「えっぐ!マジで!?」
「て、帝国のキーパーを秒で破っちまったぞ……」
誰もが愕然とする。
それは相手も。
「俺のパワースパイクが……!」
「あ、有り得ん。雅野の必殺技がまるで紙切れのように……!」
膝から崩れ落ちる雅野くんと、その姿を目に焼き付けて唇を噛み締める御門くん。
御門くんの下ろされた腕の先には無意識に力を込められた拳。
ここまであれほど苦労してどちらも喉から手が出るほど欲していた先制点をいとも簡単に取ってしまった。
私は緊張の糸が切れる。
「……っぁ!……っ!」
「ちょ、シズク大丈夫!?」
つい膝から崩れ落ちた。
チェンファが慌てて駆け寄ってくる。
私は「大丈夫よ」と彼女を制した。
でも、本当は大丈夫じゃないわね。
私の作戦はギリギリの博打でそれが上手くいかなければ皆の命はお釈迦だった。
それが失敗で確定していた。
それだけ月光丸・燕返しで雅野くんを破れなかったのは誤算だった。
まだもう1つ必殺シュートはあったし、それで破る可能性はあったけど確証はなかったし、私のタクティクスが無為に終わる可能性がどんどん跳ね上がっていくことに、胸の動悸も止まらなかった。
皆の命を預かっている中でのこの博打。
本当に心臓が持たない。
あまりに極限すぎて先制した瞬間、一気に精神的な疲労が来た。
いえ、体力も正直あと二割もない。
ドリブルとキングス・ランス、月光丸・燕返し、化身で大半を消費した。
あとはもうひと仕事に残しておきたいから実質これで私は木偶の坊確定。
でも、それでいいわ。
正直もう……点を取るために頑張りたくない。
「……」
発汗が止まらなかったけど、息をついてやっと収まった。
センターラインに戻ってミクに目を向けた。
ミクも私に気づいた。
「大丈夫?」
「え、えぇ。それより助かったわ。貴女が決めてくれなければもう終わりかと思っていたから」
「そっか。じゃあ決められて良かった」
「……聞いてもいいかしら。なぜ貴女、最初からゴールを決めなかったの?貴女の矯正が上手くいってたのを最初に言ってくれたら、博打みたいなタクティクスは使わなくて済んだのよ?」
「あー……ごめん。アリアがシズクのタクティクスが無効になった時まで取っとけって。途切れる直前にフォローしてあげろって言ってたから」
「……そう」
まあ、理には叶ってるわね。
私は口元の汗を拭って視線を落とした。
要するに私の作戦が上手くいかなかった時の補完だったわけね。
私たちはぶっつけ本番ばかりだし。
今日みたいな極限の試合で初手から試したくなかったのでしょう。
とはいえ納得はできないわ。
もっと早く助けて欲しかったから。
「仕上げに入るわ。ゴール前で私にボールをちょうだい。教官からの課題も済ませてしまいましょう」
『……!』
「そ、それって……」
「言わなくていいわ。腹括ってやるしかないもの」
アリアが屈伸してるけど、やるのは私。
ちゃんと準備はしてきてるわ。
「このまま終わってたまるか……!」
「御門、頼んだぞ」
「……!あぁ!」
御門くんと雅野くんが頷き合う。
配置につき、ホイッスルが鳴った。
「王者のタクト!アリア……!」
「ふん」
「クソ!とられた!ディフェンス……!」
後半残り5分。
アリアをフォワードに置いて、キーパーにチェンナイを入れた。
前線でアリアを使えるなら帝国ボールで始まって即座にボールを奪える。
あとはアリアに突破してもらってゴール前で私にパス。
さすがにシュートまで彼女は至れない。
アリアしか突破力がないから相手はアリアを囲うし、パスを含めた彼女の動きは制限される。
そうなれば私以外はもう攻防には割り込めないし、アリアも自分でわかってる。
"あれ"を今日は私に任せるしかないと。
「……シズク!」
「……!」
アリアの針の糸を通すようなパスで私にボールが渡る。
ディフェンスを突破して、雅野くんと私が1対1。
「……!くっ……!」
「……安心しなさい。もうパワーシュートは撃てないわ。―――まあ、もっと"酷いのを"撃つけれど」
私はそう言ってボールを蹴り上げる。
これは、上空で放つティアードロップではない。
私は跳んで、地面と平行に身体を寝かした体制で滞空するボールに足を向ける。
そして、右足で左サイドに向けて蹴りこんだ。
このままならフィールド外に向けたシュート。
けど、シュートとして放たれる前に今度は左足で逆サイドに蹴り込む。
それを、重力に従って私とボールが地面へ向けて下降しながら何度も繰り返す。
右で蹴り込む。
左で蹴り込む。
また右で蹴り込む。
また左で蹴り込む。
さらに右で蹴り込む。
そして左で蹴り込む。
放たれずに何度もボールに打ち込まれるシュートはやがてエネルギーとして蓄積され、それは"パワー"になる。
これが非力だけど器用さは郡を抜いている私がブレイクできる唯一の方法。
―――私の"ブレイク技"……!!
