「アリア……」
私は愕然とした。
アリアが負けた今、チームの士気は終わる。
それだけじゃない。
もうアリアを前線に出すしかなくなった。
このままアリアをゴールキーパーに置き続けたら彼女はイップスで本当にダメになる。
いや、もうなってるかもしれない。
計画は破綻にするしか……。
「シズク。何か良い作戦は思いついた?」
「……っ。い、いえ……」
「そっか」
突然ミクが近づいてきて尋ねてきた。
急すぎてビックリしたし、そもそもこの子状況わかってるのかしら。
今そんなことに答えてる場合じゃない。
何か作戦を考える余裕もないというのに……。
ミクは口元をユニフォームで拭ってアンリミテッド・シャイニングの方を一瞥した。
「次私達の攻撃だよね?私、向こうに攻めてもいい?」
「……は?」
「白竜くんに化身は使わせるし、私が相手するからさ。ただそれをせめて向こうでやらせてよ。その方がみんな安全でしょ?」
「そ、それができたら苦労しないわよ。こっちに攻めてくる彼を止められないからここまでの展開になってるんでしょう」
「それはそうだけど……」
ミクは私から視線を外して奥にいるアリアを見る。
私も振り返り、肩で息をして項垂れている彼女を視界に映した。
そんな彼女を見つめながらミクは言う。
「これ以上攻められたらアリアはもたないし、白竜くんの言う通り今の作戦はいつか破綻すると思う。……白竜くんがゴールからアスカ達に標的を変えたら?」
「……っ!」
私は目を見開く。
それ以上は。
「やめなさい。それ以上は……言わないで」
「やるしかないんだよ。もうそこまで来てる。このまま流れに任せてちゃダメだ」
「……っ。無理よ。今は、今の作戦を続けるしか」
私が目を泳がせながら視線を徐々に下げていくと、ミクは珍しく顔を顰める。
「……その先に何があるの?白竜くんにチームを潰されるだけ」
「……!ミク……」
ミクはまた口元を拭う。
そして、決心した眼差しで相手陣地を睨んだ。
その視線に気づいた白竜くんがチームメイトと話しながら、こっちを見る。
「このままじゃヴァルキリアは死ぬ。なんとかしなくちゃ」
「なんとかって……どうするのよ」
「それは……分かんないけど。でも、シズクの脳は死んでるでしょ?」
「……っ!!」
ミクが一瞬瞠目する。
きっと私の表情が思った以上に歪んだんでしょうね。
でも、すぐに彼女は私から目を逸らして敵を見る。
「だったら自分で考えるしかないかなって。動きながら考えるよ。私、そっちの方が向いてる気がするから。とにかく―――"なんとかするしかない"んだ。今置かれてるこの状況は」
「ちょっと……!」
ミクは私の返事も聞かずにポジションへ向かった。
ホイッスルも鳴って彼女と話し合えなくなる。
「サエ!」
「お?お、おう。なんかやたら気合い入ってんな」
「サエ、ダメよ!」
「あ?」
ミクに求められてサエが最初のパスにミクを選んでしまう。
私の制止も間に合わなかった。
サエがパスを出してから振り返るももう遅い。
ミクが下手くそなドリブルで突き進んでいく。
「血迷ったか」
「……!」
早速白竜くんが瞬きの間にミクに接近する。
そして、一瞬でボールを奪い、突破してしまった。
それでも。
「まだだ!魔狼 アモン!」
「……!しつこい!聖獣シャイニングドラゴン!」
抜かれたミクが回り込んでまた白竜くんの前に。
2人は化身を出して衝突。
ここまで何度もあった展開。
もちろん、この短時間で力関係が変わるはずもなく。
「愚か者め!」
「うわぁぁぁ!」
シャイニングドラゴンがアモンを叩きのめしてミクが倒れ伏せる。
けれど。
「まだ……だ!」
「……っ!?こいつ……!」
ミクはすぐに立ち上がり、ドリブルで突き進んでいく白竜くんを追いかけて追随する。
白竜くんは後ろからついてくる彼女を睨み、顔を顰めた。
「今度は無策か。俺は気合いでどうにかなる相手ではない!」
「……っ!そんなのわかってるよ!でも、それしかないから……やるしかないんだ!」
またミクが白竜くんの前に立ち塞がる。
再度行われる1on1。
白竜くんも軽くあしらうのをやめて対峙し、鋭い目を向ける。
「お前では格が足りんと言っている!」
「それでも!」
ミクは化身を出して2人はぶつかり合う。
競り合う2人。
「この試合は、俺が究極になる為にオイゲンとの対決を行う目的で実施されている。貴様如きと戦う為に時間を割いた訳ではない!」
「へぇ。じゃあ邪魔をする私を倒せばいいじゃん。このラインの向こう側に……行けるといいね」
「……っ!貴様……!」
ミクがハーフウェイラインを一瞥して、不敵に笑みを浮かべて白竜くんが睨みつける。
白竜くんは未だミクを突破できずにいる。
化身も、スペックの殆どもミクが負けている。
でも今やってることはシンプルな力勝負。
ただのパワー。
その項目のみ、ミクは彼に勝っている。
ミクに煽られて白竜くんは意固地になり単純な勝負に移行してしまっている。
それがミクにとって有利に働いている。
だから、今はまともな対決になっている。
彼女はさらに口が回る。
