松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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VS帝国学園④ 帝国サッカー

 

「クソ……!」

 

後半開始前。

帝国のロッカールームにて、御門春馬がロッカーを蹴る。

隣で龍崎も下唇を噛んで悔しそうにしている。

そんな様子に、帝国のメンバーは冷ややかな視線を送り誰も声をかけなかった。

もはやチーム内で誰がシードなのかは明白。

チームそのものも劣勢のため、全体的に意気消沈はし他人を気遣う余裕はないものの、そうでなかったとしても味方ではない彼ら4人を励ます仲間はいない。

 

ただ1人を除いて。

 

「無様だな。同じシードでも、お前たちは大したことがない部類だった訳か」

「なっ……!何だと!雅野、貴様……!」

「……っ!」

 

煽りながらロッカーにタオルをしまう雅野は淡々とクールに述べ、横目で睨んだ。

そんな彼を御門が胸倉を掴み、両者は鋭い視線を交錯し合う。

だが、「ふん」と雅野の方から御門の手を払い、彼はみんなの前に出る。

 

「後半の作戦を伝える」

『……!』

 

雅野くんの姿を見てみなが彼に目を向ける。

総帥が不在、加えてキャプテンの御門に裏切り者の烙印。

実質的なリーダーが雅野である事に異論を唱える者はいない。

唯一反対派のシード達にその資格はないから尚更。

誰もが認め、彼に耳を傾ける。

 

「後半は、御門と逸見を主体に攻撃を仕掛ける」

『……!?は!?』

 

傾けた耳を次の瞬間には疑った。

みんなの注目が2人に集まり、すぐに雅野に戻る。

 

「正気か雅野!?」

「なんでだよ!なんでこいつらなんか……!」

「まさか信用してるのか、こんなヤツらを」

「こいつらは総帥に忠誠を誓っていない。フィフスセクターから送られてきたシード。帝国の敵だぞ……!」

「……」

 

仲間に糾弾され、それを一身に無言で目を瞑り受け止める雅野。

騒ぎが収まると、終わったか?とでも聞くように彼は瞼を開ける。

 

「雅野、お前……っ。何のつもりだ」

「試合前にも言ったはずだが。我々の立場はそう変わらない。いがみ合っている余裕などない」

「……っ!」

 

雅野の言葉に御門以外は押し黙る。

あとは、2人以外に発言権はない。

 

「立場が変わらない……だと?貴様達と違って俺たちは処分されるんだぞ!?」

「我々は強化合宿という名目で呼ばれた。だが、どうせ向こうは事故を装って潰すつもりだったんだろ?」

「……!そ、それは……」

 

御門が詰まる。

それだけで答えを言ってるなもの。

だが、いちいち指摘するつもりない。

それよりも今は状況を打開する話し合いが必要。

 

「この試合、勝たなければならない。雷門や革命軍が倒れた時、最後の砦は我々帝国学園だ」

「……!雅野、お前……!」

 

雷門や革命軍の存在を本来敵のいないロッカールームとはいえフィフスセクター側の御門たちの前で口にした。

それは信頼か。

否、そこまでではない。

ならば、彼の真意は。

それすなわち覚悟。

雅野は、自分のやるべきこと、役割を自覚している。

 

「我々は負けられない。潰される訳にもいかない。最後の砦が最初に崩れることなど許されるはずがない」

「……っ。だから……っ、俺達と協力すると?」

「そうだ」

「いいのか?俺達は帝国のプレイヤーじゃないんだろう。仲間でない者と手を組めるのか?」

「確かにお前達は帝国でも仲間でもない。だが、腐っても帝国にいた。帝国のサッカーは知っている」

「……!」

 

御門が目を見開く。

 

「帝国のサッカーは高く、険しく、崇高だ。決して余所者には触れさせない。百歩譲って……帝国のサッカーを知っている者を除いては」

 

雅野は、目線を下げて耽る。

彼は想起している。

帝国の歴史は必修項目。

そして、鬼道総帥の口からも証言は取れた。

かつて帝国のサッカーは外部へと共有された。

 

その時生まれたものが、"デスゾーン2"。

 

帝国のサッカーは秘匿性が高く、誇りがあり、外部の者は関わらせない。

だが、歴史上で唯一許された者たちがいる。

それが盟友・雷門校。

円堂守や風丸一郎太を始めとした雷門のプレイヤー達。

雅野はその前例を利用し、今回の事例も許されることだろうと睨み、それを口実に彼らを口説く。

 

「貴様は"理解者"だろう?違うのか?」

「……!」

 

2人の視線が逸らされることなく真っ直ぐに交錯する。

今度はどちらも逸らさない。

今、試されている。

問われている。

決して仲間ではない。

だが、戦友に。

 

「……黙れ。分かったような口を聞くな」

 

御門は雅野を睨みつけた。

空気がひりつく。

緊張感が走る。

でも、それは悪い意味ではない。

利害の一致。

けれど、2人の間に結ばれたそれはその言葉に似つかわしくないほどに、硬い。

 

「帝国のキャプテンは……俺だ!」

「フッ。ならば、お前のサッカーを1番理解しているのは―――俺だ」

 

御門の意気込みに、雅野が片手を腰に据えて目を伏せ不敵な笑みを浮かべて応える。

2人の胸に。

いや、ここにいるイレブンの胸に刻まれた共通の名前。

後半45分。

それが、このメンバーが真に"帝国学園"と名乗れた唯一の時間となる。

 

 

 

 

 

ラスト5分。

ここまで温存してきた私の体力全てをそこで解放する。

そして、そのサポートとして敵ゴール周辺を比較的パス能力の高いサエ・チェンファ・チェンナイで囲う。

アスカにも補助として陣形の外周を走り回ってもらう。

敵ディフェンスは関係ない。

全て、私のドリブルで突破するから。

 