「ジャッジメントブレイク」
何度も蹴りこんでエネルギーが蓄積されたボールを、地面スレスレのところで利き足裏で押し出すように放って、それが一直線にゴールへ向かう。
いえ、狙いはゴールではなく……雅野くん!
「はぁぁー!パワースパ―――っ!?」
「……!?」
必殺技を繰り出そうとした雅野くんが突如その動きをやめ、何やら肩から上、腕が上がらない様子に見えた。
私もこれは予想外で驚いた。
でも、何が起こったかはわかる。
まさか……!
「あいつ、ミクのシュートの威力が強すぎてまだダメージが残ってるんだ!」
『なっ……!?』
アリアが先に叫ぶ。
帝国イレブンが瞠目した。
その間にも雅野くんに迫るシュート。
でも、雅野くんは肩を抑えて動けない。
完全無防備。
ブレイクは確実に決まる……!
「まだだ!この1点を入れられたら帝国は終わる!終わらせてたまるかよ!俺たちは……帝国だ!!」
「……!龍崎!」
「龍崎……!お前……!」
なっ……。
雅野くんの前に割って入り、ゴールを代わりに守るのはディフェンダーの龍崎くん。
彼はジャッジメントブレイクに真っ向からキックで挑んで―――その足は終わった。
「イッ……!?ぐっ、ぐあぁ……!?」
「龍崎!!」
「……っ!?外れ……っ!」
シュートに負けて吹き飛ばされた龍崎くんを雅野くんが心配して駆け寄る。
龍崎くんの予想外のカットに私のシュートは外れた。
それと引き換えに……。
「う、うわあぁぁぁ!い、痛いぃ……!足が……!足がぁ……!!」
「……!?どうしたというのだ、龍崎……!龍崎!おい……!!」
凄まじい悲痛な声をあげて、足を抱えてのたうち回る龍崎くん。
雅野くんは自身も負傷した腕を抑えながら彼ににじり寄って心配していたが、状態が分からず触れようにも触れられずにいた。
そこに御門くんも駆け寄り、龍崎くんのもがき苦しむ姿を見て驚いた後、私を見る。
「貴様、龍崎に何をした……!」
「ブレイク。私はブレイカーと呼ばれる、サッカープレイヤーの機能を停止させる技術を持つ者よ。そして、今それを実行した。彼の靭帯を損傷させ、サッカーをできなくしたわ」
「なっ……!?何を言ってる!そんなこと……!」
「ぐああぁぁーーー!!」
「……っ!!」
御門くんは信じられないといった様子だけど、龍崎くんの叫びが再び耳に入って、彼のただならぬ痛がりように現実を受け入れ始める。
あながち嘘は言ってないのでは、と。
それは雅野くんも同じ。
だから、彼は私を睨む。
「貴様、こんなことが許されると思っているのか。これがフィフスセクターのやり方か。サッカープレイヤーとして、貴様はその能力を使うことに躊躇いはないのか。指示に従い、龍崎からサッカーを奪ったというのか……!」
「……っ」
糾弾され放題。
何も言い返せることは無いわね。
あるとすれば。
「……じゃあ優しさで仲間が死んでいくのを眺めていろと言うのかしら?」
「何?」
「いえ、なんでもないわ。貴方の怒りは正しい。わかってるわ。そして、貴方たちの立場からすれば……ぜひそうして欲しいということも」
「……っ!ま、待て!」
私は待たない。
彼の制止に背を向けて戻っていく。
仲間が私の顔を見て通り過ぎていく私の名を呟いて手を伸ばしてくる。
でも、その手は空を掴む。
きっと私の表情は鬼気迫り、それでいて困憊の限界そのものでしょう。
アリアが目を逸らしたからわかる。
酷い顔してるって。
それでも。
それでも、私は。
「外した……!」
私は帝国イレブンに見られないように背を向けてから顔を顰め、唇を噛み締めた。
相手を負傷させてまで撃ったシュートが決まらなかった。
私のタクティクスは5分限定。
それが終わり、尚且つ発動タイミングが5分早まった中で、まだ時間が残ってしまったこの状況で2点目を奪えなかったのは痛い。
痛すぎる……!
あと、残り3分。
私たちは1点も取られずに、凌がなければならない。
―――才能持ちがオフェンスしかいないこのチームで。