「守りを固めるわ。ディフェンスラインを下げて、アリアは最後までゴールキーパー。ミクもディフェンスに加わりなさい」
「えっ。私、ディフェンスやったことないけど」
「なるほどな。確かにミクのディフェンスは疎かだが、センスはある。現状はまだまだだが……アイツらよりマシだ」
子供たちを見てアリアが代わりに納得する。
やな事言うと思ったけど言い返すこともないから黙った。
帝国ボールでホイッスルが鳴って私とミクが下がったからあっとういう間に攻め込まれる。
でも、ディフェンスラインは割らせない!
「クソ……!こいつ、また!切り込めない!」
「御門、パスだ!」
ミクがボールを運んだ御門くんにショルダーチャージをかけて顔を顰めさせる。
ミクの方が圧倒的にパワーと体幹が強いから、これでミクがいる方面にはパスは出せない。
これが今のミクに出来る唯一のディフェンススタイル。
御門くんは逆サイドにパスを出す。
「まだ諦めるか!」
「いいぜ。来い!」
負けが確定していても気持ちが折れない帝国。
帝国フォワードとアリアの対決。
アリアは腰を落として構える。
あと1回、光の鉄拳は使える。
アリアなら試合中にそのくらいの回復はできるはず。
でも、光の鉄拳には弱点がある。
「御門……!」
「何!?」
ゴール前で横パスが通って驚くアリア。
光の鉄拳は急な逆サイドへの切り替えに弱く、正面しか対応できない。
ミクのマークから外れて逆サイドに駆け込んでいた御門くんの足元にボールが吸い付くように渡る。
マズイ……!
「雅野から奪ったゴール、返してもらう!そして、龍崎の仇……!これが帝国の―――『コウテイペンギン』7ッッッ!!」
全力で放たれる七色のペンギン。
ミサイルのようにゴールにロックオンして狙う。
アリアは超反射で逆サイドに跳んで……ダメ!それでも正面で捉えられない。
アリアは止めに行く前から結果がわかって顔をしかめる。
「クソ……!」
「貰った!これが帝国の意地だ!止められるはずがない!」
「……っ!」
アリアは拳を振りかぶるが、ボールを直接殴るには間違いなく足りないし届かない。
彼女は土壇場の中で、目を泳がせ思考を巡らせる。
その結果―――何を血迷ったのか"地面を殴った"!!
『なっ……!?』
『は!?』
敵も味方も思わず二度見する。
アリアの拳は地面に撃ち込まれ……"グランドが脈を打った"。
比喩表現ではなく、何度も、何度も、まるで鼓動のようにアリアの腕から地表にエネルギーが注ぎ込まれる。
それを見てハッとした。
あの子……!
「私の光の鉄拳は数々の強力なシュートを弾き返してきた。そう、"弾き返してきた"。それだけのエネルギー量だったんだ。それを地面に流し込んだ」
「なっ……!?光の壁!?」
アリアが淡々と口にするのとは裏腹に、突如目の前に光の障壁が出現し、シュートを阻まれた御門くんが驚愕する。
そう、アリアは光の鉄拳のエネルギーを地面に注ぐことで―――膨大なエネルギーを、広大なフィールドに許容してもらった。
彼女の光の鉄拳はシンプルな割に強力だった。
その正体がこれ。
アリア・オイゲンというプレイヤーが有する力は大きすぎる。
それは当然、拳1つで収まるものじゃない。
光の鉄拳を繰り出すとき、アリアの機動力は明らかに落ちていた。
だから、正面からしかシュートを捉えられない。
拳の1点に集中するエネルギーが膨大すぎて身体のバランスを崩していたから、その振り子に振り回されていたんだわ。
でも、今はフィールドにそのエネルギーを逃がしている。
逆にグランドはアリアから与えられた凄まじいエネルギーに耐えられない。
だから、揺れ、地面が割れて漏れ出た。
それが光の壁となった。
壁はペナルティエリアとフィールドを分断するように高く、壮大にそびえ立つ。
これが、広範囲に守れるアリアの新必殺技……!!
