「バアル……だと?ありえない。1人の人間が2体の化身を持つなんて話……聞いたことがないぞ」
「……!」
アリアを見る。
化身に関しては今、世界で1番知識を有するのはフィフスセクター。
その中で誰よりも上澄みにいたアリアですら知らない化身の現象。
だったら多分、フィフスセクターも把握してない未知の事態に私たちは遭遇してる……ってことだよね?
「人格が違ったら化身も違う。精神は別人なわけだから、理屈は通ってるような気もするけど……」
「二重人格は化身が2体か。まあどっちの人格も化身を生み出せるくらいの才能が必要になるが。シズクなら副人格も優秀だろうな」
「ちょ!?2人だけなんでそんなすぐ順応してるわけ!?」
「こっちは理解追いついてねーぞ……」
アスカとサエが指摘してくる。
確かに私とアリアだけで話進めちゃったか。
でも……悪いけど皆と意見まとめてる余裕はなさそう。
「アリア。ミク。なぜ身構えてるのかしら?第二人格でも私はシズク。貴女たちの味方よ?」
「ハッ。どうだかな。味方ってのは仲間をブレイクしないもんだがな。普通。それともなんだ?まだ副人格の方は世間知らずのベイビーか?」
「そうかも。だったら知らないのも無理ないか。身内に対しての加減ってやつをさ」
「……言ってくれるわね」
シズクが冷たい目になる。
うん、やっぱり味方ではないかな。
私もアリアも腰を低く落とす。
深く息を吐いて、雷魔神 バアルとシズクを前に対峙する。
私は魔狼 アモンを、アリアは魔神 アガレスを出現させた。
「あら?勝てると思ってるのかしら。私は化身を2体持つ。アリアの言う通り、フィフスセクターのデータベースにも前例はなかったわ」
シズクは不敵に口角を上げる。
「私は特別。2体の化身を同時に操ることも出来る。元最強のアリアも、規格外のパワーを持つミクも。私の敵では無い」
「ハッタリだな。ベリアルはシズクの化身だ。お前のじゃない。2人が協力関係ならまだしも、お前の独断でベリアルは使えないはずだ」
「シズクが皆を傷つけることに協力するわけないもんね。だから、2体とも使えるのは嘘……!」
「……まったく。よほど戦いたいようね」
『……!』
明らかに戦闘意思を剥き出しにしてきた。
来る……!
私もアリアも身構える。
「魅せてあげるわ。第二人格の私はフォワード。そして、これが私の化身シュート。―――『
「なっ……!?速っ……!!」
「アリア!!」
シズクがボールを浮かせたと思ったら宙で一瞬で振りぬいた。
まさしく雷撃のように。
振り抜きが早すぎてすぐに理解できなかったけど、多分2回振りぬいた。
2回ボールに蹴りを一瞬で入れることで速すぎる弾丸を放った。
光速の弾道がアリアを撃ち抜いて吹き飛ばした。
アリアですら反応できなかった……!
名前の通り、雷斬りだ!
バアルの持つ剣が振り下ろされたのと同時に放たれたシュートを、アリアはマトモにくらった!
「ぐっ……!動け……っ!」
「アリア!」
アリアが立ち上がれない!
電撃の余韻がバチバチと音を立ててアリアの周囲に走ってる。
痺れてるんだ。
速いだけじゃなくて、威力もある。
あのアリアを一発で行動不能にするなんて。
「……っ!」
「今更気付いても遅いわよ。私はアリアより優れたストライカーよ?きっとアリアをも超えた白竜くんよりも……ふふっ。さぁ、次は貴女よ。ミク」
シズクに視線を戻すとにじり寄ってきていた。
マズイ。
私はパワーがある代わりに鈍重だからモロにあのシュートはくらうかもしれない。
対抗策があるとすればあれを受けてもひたすら耐えるとか……いや、最初のうちはいいかもしれないけど、ジリ貧でしかない。
耐えて、無理やり動いてシズクを攻撃しようにも動きは鈍くなるし、何発もくらったらそのうち私もアリアと同じように動けなくなる。
ダメだ、打つ手がない……!
