松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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VS帝国学園⑤ ストライカーの誕生

 

『ミク……!』

「……っ」

 

誰もがその名を叫ぶ。

ミクはボールを足で抱えてキープしてそのまま地上へと着地した。

 

「奪え!奴らの作戦を打ち砕くなら今だ!」

「……!」

 

御門くんが指示を出して、帝国プレイヤーたちが頷きディフェンスがミクからボールを奪いに行く。

ミクはそれを見てゴールの方を向いた。

そして、足を振り抜いた。

 

「は!?」

「シュート……!?」

「……!」

 

ミクはシュートを撃った。

その軌道はゴール真ん中高めに浮き、雅野くんが跳ぶ。

 

「くっ……!」

 

ガンッ!と音を立ててポストが弾いた。

今度は転がってゴール前に集まったプレイヤーたちの元に来る。

 

「……!」

「とれ!帝国ボール!」

「……っ!いいえ、これは……!」

 

私は化身を出す。

強引にでも取りに行く。

このボールは逃せない。

ここを奪われたら、最後の希望も絶たれる……!

ミクが繋いだ唯一の勝機。

あの子はいつも私を救ってくれる。

だから、眩しく、縋ってしまう。

私の光だから。

そして、あの子が作ってくれたチャンスを死んでも無駄にしたくないといつも思ってしまう。

なぜかはわからない。

気づいたら考えるより先に動いてる。

私の本能……!

 

「私たちのボールよ!」

「ぐあっ!?こいつ……!」

「なんて奴だ!この土壇場で……!」

 

私はボールを奪い、帝国ディフェンスを化身で吹き飛ばして突破する。

私はアリアやミクと違って女らしい非力だから。

そこの才能だけはないから。

女子の域を出られなかったから。

この終盤体力を温存した上に化身を使ってやっと。

それもバテた彼ら相手でようやく力勝ちする。

そこまで条件を揃えないと無理。

本当に嫌になるわ、この貧弱さは……!

 

「いかせるか!お前にシュートは撃たせん!」

「……っ!!」

 

私は迫る御門くんを含めた、ブロックに来た2枚を瞳に映して一瞬ギョロ目で舌を出した。

自分の意思じゃない。

限界のプレイの中で勝手に出た。

すぐにしまって、今度は歯を食いしばる。

ここは力む場面。

私が出せる全身全霊のドリブルを……繰り出す!

 

「……っ!!」

「なっ……!は!?こいつ、ドリブルうま……っ!」

「ドリブルの鬼かよ!!」

「えぇ。そうよ。だって私に最初に与えられた、それでいて1番の才能はドリブルだもの」

「……!」

「逆にゲームメイクやなんでも出来る完璧さは才能もあるけれど、半分は努力。後天的に身につけた能力……よっ!!」

「……!?いや無理……!」

「クソ!すまん!抜かれた!」

『……っ!』

 

私はすべて突破した。

あとは雅野くんだけ。

今度は完全に臨戦態勢で迎えられている。

他の帝国メンバーは御門くん達より私に忌むべき視線を向けている。

御門くんたちを責めないのは、私が魅せたからでしょうね。

皆、まるで理不尽でも訴えるような目つきだもの。

私の本気のドリブルを前にして本当にそれを抱いたんでしょう。

それだけ私のドリブルは異次元。

自分で言うだけある程に。

だって、事実だし相手の反応を見てもわかるもの。

私のドリブルは"普通"ではないと。

自信もある。

それでも物足りないと思うのは、年齢も離れていて名高いプレイヤーの親戚の男の子にみっちりと鍛えてもらったゲームメイクと必殺技がまだ未熟なせい。

あれだけのプレイヤーに、それも男の子と散々一緒にやって嫌でも才能以上に女子としては異次元に上手くなって、それでも足りない。

悔しい以外の何物でもないでしょう。

彼ほどのプレイヤーの時間を奪って、その程度しか吸収できていないんだもの……!

 

「……試合中にする反省ではないわね」

「雅野!行ったぞ!」

「止めろ!」

「……言われなくとも、分かっている」

 

私はシュート体勢に入る。

雅野くんは構える。

 

「今度こそ決めに行くわよ!」

「……!」

「月光丸・燕返し……!!」

 

私が彼に教わった2つ目の必殺技。

パワーよりテクニック重視だからこっちの方が私に馴染む。

とはいってもやはり男の子が使う技だから私からすれば力みすぎなくらいパワーを込めないと撃てないけれど。

ただ、今私が出せる最大のカードなのは間違いない。

ゴールを決めることにおいては、だけれど。

これで決まらなければ……もう最低な発想しかないわね。

出来れば選びたくない。

だから、これは決まりなさい!!

 

「甘い!はぁぁー!」

「……っ!」

 

雅野くんがノーマルキャッチでとりにいく。

月光丸・燕返しは彼を少し押し込んだけれど。

彼を弾いてフィールドに戻ってきた。

 

「……っっ!!これでも……!そんな……!」

「くっ……!」

「ナイスだ、雅野!死んでもとれ!このボールだけは!ここで奴らのタクティクスを割らなければチャンスはないぞ!」

『……!おう!』

 

またフリーになったボールの争奪戦が始まる。

帝国のディフェンスと私たちが集結する。

その中で私は絶望している。

月光丸・燕返しが決まらなかったのはかなり痛い。

それでもミクの言う通りまだ時間は残ってる。

私の作戦実行が5分早まったのも相まって予定よりも多く。

誤算とはいえ余ったその想定外の時間を利用しない手はない。

打つ手がなくとも、仲間の命がかかっているこの試合で、無謀でも最後まで足掻く時間があるだけでもマシと思うしかない。

最後まで足掻くしかない。

もう理屈じゃない。

気持ちの問題。

やるしかない……!

