構えをとる雅野くん。

私はそんな彼に対し、シュート体勢に入る。

とはいえキングス・ランスは今日のところ封印の予定。

この試合、守りの硬い帝国相手では総合力の低いヴァルキリアの攻撃は基本通用しない。

確実に決められる場面で大事なカードは切りたい。

つまり、前半のこんな序盤で私の体力とパワーをごっそり奪うキングス・ランスは使えない。

帝国の持久力と防御力に対して、最後まで拮抗しなければならない。

そうなると体力は温存しておきたい。

だから、最初のシュートはあくまで帝国の攻めの時間を減らすための決める気のない攻撃。

無論、それでも多少は決めにいくけれど。

とにかくこの試合は海王の時と違ってロースコアになる可能性が高い。

だから、最初から得点を急がない。

ここで放つのは省エネのシュート……!

 

「ティアードロップ……!」

「ぬるい!はぁぁぁー!はぁ!!」

「……っ!」

 

私が上空へボールを上げ、回転しながら飛び、オーバーヘッドで落とす技。

それは涙のようにしっとりと、逆さの弧を描いてゴールまでの起動を辿っていく。

それなりに決める気では撃ったのだけれど、雅野くんは必殺技も使わずにキャッチした。

やはり正面からティアードロップ程度のシュートでは突破できないわね。

 

「お前、手を抜いたな?」

「……!」

 

雅野くんの指摘に私は目を開く。

彼はボールを片手に鼻を鳴らす。

 

「我々は手加減して勝てる相手ではない。帝国の守り、帝国のサッカーを舐めるなよ。女」

「気に入らないわね。その呼び方。私の性別は陸奥滴よ。そして、今にわかるわ。貴方も私たちを舐めてるということを」

「ほう。ならば―――魅せてみろ」

「……!」

 

雅野くんが高くボールを上げる。

ならば。

 

「王者のタクト!」

「……っ!」

「……!この女!」

 

私は自ら高く飛び上がって帝国DFからボールをヘディングで奪った。

パスした先でミクと帝国DFがフィジカル勝負。

 

「くっ……!こいつ!」

「嘘だろ!?ビクともしねえ。女のくせに、どんだけフィジカル強いんだよ……!」

「これ毎回言われなきゃダメ?」

 

ミクが渋い顔をしながらそれでも全く譲らない。

男二人がかりでチャージされてもビクともせずボールをキープした。

私は彼女に指示を出す。

 

「ミク!」

「……!アスカ!」

 

アスカが機動力を活かしてフリーになりミクの前に躍り出てパスを要求した。

ミクはパスを出す。

 

「させるかよ!」

 

ゴール前で簡単にボールが通るはずがない。

相手の陣地。

当然、ポジショニングの観点から即座にカットが入る。

しかし。

 

「ほい、失礼。前通るよ」

「……!?は!?いつの間に……!?」

 

割って入ったはずなのに。

後ろにいたはずのアスカが突如前に現れて困惑するDF。

何度も後ろを振り返り、カットするつもりがカットされて動揺する。

アスカはパスカットをカットした。

凄まじいスピードと瞬発力。

でもそれだけ。

ただその一点だけが突きぬけ、他の能力は平均以下。

それが彼女たちが低ランクたる所以。

それでも、私ならそんな彼女たちを上手く使える。

特技を活かしてあげられる。

そして、帝国とも戦える……!

 

「さぁ、よってらっしゃいみてらっしゃい。そんなに見るもんじゃないよ、"ライトニングスピア"!!」

「……!」

 

『ヴァルキリア、榛名がシュート!』

 

実況が叫んだ通り、アスカは完全に体勢を立て直す前に浮いたボールを足で描いた円で囲い、その中心のボールを足の裏で突いた。

どんな体勢からも打てる超適当、けどちゃんとシュートな技。

淡い水色の槍がゴールへと向かう。

 

「くだらん。ひと目でわかる。なんて弱いシュートだ!まるで迫力がない」

 

『雅野難なくキャーーッチ!ヴァルキリア、先制ならず。惜しい!』

 

「……」

 

雅野くんは片手で捕った。

……今はこれでいい。

ここら始まるのだから。

 

「ライトニングスピア!」

「ふん」

「ライトニングスピア!」

「……っ!やるな」

「ライトニングスピア!」

「はぁぁ!どこから撃っても無駄だ。帝国の守りを舐めるなよ?」

「ライトニングスピア!」

「……!」

「ライトニングスピア……!」

「ぐっ……!」

「ライトニングスピアぁーーーー!!」

「ええい!しつこい!!」

 

『雅野これで11連続セーブ!榛名が止まらない!縦横無尽にフィールドを駆け巡りあらゆる角度から帝国ゴールを攻め立てているぞ……!』

 

実況の言う通り、アスカはある時は右サイドから。

と思ったら次は一瞬で移動して左サイドから私のパスを受けてシュートを放ち、それを繰り返す。

1人で何人分ものシュート機会を得て、雅野くんを攻め立て続ける。

 

「クソ!どうなってる。なぜあの女は帝国相手にあそこまで何発もシュートを撃てるんだ!」

「帝国の守りだぞ……!?奴は何者だ!」

「……っ」

 

私がミクとサエとチェンファとチェンナイと、時には自分を使って巧みにボールを帝国ディフェンスラインで奪い留めアスカに無理やり繋いでいる。

ただそれだけのカラクリ。

特殊なのはそれを当たり前に成し得る私のゲームメイクの能力による的確な指示と瞬きの間にフィールドのあらゆる場所に現れるアスカの脚力だけ。

雅野くんほどのキーパーはまずヴァルキリアの戦力では破れない。

攻め立てることはできても威力はしょぼすぎるアスカのシュートを駆使して体力を削ることに成功している。

ここまで上手くいくとは思わなかったけど、これはかなり効果的な戦術とわかった。

あとはこれがどこまで続けられるか。

どこまで通用するか。

さすがにそろそろ私とアスカに自由にさせる帝国ではないでしょう。

 

「いい加減にしろ!こんな奴、化身でねじ伏せてやる。黒き翼・レイブン!!」

「うわっ!ちょ、それ反則だって……!」

 

アスカに化身が迫る。

いけない!

アスカの能力では確実に潰される……!

 

「終わりだ、女……!」

「ちょ、待っ―――」

「アスカ!」

 

私が叫ぶも遅い。

アスカは御門くんの化身アタックで再起不能に……なる前に彼女を守り、レイブンの爪を止める化身の拳あり。

 

「アスカはやらせない。私が守る」

『……!』

 

御門くんとアスカの間に待って入ったのはミク。

彼女の化身、魔狼アモンがレイブンを阻んでいる。

そして、ミクは強者と対峙する。

 

「君の相手、私だから」

 

ミクはそう言ってアスカからボールを預かり、御門くんと衝突した。

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