「……私よりも上どころかいきなりトップに躍り出たか。そりゃまだ早とちりしすぎだな」
「……!」
「アリア!」
シズクも目を見張った。
アリアは無理やり立ち上がった。
肩で息をして腕を抑え苦しい顔をしながら重い1歩を、また1歩と前に進んで私に並ぶ。
「ハードルがどれだけ高いか、まずはここらで現実を見とくんだな。……ベイビー」
「そう。じゃあ今日のうちに超えておきましょうか。私、せっかちなの」
そう言って2人は対峙する。
第二人格のシズクと、アリア。
一体どっちが強いんだろう……。
「……」
「……」
『……っ!』
睨み合う2人。
張り詰める空気。
ヴァルキリアが全員見つめる中、瞬きの間。
2人は地を蹴り衝突した。
「アガレス!」
「バアル!」
競り合う2体の化身。
ボールを奪い合う2人。
両者は互角……!
シズクが口角を上げる。
「あら?その程度かしら。元最強さん?だから、言ったでしょう。私は貴女が今まで倒してきた雑魚とは違う。貴女と戦えるくらい強いのよ」
「―――だから、早とちりすんなって言ってんだろうが。ほら、私の勝ちだ」
「えっ」
『えっ……!?』
私たちも驚く。
気付いたらシズクはひっくり返って宙に浮いていた。
アリアが足を振りぬいて競り合いに勝ったんだ。
シズクは重力に引かれて頭から地面へと向かって落ちていく。
その前に。
「人生ってのは我慢の連続だ。せっかちは向いてないぜ?生きるのは賢いシズクに任せて、お前はもう少し眠ってな」
「……っ!!」
第二人格のシズクが歯を食いしばり苦い顔をしたその瞬間。
アリアはその脳天に零距離からシュートをぶち込んで撃ち抜いた!
一回転したシズクが地面に倒れ伏せて、アリアだけが立ち上がる。
「ま、不意打ちじゃなけりゃこんなもんだな」
「嘘でしょ……」
「ワンパンかよ」
アリアが一度やられたとは思えないほど一瞬で決まった決着。
立っているのは元最強。
アスカとサエを始めとした皆がドン引きしてる。
私達の仲間のアリアは……いつも私達の想像を絶するぐらい強すぎる。
「アリア……シズク、死んでないよね?」
「気絶させただけだ。これで起きた時にまたアイツだったら別の対策考えるぞ」
「……安心しなさい、私よ」
「……!シズク!……か?」
「……っ!」
ムクリと身を起こしたシズクが身構えるアリアと私を見る。
そして、ため息をついた。
「大丈夫。戻ってるわよ。第1人格よ。よくも脳天ぶち抜いてくれたわね。死ぬかと思ったわ」
「……ホントにシズクか?」
「貴女ね。何構えてるのよ。まさかまた同じことするつもり?やめなさい。ボールから足を離しなさい。とても痛かったんだから二度とごめんよ、あれ」
「……」
私とアリアは顔を見合わせる。
多分、元のシズクに戻ったと思うけど……確証もない。
一応警戒しようと頷きあった。
それを見ていたシズクは。
「……わかったわよ。ベリアルを出せば、信じてくれるかしら?」
「どうだかな。証拠不十分じゃないか?」
「貴女が言ったんじゃない。第二人格の私はベリアルを出せないって。なら証拠として十分でしょう」
「そうだよ。やっぱり出してもらえば?ベリアル」
「そうだな。口車に乗るのは危険だが、それしか手はないか」
「ホントに出すの?冗談のつもりだったのだけれど」
「……」
「……」
「……はいはい。わかったわよ」
シズクはため息をついて立ち上がり、化身を出した。
……うん、ちゃんとベリアルだ。
シズクの化身にしては割と厳つめの化身。
「貴女、今失礼なこと考えてるでしょう」
「別に?それよりベリアルだったね」
「話逸らすんじゃないわよ」
「まあそうだな。一旦信じてやるか」
「貴女たち。……まあいいわ。それより傷つくわね。貴女たちの中で私の信頼ってそんなに低かったのね」
「それだけのことをしたんだ。第二人格のお前は。受け入れろ」
アリアがそう言うとシズクはまたため息をついて肩をすくめた。
そんな私たちの様子を眺める影が1人いることを、私たちはまだ知らない。
「あれがアリア・オイゲンか。長門如きとチームを組んでいるなど、程度が知れる……!」
白い男は、高い位置からアリアだけをその瞳に映していた。