「フッ。どうやら覚悟を決めたようだな。逃げなかったことだけは褒めてやろう」
「……どうも」
当日。
アンリミテッド・シャイニングとの試合。
私と白竜くんがフィールドの中央で電子サインを書いた。
それぞれの背後にはチームが。
白竜くんは私の背中越しに、後ろにいるアリアに目を向ける。
「勝負だ、オイゲン!戦わずして究極を決めるのは俺の流儀に反する。この戦いで真にゴッドエデンNo.1を決めるものとする!」
「私はもうお前が最強でいいんだが……」
アリアが嫌そうに顔を顰める。
白竜くんからすれば、自身の方が強いというのはあくまでデータ上の話。
教官たちは今回のような面倒を避けるため、アリアの存在を彼に隠していたから尚更そのデータは信用に値しない。
アリアという自身に匹敵するプレイヤーがいたにも関わらず、アンリミテッド・シャイニングの候補にも上がらず、戦ったこともないのに優劣が決められている。
どうやらそれが納得できないようね。
彼はアリアを指でさす。
「俺たちは究極のサッカープレイヤー!だというのに、このゴッドエデンで俺達に匹敵するシードの存在など認められるはずがない!!究極は俺達なんだ!」
「だから、それでいいって言ってるだろ……。なんなんだよ、めんどくさいやつだな」
アリアはゲンナリしている。
永遠にやってるわね、この流れ。
だから、もう無視するとして……私が気になるのは別のこと。
「どうした?」
「……気付かない?教官がいないことに」
「んっ。そういえばそうだな」
アリアが白竜くんの相手をするのをやめて、私の様子を目にして声をかけてきた。
彼女は辺りを見渡して教官達の姿がないことを確認する。
私はゴッドエデンスタジアムのVIP席、上を見上げる。
「教官はあそこよ」
「……!」
私が指をさすとアリアも上を向いた。
そこには牙山教官と火北教官、それと―――フィフスセクターに所属する者なら嫌でも覚える事になる顔、金髪に赤いジャケットの男。
その名も。
「聖帝、イシドシュウジ……!!」
「この試合の申請を許可したのは彼。つまりこの試合の存在は聖帝の目にも止まっている。認識してるのは不思議ではないけれど、まさか観に来るとはね」
アリアが瞠目し、口にしたその名前。
聖帝イシドシュウジ。
彼がガラス越しに個室でへりくだる牙山教官らを片手で簡単に制して、顔だけ動かす。
こちらを、見下ろした。
『……』
「……っ!」
彼と目が合った。
こっちの視線に気付いたのね。
凄まじい察知ね。
「思ってたより暇な役職なんだな。この試合に面白みを感じるとは」
「お目当ては白竜くんでしょうね。あと貴女」
「私もか」
「えぇ。だって白竜くんが究極になった時に1回視察は来てるでしょうし、アンリミテッド・シャイニング結成で2回。3回目も来るとしたら?」
「……なるほど」
その理由は?と尋ねるまでもなくアリアは納得して顎に手を当てた。
話がすぐ通じるからいいわね、本当に。
さて、聖帝様もご覧になられる試合で私達もお見苦しいところを見せないように精を出しましょうかね。
なんて。
悪いけれど酷い試合しか披露できないのが関の山ね。
聖帝は特定席に腰を下ろして、私達を見下ろす。
「ハッ。参観か?パパにいいとこ見せないとな」
「やめなさい。はしたない」
確かにゴッドエデンを作ったのは聖帝イシドシュウジだとは言われている。
ここの責任者は彼でこの試合の許可を取らなきゃいけなかった。
とはいえフィフスセクターの第2の権力者、表向きはトップなんだからそもそも殆どのことの責任は彼にあるわけだけれど。
アリアの言う通り、ゴッドエデンで育った私達の祖は彼であるのも間違いではない。