そう思って、集結したプレイヤーが我先にとボールに足を伸ばしたその時。

 

「邪魔だ」

『……!?』

 

突如、掻っ攫う者あり。

長袖のプレイヤー。

視界を横切った金色の長い髪。

アリア……!

 

「今度こそラストチャンスだ。決まらなきゃ、向こうにボールが渡って空っぽのゴールにぶち込まれて終了。だから、絶対に決めろ」

「……!アリア……!」

 

アリアが駆け抜けてボールを奪って左サイドに目を向ける。

視線誘導。

私にそっちにいけという合図。

行ったところでもう私に残されたシュート技は"最悪のとっておき"の1つしかない。

教官の指示があるからどうせ撃つことにはなるけれど、それは本来1点を奪ってからの予定。

けれど、もうやるしかない。

もう贅沢は言ってられない。

他に手はない。

そのカードをここで切って、1点をとりにいく。

教官の指示と勝利を一緒には実行したくなかった。

それは手を汚した勝利だから。

せっかく勝ってもいい試合なら、今日くらいは皆に気持ちのいい勝利を提供したかった。

でも、もう……やるしかない!

私はアリアの指示通りの場所に駆ける。

 

―――けれど、彼女は私が走り始めたと同時に予定より早くパスを出した。

 

「は?」

「……決めるのはお前だ。そうだろ?ミク!」

 

その位置に出したパスに私が今から到達するのは無理。

間に合わない。

私はアリアの動きで一度フリーズして、彼女が口にした名前を聞いて再度瞠目した。

ミク!?

 

「……わかった」

「まずい!フリーだ!」

「バカ!奴はノーコンだ!どうせ決まらん!」

「そういう問題か!?ここで決められたら終わりだぞ!!」

 

ゴール前がパニックになる。

雅野くんも下唇を噛んで構える。

ミクは完全フリー。

ゴールを狙える。

でも、向こうの言う通り……この場面をミクに任せても決まらない!

アリアには何か考えがあるのかもしれない。

確かにあの子にミクの矯正は任せた。

その鍛錬の中で、何か策を見出したのかもしれない。

でも、申し訳ないけど今じゃない!!

嫌な手段でも一点を確実に決められる手段は私の中にある。

それを試合前にアリアにも共有している。

そして、ここはそのカードを切ってまずは勝利を確実にする場面。

一体何を考えてるの!?

ここで博打してる余裕なんてウチにはないわよ……!!

 

「ミク!よしなさい!アリアに戻しなさい!そして、私に繋ぐのよ……!いえ、もう無理。密集しすぎてすぐにカバーされる。私に撃てるルートはない。アリア、貴女ぁ……っ!!」

「落ち着け。そして、信じろ。ここまでミクが成長を見せなかったのは"わざと"だ」

「……は?」

「説明は後でする。まずは見ててくれ。ストライカーの誕生を」

 

アリアが告げて、私は振り返る。

ミクを見る。

彼女は、足を振り上げてゴールに真っ直ぐ照準を捉えていた。

そして、彼女の脳裏に言葉が過ぎる。

 

『ミク。お前はいつも全力で蹴りすぎだ。だから、力んでミートがズレる。お前がお前のパワーに振り回されてどうする。いいか?お前はな―――』

 

「……」

 

キックの体勢に入りながら、ボールを見つめ、その後顔を上げる。

彼女は肩の力を……"抜く"。

 

『軽く蹴ればいい。お前のパワーなら、それだけでディフェンスが何枚いても突破できる。ミートにだってリソースを避ける』

 

アリアの言葉は、納得はできなかったけど正しいとは思った。

与えられた才能を、パワーを全部使わなきゃ勿体ない。

どこかでそう思っていた。

いや、今も思ってるしアリアに諭された時も思ってた。

でも、それじゃダメなのは結果が示してる。

それにアリアの言うことを聞いておくべきなのは彼女が試合で示してる。

間違いなくアリアの方がサッカーが上手い。

そんな彼女の言うことは自分より信じられる。

それに、その後に言われた彼女の言葉がずっと耳に残ってる。

最後に納得よりも正論を優先したのは、その一押しがあったから。

その言葉は……。

 

『今言ったことができれば……このチームのエースストライカーは私じゃない』

『えっ?』

 

アリアはチーム内で絶対の存在。

そんなこと有り得るわけないと思った。

それでも。

その言葉は魅惑の魔力があった。

 

 

『このチームのエースストライカーはお前だ。ミク』

 

 

指をさされて、目を見開いた。

アリアは私の反応を見て言った。

今の言葉に魅力を感じたなら、私が思ってたよりお前はサッカープレイヤーだなって。

 

また、アリアの言葉を思い出す。

 

"吠えろ、ミク。お前はなんだ?"

 

「私は……ストライカーだ!!でぇぇやっ!!」

「はぁぁー!"パワースパイク"!!」

 

私のノーマルシュートを雅野くんの作った衝撃波が阻む。

でも、それは一瞬。

次の瞬間、誰もが目を疑った。

 

雅野くんの作り出した壁が……一瞬にして割れたから。

 

「なっ!?は!?うわぁぁぁーー!!」

 

『ゴォォォーーーール!!後半残り6分!長い拮抗を破ったのは長門未来!それも信じられなーい!いとも簡単にゴールを奪ったぁ!なんというパワーだぁ!!』

 

「よっしゃぁーーーーーーっ!!」

 

ゴールネットにシュートが突き刺さったのを見て、私は自分でもビックリするほど喉を枯らした。

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