「はああっ!」
「ぐあっ!」
「せぇぇや!」
「うわぁ!」
白竜くんが化身で猛威を振るい、ミクが被害に遭う。
それが何度も繰り返される。
その間、ミクがやられたあとは無論フリーな白竜くんによる化身シュートが放たられる。
「シャイニングドラゴン!」
「魔神アガレス!ぐあっ!?」
「ふっ……!」
「ふんっ!」
「虚無魔神ベリアル……!ぐっ、ああっ……!?」
「……っ!」
私とアリアの化身は交代制。
消費量を分散させ化身3体体制をできるだけ長く維持するため。
アリアが化身を出して破られたら私がカバーし、私が化身を出して突破されたらアリアが最後の砦としてカットする。
それでなんとか無失点を保っていた。
けれど。
「おい!こんなのいつまでも続かないぞ!あいつの体力は削れてるだろうが……こっちもそんなにコスパは良くない。時間もまだまだある」
「わかってるわ」
「あいつが化身使えなくなったとしてもこっちも残った体力半分以下じゃ化身使えないあいつにも苦戦するぞ!」
「わかってるわよ!」
言われなくても理解してる。
けど、まだ何も思いつかないのよ。
だから、暫くはこれを続けるしかない。
「……改めてふざけた作戦だ」
「……!」
「こんなもの、俺が化身技を出していないから破綻していないに過ぎん!」
「なっ……!まずい、来るぞ!!」
高く飛び上がった白竜くんとシャイニングドラゴンを見上げてアリアが警告する。
でも、彼がその行動に出て1番被害に遭うのは……!
「アリア……っ!!」
「……っ!」
アリアもわかってる。
だから、構える。
「構えたところで何になる!キーパーのお前では格が足りん!見るがいい。これが俺の化身技……!」
天空にその存在感を示す白竜の口元が煌めく。
標的はこちら。
息吹け、究極の一撃。
「―――"ホワイトブレス"!!」
ミクを倒した後、撃たれたシュート。
その威力は……まるで隕石級の大きさを持ったエネルギー砲!
「なっ……はっ……!?」
「ちょ、嘘でしょ!?何あれ?あんな威力見た事ないって……!」
「天空からの……裁き……」
「アリア……!」
遠巻きに見ていたアスカ達が絶句する中、アリアが腰を低く落とす。
そして。
「アヴァロン・ウォール!」
「……!必殺技!」
白竜くんも目を見開いた。
アリアは光の壁を展開。
必殺技で対抗した。
けれど。
「そんなものがこのホワイトブレスに通用するものか!」
「ぐっ……!」
白竜くんが吼えた通り、アヴァロン・ウォールにホワイトブレスが直撃してすぐ、威力に耐えられず壁は紙切れのように割れた。
一瞬でもゴール前で留めていたシュートがそのまま無防備なアリアへと向かう。
「まだだ!魔神 アガレス!!」
「……っ!?」
「……!アリア、貴女……!」
白竜も私も瞠目した。
それは、アリアにしかできないゴールキープの方法。
キーパー技で相手シュートの威力を弱めた後に、シュートタイプの化身でキックのアプローチをかける。
二段階のブロッキング。
アリアの両方出来る器用さとキーパー技を破られた後に即座にシフトチェンジできる反射神経がなければできない芸当。
ホワイトブレスを蹴り返そうとするアリア。
……ただ、その足はどんどんと押し込まれていく。
「ぐっ……うっ、あっ……!ああぁぁぁ……!!」
「……」
耐えるアリアを見て、白竜くんはシャイニングドラゴンを仕舞い地上に再び降り立って目を瞑る。
そして、彼はゴールに背を向けた。
少し粘られてはいるが耐えられるのも時間の問題だから。
もう結果は見えている。
「……ふん」
「うわああああぁぁぁぁーーーーっ!!」
「アリア……っ!!」
ボールはゴールへと吸い込まれ、アリアの足は巻き込まれた。
彼女の身体もついていくようにネットへとぶち込まれて、彼女とボールは同時に返ってきて転がる。
つまり。
「ぐっ……はっ……!ハッ!ボールは……!?」
破られたアリアが身を起こして辺りを見渡す。
その視界に入ったのは明らかにフィールドの方へ進行していくボール。
それを見てわなわなと震える。
「あ、あぁ……ぁぁぁ……!」
直後、項垂れて地面に向かって吠えた。
「ーーーーーーーーーーーッ!!!!」
声にならないくらいの叫びで咆哮を轟かせるアリア。
これが。
―――アリア・オイゲン、初失点の瞬間。
「アリアが……負けた」
「嘘……だろ!?」
「り、理解不能」
「点……入っちゃった」
ここまで無失点のアリアがこれまでゴールキーパーを務めてきた。
つまりチームの失点自体これが初。
殆どのメンバーが生まれて初めて味わうビハインド展開。
しかも彼女たちが信仰する絶対的な存在が敗れた。
受け入れ難い事実でしょう。
それは何も周囲だけじゃない。
「なっ……ぁ……1点、取られた……っ!」
凄い形相でボールを見下ろして愕然とするアリア。
彼女はわなわなと震え始める。
「い、1点!1点ッ!!1点取られた……!1点!1点!イッ……!はっ……!はっ……!!」
「……っ!アリア!」
いけない!
