「お、おいおい。白竜って……」
「嘘でしょ?なんでここにいんの?だ、だってあいつって」
「アリアより強いシード……ホ、ホントにいたんだ」
「……終わった」
アスカ、サエ、チェンファ、チェンナイが絶望した顔を見せる。
彼女たちほどの実力でもわかる。
白竜くんがどれだけ果てしない力を持っているか。
彼は力を持ちすぎて一周まわってもはや誰でも認識できるレベルにまで至っている。
幸いにも、私たちはアリアを知っている。
だから、衝撃もマシではあるけれど……。
「うえーん!アリア!あの男の人、なんか怖いよー!」
「……すまん。ユノ。今回に限って、お前を庇える余裕はない。ミクに守ってもらえ」
アリアに駆け寄り後ろに隠れようとするユノをアリアが片手で制止する。
ミクが頷いて即座に動き、ユノを回収。
アリアと2人アイコンタクトを合わせてからミクは下がった。
そんなミクにも白竜くんは背中に声をかける。
「久しぶりだな、長門。まさか女で肩を寄せあってこのゴッドエデンを生き延びていたとはな」
「……!白竜くん……私の事覚えてるの?」
「フッ。忘れもせんさ。そうだ、忘れるはずもない。―――貴様のせいで何度死にかけたことか!」
『あぁ……』
一気に緊張が解けた。
そして、同情した。
もう彼の放ったその言葉だけで誰しもが白竜くんとミクの過去に察しがついた。
白竜くんが知っているのは矯正前のミク。
つまり、【ノーコンハイパワーボンバーミク・ランチャー】がAランクの凄まじい訓練の中、炸裂していたということ。
ただでさえ最上層の訓練で過酷で余裕もない中、火炎放射器が火を噴き、他のシードを狙撃するのだからそら恐怖体験でしかないでしょうね。
本当に心中お察しするわ。
さっきまで風格を保っていた白竜くんが思い出すだけで頭が痛いのか、眉間を抑えて苦悶している姿を見ると尚更にそう思うわね。
……本当に大丈夫?彼、なんか唸り始めたけど。
これ夜もたまに魘されてるでしょう。
「えー!ミクって昔どんな感じだったのー?」
「私も聞きたーい!」
「教えてくーださい、白竜おにいさん!」
「おいおい。さっきまでの緊迫感どこいったんだよ」
「子供たちが白竜?くんに懐き始めちゃったんだけど」
ユノと違って、ユマ・ユア・ユナはあまり泣き虫ではなく好奇心旺盛。
興味本位で白竜くんに遠目ではあるけれど接触する。
肝心の白竜くんは当然女のチビシードにはゴミを見るような目……というよりちょっと動揺してるわね。
「女どころかガキの女までいるだと?教官は一体何を考えてこんな奴らをゴッドエデンに……」
少し考え込んでしまった。
まあそうなるわよね。
私から見ても私たち、特にユナ達は不思議な存在でしかない。
まあゴッドエデンでのみ私達に役割があるのは理解しているけれど。
下品だから口にはしないわ。
とはいえ牙山教官が最初に言っていたことも事実でしょう。
女のシードも意味があるから存在してるし、サッカーで使える部分もあるにはある。
管理サッカーが軌道に乗って女子サッカーにまで手掛けることを考えたら私たちはその時筆頭でしょうしね。
ま、そんな話は今どうでもいいわね。
「は、白竜おにいさん……おにいさんなら、怖くないかも」
「ユノ?まだ出てきちゃダメ……!」
「えー!でもユノも聞きたーい!ミクのむかしのはなし!教えて、白竜おにいさーん!」
「ちょ、ちょっとユノ。なんでこんな時にそんな興味持って。いや、今そんな場合じゃ……」
「よかろう!!」
「いいんかい!!」
「この俺に任せるがいい!」
「チョロいな!?」
胸を張り、己を親指でさしてドヤ顔の白竜くん。
あのギャグ要員のミクでさえツッコミに回るボケっぷり。
白竜くんってちょっと天然なのかしら。
「おい。くだらない話してる場合か。あいつが何しに来たのか聞き出すぞ」
「えー?ミクの話聞いてからにしない?私、実はちょっと気になる」
「アスカ、お前はしゃんとしてて欲しい側なんだが……」
アリアのゲンナリした表情にアスカはえへっ!と可愛らしく笑う。
まあ……なんか白竜くんも乗り気だしとりあえず状況を整える時間を稼ぐにはいいんじゃないかしら、と私はアリアにアイコンタクトで伝える。
何を整えるんだよ……と顔で語るアリアはとりあえず頷いて了承した。
再び視線を戻すと、思ってたより本気で熱が入った白竜くんがグッ……!と拳を強く作って語り始める。
「あれはよく冷える冬の日だった……!」
「いや、ゴッドエデンにいたら季節わかんねえだろ」
「そもそもゴッドエデン島に季節ってあるの?」
「おい。話の腰折るな。ミクのどうでもいい話を日が暮れるまで聞くつもりか?」
「どうでもいいは言い過ぎでしょ……あと夕暮れもわかんないし」
全員うるさいわね。
とりあえず私は警戒を解いた。
