松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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アンリミテッド・シャイニング篇② No.1とNo.2

今日も今日とてヴァルキリアは練習。

最近は試合もなく、みっちりと時間を使って個々の能力アップや連携精度上昇が順調にいっている。

とはいえ、今でやっとアリア抜きで海王学園や帝国学園と勝負になるかどうか対等に戦えるかといったところ。

つまりは勝敗は置いといて試合が試合として成立するか、同じ土俵に立てるかという段階。

だから、総評としては"まだまだ"といったところね。

 

「ミクの言ってたアンリミテッド・シャイニングってとことやり合う可能性を加味したら現状厳しいな」

 

そう言って休憩の合間に私の隣を確保したのはアリア。

彼女の言うことは酷く現実的だ。

正直このチームは弱い。

アリアをも凌ぎゴッドエデン最強の地位に就いたシード、白竜くん。

そんな彼が率いるチームと渡り合おうなんて今の状態では夢のまた夢なのは事実。

とはいえ、そんな最上位チームと戦うなんてあったとしてもかなり先の話だと私は睨んでいるけれど。

 

「そうね。でも、思ってたよりは時間がありそうでよかったわ。余裕のある時にみっちりとチームのレベルアップを図りましょう」

「レベルアップ、ね」

 

アリアが休んでいる皆に目を向ける。

まだ今日の練習は4分の1も終わってない。

毎日私の提案しているメニューをこなしてもヴァルキリアが海王や帝国並の実力を身につけるには生半可な覚悟では到底無理。

それでも彼女達はそんな現実を認識してないし、練習がきつければ弱音を吐き、泣き言を言う。

1年みっちり育ててそれでも海王や帝国と渡り合えるかというところ。

私の特別特訓メニューで無理に短期間での成長を促してもそのレベル。

アリアがあの子たちを見て遠い目をするのも立場上頷きはしないけど、共感はできる。

私はキャプテンで皆を巻き込んだ立場だからアリアのように他人事ではいられない。

鞭を打ってでも彼女たちを強くしなければ。

 

―――みんな、死ぬのだから。

 

「あの子たちばかりに求めてるけれど、正直私達も現状維持じゃ困るわね。私達も成長しないと」

「ま、だろうな。あいつらの限界値はたかが知れてる。それを引き出したところでせいぜい私達の足を引っ張らない程度だ」

「えぇ。わかってるわ」

「……だから、私達ものんびりはしてられない。強くならなきゃな。まだまだ成長の余地、あるぞ」

 

そう言ってアリアはドリンクを飲む。

全然減ってないし、汗もかいてない。

さすがにこの程度の練習じゃ息ひとつ乱さないわね。

それでも私たち天才組もまだ力が足りない。

仮に白竜くんと戦うとしたら正直アリア以外、つまり私とミクは現状では彼の相手にもならないでしょうね。

天才といっても全体と比べれば私とミクは所詮まだそのレベル帯なのよ。

 

「ちなみに私達のレベルアップってのは具体的にどの程度を想定してるんだ?ハッキリ言って私はお前の二重人格に期待してるんだが」

「わかってるわよ。私が化身2体使えれば素敵!って言いたいんでしょう?」

「そういうことだな。実際、あれは特異中の特異だ。一人の人間が2体の化身を使えるなんて、世界中探してもお前だけだ。あれは使える」

「そら使えるでしょう。誰でもわかる話よ。まあ、"できれば"の話だけれど」

「やっぱり無理か?」

「……手はないことはないけれど」

「随分含みあるな。現実的じゃないか、もしくはとても了承できないやり方じゃないってとこか」

「後者ね」

「……最悪。そっちかよ」

 

アリアは顔を顰めてから天を仰ぐ。

前者だと化身2体使用の誘惑の気持ちを断ち切らなければならない。

後者だと私を心配することになる。

仲間を大切にしているアリアからすれば、どちらかというと前者の方がまだ望んでいたというとこでしょう。

諦めをつけることくらいアリアともなれば誘惑に振り回されないでしょうし、尚更。

なのに現実は前者。

アリアは片手で目元を覆いながら、苦い表情のまま恐る恐る尋ねてくる。

 

「……で、具体的には?」

「そうね。まず私の人格を両方とも崩壊させて、リセットさせるわ」

「待て待て。ストップ。STEP1から大問題じゃないか」

「続けても?」

「……どうぞ」

 

私は会釈しておいた。

アリアは嫌そうな顔をした。

この反応を楽しむのは少し意地悪だったわね。

気持ちの整理はついてるのは先に考える時間のあった私だけだもの。

アリアは目を合わせられない中、私の説明に耳を傾けた。

 

「人格をリセットしたあと、主人格である私を復活させるわ」

「は?どうやって?」

「さぁ。気合いで?」

「お前、天才だけど肝心なとこバカだよな。あと結構脳筋」

「ここ一番で勝負できる大胆さ、と言って欲しいわね」

「物は言いようすぎるだろ。面接かよ」

 

まあそんなボケは置いておいて。

続けましょう。

 