ゴールを決められたボールを見つめてアリアの動悸が激しくなり、彼女は過呼吸になった。
未だ立ち上がることも出来ないほどに。
胸を抑えて苦しんでいる。
「こ、この1点で負けたら……!皆が!私のせいで……!」
「落ち着きなさい、アリア!この試合で負けても誰も死なないわ!」
「……!」
私が肩を掴んで無理やり見つめ合わせたら、彼女はやっとハッと正気に戻った。
落ち着いたけれど、まだ肩でゆっくりと息をしている。
私を正面に捉えて目を丸くしたアリアはこれまで見た事ないくらい狼狽しきっていた。
唇は青く、手先が冷たい。
発汗も酷く、顔色も悪い。
表情も不安そのものだった。
……気付かなかった。
この子がこんなにも背負っていたなんて。
「チームと呼ぶにはあまりに醜すぎる」
「……!」
私は背後からかけられた言葉に振り返る。
白竜くんが私を見下ろし……いえ、見下していた。
「1人の才能あるプレイヤーにこれほどの重圧を与えるなど愚の骨頂。恥を知れ。貴様がキャプテンだと?到底言えん」
「~~~~っ!!」
吐き捨てられた私は、何も言い返せなかった。
下唇を噛んで背を向ける彼を目で追うだけ。
悔しい。
彼の指摘は正しいから、尚更に。
私は拳に力を込め、震える。
その手を力強く掴む手があった。
「……っ!アリア……!」
「私は……大丈夫だ。あんな奴の言うことは気にするな。次は……止める」
「ア、アリア……」
私を支えに立ち上がりふらふらと歩き始めるアリア。
酷い顔色の彼女に、私は弱々しく手を伸ばした。
でも、空を掴む。
そんなの無理よ。
そう、言えなかった。
ゴールを守りにアリアを戻る。
試合は、ヴァルキリアボールで再スタート。
そして、即座にボールを奪われた!
「聖獣シャイニングドラゴン!」
「うわぁぁぁ!?」
「ミク……!」
白竜くんに挑んだミクがやられる。
作戦通りの展開。
このフィールドにいる誰もがもう何度も見た。
アンリミテッド・シャイニングサイドも「またか。懲りないな」といった表情でもはや誰も白竜くんに加勢しない。
バカバカしいからだ。
「いくぞ!オイゲン!」
「……っ!!」
「……!?」
ゴール前まで来て白竜くんがシュートモーションに入るが、直後に違和感を覚えて彼は動きを中断する。
私も、他のみんなも気付いた。
―――アリアの動きが、分かりやすいほどに硬い。
「……っ……ぁ!」
「アリア……!」
彼女は動けない。
白竜くんを前にして硬直してしまっている。
おそらくシュートを放たれても反応すらできない。
この現象を、私も白竜くんもミクもアンリミテッド・シャイニングも察した。
その呼称は。
「イップスだな。あいつら、あんなに良い選手をとうとう壊しやがったぜ」
「……そうか」
白竜くんがヴァルキリアのゴール前で困惑していたところに、フォワードの帆田くんが歩いて隣に来て、ハッキリさせた。
言葉にされて白竜くんは認めたくない事実を静かに受け止める。
目を伏せ少し頭を下げ、再び顔を上げる頃には化身も収める。
それを見てアリアは食いかかった。
「おい!なんのつもりだ!私はイップスじゃない!まだやれる!私と本気で戦え……!」
「いや。もはやゴールキーパーとしての貴様は死んでいる」
「なっ……」
アリアは目を疑う。
白竜くんはノーマルシュートを放った。
必殺技ですらない。
何より彼女が驚いたのはそのシュートがゴールに突き刺さるのを見ているしかできなかった自分自身。
ノーマルシュートですらも、鋭く質が高かった。
しかし、止められなかった理由はそれじゃない。
身体がピクリと反応したものの1歩目すら踏み出せなかった。
さっきまでのアリアならセーブできたのに。
アリアは……白竜くんの放つシュートに飛び込むことが怖くなっている。
「なっ……ぁ……んで、私の身体……!」
なぜ動けない。
どうしてしまった、お前は。
そう自分の身体に訴えかけたくて仕方の無い気持ちが先行してアリアは言葉に詰まる。
無情にもネットに突き刺さったシュートを目にして、転々と転がるボールを見て。
唖然とする。
「茶番は終わりだ。フォワードに戻れ、オイゲン。そして、この俺と戦え。それが貴様に残された最後の運命だ」
「……っ!」
そう告げて、白竜くんは去っていった。
アリアは最初その背中を睨みつけたが、その表情から不安は取り除けておらず。
すぐに視線を落として、ショックで片膝をついた。
そんな彼女を見つめる者が1人。
「アリア……」
アリアに、誰もが縋り期待だけしていた。
彼女が負けた今、1人を除いてただ絶望するのみ。
誰も行動を起こそうとはしない。
力がないからじゃない。
経験上、そんな思考が身についていないから。
でも、ミクだけは違う。
初めて無力感に襲われ脱力するアリアを前に、彼女はグッ……!と下ろした手に拳を作る。
そして、決心したように、強い眼差しで、アンリミテッド・シャイニングに視線を移した。
アンリミテッド・シャイニング 2 - 0 ヴァルキリア