どうも最近調子が狂う。
ついこの前も必要以上にシードを痛めつけすぎた。
柄にもなく興奮してるな。
それも全部……あいつらにやられた時からだ。
そうだ、全部あの2人だ。
「オイゲン。今日もゴッドエデンの処刑人として不甲斐ないシードを処分しろ。これも教育の一環なのだ」
「了解」
私に牙山が指示する。
何が教育だ。
シードを使いモンにできなくなるのが教育か?
馬鹿馬鹿しい。
「今日はEランク帯だ。このフロアにいるシードは全て標的。処刑しろ。わかったな?」
「……またそんな低層かよ。私がやる必要あるのか?」
牙山の側近、火北幸四郎が端末を手に私に指示を出し、私は顔を顰めながら最終的には承諾する。
承諾するが、甚だ疑問だ。
不要なシードを潰すマシンなんてゴッドエデンにはいくらでもある。
上級シードを潰すならマシンじゃ力不足なこともあるから、上級シードより強い私を頼るのはわかるが、実際は低ランクの掃除ばかりだ。
こいつらは私のブレイカーとしての能力をやたら高く評価してる。
まあ有難いがな。
それを利用して私は地位を築いた。
私が安寧な立場に居続けるためにシードには犠牲になってもらってるわけだ。
罪悪感は無い。
別に一生不能になるわけでも、重い障害が残るわけでもないんだからいいだろ。
寧ろ雑魚には荷が重い訓練から解放してやってるんだから感謝して欲しいくらいだぜ。
「……まあ、なんでもいいけどな」
どうでもいい。
私はただ、生き残る為の道を模索し、言われた通りやるだけだ。
最強のシードでありながら、ブレイカー。
今、これが私の生存確率を揺るぎないものにする絶対の方程式。
―――の、ハズだった。
「……は?」
私は今日の処刑場を見下ろして絶句する。
そこにいたのは、外ならまだ中学生にもなっていない―――子供だったからだ。
「よーし!今日も訓練がんばるぞー!」
『おー!』
「……っ!」
小さな女の子が拳をあげて気合を入れている。
そんな光景を前に、私は慌てて振り返り教官たちを見た。
「ふっふっふ。どうした?オイゲン。さっさと標的を処刑しろ。今回の標的はあそこにいる小さなシード"候補"だ」
「なっ……!?」
私はまた、子供たちを見た。
何も知らない子供たちは前向きに頑張ろうと張り切っている。
シード候補。
つまり、まだシードじゃない。
中学管理サッカーに必要なシードを育成するために小学生もゴッドエデンに連れ込んでいたのか!
そして、それが早速処分対象だと……?
「奴らはゴッドエデン入りの基準を満たした将来有望なシードだった。だが、少し念の為に数を多く仕入れすぎてね。つまり―――"足切り"というわけだ。わかるな?オイゲン」
「……っ」
牙山が口角を上げて私を見る。
こいつら……そうか!
「待て!知ってるだろ!?私のブレイカーとしての力は、まだ発展途上だ!サッカープレイヤーの機能を停止させることはできても、それは中学生以上のある程度成熟した奴らだけだ!あんな子供……ブレイクしたら一生残る障害が発生するぞ!!」
私は牙山に訴える。
だが。
「それがどうした?」
「……っぁ!」
愕然とした。
こいつら、やっぱりわかってて仕組んだんだ。
私を試している。
ここにいる子供たちを命令通り処刑できるか。
自分たちへの忠誠心を見るためだ。
クソッタレ。
ふざけんな、なんで試されなきゃいけない!
今までの働きで十分だろ!
「クソ……わかった。やればいいんだろ」
私は子供たちと向き合う。
まずは狙いを絞る。
的が小さいんだ。
的確に射抜かないと一生障害が残る。
サッカーできないじゃ済まない。
だから狙いを……絞っ……!
「ダ、ダメだ……身体が小さすぎる!どこを狙ってもお釈迦だ!」
私はボールをセットしたが、思わず後退りする。
ボールから一刻も早く離れたかった。
この凶器を持っていられなくなったんだ。
私はゴッドエデン最強のシード。
テクニックもパワーも高く、絶大な総合力が売りのサッカープレイヤー。
だが、私の技術でも足りない。
あの小さな身体にブレイクを使用するなんて、的確に狙いを定めるなんて、私にはできない……!
「やっぱり無理だ!気持ちの問題じゃない!技術の話だ!」
「ふむ。そうか。なら、代わりを用意しよう」
「代わり……?」
そう言うとゾロゾロとマシンが総動員された。
人型で大きく小太りのロボみたいなやつだ。
そいつらが……子供を蹂躙する。
「いやぁぁぁーー!」
「痛い!痛いよぉ!」
「うわぁぁ!ママぁ!パパぁ!」
「……っ、……ぁ!や、やめろ……」
「どうした?オイゲン。我々に従うのではないのか?」
「……っ!」
「それとも……我々を裏切りたいのか?」
「……ぁ、ちが……!そ、それは……!」
牙山に顔を覗かれて私は息が荒くなる。
目の前じゃ子供たちが断末魔を響かせながら足が、身体がありえない方向に曲げられていく。
ここは―――地獄だ。
「た、助けてぇ……」
「~~~~っ!!」
1人の女の子が私を見つけて手を伸ばした。
それを目にした瞬間、動悸が早くなって体中が痺れた。
私の地位。
私の保身。
私の―――
「……めろ」
「何?」
「やめろって言ってるんだ!!」
「……!」
私はサッカーボールを足につれて、地面を蹴った。
飛び降りるのではなく、一直線に地獄に参入する。
「フェアリーショット!」
『ランニュウシャ!グギ……』
子供とマシンの間に割って入ると同時に必殺シュートも横槍としてぶち込んだ。
光の閃光がマシンの関節部分を射抜き、腕を落とす……はずだったが。
「何!?」
『……ダメージ、ゼロ』
マシンはケロッとしてる。
こいつ、硬い……!