「『アヴァロン・ウォール』!」
「いい名前だ。気に入った。こいつはそう呼ぶことにしたぜ」
まるでブリテンを囲う要塞。
何人たりとも侵入を許さず、掃討する城砦。
アリアは私が叫んだ名に口角を上げ、そんな彼女の前で御門くんの、帝国学園の想いを乗せたコウテイペンギン7はみるみるうちに勢いが殺されていく。
やがて、ボールは回転をやめた。
ボールは壁の余剰エネルギーに弾き返され、フィールドに戻される。
そして、無情にも残り時間がなくなったところでセンターラインにまで転がってしまった。
帝国イレブンの誰もが取りに行こうとしたが……誰も声を発せない絶望の中で、ホイッスルが甲高く鳴り響く。
『試合終了ーーーーー!!勝利したのはヴァルキリア!!帝国学園の敗北だーーー!!』
「ば、馬鹿な……俺のシュートが、コウテイペンギンが……」
御門くんが愕然と膝から崩れ落ちる。
そんな彼の元に龍崎くんに肩を貸しながら雅野くんが近寄る。
「御門。お前はよくやった」
「……!慰めのつもりか?」
「いや……」
雅野くんにかけられた言葉に顔を顰めた御門くん。
一瞬俯いた雅野くんが手を差し出して、御門くんが目を丸くしてその手と雅野くんの顔を交互に見る。
そして。
「認めるよ。お前は、お前たちは確かに帝国のサッカーを理解していた。帝国のサッカープレイヤーだ」
「み、雅野……お前……」
「悔しいものだろう?お前たち。これが全力でやるサッカーだ。そして、これがその末に……負けるということだ」
『……っ!』
雅野くんを見上げていた御門くんが歯を食いしばる。
「クソ……クソ!!」
何度か芝を殴って、少し項垂れたあと……彼は、立ち上がって雅野くんと向き合った。
「俺も認めるよ、雅野」
「……!」
「思い出した。サッカーとは……勝てば嬉しい、負ければ悔しい。そういうものだった。お前たちの言う本当のサッカーを……俺はいつの間にか……」
「また取り戻せばいいさ。共に戦おう、同志よ」
「……!雅野……あぁ」
握手する2人。
その光景を、その光景は私たちの前で繰り広げられていた。
勝たなければならなかった。
負ければ死。
そういう状況下で、常にギリギリの精神状態で切羽詰まり必死にプレイしていた。
そういう私たちの前で、彼らは対称的に爽やかな青春だった。
肩で息をして、そっちを見る余裕もない私たち。
1人、体力が残ってるアスカが顔を顰めて彼らの方へにじり寄るように歩き出す。
「な、なんであいつらはあんな……私達は、こんなに……!なのにあいつら、あいつら……!なんで……!」
「よしなさい、アスカ」
「でも!」
「言っても仕方ないでしょう。立場が違うんだから。それより……疲れたわ。もう休みましょう」
「シズク……」
アスカは振り返って私の顔を驚いた目で見る。
あぁ、酷い顔色なんでしょうね。
酸欠も超えて身体が寒い。
完全に体調不良だもの。
発汗も嫌な感じ。
「シズク。お前は先に休め。それとリミテッド・オーバー5はもう使うな。あのタクティクスは博打すぎる。お前には向いてない」
「嫌よ。また必要なら使うわ。使わなきゃ仲間が死ぬと言われてたら、貴女はいそうですかって受け入れられる?」
「……!」
嫌な返しをしてアリアを黙らせた。
でも、彼女の表情は顰めてない。
虚しい。
そんな顔をしている。
わかってるわよ。
心配してるんでしょう。
でも、やらなきゃいけない時はやるしかない。
どうしようもないのよ。
「先に休め、というのだけお言葉に甘えてもいいかしら?」
「あぁ。もちろんだ。あとは私に任せろ」
「お願いね」
私はフィールドから出る。
そして、薄暗い廊下、手洗い場に手をついて項垂れる。
顔を上げて割れた汚い鏡の中にいる自分を睨む。
鏡に映る私は、まるで悪夢にうなされたあとのように汗だくで顰めていた。
―――その時、鏡の中の私が口を開く。
『辛そうね。代わりましょうか?』
彼女は、口角を上げて私を誘った。