松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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アンリミテッド・シャイニング篇⑪ パワーがありすぎてパワーを一切込めてないのに、行き場のないパワーが異常な回転を与え続けている

 

「……!?何のつもりだ!正気か!まだハーフコートはあるんだぞ!」

「考えたんだけど私が白竜くんやアンリミテッド・シャイニングの皆に勝ってる部分って結局これしかないかなって思ったんだよね」

『……っ!』

 

ミクを振り上げた足をそのままに顔だけ上げる。

上目になるから必然的に鋭くなる目つきが、"脅し"の威圧感を増長させていた。

彼女は無防備。

けれど、アンリミテッド・シャイニングからは誰一人として彼女に近付こうとしない。

白竜くんが手振りだけで制止させてるから。

 

「白竜!」

「奴に不用意に近寄るな。奴は理屈が通じんデタラメな女だ。何をしでかすかわからん」

「こんな位置取りでシュートだと?何を考えるんだ、奴は」

「わからんと言っている!くっ……!昔から変わらん。相変わらず無法か。馬鹿力女め」

「……あの、さっきから聞こえてるんですけど。悪口」

 

ミクが姿勢を保ったまま微妙な顔をする。

ただ、シュート体制を取っただけで警戒してもらえてるのは確実に白竜くんの経験則のおかげ。

彼は知っている。

長門未来のシュートは暴走ミサイル。

接近すれば、一発で意識が吹っ飛ぶレベルの威力を身体にぶち込まれる危険性がある。

だが、距離を取っていれば基本的には無能シュートだ。

 

「パワーがあればロングシュートは撃てる。だが、お前のパワーは爆発性。レンジが足りるとは思えん。まあ、何より真っ直ぐ飛ぶかも怪しいがな」

「……はいはい。撃たれてから後悔すればいいよ。アリアに矯正してもらった私をまだ知らないこと」

「なに?オイゲンが?」

 

ミクの策を浅はかだと鼻で笑った白竜くんが、訝しんでその背後にアリアを見る。

その間にミクは相手ゴールに狙いを定める。

白竜くんもその動きを視界の端で捉えてミクに視点を戻した。

 

「このまま時間を稼ぐのは……無理だよね。撃たないって分かったらボール取りに来るし、急に近づかれたら適当に打つしかなくなっちゃう。そしたら確実に外してフィールドでたら相手ボール……」

 

ブツブツと呟いてミクは考えを巡らせる。

そして、彼女は照準を合わせる。

目指すは一直線。

 

「真っ直ぐ飛ばさないと。脱力、だよね」

 

アリアに習ったことをそのままに彼女は力を抜く。

……!?

いや、抜いたどころじゃない!

 

『……!?』

 

フィールド上の誰もが瞠目した。

この試合を観覧する聖帝すらも椅子から立ち上がり目を疑った。

 

ミクは―――"完全"脱力した。

 

「バカ!力抜きすぎだ!そんなんじゃカスみてぇな威力しか出ないぞ!」

「馬鹿め。とち狂ったか!」

「……1番ダメなのは、外すこと。キーパーに止められてもいいからボールをできるだけ遠くへ運ぶんだ」

 

アリアに指摘されるも耳に入っておらず、ミクの集中力が増す。

鋭い視線で遠くを睨みつける。

全く力を込めないシュート。

それを放とうとしているミク。

全てはミートのため。

真っ直ぐ遠く飛ばすことだけを考えている。

白竜くんに勝てるのはシュートの威力だけと言いながら、その長所とは真逆の撃ち方。

そして。

 

「あっ……名前考えてないや。えっと……狙いすませるから……ランチャー?何ランチャーにしよ。なんか、凄いランチャー……あ、そうだ」

 

ミクはなにか閃いたみたいでようやく足を振り抜く。

 

「"アルティメット・ランチャー"……!!」

『あいつ……っ!!』

 

ミクから放たれる遅くてヒョロいシュート。

彼女が口にした必殺技の名前に、アンリミテッド・シャイニング全員に青筋が走る。

本人にその気は無い。

それが余計に腹が立つ。

完全煽り満点の名付け。

究極を自称するチームに対して、究極を打破する技の名前がアルティメット。

皮肉もここまですれば―――"攻撃"だ。

 

「舐めやがって!俺達を馬鹿にするのも大概にしろ!クソ女!」

「こんなヘナチョコシュート……!」

「通用するか!止めてやる!」

「……っ!」

 

シュートを放った後、前のめりに足を踏ん張ったミク。

彼女は顔を上げて前髪の奥から敵を覗く。

アルティメット・ランチャーを止めに、シュートブロックに名乗り出たのは煽りに乗せられまくった3人。

FWの帆田くんとMFの青銅くん新田くん。

3人は足を伸ばすが―――。

 

『なっ……!?』

 

白竜くんも含め、目の前の光景に目を疑い驚愕する。

ミクのアルティメット・ランチャーは……その弾道が"伸びた"。

視覚的には上がったとも言う。

つまり重力に逆らいボールが風に巻き上げられるようにせりあがった。

そのせいで3人のシュートブロックは空振り。

躱すようにその上をシュートは通過していった。

トロくてショボいシュートなのに、ゴッドエデン最強のチームのメンバーが3人がかりでも止められない。

 

「クソ!なんなんだ、あのシュート!俺達が止められないだと……!」

「どういう原理なんだ。気味が悪い!」

 

