松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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アンリミテッド・シャイニング篇① 金髪の女

 

スコアボードを見上げる。

そこに映されている名前は。

 

ヴァルキリア VS 海王学園。

 

スコア。

 

16 - 0

 

『決まったぁ!またしてもアリア・オイゲン!これぞゴッドエデンが誇るトッププレイヤーの力!完全に見せつけている!』

 

「なっ……ぁ……!」

 

海王学園との試合を見ていた白竜は面食らった。

この試合で暴れているアリア・オイゲンという女。

その実力が究極のサッカープレイヤーである自分に匹敵していたからだ。

白竜にとってそれはありえないはずの事象だった。

現実を前にした今でも、にわかに受け入れ難い。

究極に相応しいプレイヤーが自分の他にもう一人いる。

そんな話は教官からも聞いたことがない。

彼にとってそれは凄まじい裏切りに思えた。

しかも女だ。

 

「教官!よろしいでしょうか?」

「どうした。白竜」

 

試合が終わってすぐ、白竜は行動した。

これまで従うことはあっても自分から牙山に頼み込むのは初めてだ。

チームメイトが目を丸くする中、全く気づいていない白竜は積極的にハキハキと教官に向かって喋る。

それほどまでに彼の頭の中は今、1つのことに支配されていた。

彼の脳裏に強烈に焼き付けられた1人の女のことが。

 

「私は試合形式でのとあるシードとの対戦を望みます!」

「なにィ?練習試合だと?」

「はい!我々アンリミテッド・シャイニングは究極のチーム!しかし、まだ真価はまだ証明されていない。是非この力を試す機会を!」

「何を言う。貴様たちが究極であることはエンシャント・ダークと肩を並べたことで証明済みのはずだ。それだけでは足りんと言うのか?」

 

牙山の言葉に白竜は下唇を噛んで俯く。

そして、顔を上げた彼は断固として意思を曲げなかった。

 

「どうしても倒さなければならない相手がいるのです。奴の存在を許したままにしておけば……私は究極であるという確証を真に得られません!」

「……っ!」

 

1歩踏み込み、熱弁する白竜に牙山は勢いに後ずさり顔を顰めた。

だが、大人としての威厳が彼をすぐに持ち直させ、彼は咳払いを1つ挟んだ後白竜を見下ろす。

 

「ふむ。白竜、貴様が誰に対抗心を燃やしているのか知らんが。これだけは言っておこう。いくら貴様とて、試合を決める権利は貴様にはないということをな……!」

「……っ!」

 

凄む牙山に今度は白竜が後ずさる。

そして、ハッとしてやっと自分が暴走していたことに気づいた。

彼は俯いて自分の立場を改めて弁える。

それでも、一度心の奥で点火した興奮が消えているわけではない。

あの麗しい金の髪が、雄々しい躍動が脳裏にチラついて消えない。

黙りはしたが、煮え切らない。

俯いて食いしばる白竜に、背を向けて牙山はボヤく。

 

「まったく。誰にお熱だというのか……。やっとの思いで究極のサッカープレイヤーである白竜を完成させたというのにここで迷走などされてはたまらん」

「剣城京介でしょうか?確か彼はAランク棟で白竜と共にプレイし白竜から接触している様子が何度か報告されています」

 

牙山は隣を見る。

彼の右腕でもある火北幸四郎が端末に映したデータから剣城京介の写真を拡大して見せたからだ。

だが、牙山は鼻を鳴らしてすぐに端末から目を離し前を向く。

 

「ふん。違うな。奴への未練は念入りに断ち切らせた。白竜は奴がゴッドエデンから逃げ出したと思っている。もはやあんな三流シードに対する気持ちなど持ち合わせておらんよ」

「では一体誰のことを言ってるのでしょうか……」

「ふむ」

 

火北の言葉に牙山は振り返って白竜を見る。

確かに白竜が夢中になるプレイヤーなどこのゴッドエデンで出会うとは考えにくい。

白竜が知っているサッカープレイヤーはせいぜい自分が蹴落としてきた雑魚どもと究極のチームメイトのみ。

出会う機会など与えていないはず。

どこでそんな気持ちの揺らぐようなことが……いや待てよ。

 

「以前、アンリミテッド・シャイニングに見せた試合があっただろう。あれではないか?」

「……あぁ。ヴァルキリアの。確か聖帝からのご指示で」

「そうだ。任務に失敗したシードがいかなる処分を受けるかその愚かしさを見学させるため、観戦を許可したあの試合だ」

「まさかその時に?」

「おそらくな」

 

