帝国との試合が終わり、次の試合はまだ告げられていない。
ここに来て初めて間隔が空いた。
やはり帝国が革命を起こしていたと見て間違いなさそうね。
彼らを倒し、龍崎くんを負傷させた。
その結果、私たちの元へなだれ込んでくる処刑対象のチームは来なくなった。
つまり私たちは仕事を果たしたという事ね。
「フッ。どうせならもう1人くらいブレイクしておくべきだったかしら?」
「今……なんて言った?」
端末を操作する私の背後にいつの間にかアリアがいた。
目を大きく開いて凄まじい表情をしてるわね。
聞き間違いか?とも思ってるようだから聞き返してるんだろうけど。
いつからいたのかしら。
私の背後を簡単に取れる能力。
元ゴッドエデン最強なだけあるけれど、気に入らないわね。
「別に。なんでもないわ。それより暫く時間が空くからここであの子たちを鍛えて連携も合わせておきたいわね」
「……やっぱり帝国が革命を起こしてたってことか?だったら処刑人も終わりか」
「それはどうかしら。チームを相手にすることがここ最近多かっただけで、前に貴女がやってた様な単体のシードを処刑する仕事はこれからも振ってくるわよ」
「そうか。まあそんな簡単にはいかないか」
アリアは納得して溜息をつき、フィールドに戻った。
上手く話を逸らせたわね。
さて、ヴァルキリアの育成について真剣に考えましょうか。
「個別メニューを考えたわ。私とアリアが付きっきりで指導するから頑張ってちょうだい」
「おう、サンキュ……グロすぎじゃねえか?この内容」
私がパッドに映した資料を手渡ししたらサエが数秒も経たないうちに顔を上げて微妙な顔をした。
わかってないわね。
「これくらいしないと、ハッキリ言って貴女たちは弱いということよ」
「マジでハッキリ言うじゃん」
「海王学園に帝国学園、彼らとの戦いに貴女たちはまるで着いてこれていなかった。能力が低すぎるのよ」
「な、なんで追い討ちかけたの……?」
アスカとチェンファも顔を顰めたけれど無視ね。
ここは厳しくいかなければならない。
「これからもっと強敵と戦う可能性もなくはないのよ。つべこべ言わずに従いなさい」
「えらい言い方にトゲあるな……まあ言ってることは事実だけどよ」
「はぁ。しゃーないか。シズク達の足でまといになってばかりも嫌だしね」
サエとアスカは最終的には首を縦に振った。
チェンファとチェンナイも渋々といった感じ。
子供たちはメニューと睨めっこしてハテナを浮かべている。
見ただけじゃ過酷さがわからないようね。
でも、すぐに理解することになる。
「ひぃ……!も、もう無理だよぉ。うわーん!ママぁ!」
「しんどいよぉ~!もうやだぁ!」
「おいおい……」
メニューを実践して2日。
子供たちが早速弱音を吐き始めた。
その様子をサエが自分も限界を迎えながら、私を一瞥する。
ほれみたことかとでも言いたいんでしょう。
バカね、泣き言いうくらい想定済みよ。
ここで甘やかさず鞭を打ち続けて鍛えていくしかないのよ。
そう思って私が子供たちに近づくより前に、アリアが彼女たちに寄り添う。
「ユマ。大丈夫か?もうちょい頑張ってみないか」
「いや、言ってもでしょ。ぶっちゃけやりすぎ。こんなの続けてたら子供たちは身が持たないって……」
アリアがなんとか子供たちを励まそうとするも、アスカがボヤいて私を見る。
不満が溜まってきてるわね。
チェンファとチェンナイも項垂れながら私を睨んでいる。
くだらない。
耐えるということを知らないから私達との差が大きいのよ。
「あー。なんならゴッドエデンの訓練より厳しいんじゃねえの?マトモに口開けんのあたしとアスカだけって相当だろ」
「マジこの訓練キツすぎ。鍛える前に潰れるでしょ。もうちょい易しくできないわけ?」
「待て、2人とも。シズクだってちゃんと考えてる。お前らが壊れるようなヘマはしないだろ。それはお前らもわかってるんじゃないか?」
「まあそりゃ……」
「確かにシズクは何やっても完璧だけどよ……」
アリアに諭されても納得しきれない様子の2人。
誰もが立っていられない中、アリアが皆を見渡して子供たちにまた寄り添う。
「これは訓練じゃない。練習だ。チームでやる訓練は練習って言うんだ。訓練と違って死ぬまでやったりしない。だから―――」
「アリアにはわかんないよ!!だって、アリアは最初から強いもん!苦労したことなんてないんだ!!」
『……!!』
アリアが差し出した手をユマが払い、パン!と大きな音が響く。
誰もが瞠目した。