「で、第1人格を復活させたあとは?」

「第2人格に振り分ける意識を私の二面性的な性格を利用して、そちらも私が掌握するわ」

「は?そんなことできるのか?てかそれ二重人格っていうのか?要するにどっちもお前なんだろ?」

「そうね。どっちも私ね。性格を分けることで人格は2つと誤認させて嘘二重人格を作るわ」

「屁理屈すぎるだろ!そんな事ほんとに可能なのか?」

「さぁ?やってみないことにはなんとも」

「おいおい……。そもそも第1人格の復活が上手くいなけりゃお前は植物人間だろ?リスクと伴ってないぞ。却下だろ、そんなやり方」

 

そう言われても、化身2体使える方がありがたいって言ったのはあなたじゃない。

だから、説明してあげてるだけでしょう。

誰もやるとは言ってないわよ。

 

「……そのやり方、リスクは置いといて他に問題点は?」

「他にあるとすればそうね。二面性を利用して第2人格に配置した私の性格が独立してまた新しい人格が生えてくる可能性はあるわね」

「怖。増殖バグかよ。勘弁してくれ……」

「あら?そうなったら私1人で化身が3体よ?繰り返せば無限に増えるわね」

「……3体以上の化身に人体が耐えられたら、の話だろ。2体だけでも内心ヒヤヒヤしたんだぞ」

「だから、即効でかたをつけたのね。貴女、そういうところ意外とちゃんと考えてるわよね」

「当然だろ」

 

アリアの態度はもはや呆れに変わっていた。

これ以上この話を続けたくなくなったのか、この子はミクに視線を移す。

 

「私達のレベルアップといえばもう1人、あいつだな」

「そうね」

「ミクはあれだな。面倒見て改めて確信を持ったがあいつはなんかヤバいもんを飼ってるな。そういう匂いがプンプンするぜ。お前の二重人格にも驚いたが、あいつの抱えるモンはそれ以上かもしれん」

「えぇ。でも……」

「あぁ。"眠ってるまま"じゃポテンシャルだけだ。"ポテンシャルは凄い"も言われ続けたらそれは才能なしと一緒だ」

 

酷なことを言葉にしてアリアは口元を拭い、フィールドに足を踏み入れる。

私はその背中を目でただ追うだけ。

アスカ達もそのアリアの姿を見て休憩終わりと判断し、グランドに出てきた。

 

―――その次の瞬間。

 

瞬きの後、私が視界の端で捉えた白い弾道。

気づけば私は叫んでいた。

 

「アスカ、ユノ!!」

「えっ?」

「へぇ……?」

 

アスカとユノが振り返ってその弾丸を認識するももう遅い。

2人は呆けた返事と同時に目を見開いて、もはやそれを受け入れるしか無かった。

 

―――超反応で弾道に飛び込む足がなければ。

 

「……っ!!はぁぁ!!」

『アリア……!!』

 

全員の表情が明るくなる。

当然。

既に彼女はここまでの試合で私達共通認識のヒーローになっているから。

その名もアリア・オイゲン。

金色の閃光。

 

「誰だ!!……っ!この威力……!」

「アリア……?どうしたの!?」

 

アリアがボールをカットしたあとすぐに体勢を立て直してまだ見ぬ相手に吠えたと思ったら、"あのアリア"が足を抱えて腰を下ろした。

表情も苦悶。

故障はしてないようだけれど、咄嗟に止めたにしては思わぬ威力だったようで、それに対する心構えと力加減をしていなかったから、全力を出し損ねて受けきれなかった。

彼女の足にとてつもなく伝わったパワー。

アリアは少し蹲り自身の足を見下ろした後、弾道の元を、シュートを放ってきた方向を睨みつけた。

私も彼女の視線に従ってグランドの外、入口に目を向ける。

そして、その姿を見た時、私だけが瞠目し、驚愕し、まさかと震えた。

 

―――その容姿はミクから聞いていた特徴と全くの一致。

 

―――その風格は、容姿など一致していなくても一発でわかるほどの"格上"。

 

―――その存在は、それだけで説明がつくほどに"究極"。

 

まだ先の話だと思っていた。

私だけが誰よりも先に彼が誰かわかって過呼吸になり、狼狽する。

こんなに早く出くわすなんて、思ってもみなかった。

1番最悪の想定外。

最もエンカウントしたくなかったシード。

 

その名は。

 

「流石というべきか。今のシュートに反応するとは、それでこそ俺が目をつけるに相応しいプレイヤーだ!」

「あ?」

「白竜……くん?」

「えっ」

 

名指しされてアリアが睨み返す。

しかし、ミクの呟きを拾ってアリアも気づいた。

彼女もミクを見た後、改めて白竜くんを見てその後交互に二度見する。

そして、瞠目して衝撃を受けたあと暫く固まったけど足に残った感触を撫でて状況を即刻理解した。

現実を叩き込むには充分な威力だったから。

 

「……こいつが、私に成り代わってゴッドエデン最強になったっていう」

「そうさ!俺は白竜。貴様を負け犬にした男だ!」

「……っ!」

 

己を親指で指す白竜くんに、アリアが下唇を噛む。

アリア……まだ貴女にもそんな感情が。

でも、そうよね。

口では強がれても、仲間のことを優先すると決めても、過去のものだったとしてもプライドや本当に心で感じたことは捨てきれない。

それが人間というもの。

 

そんなアリアを筆頭に私達は究極のプレイヤーという凄まじい存在感を前にこれまでで1番の緊張が走っていた。

 

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