私のシュートでも壊せない。
こんなのが―――
『インプット、インプット』
『ヒョウテキツイカ』
『アリア・オイゲン。ショケイ』
「~~~っ!」
三体。
私の前に立ちはだかる。
180はある私よりも3倍はデカイ図体。
その圧迫感が空間を支配した。
「……っぁ!」
「だ、誰?」
「……!」
私は振り返る。
さっき守った女の子だ。
私を困惑した様子で見上げている。
悪いが、自己紹介をしている余裕はない。
コイツらを蹴散らしてから……と言いたいが、蹴散らせるかもわからないからだ!
「フェアリーショットが通じないなら……コイツでどうだ!魔神アガレス!」
「うわ!なんか出た!これって……化身!?」
女の子が驚いている。
そうか。
まだ化身を見たこともないのか。
最初に見る化身が最強のシードの化身だ。
幸運だな。
まあ……そいつも今日で見納めになるかもしれないがな。
「……いくぜ」
『クンレン、カイシ』
何が訓練だ。
クソ野郎。
私がマシンを睨み、マシンが瞳に眼光を宿す。
私が現れてすぐ、こいつらはデータ更新を行い、私を標的といった。
つまり牙山は……いや、フィフスセクターは完全に私を敵と認識したってわけだ。
そうなったらもう腹を括ってやるしかない。
これ程でかい組織に、たった一人の人間が立ちはだかれる道理は無い。
それでも、やるしかない。
ここにいる子供たちを死んでも守る……!
『ジャマモノ、ハイジョ!ハイジョ!』
「は?」
瞬きの間にマシンの一体が肉薄していた。
そして、やつは蹴りの体勢に入っている。
ボールはない。
つまり、直接私を狙っている!
『ハイジョ!』
「かはっ……!?」
モロに腹に入った。
私はたまらず吹き飛び、地面に背中をうちつけて転がる。
そこにマシンは追撃で助走をつけて私の腹に勢いよく蹴りこもうとする。
「……っ!調子に乗るな!不意打ちじゃなきゃくらうか!」
私は飛び上がって、バク宙し、避けた。
だが、着地したと同時に2体目のロボが私に接近していた。
そいつは腕を振りかぶっている。
「今度は拳かよ!ハンドだろ!」
『コレハ、クンレン。クンレン。サッカーデハ、ナイ』
「サッカーの訓練だろ!ふざけやがって。サッカーのサの字も知らねえ鉄クズ野郎がーーーーっ!!」
私は化身の力を最大出力で発揮する。
そのまま目の前のロボに突っ込み、飛び蹴りを食らわせた。
ロボは腕をクロスして防いだが、地面に足を擦り、後退する。
私の力勝ちだ。
しかもオマケにブレイクも発動した。
きっと奴の腕はもう使い物にならない。
「ハッ。こんなもんか―――」
『スキアリ』
いつの間にか私の背後にいたロボの声に私は慌てて振り返る。
だが、その時には遅かった。
両手を握りあって作った拳が振り下ろされ、私の頭に鈍い音を響かせた。
凄まじい衝撃が、私の脳から全身に痺れるように伝わる。
鈍く重い一撃が私の意識、思考、感覚全てを麻痺させた。
「がっ……!?はっ……!?」
私は為す術なく膝から崩れ落ちる。
頭から熱い液体が流れてくるのを感じる。
それは赤かった。
私は脳震盪を起こし、視界がグラつく。
完全に放心状態。
無防備で膝立ちから動けなくなった。
そこに。
『ツイゲキ』
「……っ!……ぁ!」
また腹に蹴りこまれた。
私はボールのように吹き飛び、ボールのように転がる。
今度は立てない。
横になったまま顔も地面につけて完全に寝ちまった。
そこにロボは容赦なく近づき、私の身体を踏みつける。
「ぐああーーーー!!」
『サッカープレイヤー。ジャクテン。―――アシ』
私が起き上がれないよう背中から身体全体を踏みつけにして、ロボは私の片足を摘んだ。
まさか……!
「よ、よせ……!やめろ!」
『ショケイ。シッコウ』
「やめろーーーーー!!うわあぁぁーーー!!」
私の足は簡単に曲がっちまった。
まるで棒切れみたいに。
もうお釈迦だ。
ロボは私がもう動けないも見越して私を解放し、私は青くなった足を抱えてうずくまる。
そんな私を置いて、ロボはその足で次は子供たちの元へ向かった。
「ひっ……!」
「来た!」
「こっちに来るな!」
子供たちが拒絶する。
だが、ロボは足を止めない。
だから、私も足を引きずりながら行進した。
「―――待て!」
『……!』
ロボも子供たちも私を見る。
足を引きずり地面を這いながら子供たちとロボの間に割って入る私を。
「も、もういいよぉ!」
「これ以上は……死んじゃう……」
泣きそうな子供たちの前までたどり着いて私は転がってたボールに手をついて片足を立て、屈伸の容量でなんとか1本の足で立ち上がる。
そして、ロボ共を睨んだ。
「まだ私は負けてないぞ、鉄クズ野郎共。お前たちの相手は私だ。……ガラクタにしてやるぜ」
そう言って痛みにこらえ、目元を拭った。