「では、これよりアンリミテッド・シャイニングとヴァルキリアの強化試合を始める!お前たち、配置に―――なっ!?」
定刻が迫って白竜くんが場を仕切ったかと思えばポジションに向かった私達を見て目を見開く。
正確にはゴールへ向かうアリアの背中しか彼の瞳には映っていない。
「貴様たち!一体何のつもりだ!?オイゲンがゴールキーパーだと……!俺達を舐めているのか?」
「……まあそうなるわよね」
文句を付けられるのはわかっていた。
反論しようと足を止めたアリアに、私は背中越しにそのまま配置に付きなさいと手を払った。
アリアはそのジェスチャーを見て前を向いて走り出す。
私はため息をついたあと、白竜くんと向き合った。
「ヴァルキリアは人手不足なの。ゴールキーパーの適性があるプレイヤーがアリアしかいなかったからコンバートさせたのよ」
「何っ……?馬鹿な。明らかな損失だ」
「そう言われてもチームだもの。事情に左右されることくらいあるでしょう」
「バカバカしい。まさかそこまで愚かとは……いや、今はいい。それよりも」
「はいはい。分かってるわよ。ストライカーのアリアと戦いたかったんでしょう?」
「そうだ。俺が勝負を所望したのはゴッドエデン元最強格のストライカー、オイゲンであることは貴様も分かっているはず。今すぐポジションを戻せ!」
「……」
大きな手振りを加えて私に命令する白竜くん。
私はそんな彼に顰めた表情を向けた。
彼の言ってることは正論だけれど、こっちもその指示に乗る訳にはいかない事情がある。
ここは屁理屈をこねて誤魔化させてもらいましょう。
幸い、彼は以前に墓穴を掘っているもの。
「あら。そもそもこっちの都合を無視して強行するから確認不足をするんじゃないかしら?」
「なんだと?」
「だって、そうでしょう。貴方が目撃し、アリアに魅了されたキッカケとなる海王学園との試合。その時だってアリアはキーパーのユニフォームを着て敵陣に切り込んでいたわ」
「……!」
そう、白竜くんは興奮のあまり見落としている。
アリアがゴールキーパーに転向していることなんてとっくの前に認知できたはずなのに、それを怠ったのは紛れもなく彼自身。
だから、文句なんて言わせない。
暴走して無理やり喧嘩を吹っ掛けてきたんだから、多少はこっちの要望も飲んでもらうわよ。
「貴方がどれだけ訴えようとアリアはウチではゴールキーパーよ。素直に諦めて、アリアと戦えるだけでも感謝する事ね」
「くっ……!」
白竜くんが顔を顰める。
けど、すぐに彼は私に背を向けて嫌な方向に舵を切った。
「……いいだろう。ならば、その気にさせてやる。試合の中で奴を前線に引きずり出す!」
「なっ……!」
彼は言いたいことを残すだけ残して戻って行った。
最悪。
ぬかったわ。
なぜこの思考回路を読めなかったのかしら。
作戦通り進めようと口を回したら変な火をつけてしまった。
マズイ、これは非常にマズイわね。
「どうしたの?汗すごいけど」
「……悲報よ。白竜くんがさらにやる気になったわ」
「え、マジ?既に満タン100%だと思ってたんだけど、さらに上あったの?」
「そういうことね」
私も戻ると私の様子を察してミクが声をかけてきた。
彼女は私の話を聞いてげぇと嫌な顔をする。
今回ばかり同じ感情だわ。
「とにかく、作戦通りにやるしかないわね」
「なんか毎回言ってない?それ」
「……気が滅入る指摘やめてくれるかしら。気づかない方がよかったわ」
私はゲンナリなんてしないけど、頭痛が酷くてこめかみを抑えた。
頭の痛い話。
そして、残酷に時間は止まってくれない。
定刻が来て、ホイッスルが鳴る。
まだズキズキと響く中、私はため息をついてそれを合図にするようにキックオフ。
カウントダウンが動きだした。