試合が止まってる間に私達は3人だけ集まって、再びプレーが始まるまでの隙を見て話し合う。
「私の知ってるシャイニングドラゴンと全然違った。ほんと凄く成長してるよ」
「私達の化身とは比べ物にならないわね」
「あぁ。ありゃ普通の化身じゃない。どうする?あの化身を使われたらぶっちゃけ打つ手ないぞ」
「3人同時に化身を使うのは?3対1ならなんとなるかも」
「……!それだ」
「いえ、ダメよ。これほどのチームに化身使いが1人だけなんて考えにくいもの。きっと他にもいるわよ」
「そうか。確かにな」
「あー……そういえば青銅くんが使えたと思う。私Aランク棟で一緒だったから知ってる」
「だったら尚更ボツ。3人で白竜くんを抑えてももう1人化身使いがいるんじゃボールを横取りされるわ」
「結局振り出しか……何か作戦ないのか?」
アリアが私に尋ねる。
無策なわけがない。
白竜くんが行動に出た段階で考えを練ってる。
シズクならそうする。
そう思ってるんでしょうね。
正解だけど。
とはいえ、私は渋い顔をする。
アリアはそれを見て困惑した。
「なんだ?その顔は」
「……別に。作戦は一応あるわ」
「"一応"?おい、また何か引っかかる言い方だな。お前はすぐに対策を思いつくがいつも良い作戦とは言えないからな」
「仕方ないでしょう。常に相手が格上なんだもの。それに文句があるなら自分で考えなさい」
私が言い返して睨むとアリアは気まづそうに後頭部をかいて目を逸らした。
彼女は言い返してくれなかったけど、正直墓穴掘ったわね。
そもそもアスカ達を助けたいと言い出し皆を巻き込んだのは私。
だから、立案するなんて義務でしかない。
私が負担して当然。
なのに贖罪もあるとはいえ協力してくれてるアリアに考案を求めるのは間違ってる。
アリアがそこを敢えて指摘してこなかったのは、これ以上私を責めたくなかったかしら。
……ともあれ彼女の言うとおりマトモな作戦も立てないといけないのは事実。
おかげでここからの方針が決まったわ。
「作戦を伝えるわ」
『……!』
「まずあまり良い作戦とは言えない最初に思いついた案を実行してそれで時間を稼ぐ。時間を稼いでる間にマトモな作戦を考えるわ」
「待て。つまり最初の作戦にお前は参加しないのか?」
アリアが指摘する。
気付いたわね。
そう、私の考える時間を稼ぐということはそれだけ最初の作戦には私に余裕があるということ。
この作戦に私は……"参加しない"。
「最初の作戦はほとんどミクが1人で行う、ミクだけが負担するものよ」
「えっ」
「は!?ちょい待て。どんな作戦か知らんがミク1人であの白竜って奴の相手は無理だろ」
「真正面から戦えば相手にならないけれど、"作戦"と言ったでしょう?さっきと違って普通の1対1の状況は作らないわよ」
「だとしてもだ。……時間を稼ぐって言ったよな?ミクがいくら頑丈でも持つとは思えないぞ!」
作戦の詳細を聞く前から大批判。
まあ当然の反応ね。
それでも、今はその作戦以上の最善はない。
「悪いけど、反対されてもやるわ。いいわね?ミク」
「……っ。……わ、わかっ……た」
ミクは俯きながら絞り出すように小さく頷いて承諾する。
私たちのチーム事情を背景に、それしかないと言われれば最終的には受け入れるしかない。
だから、嫌でも拒否する時間は無駄だと判断したんでしょうね。
可哀想だけれど、その判断が有難いと思ってしまうわ。
「……っ!」
アリアだけは納得できない様子で顔を顰めて下唇を噛み、そっぽを向く。
本人が了承してることを勝手に却下はできない。
彼女は黙りこくってしまった。
それを無理やり全員同意と受け止めて私は作戦を説明し、その後散開を命じる。
試合はアリアがライン外に出したから、アンリミテッド・シャイニングのボールで再開。
そして、さっそく。
「聖獣シャイニングドラゴン!!」
「また来た!」
降臨する白き竜。
轟く息吹。
アスカが見上げ、叫ぶが。
「……っ!?」
白竜くんが驚愕し、進軍しながら辺りを見渡す。
そんな反応をするのも当然。
彼は完全フリーだから。
王者のタクトで指示を出し、ヴァルキリアはキーパーのアリア以外がフィールドの両サイドタッチライン沿いに避難している。
これは白竜くんに何もアプローチせず自由にさせる作戦。
こっちのゴールまで彼の視界を遮るディフェンスは誰もいない。
「早々に諦めたか……!」
勝手に相手が無防備になった時、最初は困惑する。
けど、すぐに隙だらけの敵陣に好きに乗り込む。
当たり前の行動。
普通なら罠を警戒するけれど、自信のある彼は突進を選んだ。
彼に貰ったチャンスを無駄にする選択はない。
「……!?」
白竜くんは突き進む。
その中で困惑する。
本当に私たちが誰も干渉してこないから。
「何が目的だ?もう脅え萎縮したというのか。……所詮女か。ならばゴールまで化身を使うまでもない!」
白竜くんが走りながら化身を引っ込めようとする。
そこに。
「魔狼アモン!」
「……っ!?長門!!」
ミクだけが白竜くんに迫った!