牙山は鼻を鳴らして腕を組む。

時期までは掴んだ。

問題は"誰か"だ。

人物まで特定しなければならない。

この問題は放置できない。

白竜のモチベーションに関わるからだ。

無論、白竜がダメなら代わりを探すのみだが、現状白竜はかなりの理論値を叩き出している。

すぐに切り捨てるには惜しい逸材だ。

少なくとも結論を出すのはこの問題を解決して尚、白竜の気持ちがどうなるかそこを見てからでも遅くないと牙山は睨んでいる。

聖帝は言っていた。

セカンドステージチルドレンの発掘まで時間が無い、と。

ならば白竜に固執しすぎるのも良くないが、かといって候補を変えすぎて結局間に合わなくなるのも避けたいのだ。

白竜には、多少の我慢の価値がある。

ここはひとつ、事情聴取といこう。

牙山が近づくと白竜が姿勢を正して彼を見上げる。

 

「白竜。貴様の言うプレイヤーの名を教えたまえ」

「ハッ!確か……アリア。そうだ。アリア・オイゲンというプレイヤーだったかと」

「イッ!?」

「な、なんと……」

「……?」

 

牙山達の反応を見て白竜が困惑する。

牙山と火北は青ざめた。

 

「ぬ、ぬかった……!オイゲンのことは白竜には秘密にしておいておいたというのに……!」

「し、仕方ありません!聖帝のご指示でしたから……!まさかあの試合だけで白竜がオイゲンに興味を持つとは……」

「ぐぬぬ……!」

 

爪を噛む牙山。

ハラハラとしながら見守る火北。

アリア・オイゲンのことは白竜にはひた隠しにしてきた。

理由は彼女が女であることと、白竜の前にゴッドエデン最強の座を有するシードがいたことを知られたくなかったからだ。

前者は、外ではなく、ゴッドエデン内であれば女のシードも役割があり認められているが、女が最強となっては彼らの信頼に関わる。

最強の女はそれすなわちゴッドエデンの計画が上手くいってないことの示唆であり、急場しのぎで女に頼っていたことの何よりの証拠でもある。

それを完全管理下に置いてる神の子のような存在、怪物の子供に知られては足元を掬われる危険性がある。

何より問題なのは後者。

オイゲンの存在を隠していたのは、知られると白竜の地位は絶対ではなく代替が効くものだとバレるから。

まだ今の段階で白竜に自信を喪失してもらっては困る。

今はまだ自身の力に溺れ、それを堪能し全能感を味わってもらう必要がある。

その為には白竜と同等の力を持つアリア・オイゲンは白竜にとって毒でしかない。

シュウは異質な存在ゆえ許されているが、アリアは白竜と同じただの現代の普通の人間。

たった1人、この存在で白竜と肩を並べるアリアは白竜に認識させるわけにはいかなかった。

しかし、そこで舞い降りた聖帝からの指示。

避けてきた白竜とアリアの接触をそうせざる負えなくなった。

そして、意外にも白竜は牙山達が思っていた以上にアリアに惹かれた。

 

「ぐ、ぐぬぬ……!」

「ど、どうしましょう」

 

どんどんと顔を険しくする牙山に、火北がビクつく。

しかし、牙山は急に真顔になり開き直った。

ビックリする火北を置いて、彼は白竜と再び向き合い告げる。

 

「コホン。いいだろう。アンリミテッド・シャイニングとヴァルキリアの対戦を認める」

「……!本当ですか!ありがとうございます」

 

頭を下げる白竜。

その姿を偉そうに見下ろす牙山に火北が耳打ちする。

 

「い、いいのですか?せっかくオイゲンと遠ざけてきたのに……」

「こうなってしまったものは仕方ない。いいではないか。所詮奴は女だ。男で究極のプレイヤーである白竜に適うはずもあるまい」

 

牙山は咳払いをしてさらに小声で火北に告げる。

 

「こうなれば白竜にオイゲンを叩き潰してもらう。ヴァルキリアには少々過剰戦力だ。そうだろう?」

「……なるほど。なあなあになっていたオイゲンの処分を白竜にさせ、尚且つ勝負に勝った白竜が真に確固たる究極のプレイヤーの地位を築く、と。そういう事ですね?」

「理解が早くて助かる。フッ。陸奥の奴も私がチームとメンバー決定権を与えると調子に乗って好き勝手やりよったからな。ここで1つお灸を据えねば」

 

牙山は口角を上げ、1拍置いてお決まりのセリフを吐く。

 

「これも教育というものだ。待っていろ、ヴァルキリアの女共」

 

そう言うと彼は高らかに笑った。

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