「アリアを引きずりだすんじゃなかったの?それがまだ出来てないんだから自己責任でしょ?」
「黙れ!もう充分痛めつけ格の違いを思い知らせたはずだ。もはや奴をキーパーにしてる余裕はない。あとは貴様らが意地になっているだけだ!」
「そうだよ。こっちの意地はまだ死んでない。諦めてない。それをへし折れてない時点でそっちに余地はある!努力不足だ!」
「なっ……ぁ……!?」
「……!」
ミクの言葉に白竜くんが面食らって集中力が乱れた。
その瞬間をミクは見逃さなかった。
今だ!とでも言うようにパワーを込めて競り勝つ。
白竜くんのキックを負かしてミクの振り抜き。
ボールは白竜くんの後方に飛んでミクがそれを拾いに行く。
自分を通り過ぎて走っていくミクとは対称的に、白竜くんは前を向いたまま唖然とし虚空を見つめている。
「努力不足、だと……?」
彼は瞠目しながらわなわなと震え、やがて、ハッとして鬼の形相で振り返る。
「ふざけるな。……ふざけるな!!」
「……!」
後からミクの背中を追ったにも関わらず、ミクを一瞬で抜かして回り込んだ。
ミクは数メートルしか進めなかった。
さすがに彼女も白竜くんのスピードにギョッとする。
けれど、彼の鬼気迫る表情から、感情に振り回された今の彼が力加減はそれほどできないと見抜いてすぐに身構える。
そんな彼女を前に。
「貴様に言われたくはない!どの口で言っている!貴様にだけは、貴様だけは言う資格はない!」
「……?どういうこと?」
面と向かって吐き捨てられてミクが困惑する。
彼は明らかに根拠があって因縁をつけている。
具体的に過去の事象を想起しているのは間違いない。
故に、ミクも顔を顰めて尋ねる。
そんな彼女の表情も気に食わなかったのか、思い出させてやるとでも言うように白竜くんはボールを奪いに仕掛ける!
「俺は究極になる為にどんな苦痛も耐えてきた!そこに至るまでの道のりはどれだけ才能があろうとも血の滲むような努力が必要だった!」
「……!」
ボールの奪い合いが発生し、ミクはボールを引っ込めてキープ。
半身を前に出して白竜くんと肉弾戦になる。
けど、このやり方ならミクは強い。
白竜くんに押し負けない。
それでも。
ミクほどのパワーがあって自分の土俵だとしても、喋る余裕がないくらい必至にボールを守っている。
逆に白竜くんは一方的に彼女に言葉を浴びせる。
「だが、貴様は!才能はあるが、実力はない。だというのにどれだけやらかしても教官はその才能を認め、お前を生き残らせた」
「……っ!それは……!」
思い当たる節があるのか、ミクはその指摘を受けて初めて顔を上げる。
彼女の集中力が下がる。
白竜くんの技術で足がボールを届きそうになるもなんとか耐えた。
2人は勝負を続ける。
「お前は生まれ持ったものだけでAランク棟を生き残っていた。才能だけで戦っていたのは、努力をしていなかったのはお前の方ではないのか!」
「……!」
「俺はお前が嫌いだった!そんなお前が嫌いだったんだ!!」
「……ごめん。でも、今日も私の才能を前に枕を濡らしてもらう。君から皆を守らなきゃいけないから」
「……!」
本当に申し訳ないと思い一瞬目を逸らして俯いたミク。
でも、すぐに向き合って真剣な眼差しを見せた。
まさしくそれとこれとは別。
今、譲れないのはここで負けないこと。
仲間を守ること。
ミクの守りは崩れるどころか固くなる。
その態度が気に食わなかったのか白竜くんはさらに彼女に仕掛ける。
「長門!お前に用はない!早くオイゲンをFWに戻せ!」
「戻さない。私を倒してこのラインを超えてみろ!」
もう2人に言葉は不要。
互いの精神力を認め、ボールを奪い合う。
誰も割って入れない。
ミクのパワーだけは白竜くんをも凌ぐ才能だから。
今、アンリミテッド・シャイニングの面々でさえ手を出せない神々の領域がフィールドに発生している。
これが……Aランク棟で頻発していた。
白竜 VS 長門未来!!
「シャイニングドラゴン!」
「……!」
今の形式ではミクの思惑通りであることに白竜くんが気づいた。
冷静になったのね。
このままでは決着がつかない。
そう判断した彼は化身バトルに持ち込もうとした。
力勝負を続けるなんてバカバカしい。
他の項目は彼が圧勝しているのだから、わざわざミクの得意分野に付き合い続ける必要は無い。
1番簡単なのが化身バトル。
シャイニングドラゴンとアモンではそのエネルギーは桁違いに異なる。
けど、ミクもこのまま移行を簡単に許すほど馬鹿じゃない。
白竜くんがシャイニングドラゴンに指示を出したのと同時に、彼の意識が目の前の競り合いから一瞬外れた隙を突いて、ボールを足で抱えながら距離を取った。
ミクのムーヴに白竜くんも少し警戒する。
「無駄な足掻きだ!」
「そうかな」
「……!」
白竜くんがミクを追いかけて再び接近しようとして、その足に急ブレーキをかける。
しかも驚愕して、瞠目している。
警戒度もMAX。
なぜなら。
あの長門未来が。
ボールを足元に置いて。
足を、振り上げたから。
つまりそれは―――シュート体制だ。