アリアも衝撃を受けて固まり……俯く。
「……そうだな。私にはわからない。私はお前たちじゃない。だから、私から言えるのはただひとつ。これはお前達の問題だから、頑張ってくれとしか言えない」
「アリア……」
アスカがアリアの背中を見て、目線を落とす。
サエも目を逸らす。
2人はわかってる。
例えアリアにどれだけ才能があったとしても、事実彼女はゴッドエデンに見捨てられた。
そんなゴッドエデンがアリアにすら高みを、さらに高みをと求めたのは容易に想像できる。
彼女がゴッドエデン最強のシードに登り詰めるまで、彼女の意思とは関係なく私達が想像もできないほどの過酷な過程があったはず。
それでもアリアはユマの視野の狭さを受け入れた。
不幸自慢をして同情を買って、それでやる気を引き出すなんて彼女の好きなやり方じゃないから。
私はくだらないと思ってしまう。
「頑張ってくれ、皆。心の底からそう思ってる。私は……お前たちを失いたくない」
『……!』
アリアの悲痛な呟きにみんなが俯く。
見てられないわね。
「もういいわ、アリア」
「……!シズク……」
「ユマ。やる気がないなら引き出してあげましょう。私のメニューに従えないなら……痛みが待ち受けているということを。今ここで教えてあげるわ」
『……!?』
私が何をしようとしているのかわかったのか、みんなが瞠目する。
私はボールを足で拾い上げて、ユマに照準を合わせた。
「―――"ジャッジメント・ブレイク"」
「えっ」
「なっ……!?バカ、やめろ!!」
私はユマをブレイクしようとした。
けれど、アリアが即座に反応して弾道上に足を出し、カット。
私のシュートは大きく逸れて、呆けていたユマには当たるどころか全く別のところに飛んでいった。
アリアが着地して、長い髪がふわりと重力に従って落ちてからその奥で私を睨みつける。
「お前、何のつもりだ!正気か!?」
「―――何?何があったの?」
『……!』
アリアの怒号が響いて、そこにミクが合流する。
彼女には別メニューで他のグランドを貸し出していた。
練習が終わったのとこの騒動のタイミングが合ったのね。
ボールを脇に抱えたままキョトンとした顔で私たちを見渡して、アリアが彼女を巻き込もうと口を開こうとする。
でも、それより前に。
ミクは私を見たと同時に目を見開いて、彼女の放つ言葉は私の背筋を凍らせる。
「……誰?シズクじゃない」
『……っ!?』
私も含めて誰もが瞠目した。
ありえない。
見抜けるはずがない
なぜ。
いえ、落ち着きましょう。
ここは冷静に、まずはとぼけてみせて。
「何を言ってるの?私よ。見ての通り、シズク。陸奥 滴。貴女も練習がキツかったのかしら?どうかしちゃったのね」
「違う。シズクじゃない。誰だ。えらい饒舌なのも図星だからでしょ?」
「……っ!」
アリアを始めとした誰もがミクの回る口から発せられる言葉に驚いて、固まって介入できずにいる。
そんな皆を一瞥して、ミクは脇に抱えていたボールを胸の前に持ってきて……その手を離す。
「……!」
「……」
ボールは重力に従ってミクの足元へと落ちていき、彼女は地面に着く前にジャストミートでシュートを放った。
照準は私。
化身を出した本気の弾道!
「は!?ミク……!」
「正体を見せろ!私の本気を相手に隠し事なんてしてる余裕ないでしょ?」
「……っ!」
アリアの制止ももう遅い。
迫り来る化身シュート。
私は―――化身を出した。
「化身!ベリアル……!」
「いや……違う。ベリアルじゃない!」
私から出現した化身がまだ紫のオーラで形作っていないうちからアリアは私の化身がベリアルではないことを見破った。
私は化身を出してミクのシュートを足で止めた。
でも、凄まじい威力ね。
受けている間に勢いに圧されて数メートル後退させられた。
ベリアルなら止められなかった。
私の化身が……"フォワード型の化身"でなければ、止められなかった。
「なんだよ……あれ!」
「ドリブル型のベリアルじゃなくて、シュート型の化身……!?」
「虚無魔神どころか雷属性じゃん!」
アスカの言う通り、私の化身は雷を纏っている。
青いイナズマ。
「雷の……魔神。デ、デカイ……!」
ミクの呟き。
私はボールを足元に落として、口角を上げる。
「私……陸奥滴は二重人格。そして、これが第二人格の化身―――『
『――――――――――――っ!!』
周囲に電撃を迸らせながら。
私の魔神は吠えた。
ヴァルキリアの前に、バアルとシズクは立ち塞がる。