「今度はフルパワーよ」

「……!」

「ティアードロップ!」

 

雅野くんと1対1。

私は本気で必殺シュートを放った。

 

「はぁぁー!……!くっ……!」

「……!弾いた!」

 

雅野くんが正面からノーマルキャッチを試みて、シュートが勝った。

けれど、シュートは雅野くんを突き飛ばしただけで上に逸れてゴールポストに当たってフィールドに戻ってくる。

 

「アスカ!チェンナイ!」

「ご注文承り。ほいほいさ」

「任せて!」

「……っ!こいつら!」

 

こぼれ球を奪い合ってそこにアスカが参入し、ディフェンスはアスカが身体をぶつけて共にジャンプし、チェンナイが共にディフェンスを抑えながらボールを胸トラップする。

その流れで胸のワンタッチから重力に任せて足元に落とし、蹴り上げてボールはカットしようとした帝国DFの足をワンテンポ早く掻い潜り、私の元へ。

当然、私にもブロックが入る。

ついさっきシュートを撃ち、こんな私だけが攻撃すると宣言しているような丸わかりの作戦で2本目以降フリーに撃たせてもらえるわけがない。

 

「ここは通さん!」

「あらそう。構わないわ。自分の力で通るから」

「なっ……!?」

 

私の前に立ち塞がった龍崎くんが瞬きの後、瞠目する。

それは私のスキルを目の当たりにしたから。

私はドリブルで彼を躱した。

彼の目を奪うくらいのテクニックで。

 

「こ、こいつ……!上手い!」

「いや上手いなんてもんじゃねえだろ!なんなんだこの女!一体何者だ!?」

「今まで見たドリブルで1番……!」

「……」

 

龍崎くんを突破して雅野くんと1対1。

彼はまださっきのティアードロップを弾いてから体勢を完全には整えられてない。

それもそのはず。

そうなるようにアスカ達で周りを固めせてすぐに次の攻撃チャンスが来るように誘導したから。

それに私のドリブルは速い。

本気のドリブルならディフェンスを抜くのにこれ以上の速さは世界中を探してもそうはいない。

雅野くんが立て直す前に、そこを狙ってぶち込む!

ここまで温存していたパワーシュートで!

私はドリブルでゴール前に行き、シュート体勢に入った。

 

「キングス・ランス!」

「くっ……!」

 

雅野くんが顔を顰める。

本当は必殺技を使いたいでしょうけど、身を起こして正面で捉えるので精一杯でしょう。

これは……決まる!

 

「ぬおおお!らぁ……っ!!」

「……!?」

「……!?御門!!」

 

御門くんが割り込んできた!

雅野くんにキングス・ランスが到達する前に彼が飛び蹴りで足を入れて、私のパワーシュートを相手に顔を顰めて踏ん張る。

そして、彼は私のキングス・ランスを弾いた。

ボールは上に逸れてポストに当たり、また浮いてフィールドに戻ってくる。

……っ!有り得ない!いくら御門くんがキック力が売りのシードとはいえあれほどのパワーシュートが咄嗟に入れた足でカットされるはずがない。

つまり、シュートの、キングス・ランスのせいじゃない。

私の技術不足……!

授かったキングス・ランスが"完全"じゃない……!

なんて非力なの。

あれだけ教えてもらって習得できていないなんて、貧弱な女ね本当に……!

 

「アス……いえ、チェンファ!」

「えっ!?いや無理……!」

「……っ!」

 

高さ勝負。

チェンファと帝国DFがボールを見上げて準備するけれど、チェンファはやる前から負けを予測している。

そして、それは正しい。

私の目から見ても能力が足りてない。

けれど、今行っている陣形からして最もジャンプ力があるのはチェンファで、ポジション的に担当も彼女。

ここは彼女に任せるか、もしくは私が無理やり高度からのシュートを撃ちに行くしかない。

でも、御門くんが戻ってきた今、あの高さから撃てる私のシュートじゃゴールを奪えないしその後にも繋げられない。

どうする?

いえ、どうしようもない。

苦し紛れのシュートで少しでも私たちの攻撃ターンを伸ばすしかない。

それでタクティクスは終了。

作戦は失敗。

幸い、途中でタクティクスが終わるから私の体力は残る。

また新しく作戦を考えて……ぶっつけ本番最後のギリギリで?

いえやるしかない。

ここはもう組みたて直すしか―――

 

「……っ」

 

ボールを見上げる私の脳裏に"負け"の2文字が浮かぶ。

上空に滞空するボールがスローに見える。

それを目に焼き付けて、グルグルと高速で思考を回す。

マイナスの思考を。

ダメ。

新しい策なんて、打開策なんてないと。

そもそもこの作戦でしか勝てないと踏んで博打を承知で実行しているというのに、現場でギリギリでそんな起死回生の案が浮かんだら苦労しないわよ。

今日は勝ってもいいのに。

負け以外は許されるのに。

そんな絶好の機会にやらかしてしまった。

私の作戦が甘かった。

いえ、戦力の差が如実に表れただけ。

唯一成功率が低く、けれど失敗してはいけない一筋の光を閉ざしてしまっただけ。

高難易度に負けてしまっただけ。

終わる。

私達の命が、命運が―――ここで尽きる。

 

動悸が、激しくなる。

私は、守れなかった。

私は、大切な者を死なせてしまう。

誰もが諦めた。

 

「まだ終わってない」

 

脳から指先まで冷え、肩で息をする私達とは異なり。

誰も届かない到達点でボールをトラップした未来を除いて。

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