暫くこの気の抜けた雰囲気が続きそうだし、1人だけ気張ってても仕方ないでしょう。
とりあえず今は白竜くんの雑談に乗りましょう。
「ある日。長門のとてつもない威力のシュートが司令塔に突っ込んだ」
「ねえ。急にクライマックスなんだけど」
「起承転結。承と転はどこへ?」
「何を今更。ミクなんて存在がオチみたいなもんだろ」
言われたい放題ね。
ミクが滝汗を流しながらよそ見をし始めた。
心当たりはあるようね。
そして、その後に起こったこともまあまあトラウマなんでしょう。
「教官は26名が負傷。うち10名が重症」
「派手にやらかしててウケる」
「ゴッドエデンで最もロックに生きてるな」
ミクが顔を覆う。
耳まで真っ赤。
「当然大きな罰を与えられた」
「そらそうだろ」
「俺たち全員連帯責任でな」
「可哀想すぎる……」
「もうミクは追い出した方がいいのでは?」
もう全員から哀れみの目を向けられている白竜くん。
本当に、心中お察しするわね。
「その罰は想像を絶する地獄だった……!100時間耐久!ウサギ跳びサッカー!当然常にマシンの暴力とボールによる弾丸の雨あられを受けながらのトレーニングだ」
『うわぁ……』
もはや全員が寝返った。
私たちは白竜くんの味方、彼の肩を持つ。
全員の視線が刺さってミクが汗をダラダラと流してそっぽを向く。
「後日、司令塔のガラスは大砲にも耐えられる素材に変えられた」
「待って。笑いすぎて死にそう」
「扱いがもう戦車とか戦艦じゃねーか」
「まだクビになってのが不思議」
「……まあ教官たちの肉体改造を思えば、彼らをそれも10人も重症に追い込んだっていうパワーはそう簡単には捨てられないだろうな」
アリアだけがマジレスしている。
でも、アリアの言うことが正論ね。
ゴッドエデンのコンセプトから考えても、ミクがいくら扱いにくい問題児でも大の大人それも強化人間をワンパンで防弾ガラス越しにボロ雑巾にできるのだから、牙山教官の性格を考えるにその驚異的パワーの魅惑に魅了されないとは到底思えない。
クビになるどころか扱いにくくて処分対象だったところから延命したくらいでしょう。
やはりもう少し長い目で見て投資しないかと。
矯正も諦めきれなくなってしまった。
そんなところね。
白竜くんの思い出話もここで終わった。
「そして、今に至る!」
「紆余曲折が過ぎるでしょ」
「本当に苦労したんだな……」
「究極になるってたいへーん」
「いや、私とのエピソードと究極関係ないからね!?」
「長門はとにかくはた迷惑なやつだった!」
「おい!」
「とはいえ、パワー以外何もない奴だ。どこかで脱落すると思っていたが……フッ。これが中々しぶとい。だから、長門の離脱を期待するのではなく、俺自身がAランクに収まらないシードへと成り上がった!」
「究極目指した理由それ!?」
「なんだ。じゃあやっぱお前と関係あるじゃねーか」
サエに小突かれるミク。
……さすがに冗談だと思うわよ。
白竜くん、途中から笑い堪えてるから悪いノリしてるのは確実だもの。
そろそろ締めないといけないわね。
「もういいかしら?貴方が何をしにここに来たのか聞いても。ミクのつまらない話は飽きたわ」
「最後の一言いる?ねえ」
「うるさいわね。貴女が入ってくると話がややこしくなるからもう黙ってなさい」
「酷い」
ミクが嘘泣きし始めた。
私は無視して皆の前に出て、白竜くんと対峙した。
背中にミクのこの子マジ?みたいな視線が刺さってるのを感じた。
それも無視した。
「まさか世間話にしに来た訳じゃないでしょう?私達みたいな弱小チーム相手に。さっきアリアがどうとか言ってたわね」
「そうとも。まずは俺のチームを紹介しよう」
「……っ!」
白竜くんが天に向かって指をならすと突如突風が吹き荒れ、彼を渦巻く。
彼が率いるチーム。
それすなわち。
「……っ!!やはり来たわね」
「まああいつが単独で乗り込んできたとは考えにくいしな」
「アリア……!」
私がハリケーンに巻き込まれないように身構えていたところに、いつの間にかアリアが隣に並ぶ。
彼女が現れると急に私は身の自由が効いた。
風に身体を取られない。
私は身体を見下ろした後、アリアを二度見する。
彼女は私の視線に気づいた。
「どうした?」
「いえ……ありがとう」
「気にするな。守るさ。お前は私達の大切なキャプテンだからな」
「アリ―――」
「それより。来るぞ」
「……!」
目元を覆いなから彼女の名を呼ぼうとして、やめる。
アリアが目で示した先を、前を私も見る。
突風はやがて、止み―――そこに姿を表したのは白と黄色のユニフォームに身を包んだ"11人"。
彼らは。
「これが俺のチーム、『アンリミテッド・シャイニング』だ!!」
仲間を背に腕を組んで公言する白竜くん。
彼らは、アンリミテッド・シャイニング。
ゴッドエデン最強のイレブン。