ヘナチョコなシュートを止められない。

プライドの高い彼らからすればそれ以上に屈辱的なことはない。

遅い弾道の後を追う帆田くんと青銅くん。

だが、その足が緩む景色が目の前にある。

アルティメット・ランチャーの弾道上には……白竜くんが。

 

「アルティメット・ランチャーだと?ふざけたシュートだ。こんなもの、俺のホワイトハリケーンで貴様達に返してやる」

 

立ちはだかった白竜くんが腕を振るう。

凄まじい暴風がボールに絡みつき……散った。

 

「なに!?」

 

風を切り裂いて飛び出してきたボールに白竜くんはたじろぐ。

だが、すぐに切り替えて止めに行った。

 

「こんなもの……!」

 

シュートブロックしようと足で振り抜く。

しかし。

 

「なっ……また伸びた、だと!?」

 

白竜くんのキックも空振り。

弾道はさらに伸びて彼のブロックも通過してしまう。

アルティメット・ランチャーはそのまま彼を後にしてアンリミテッド・シャイニングのゴールへ。

 

「くっ……!ふざけるな!あの威力のシュートでなぜ落ちん!」

「本当にどうなってるんだ、あのシュート!」

「止めろ!」

 

口々に怒号が飛び交う。

アンリミテッド・シャイニングは大混乱。

確かにあんなヘナチョコシュートがロングシュートとして成り立っているのはおかしい。

"普通"ならとっくに重力に従って地面について転がり跳ねるのがオチだ。

でも。

 

「まさかあれが届くのか……!」

「馬鹿な!」

 

アルティメット・ランチャーの弾道を必死に追いかける帆田くんも白竜くんも動揺する。

ディフェンダーもディフェンスに入るが、白竜くんが抜かれた衝撃で皆動き出しが遅かった。

故に間に合わない。

ディフェンダーが伸ばした足を掻い潜ってラインを超える。

 

「止めろ!止めるんだ……!こんなシュートが決まるなど許されるはずがない!!」

「うむ!」

 

白竜くんに訴えられ頷くゴールキーパーの蛇野くん。

彼は迫り来るアルティメット・ランチャーをキャッチしに行く。

 

「サーペントファング!」

 

大蛇の大口がボールを包み込み、収めた。

彼は余裕を見せる。

 

「……!手応えがない!大したシュートではない。いけるぞ、白竜!」

「よし!」

 

蛇野くんの言葉にガッツポーズする白竜くん。

そんなキャプテンの反応を目にしていい仕事が出来たと満足気に笑みを浮かべて頷く蛇野くん。

しかし、直後に彼の様子が変わる。

滝のような冷や汗を流しながら、顔が徐々に真っ青になってきた。

 

「な、なぜだ……?このシュート。"既にもう止めているのに、回転が止まらない"……!?」

「なっ……は?」

 

発言内容が意味不明すぎて白竜くんも困惑した。

だが、確かによく目を凝らしてみると彼の言うとおり、サーペントファングの手元でボールは回転し続けている。

もう前に進む力はない。

ゴールへ押し込まれていない。

勢いは完全に殺され、蛇野くんが言うように本来ならセーブに成功し止めているのに。

とにかく回転が止まらない。

 

『……っ!』

 

あまりに異質。

あまりに不気味。

アンリミテッド・シャイニングは全員息を飲む。

そして、たじろいだ。

"回転"、その言葉を聞いてハッとしシュートのカラクリに気付いたのはアリアだけ。

 

「あのシュート……!ミクのやつ。そうか、そういうことか!」

「……!何か分かったの?アリア」

「あぁ。あいつ、パワーがありすぎてパワーを一切込めてないのに、行き場のないパワーがボールに異常な回転を与え続けてるんだ!」

「パワーを込めてないのにパワーが回転を……?あん?お?え?」

「いや、言ってる意味が全然わかんないんだけど」

 

アリアが説明するも逆に混乱を招いた。

誰もが頭の上にクエッションマークを浮かべて味方ですら困惑している。

でも、私は理解した。

恐らくアルティメット・ランチャーは、あの異常な回転を止めなければならない。

でなければ一生セーブの判定は出ない。

このシュートは、出力は低いけど、ブロックを掻い潜りキーパー技で防がれても威力が落ちないシュート!

 

「ぬ、ぬおおぉぉぉぉ……!止まれ、止まれぇぇ!!」

「止めろ!決めさせるな!」

 

回転を止めようと踏ん張る蛇野くん。

叫ぶ白竜くん。

固唾を飲んで見守るアンリミテッド・シャイニング。

そんな彼らに、長門未来という理不尽は絶望を与える。

 

「ぬお……あ、れ……」

「なっ……ぁ……」

 

突如手元の感覚が消えた蛇野くんが違和感を抱いて自身の手のひらを見ると、そこにボールはない。

慌てて探すと足元に。

だが、その最中に酷い表情の仲間達が見えたから嫌な予感はした。

しかも彼らは一点に視線が釘付け。

その場所を足元を見下ろす際に最初から位置を特定して恐る恐る目で追うと……サッカーボールは1個分、ゴールラインの内側に落ちていた。

つまり。

 

「うおおおおおぉぉぉぉ!!」

「ヴァルキリア、1点取った!」

『ミク!!』

 

仲間の賞賛にミクは肩で息をしながら拳を突き上げた。

 

 

アンリミテッド・シャイニング 2 - 1 ヴァルキリア

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