しかも化身を出そうとしている。
白竜くんもそれを見れば化身を収めるわけにはいかない。
「小賢しい!1対1の化身バトルで貴様らが勝てるものか!」
「うおおお……!」
「……!?」
白竜くんがまたしても目を見開き驚く。
それも当然の反応。
なぜなら白竜くんがシャイニングドラゴンで相手しようとしたのを見て、ミクがアモンを引っ込めたから。
つまり化身なしの生身でシャイニングドラゴンに特攻しようとしている。
「何を考えている!とち狂ったか!はぁぁ!」
「うわあああ!?」
白竜くんのシャイニングドラゴンが仕掛けてきたミクを払い飛ばす。
ミクは転がり、白竜くんはまたヴァルキリアのゴールへと向かった。
「はあっ!」
「魔神アガレス!」
白竜くんかシャイニングドラゴンと共にシュートを放ち、アリアが化身を出して足で止めにいく。
蹴り返そうとするも。
「ぐあっ!?」
「よし!」
アリアが負けてボールはネットへ一直線。
白竜くんはガッツポーズ。
しかし。
「ふっ……!」
「なに!?」
私がアリアの後ろから足を入れてシュートをカット。
またボールは外に出た。
白竜くんも目を見開く。
「……っ」
「大丈夫か!?」
「えぇ。けど……アリアでクッションを挟んだ後でも凄まじい威力ね。本当に。足がもげるかと思ったわ」
「……ミクはもっとつらいと思うけどな」
「……!」
アリアの言葉を聞いて私は眉にシワをよせてフィールドに視線を戻した。
そこには苦しみながら身を起こすミクと、それを見つめる白竜くん。
「……まさか!」
白竜くんが気づいた。
彼は慌てて私を見る。
こっちの作戦を見抜いたようね。
「そう。この作戦は……貴方に化身を出し続けてもらって化身パワーを使い切らせるのが目的よ」
「バカな!俺のシャイニングドラゴンを無力化する為に長門をけしかけ続けるつもりか!?」
「えぇ」
私は頷いた。
この作戦は、白竜くんを消耗させるためのもの。
化身を出せる体力は限られている。
個人差があり、白竜くんのそれを削るには途方もないけれど。
こっちのゴールまで化身を出し続けさせそれを繰り返す。
それが今、彼の化身パワーを消費させることにおいて、ウチができる唯一の方法。
でも、白竜くんをただ自由にさせるだけじゃ化身を出してる意味はないから彼は化身を引っ込める。
それを防ぐためにミクを消しかけた。
ミクも化身を出そうとするからシャイニングドラゴンを引っ込められない。
そして、彼が引っ込むのをやめたらミクには化身を引っ込めてもらう。
そうすればミクは化身パワーの消費を最小限に抑えられる。
その代わりに無防備でシャイニングドラゴンの攻撃を受けることになるけれど。
そこはミクの頑丈さに賭けた。
ミクが接近しても白竜くんがシャイニングドラゴンを引っ込めた場合については、ミクにアモンを出すよう指示を出しているから、化身なしの白竜くんからミクに化身でボールを奪ってもらう。
そうすればこっちは攻撃できる。
私の作戦を見抜いた白竜くんが肯定した私を見て目を疑う。
「正気か!ハッキリ言う!俺の体力は貴様らの想像を絶する程にある。化身を出し続けたとて、化身が使えなくなるまでかなりかかる。それを理解していない貴様ではないだろう!」
「もちろん。体力ひとつとってしても異次元に想定の範囲が異なることは見当つくわ」
「ならばなぜ!こんな作戦を採用するほど貴様たちには打つ手がないというのか」
「あら?今更気づいたの。そうよ。ヴァルキリアが貴方達と戦うなんてそれ自体が到底無理なくらい私達は弱いのよ」
「……!」
開き直る私に白竜くんが狼狽する。
何か怒り的なものも含まれてるけど、知ったこっちゃないわね。
こっちの事情を無視して試合を組んできたのは彼だもの。
「長門!こんなチームは早く抜けろ。お前はAランク棟にいれば基本的には生き残れる。その方が安泰だろう……!」
「……!白竜くん……」
彼はミクに呼びかける。
ミクは一瞬顔を上げるもすぐに俯く。
そこに諦めずに白竜くんは語りかける。
「このチームは……いや、あの女はイカれている!お前もわかっているはずだ!この作戦の内実を!」
「……うん。わかってるよ」
「……!」
ミクは頷いて立ち上がる。
白竜くんは彼女の決意固まる表情を見て面食らった顔をする。
ミクが受けいれていることに気付いたから。
「どうして受け入れた……?これが仲間に強いる作戦か?」
「別に強いられた訳じゃないよ。やらなきゃいけないからやるだけ。仲間を守る為に」
「なっ……」
白竜くんが言葉を失う。
彼にはミクの発言がどう映ったのかしら。
ミクもとち狂ってると思ったか、もしくは彼女は追い込まれて無意識に言わされてると思ったか。
後者ならミクは私にアスカ達を人質にとって脅されてるように汲み取られてるでしょうね。
……間違ってはいないけれど。
でも、あの子は。
「ちゃんと自分の意思だよ。最後は。自分も持ってるつもり」
ミクは言い切る。
やはりただ脅されて意思に反することをするほど弱くはない。
それでもこの作戦にミクも納得してないのは確か。
断言した割にはその後俯いて表情に陰りも見える。
それに目敏く気付けない白竜くんでもない。
「お前は本当にそれでいいのか?今ならアンリミテッド・シャイニングに勧誘してやってもいい。補欠にはなるがな」
「補欠は嫌かな。前より私、がめつくなったんだよね」
「……そうか。ならば何も言うまい。悪いがお前たちがこの作戦を続けるなら俺は遠慮なくお前を振り払う」
それだけ言い残して白竜くんはミクに背を向けた。
ミクも最初は見つめたけどすぐに汗を拭って体制を立て直し、白竜くんから視線を外す。
ミクが耐えなければならないのは、これからが本番だ。